キンリー家の家族
クオンとクレオの生活も安定し、今日はキンリー家の家族がやって来ることとなった。
それはクオンの問いかけから決まった訪問でもあった。
「ねえ、クレオ、お父さん、お母さん、いつ呼ぶ? 遊び来たいよね?」
「えっ……?」
クレオの家族を呼ぶことが当然顔のクオンに、クレオは驚きしかない。
アリスを呼んだからとかそんなことは関係なく、家族だから来るでしょう? クレオも会いたいでしょう? と、そう言っているクオンの様子にクレオは驚いたのだ。
「お父さん、お母さん、心配している、クレオ、可愛い娘」
「……そ、そうですね……」
可愛い娘時代はとっくに卒業しているが、来客が来ることに対し楽しげな顔を浮かべるクオンを見れば呼ばないという選択肢はない。
今現在屋敷の中に閉じ込められている状態のクオンは、誰かの訪問が嬉しいのだろう。
ただそれがキーランだった場合クレオの心は穏やかではいられないのが問題なのだが、キンリー家の家族ならいいだろうと頷いた。
「僕、手紙書く?」
「いいえ、私と父の仕事の都合もありますし、休憩時間にでも王城での父の執務室に出向いてみます」
「そう? クレオ大変じゃない?」
「はい、大丈夫です、問題ありませんよ」
「ありがとう」
正直クレオは特に家族を屋敷に呼ぶつもりは無かったのだが、魔石の事件があったことと、キーランの訪問が合ったこともどのみち父には報告しなければならず、クオンを連れてキンリー家へ行くよりも、クオンとクレオの新居へ来て貰う方が良いだろうと、クレオも家族を呼ぶことに納得をした。
そして当日。
クオンはワクワクした顔でクレオの家族を迎えてくれた。
「クーオン様、お久し振りでございます。こちらの屋敷の住み心地はいかがでしょうか? 使用人たちはちゃんとやっておりますでしょうか?」
屋敷にやって来たクレオの家族。
今日は姉の婚約者も一緒に四人で新居へ顔を出してくれた。
クオンに会っても父や母、姉はもうそれほど緊張はないようで貴族らしい笑顔を浮かべているが、姉の婚約者は違う。噂とは違うクオンの様子に驚きを隠せていない。
「はい、このお屋敷とてもいいです。使用人も優しいー、護衛もカッコいい。それにクレオが一番、僕に良くしてくれる。クレオ優しい、僕クレオ好き、クレオいないともう生きていけない体なの」
「そ、そうなのですか? それは嬉しいですが……」
「うん、僕、クレオいるから、幸せ者なの」
「クオン……」
覚えた言葉で褒めてくれるのは嬉しいが、両親の前であまり誤解を生むような言葉はやめて欲しい。
頬に熱が溜まった気がして顔を覆いたくなるが、家族や姉たちの視線を感じクレオは平常心で堪えてみせた。
(キーラン様はワザとクオンに可笑しな言葉を教えているんじゃないのか……?)
クオンに執着心を出すキーランを敵視し、恥ずかしさを責任転嫁する。
クレオを褒めてばかりいるクオンは、キーランから悪影響を受けているような気がしてならない。
クオンの率直すぎる言葉に動揺している家族が落ち着くのを、新しいお茶を用意することにしてクレオは待って上げた。
「んんっ、あー、クーオン様が幸せそうで何よりです。その、クレオも雰囲気が柔らかくなったようで親としても安心いたしましたし」
「父上……何を……」
「クレオ、本当のことだぞ、お前も幸せそうで安心した」
「……有難うございます……」
まるでクレオがこの前まで反抗期でもあったかのような言い方はやめて欲しい。
クオンの可愛さや言葉に顔が緩んでいるの自分でも分かってはいるが、こればかりはクレオのせいではないと思う、クオンが可愛いからいけないのだ。
「クーオン様、クレオの姉オーロラの婚約者アドルフ・ブラウンを紹介させて頂きます」
「オット様、初めまして、アドルフ・ブラウンと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
姉の婚約者であるアドルフが立ち上がりクオンに礼を取る。
筆頭伯爵家の次男であるアドルフは、姉より一つ年下だが穏やかな性格で落ち着きがある男性だ。
けれど今日は少し緊張している様子。
夜会で見せる余裕ある笑顔はクオンの前では作れないようだった。
「オーロラさんの婚約者さん、宜しくです。あー、つまり、アドルフさんは、僕の未来のお兄ちゃん?」
クオンに免疫のないアドルフは目の前で首を傾げるクオンにノックアウトされたのか、クッと苦し気な声を出す。
姉の美しさになれているアドルフでも、クオンの可愛さは別のようだ。
子犬を目の前にした犬好きのような心境、クレオにはその気持ちが良く分かった。
「は、はい、兄になりますが、でもクーオン様の方が年上ですから、どうぞアドルフと気軽に呼んでください」
「分かった、アドルフ、これから宜しくね」
「ーーっ、はい……」
手を差し出され握り返すアドルフの動揺ぶりは見ていて辛い。
それもそのはず、こんな男性はこの国にはいないのだ。
その動揺は仕方がないんだぞと、クレオは心の中でアドルフを慰めた。
「今日はね、お米料理なの、みんなに食べて欲しいです」
「米?」
「はい、実はデーヴィッド様がアリス様とクオンの国で主食として食べられているお米を探し出して下さったんですよ、本日はそれをご用意させていただきました」
先日アリスと共に訪れたデーヴィッドは、クオンにお米をお土産として渡してくれた。
あの時のクオンの喜びようは見ていて楽しいものだったが、キーランの露骨すぎる目つきだけは許せなかった。相手が公爵家の者であっても追いだしたいと思ったぐらいだ。本当に見ないで欲しい。
「おお、デーヴィッド様が……そんなにも珍しいものを我々に食べさせていただけるのですか?」
「ええ、クオンが是非皆に食べて欲しいと、朝から準備してくれていたんですよ」
「そうなのですか、クーオン様、有難うございます」
「ううん、みんな一緒に食べると美味しい、これ大事」
デーヴィッドが持って来てくれたお米はこの国では希少なものだ。
アリスの望みを叶えようと手を尽くして探してくれたのだろうが、この先も常時手に入るとは今の時点では分からない。
それでもクオンは自分一人で食べようとはせず、皆と一緒に食べたいとキンリー家の家族が来る日を選んで準備してくれた。
その気遣いにクレオは感心するとともに、クオンの心の広さに改めて感動してもいた。
「あのね、【炊き込みご飯】にしたの、だから食べやすいと思う」
お昼の時間になり、クオンの作った料理を披露する。
見たことがない炊き込みご飯と、クレオも好きな唐揚げ、それにサラダとパプリカのピクルス、そしてほうれん草と卵のスープ。
クオンの国で普通に作られていた料理だと聞いて、家族だけでなくアドルフにも緊張が走る。
つまりは聖女様も食する純一無雑な食事だろう。
教会の者が知れば目の色が変わる食事だ。
美味しいとかいい香りだとかそんな感想以前に、我々が最初に食べても良いのかと家族皆が悩んでいるようにも見えた。
「さあ、どうぞ、美味しいと良いけど」
「ちょ、頂戴いたします」
「うん、食べてー」
ワクワク顔のクオンに勧められ、父が最初に口を付ける。
すると目をパチパチとさせ、父は皿を見つめる。
父にしては珍しいと言えるその姿に、クレオは笑いそうになっていた。
「これは……とても美味しいです……」
「本当? 良かった、一安心」
胸を撫でおろすクオンを見て、クオンも緊張していたことに気付いた。
朝から一生懸命食事を準備してくれていたけれど、自分の国の料理が口に合うか怖かったのかもしれない。味見をした時にもっと「美味しい」と大袈裟に褒めるべきだったと後悔が走る。
「クーオン様、美味しいですわ」
「本当に……なんて優しい味なのでしょう」
「私も、こんなに美味しい食事は初めてです。クーオン様、有難うございます」
「良かったー」
皆が口を付け美味しそうな顔をするのを見て、クオンにもいつもの笑顔が戻りクレオもホッとする。
クオンの料理が不味いなどあり得ないことなので、クオンの国の料理が口に合わないなど絶対にないだろうが、それでも顔は正直だ。美味しいかどうかは様子で分かってしまうものだった。
「それで、クレオ、今日は何か相談があると聞いていたが……」
「ええ、実はクオンのことで……」
どうやったかは分からないが、クオンの手でハートになったイチゴと、鳥になったオレンジをデザートに出され、家族の目がクオンの飾り切りに夢中になっているところで、父が本日のメインテーマを出してきた。
姉と母が家の料理人に教えて欲しいとクオンに願い、アドルフがそれを見守っている場を離れ、クレオは魔石の話とキーランの話を父に詳しく伝えた。
「そうか……それでか……」
「父上、どうかしましたか?」
「いや、ガルデン公爵家から何となくな、クレオのことを聞かれたんだ。それにお前の結婚相手にどうかとアンセル・ガルーラという青年を勧められた」
「は? アンセルを? 彼は確かに友人ですが、私たちはそれ以上に親しい関係などではありませんよ」
「ああ、だろうな……ガルデン公爵家は本気でクーオン様をお望みのようだ」
「……」
アトラスだって自身の娘のことを良く分かっている。
クレオが騎士団の中に恋人がいながらクオンと白い結婚をする筈がないし、そんな関係の者がいれば自分にとっくに報告しいていただろうと分かっている。
キーランはそれほどクオンが欲しいのか、クレオに結婚相手を見繕いクオンと離そうとしているようだ。
クレオのことも隅々まで調べたのだろう。
だからこそ友人のアンセルの名を出したのかもしれない。
侮辱されたと思ったのか、クレオの顔には怒りのようなものが浮かんでいた。
「クレオ、お前はクーオン様との結婚をこのまま続ける気持ちなのだな?」
「ええ、勿論ですとも、あの男に……いいえ、ガルデン公爵家にクオンを渡すつもりなど私にはありませんよ、絶対に」
「そうか……」
娘の変わりようにアトラスは口元が緩みそうになる。
結婚などしないとそう言い続けていたクレオだけれど、クオンと出会いその気持ちはすっかり変わってしまったらしい。
まあ、毎日あれほどの口説き文句をぶつけられれば、クレオの心も緩んで仕方がないだろう。
「ふむ、ならば盛大にお前たちの結婚を披露した方が良いかもしれないな……」
「盛大に、ですか?」
「ああ、クーオン様の能力が分かった以上、もう『おまけの男』を秘密にはしておけないだろう。その方が危険すぎる。せめて聖女様の叔父上であることと、キンリー侯爵家の守りに入ったことを示さなければな」
「そうですね……」
クレオと出会った当初、クオンの能力は未知の状態で、魔力も無い、何の力も持たない者だとそう思われていた。
なので取り合えず王城から逃がし、聖女の傍から離れ、一般の貴族に紛れひっそりと暮らす。
それがクオンの安全であり幸せだとそう考えていた。
けれど今クオンの能力が分かり、その力がどれ程のものなのかキーランが調べるとなれば、必ず注目されいずれクオンのことは世間に知られる。
その時にしっかりとした相手が傍にいれば、クオンに手出しする愚か者は減るはず。
それがクレオという高位の令嬢であり騎士であるのならば、十分な抑制力にもなるだろうとアトラスは判断した。
「……ですが、私で良いのでしょうか……?」
「何がだ?」
「私が妻だと世間に多く広まれば、クオンの次の結婚は望めなくなるかもしれません」
「クレオ……お前……」
母や姉、アドルフと楽しそうに話すクオンを見て胸が痛む。
もしこの先いろいろな事情がありクレオと白い結婚でいられなくなったら、クオンはクレオが相手では嫌がるのではないだろうか。
女性としては見れない。
そんな言葉は何十回も言われたことがあるものだけれど、相手がクオンであると思うだけで胸が痛くて仕方がなかった。
「はー、私は大丈夫だと思うが、そこはデーヴィッド様やキーラン様とも相談し今後について話し合い、クーオン様の希望を聞いてみるしかないだろうなぁ」
「クオンの希望……」
先日ガルデン公爵家に誘われたとき、クオンはここにいたいとそう言ってくれた。
けれど状況が変わり「おまけの男」ではなく、多くの令嬢から望まれる存在となったらクオンの気持ちは変わるかもしれない。
そうなれば、今のこの生活は消えてなくなるだろう。
クオンとの温かで穏やかなこの日常が消えてなくなる。
頭では仕方がないことだと分かっていても、それだけは嫌だとクレオの心が叫ぶ、だが……
「……分かりました……もう一度クオンに望みを聞いてみましょう……」
自身の想いを閉じ込め、クレオはクオンの幸せを望んだのだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
なんだか喉が痛いです。
今年はなんだか体調を崩してばかり……
気を付けます。
クレオはキーランを敵視しています。
そしてキーランもクレオをクオンの相手だとは認めていません。
つまり、似た者同士か?w




