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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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14/27

アリスの訪問

 クレオとクオンの生活が落ち着いたある日。

 遂にアリスが新居へ遊びに来ることが決まった。


「クオン、今から料理ですか?」


「うん、アリス好きなお菓子、作るの」


「では、私も手伝います」


「いいの? クレオ、疲れてない?」


「はい、大丈夫です。それにクオンといると癒されますから、傍にいたいです」


「え~、もう、クレオ、上手いなー」


「フフフフフ」


 クレオが明日明後日と休日ということで、アリスの訪問が決まった。

 今日は仕事終わりにもかかわらず、クレオはクオンの作業を手伝ってくれるようで、一緒にいたいという言葉にも優しさを感じる。


 騎士の仕事は力仕事もあり、体を動かすことが基本、体力的に大変だと想像がつくがクレオはどこまでもクオンに優しい。


 その上クレオは高位の騎士の為、事務仕事や、隊をまとめる仕事もあるそうで、クオンには話さないけれど大変なこともあるだろうにと、クレオの気遣いや優しさには心が打たれてしまう。


「お菓子なんて作ったことがありませんでしたが、面白いものですねぇ」


「そう? 良かった。でもお菓子作ると【カロリー】知る。バター、砂糖、たっぷり怖い」


「フフ、クオンの怖いものは面白いものばかりですねー、食べたらお化けになって現われるのでしょうか? フフフ」


 子供でも見るような優しい目でクレオに見つめられてしまう。

 言葉の意味そのまま、クオンはバターと砂糖を本当に怖がっていると思われたようだ。

 もしかしたらこういうところが子ども扱いされる原因かもしれないが、誤解を解くのにはまだ語彙力が足りないクオンだった。


「クレオ、これ混ぜてもらっていい?」


「はい、お任せください、【シェフ】」


「わあ、【シェフ】覚えてた? クレオ凄い、嬉しい」


 クレオにはたまにクオンのいた国の言葉を教えることがある。

 そんな中、料理を作る人の話になり【シェフ】だと伝えたら、クレオはしっかりと覚えてくれていたらしい。


 一度しか伝えていないのに凄い記憶力だ。

 それはすべてクレオの努力の結果だろうけれど、何でもできるクレオの超人ぶりには驚かされる毎日だった。


「あとは冷やすだけ」


「そうなのですか? 明日が楽しみですね」


「うん、アリス、きっと喜ぶ」


「フフ、絶対に喜びますよ」


 クレオが手伝ってくれたお陰で作業は進み、あっという間にアリスが好きなタルトが出来上がった。

 クレオもクオンのお菓子を楽しみにしてくれていて、食べてもらえる楽しみと、自分も何か役に立っている喜びがクオンの心を満たしてくれる。


「クレオ、どした?」


「いえ、コンロの魔石を確認していました。越してきたばかりですので、魔石は新しいもののようで心配ないようですね」


「ませき?」


「ええ、魔石です。コンロの横に仕舞ってあるのですよ」


 コンロ台の横に収納されている魔石をクレオが取り出し、クオンに見せてくれる。

 火の魔石だろうか、その石の色は赤い夕陽の様で、クレオの髪の色とどこか重なって見えた。


「綺麗……クレオの髪の色みたい、あったかい、僕好き」


「……クオン……有難うございます……褒めてもらえて嬉しいです」


 侯爵家に生まれながら、金髪の姉とは違い赤茶色の髪色を持つクレオ。

 その上赤は赤でも父のワイン色の髪とは違い、レンガ色のような赤茶色の髪。

 平民の髪色だと良く祖母に笑われ幼いころは傷ついていた。


 けれどそんな胸の中に残る棘のような記憶を、クオンはたった一言で幸せなものに変えてくれて、自分の持つ髪色は綺麗なものだとそう思わせてくれた。

 

「触ってもいい?」


「えっ? ええ、勿論」


 一瞬クレオの髪を触りたいと言われたのかと思ったが、クオンが見つめる先には魔石があり、クレオは自分の勘違いに気付くと、何故か頬が少し熱くなった気がした。


 バチッ!


『あちっ』

「クオン!!」


 火の魔石に触った瞬間、火花のような音共にクオンの手が弾かれた。

 何があったのか分からず、驚き顔のクオンの手を掴む。


 傷は何もないが、少しだけ指先が赤くなっていて普段冷静なクレオが慌ててしまう。


「大丈夫ですか? 痛みは?」


「痛みない、でも、魔石、ごめん」


「魔石なんてどうでも……えっ? 魔石が……」


 自分の持っている魔石よりもクオンのことが気になってそれどころではなかったけれど、クオンの言葉で初めて魔石に視線をやりクレオは驚く。


 先ほどまで魔力が満タンで赤く染まっていた魔石が今は真っ白、いや透明だ。

 残量の何もない魔石を見るなど初めてで、クレオは驚愕する。

 

「これは……何故……」


 一瞬で魔石が無力化されるなど、こんな現象は見たことも聞いたことも無く、クレオは余りのことに言葉を失った。


「ごめん、クレオ、怒ってる?」


 しょぼんとするクオンの声掛けにハッとする。

 驚いていたために怒っていると勘違いされたらしく、クオンを安心させるように笑顔を向けた。


「いいえ、怒っていませんよ、クオン、驚いただけです」


「ほんと? でも、魔石ダメにした、僕、悪い子」


「フフフ、予備の魔石がありますから大丈夫です。それより本当にケガはないのですね? 痛みもないですか?」


「うん、だいじょーぶ、僕元気」


「なら良かったです」


 念のためクオンの手を取り、再度確認をする。

 クオンの白く美しい手に傷は見えない。

 赤くなっていた部分も色が落ち着き、怪我もないようだった。


(今のはいったい……何だったのだろうか……)


 クオンが無事であったことにはホッとするが、けれどこれはある意味大事件。

 

 魔石を無効化する力。


 そんなものがクオンの中にあると知られれば、今以上にクオンが興味を集めるのは分かり切っている。

 

 『おまけの男』とは何者だと、詳しく調べたいと、クオンを攫おうとする者は必ず現れる。


 それに敵国の魔道具をクオンの手によって無効化させようと、そう思う国も出てくるかもしれない。


 恐ろしい想像が簡単に出来てしまい、クオンの手を持つクレオの手に力が入る。


「クオン、念のためこのことは父に相談しますね」


 魔石の無効化は流石にクレオの心の中に仕舞っておくことは出来ない。

 そのことを伝えると、クオンはまたしょんぼりと肩を落とした。


「お父さんにごめんねするー」


 緊迫するべき瞬間のはずなのに、クオンの子犬のような可愛さは反則だ。

 そのあまりの様子にクレオは思わず笑ってしまい、この話はこれ以上重いものにはならなかった。






『くう兄、久しぶりー!』


『ありす、待ってたよー、元気だったか?』


『うん! 勿論、超元気ー』


 クレオとクオンの屋敷に、ひっそりと王城の馬車がやって来た。

 今日は使用人も護衛もおらず、クレオとクオンの二人きり。

 聖女であるアリスを見ても驚く者はいない。


「クレオ、クーオン様、お誘い有難うございます」


「ディー、デーヴィッド、久しぶり、アリスをありがとう」


「いいえ、とんでもございません、当たり前のことです」


 王太子であるデーヴィッドもアリスと共に屋敷に遊びに来てくれた。

 相変わらずのイケメン笑顔を披露する、金髪碧眼で王子様らしい姿のデーヴィッド。


 久しぶりに見るとその威力は半端ないもので、足の長さとか顔の小ささとか自分と違い過ぎてクオンは苦笑いが浮かびそうになる。


「クーオン様、お久し振りでございます」


「えっ?! 先生?!」


 馬車から降りてきたもう一人の人物。

 それはアリスの魔法の教師であり、そしてクオンの言葉の教師でもあったキーラン・ガルデンだった。


 百年前に訪れた聖女の血を引くキーランは、その血を色濃く受け継いでいるため、この国では珍しい黒い髪を持ち、その髪を腰のあたりまで伸ばしていて妖艶さがある人物だ。


 瞳は紫色と神秘的で、その上デーヴィッドに負けないほどの美貌を持ち、この国一の魔法使いともいわれる人物でもある。


 家庭教師という立場ながら、クオンやアリスにはとても優しく。

 何でも相談できるお兄様、そんな相手でもあった。


「キーラン・ガルデン様……」


 クオンの隣に立つクレオが、キーランの登場に驚いている。


 それも当然で、キーランは夜会の場など公の場には殆ど顔を出さないそうで、こんなに気軽に会える相手ではない。


 一年一度、国王の生誕祭の行事には出席するが、その後に開催される夜会にさえ出席したことは無く、ミステリアスで謎めいた存在の為、本当にキーランという名の人物がいるのか? と怪しむ者もいるほどだった。


 ただクレオは王族の護衛を行う第一騎士団所属の為、キーランの存在は勿論知っていた。

 けれどクオンやアリスと繋がりがあることは全く聞いておらず、ましてやこの屋敷に来るなど聞いてもいなかったし、想像もしていなかった。


『デーヴィッド様に無理を言いました。クーオン様、会いたかったです』


 流暢な二ホン語を披露するキーラン。

 聖女の血を受け継ぐ公爵家の者らしく、難解とされる二ホン語を理解しているようだ。


『俺も先生に会いたかったです。それに言葉もだいぶ上達したんで自慢したかったんですよ』


 クオンが楽し気にキーランの言葉に答える。

 自国の言葉が話せて嬉しそうなクオンの姿に、何故かクレオの胸が痛む。


『フフ、そうですか、それは嬉しいですね。それにしてもクーオン様は相変わらず明月のようなお方ですね』


『? 有難うございます』


 キーランが手を広げると、クオンが当然顔でその胸の中へ入っていく。

 ただの挨拶のようだが、クレオの心は妙にざわついた。


 クオンを手中に収めたキーランの笑顔が、余りにも挑戦的だったからだ。


「……フフ、貴女がクーオン様の妻ですか……? まあ、白い結婚ですから、妻と呼んでも良い物かどうか……ですが取り敢えず挨拶は必要でしょう。私はクーオン様の家庭教師、キーラン・ガルデンです。宜しくお願い致しますね、似非妻殿」


「ーーっ!」


 これは挑戦状を叩きつけられたのだろう。

 棘のある言葉よりも何よりも、キーランの笑みがそれを物語っている。


「はい、クレオ・キンリーです。()()()()お世話になっております、家庭教師殿」


「ほう……」


 ならば受けて立つ!


 クオンを抱きしめながら自己紹介を行うキーランを見て、絶対に負けないと心が燃えたクレオだった。

こんにちわ、夢子です。

今日は休みの為投稿出来ました。

ええ、代わりに明日出勤ですよ、いつものことです。


キーラン登場です。

家庭教師キーラン。

ずっと出したかったのですがやっと出せました。w

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