クオンに出来ることとは?
何の準備もなく、突然異世界に飛ばされたクオンに出来ることはとても少ない。
聖女のアリスに比べればそれは如実。
魔法も使えないどころか、言葉も喋れない、どう考えてもお荷物だ。
クレオのお陰で自宅と呼べる安心できる場所が出来、今は使用人たちと一緒に屋敷の管理をしているが、それも魔法があり、魔道具があるこの世界ではクオンが役に立つ部分は微々たるもの。
洗濯も洗濯機のような魔道具があるため、エラが洗濯してくれたものを手伝う程度。
掃除をメインに行うエラの代わり、洗濯をクオン一人で行う仕事だと担当を決めてもいいのだが、残念ながら洗濯の場合クレオの私物を触ることになるため、手伝うだけに止めている。
それに使用人の仕事を全て取り上げる形になってもいけない。
庭の掃除や馬の世話など外向きの仕事はアルマンが担ってくれているし、こちらも当然魔道具や魔法があるためクオンは初歩的なお手伝いのみ。
外への買い物や用事にクオンが代わって行くわけにもいかないし、勝手なことをすれば護衛のホセやジミーに迷惑をかける。
その為クオンは自室にある勉強机に向かい一生懸命この国の言葉を覚えることに力を入れているのだが、それでもやっぱり二ホンで社会人として働いてきたクオンとしては仕事が欲しい。
(何よりヒモ男を脱却したい……)
今一番の仕事と言える食事の準備でさえエラが手伝ってくれるし、キンリー家からの応援もあるため、買い出しから力を入れることはない。
それに料理はクオンにとって趣味に近いため尚更「働きたい!」と、そんな気持ちが強くなり始めていた。
(それに俺、自分のお金も持ってないんだよなー……)
なにより大人として手元にお金がないことが辛い。
貴族が現金を持つことは珍しく、買い物も商人を呼んでの自宅でとなるので、実際お金を持つという感覚はこの世界の人はそれほどないのかもしれない。
勿論、キンリー侯爵やデーヴィッドに声を掛け「お小遣い下さいな」と言えば、たんまりと金貨を積んでくれるだろうが、それは独り立ちとは言えるものではない。
それにそれはある意味、巻き込まれたクオンが貰う慰謝料のような物であり、お小遣いとはちょっと違うものだろう。
だから気にせずお願いすればいいのかもしれないが、そうではないのだ。それは違うのだ。
自分で働いて自分の力で手に入れたお金が欲しい。
そして何よりそのお金でクレオに贈り物を贈りたい。
結婚してまだ数週間だけれど、クレオとの生活が楽しければ楽しいほど、その気持ちが強くなっていた。
『クレオって本当にいい子で感謝しかないんだよなー……』
クレオはおまけの男だと悪い噂を持つクオンとの結婚を快く受け入れてくれただけでなく、クオンが落ち着いて生活できるようにと、クオンの生活に合うように屋敷内も整えてくれたし、何よりいつもクオンを気にかけてくれて、どんな料理も喜んで食べてくれて、仕事で疲れているだろうにクオンの言葉の練習にも嫌な顔などせず付き合ってもくれている。
『あんないい子、俺には勿体ないぐらいだよ……』
仕事が休みの時も、新婚期間の時も、いつだってクレオはクオンの生活を守ることに力を入れてくれて、穏やかに過ごせるようにと心を砕いてくれている。
「クーオン様、また考え事ですか? 別の言葉で喋ってますよ」
「ああ、ホセ、ごめーん、独り言。クレオのこと考えてた」
「へへ、そうだと思いました。クーオン様の考え事っていつもクレオ様のことだけですもんね。どうせこの前言ってたプレゼントのことでも考えてたんでしょう? クーオン様って顔に出やすいから俺には分かりますよ」
「そう? クレオ、何喜ぶかな? 僕に出来ること少ない……」
「いやー、クレオ様、もう十分喜んでいると思いますけどねー」
「えええ?」
使用人の皆に結婚での定番の贈り物を聞いたけれど、貴族であれば宝石や馬、ドレス用の高価な生地など、とてもクオンでは準備出来るものではなかった。
その上クレオのような高位貴族の結婚となれば、屋敷や庭園、別荘を贈るなど、クオンの世界ではありえないことを言われてしまい、どうしていいか尚更分からなくなってしまった。
使用人の答えをそのまま使用できない今、自分で考えて何かクレオの喜ぶものを贈るしかない。
「クレオの喜ぶものって何」とぶつぶつクレオの名を呟くクオンを見て、使用人たちが生暖かい視線送っていたが、そんな事には気づける状態ではなかった。
「クーオン様はいつも美味しいご飯作ってくれてるじゃないですか、クレオ様だってそれだけで十分喜んでいますよ?」
「ごはんは僕も食べるもの、生きていくために当たり前の物、クレオへのプレゼント違う、もっと喜んで欲しい」
「あー、ああ! そうだ。お弁当ってやつも作って毎日プレゼントしてるじゃないですかー、それでいいんじゃないですか?」
「それ、プレゼントと違う、夫の仕事、クレオ応援してるだけ」
「いやいやいや、奥さんに毎日弁当作る夫なんてこの国にはクーオン様しかいませんよ。凄いプレゼントだってもっと自信もっても大丈夫なんですよー」
「……うん、ありがと、ホセ。ホセは優しいねー、僕、もっと考えるね、頑張る」
「……」
ホセの言葉は本心なのだが、クオンは護衛が主に気を使っての言葉だとそう思っているようだ。
(クーオン様の愛情って凄い深いよなー)
最初おまけの男の護衛になると聞いた時、自分たちは左遷されたとホセもジミーもそう思った。
怠慢で横柄で聖女をこき使う醜悪な男。
そんな噂を聞いていただけに、騎士を辞めるべきかと本気で悩んだほどだった。
ホセとジミーが所属する第六騎士団は、平民出身の騎士が所属する部隊と言える。
どんなに能力があろうとも、平民の出だということで騎士として上位に上がることはまず出来ない。
ジミーだって剣の実力はあるものの、団の隊長になれるわけでもなく、一隊員のまま既に三十を迎えていて中堅どころのままだ。
第六の騎士団長は男爵家出身なのだが本人に貴族位がある訳ではなく、高位の騎士学校にも通っていない中、団長まで上り詰めた実力の人。
それでも他の団長からは第六というだけで下に見られるのだから憤りしかない。
確かに王族を守る騎士には礼儀作法が必要だから、第一騎士団に高位の貴族の子息が選ばれることには納得がいくが、他の騎士団だったら別に実力で配置してもいいのではと思っている。
だがそんな声が、希望が、上層部に届くことはない。
何故なら今まで平民出身の騎士が活躍する機会はまったく無く。
このまま現状維持で良いと皆がそう思っているからだ。
そんな中でのおまけの男の護衛への配属。
どう考えてもハズレでしかない。
騎士を辞めろと言われているのかと思ったが、辞めても他に出来る仕事は限られている。
だから仕方がなくクオンの護衛となったが、クオンと接するようになり気持ちを改めた。
(クーオン様って、俺たちだけでなくエラたちにも優しいんだよな……)
おまけの男の護衛はハズレどころではなく、大当たりだった。
こんなにも自分たちに優しく接してくれる護衛対象者など、他にはいないだろう。
毎日大変だからと「ありがと」とお礼を言い、食事まで自ら作ってくれるクオン。
その上、男女だとそんな噂を持つ妻への感謝は惜しまず、愛しい相手にどこまでも尽くそうとするその心には、感銘を受けた。
活躍したいと、自分にはその実力があると、第六騎士団に所属され不平不満ばかり抱えていたホセだったが、今は違う。
これはクレオに言われた言葉でもあるが、第六騎士団に所属する庶民として街をよく知るホセとジミーだからこそ、クオンの護衛を任された。その言葉はホセの心に響いた。
自分たちには自分たちにしか出来ないことがある。
そんな考えに行きつけたのも、クオンと出会えてからだった。
「あー、クーオン様、手先器用だし、クレオ様に何か作ってあげたらどうですか?」
「何か作る?」
「はい、貴族のご令嬢とかは刺繍入りのハンカチを婚約者に贈るのが定番らしいですし、そんな感じで手作りのもの贈ったらクレオ様も喜びそうですよね」
「ハンカチ刺繍……? そっか、手作り、いいかも! ホセ、ありがと!」
やっとクオンの顔に笑顔が戻り、ホセもホッとする。
どうせならばいい案に行きついて欲しいと、令嬢のハンカチ話を続けてみた。
「ヘヘヘ、少しはお役に立てて良かったです。令嬢のハンカチなんてロマンがありますよねー。まあ、俺は貰ったことなんて一度もありませんけどねー」
「えっ? ホセ、カッコいいのに、絶対分かる女の子いるはず」
「いやいや、俺って微妙なんですよ。平民女子からすると騎士ってカッコいいけど、現実的に無理らしいし、貴族令嬢からすると平民騎士はハズレって感じで、女の子にモテたことなんて一度も無いっすよ」
「ほんと?! えっ? ジミーも?」
「はい、ジミーさんもっすよ、三十過ぎて未だに結婚してないし、あの顔だし」
「信じられない……」
異世界の結婚事情も色々あるようで、クオンの顔には驚きと同情のようなものが浮かんでしまう。
元居た世界での「部屋住み」という肩身の狭い歴史を知るクオンとしては、結婚できない者が居ても当然だよねという気持ちもありながら、逞しい体躯をもつホセとジミーならば結婚相手に不自由しないだろうねと、そんな思いもあったからだ。
「ホセ、僕と仲間、ジミーも、【非リア充】気持ち分かる」
「へっ? 何言ってんですか、クーオン様は既に結婚してるじゃないですか、それにこんなお屋敷に住んで、奥様との仲も良くって、俺の仲間なはずないでしょう? 羨ましすぎるぐらいですよ」
「えっ……?」
ホセの言葉にクオンはハッとする。
気が付けばクオンは他者が認めるほどのリア充になっていたようだ。
それもすべてクレオのお陰だ。
だから尚更クレオに感謝が沸き、お礼をしなければと強く思うと共に、自分はクレオがいなければ「ダメな男」でしかないと、そんな気持ちも益々強くなり、目の前の机に突っ伏したクオンだった。
こんばんは、何とか投稿できました。
ホセとジミーとの関係を書きたかったのですが、クオンとは仲良くやっています。
性格が穏やかで気が利く騎士が選ばれているので当然な感じですね。
他の騎士だったら「男らしくない!」とクオンを下に見そうです。




