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私の夫君~聖女のおまけと女性騎士様の、穏やかで賑やかな偽装結婚~  作者: 夢子


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同僚

 同僚であるアンセルに会ったクレオは、丁度良いとばかりに結婚の報告をした。


 相手が誰であるかは勿論言わないけれど、学生時代からアンセルに「結婚」について聞かれるたび、ずっと結婚などしないとそう言っていたクレオのあまりに突然の報告に、アンセルは理解が追い付かないようで口を開けたまま固まっている。


 その姿が普段のアンセルとあまりに違い、少しだけ可笑しくて笑いそうになったが、驚かせてしまったのはクレオの方なのでアンセルが起動するのを大人しく待った。


「結婚……? おまえ……結婚と言ったか?」


「フッ、ああ、そうだ、結婚した。いろいろと事情があってな」


 言外に詳しいことは話せないと伝えれば、アンセルはそれ以上何も言わず黙ったまままた動かなくなった。


(それほど私の結婚が意外だったのだろうな……)


 アンセルの動揺を見てもう一人の同期、ユーリにも早めに報告が必要だと悟る。


 アンセルとユーリ、そしてクレオは同期だ。

 学生時代からの友人でもあり、比較的何でも話せる相手でもある。


 男性社会と言える騎士の中、女性であるクレオに対しアンセルは最初から友好的だった。


 学生時代のグループ分けの際も、常にクレオに声を掛けてくれて、自身の友人だったユーリにもクレオを紹介してくれて、穏便に学園生活が送れたのもアンセルのお陰、恩人に近い相手でもある。


「なんで……おまえ、だって、結婚などしないと、ずっとそう言っていたじゃないか……だから俺も……」


「ああ、確かにそう言っていたな。まあ、この結婚には少し事情があるんだ。悪いが詳しいことはこの場では話せないんだ……」


「……事情……? まさかおまえ、侯爵閣下に無理矢理結婚を?」


「いや、違う。まあ、確かにこの結婚は父から出された話だが、条件を分かって結婚を決めたのは私自身だ」


「そん、な……」


 アンセルは子爵家の四男の為、継ぐ爵位がなく騎士になった男。

 なので貴族の結婚事情も分かっているし、クレオの結婚したくないという気持ちも分かってくれていた。


 それなのに突然クレオが結婚したのだ驚くのは当然で、侯爵の父に無理に結婚させられたとそう思われるのも仕方がないことだった。


 だからだろうか、アンセルの顔には苦い色が浮かぶ。

 それにクレオを見る目はどこか辛そうで……


 アンセルはどうやら友人が黙って結婚してしまったことが相当悲しいようだった。


「クレオ……俺はーー」


「アンセル、済まない、実は私は今日が休暇明けの出勤で、隊の皆を待たせているんだ」


「あ、ああ、そうか……そうなのか……」


「アンセル、君も仕事中だろう? 立ち話をしていて大丈夫なのか?」


「ああ、うん、それはーー」


 遠くでアンセルの名を呼ぶ声が聞こえる。

 第三騎士団に所属するアンセルも、自分の隊を持っていて隊長でもある。

 クレオに時間を割いている場合ではないだろう。


(心配させてしまったようだし、公になったらアンセルとユーリにはクオンを紹介したいな……)


 隊長として忙しい中、休んでいたクレオを見つけ声を掛けてくれたのだと思うと、友人の有難さを感じる。


 それに驚かせてしまったことと、結婚前に報告できなかったことも申し訳なく思った。


「アンセル、今度ゆっくり話そう、ここでは落ち着かないし……」


「あ、ああ、そうだな……その、クレオ、食事に誘ってもいいか?」


「食事か……二人きりは無理だな。ユーリも誘ってもらえれば大丈夫だが」


「……そう、なのか……」


 仕事終わりにアンセルには良く誘われ食事に行ってはいたが、流石に結婚したクレオが仲間とはいえ男性であるアンセルと二人きりはマズイ。


 クオンならば「いいよいいよ」と言って気にしないかもしれないが、クレオ自身が気になってしまう。


 あとで浮気を疑われたり、教会に因縁をつけられクオンを奪われる理由になってもいけない。


 今の生活を手放す気はないのだから、気をつけ過ぎて困るということは無いはずだった。


「じゃあ、アンセル、またな。ああ、ユーリには結婚したことは話しても大丈夫だから」


「あ、ああ……分かった……また……な……」


 別れを告げアンセルから離れる。

 すると「クレオ!」とアンセルがすぐに名を呼んだ。


「クレオ、おまえ、幸せなのか?」


 何を聞かれるかと思ったら、結婚をして幸せなのか問いかけられた。

 それほどクレオの結婚は突拍子のないものに見えたのだろうか。


 クレオはクオンを思い浮かべ良い笑顔で頷いた。


「ああ、最高に幸せだ、安心してくれ」


 前を向いて歩き出したクレオはアンセルがその言葉を受けどんな顔であったのかは、永遠に知ることは無かった。






「うわぁー、これが隊長の旦那さんが作ってくれたお昼ですかー、凄く美味しそ~」


 隊にやっと顔を出し皆に復帰の挨拶を済ませれば、もうお昼の時間になってしまった。


 クレオの話が聞きたいと、隊のメンバー皆で昼食へ向かい、食堂にてクオンの【お弁当】を披露した。


 以前ならばこんな気持ちにはならなかったが、何故かクオンが作ってくれた【お弁当】を皆に見てもらいたいと思ってしまう。


 クレオの食事事情を心配して準備してくれたクオンの優しさと、クオンの料理スキルの凄さを見せつけたい気持ちと、結婚はそんなに悪いものではないと、仲間に教えたい気持ちがあるからかもしれない。


 それが幸せ自慢であり惚気になっていることには、全く気付かないクレオだった。


「実際彼の作ってくれる食事はどれも美味しいんだ」


 お弁当を見つめ優し気に微笑むクレオはクオンの笑顔を思い出している。

 その姿がこれまでのクレオと違い過ぎて、隊の皆の頬が何故か赤くなる。


 隊長の旦那さん凄い! 隊長愛されてる! 隊長にあんな顔させるなんて!


 と、クレオのあまりの変わりように、そこは騎士団の女性たちでも恋バナに興味津々となるのは当然だった。


「えー、隊長って、親が用意した政略結婚なんですよねー? なんか凄く愛されてませんか?」


「愛されているかは分からないが、大事にしてもらっていることは分かる……」


 クオンはいつもクレオのことを気にかけてくれ、大事にしてくれる。


 今日までの一週間。

 新婚期間だからとかではなく、クオンはいつだってクレオのことを心配してくれるし、クレオが喜ぶ顔を見たいと美味しいものを沢山準備してくれる。


 その上分からない言葉を教えて欲しいと言って勉強する姿は子犬のように可愛いのだ。

 一緒の生活に不満などあるはずがなかった。


「えーいいなぁ、旦那さんめちゃくちゃ優しそー」


「ねえ、そうだよね。隊長、政略結婚でこんなに上手くいくことって中々ないですよ、隊長ってば運が良いかもぉ」


「ああ、それはそうだな……私は幸運だ」


「「「キャーーーー!」」」


 クオンとの出会いは運が良いというだけでは言い表せないものだろう。


 奇跡。


 その言葉しか思い浮かばない。


 聖女召喚におまけが付いてくるなど、これまで一度も無かった。

 そう考えるとあり得ない幸運をクレオは手にしたと言える。


 お膳立てしてくれた父やデーヴィッドには感謝しかない。


「そうだな、私は幸せ者だな……」


 クオンの作ってくれたお弁当を食べながら、思わずそんな言葉が零れた。


 もしこの国の男性とクレオが結婚していたら、それはそれで上手く行ってはいただろうが、こんな風に幸せを実感出来たかは分からない。


 大事な騎士の仕事も、きっと続けることは出来なかっただろう。




 仕事を終え、クレオは自宅への道を愛馬で駆ける。

 街中なので勿論早駆けなどはしないが、クオンが待っていると思うと早く帰りたいと思ってしまうのだから不思議だ。


 そう言えば猫を飼っている騎士仲間が仕事中に「早く家に帰りたい」と言っていたが、きっとこんな気持ちなのだろうなと口元が緩む。


(そういえばクオンの猫のポーズ、あれは可愛かったな……)


 お風呂を見て猫の足だと可愛いことを言ったクオン。

 林檎を切った時はウサギだと、頭に手を置きウサギの真似をしていた。


「フフ、討伐するウサギが皆クオンのように可愛ければいいのだがな……」


「ブルル?」


 独り言を呟いたつもりが愛馬から返事が返って来て思わず笑ってしまう。

 クレオの馬であるルナリアもクオンのことを守るべき対象だと思っているのだろう。

 その名が出ると返事を返すのだから可笑しさしかない。



「ただいま戻りました」


 屋敷に着き、門を通り抜け、馬から降りると家に向かい声を掛ける。


 するとクオンの「エラ、クレオ、来た!」との声が聞こえ、忠犬のようだと笑いそうになってしまう。


「クレオ、お帰り、お疲れ様!」


 屋敷から飛び出してくるクオン。

 帰りを待っていてくれたのだと思うと心の中に嬉しさが広がっていく。


「クオン、帰りました。ちゃんといい子にしてましたか?」


「クレオ、僕、子供違う、いい子当然!」


「フフ、そうですね。クオンはいつもいい子ですものね~」


「もう、クレオ、揶揄ってる!」


 待っていてくれたことが嬉しくて、思わず頭を撫でてしまう。

 クオンを揶揄ってしまうような形になってしまったが、クオンは怒ることも無く楽しそうに笑う。


「クレオ、お弁当、足りた?」


「はい、とても美味しかったです。皆にも羨ましがられました」


「そう、良かった、一安心」


 駆けつけたアルマンに馬を預け、クオンのエスコートで屋敷に入る。

 最初は常にエスコートしようとするクオンの行動に照れる気持ちもあったけれど、今ではそれが当たり前になっているから不思議だ。


「明日も、お弁当作るね」


「はい、お願いします、凄く楽しみです」


「うん、任せて!」


 一週間での慣れというものは怖いもので、もうクオンのいない生活は考えられないと思う。


(このままずっとこの生活が続けばいいのに……)


 いつかクオンは元いた国に帰るかもしれない。


 その時はきっと一生の別れだろう。


 それでも今だけはこの時間を楽しみたいと、そう思うクレオだった。

おはようございます、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、良いね、評価など、応援も有難うございます。


クオンはデーヴィッドや家庭教師を見て、異世界の男性のマナーを学んでいます。

アリスを常にエスコートするデーヴィッドの姿を見てそれが当然だと思い、ちょっとの移動でもクレオをエスコートしています。


クレオの愛馬は雌です。

綺麗な栗毛ですが軍馬になれるほどの体躯です。

性格は大人しいです。

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