第三十六章 その四
あんじょは、観音堂の入口の反対側に立って守っているしょうたんに声をかけた。
「しょうたん。このままでは、あやつらの攻撃がだんだんとエスカレートして、いつ観音堂の中に攻めいられるやもしれん」
「うん。今わしも、そう思うておったところだが、あんじょ。なにかよい案はあるか?」
「お二人は、今からそれぞれの八丁郭に戻り、天仁法師様と母君様に力をいただくよう御祈祷くだされ」
二人の間に割って入ったのは白ババだった。
「白ババ! 白ババがそういうなら間違いない。しょうたん、直ぐにまいろう」
あんじょは目を見開きそう言うと、龍太郎と龍神を呼んだ。
「龍太郎は、あんじょをのせて母君の塚へ。龍神様は、しょうたんをのせて天仁法師様の塔へいってくれ」
白ババの采配であんじょとしょうたんは、北と南の八丁郭へと向かった。
観音堂の中で経を唱え続けるあゆみは違和感を感じていた。
(何かいつもと違う感じがする。経の力が伝わらない。結界が張られている感じがしない。やはり焼けた観音様の魂を呼び覚ますことは難しいんだろうか……)
その時、あゆみはふと格子の中の須弥壇に目をやった。
「あっ」
経を唱えることを忘れるほど驚いた。
「あゆみ様! どうなさいましたか? 結界は張り終えられましたか?」
あゆみは首を左右にふると、須弥壇を指さした。
「いつの間に、こんな観音像が! 最初っから置かれてありましたか?」
信國も気付かなかったようである。
「置いて無かったように思うんだけど、格子の扉で中が暗くし仏像が小さいから気付かなかったのかも……」
あゆみも半信半疑な様子でそう答えた。安國はいぶかし気な顔で須弥壇の中の観音像を見つめた。
須弥壇の中に現れた仏像は、古い時代の物のようでかなり古ぼけていた。さほど大きくないその仏像は、優しい表情をした聖観音像で片手には蓮の華を持ち、蓮華の台座に立っている。
「では、経を続ける」
あゆみは、そう言うとお経を唱え始めた。しかし、いつもと違うお経だ。
そのお経が始まると、須弥壇の観音像が黒々と光りだした。そして、観音像の目がカッと開いたかと思うと、仏像は一瞬、黒い霧に覆われ、それが煙のように立ちのぼった。
「あゆみ様、離れて下さい!」
信君の叫び声と共に、あゆみ達は後ずさりをすると須弥壇の中の様子を覗った。




