第三十六章 その三
「みんな闇仏を森の中に連れていけ!」
その掛け声を機に、たくさんの山気が闇仏の周りを回り始めた。
「ほ~らほら。こっちだ、こっちへおいで」
山気は何か不思議な音波をだして出しているようで、観音様の姿に化けていた者が本来の姿を現わした。それは黒の法師であった。
「なんと闇仏の正体は黒の法師であったか!」
白ババが驚いたように目を見開いた。
「そうだよ、こいつのおかげで佐護の観音堂でひどい目にあったのさ!」
藁かざしが忌々しそうに言った。
「ほ~ら、こっちへおいで」
山気の仲間が黒の法師を操るように観音堂の側の細い山道に誘い込み、だんだんとその姿は見えなくなった。山気は森を守るために生まれた森の精で、森を荒そうとする者たちを深い森の中で迷わせる力をもっているのだ。
「山気達、やるねぇ」
山童がヒュ~と口笛を吹いた。
その間も、あゆみの激しいお経は続いた。しばらくすると、お経の声が小さくなり、鐘の音が三回響いた。
「おや、あれは何だ!?」
突然、白ババが観音堂の周りの森を見渡すように叫んだ。
「ん? なんだ、白ババ。森に何かあるのかい?」
一旦は、とぼけたように白ババに尋ねたいたずら天狗だったが、森を見て慌てたように叫んだ。
「たいへんだ! あれは闇ガラス。何かをくわえているぞ」
観音堂の周りの木々に、沢山の烏が止まっていた。闇ガラスと言われたカラス達は、みな目が真っ黒だった。そして、そのカラス達が口にくわえていたのは火のついた枝。
闇ガラス達は一斉に飛び立ち、観音堂の上空から火のついた枝を放った。観音堂に火をつけて燃やそうとしているのだ。
しかし、木の枝が落ちる前に葉太郎達がキャッチして、豆酘の港に運んで消した。
幾つかの枝は地面に落ちたが、霊化が口から水を吐き出し火を消した。
「あやうく惨事になるところだった。あゆみ様が結界を張り終えるまでは、何としてもここを守らなければ……」
観音堂の入口の側に立っていたあんじょがポツリと呟いた。




