第三十六章 その二
ロウソクに火が灯された。あゆみは観音堂の祭壇に向かい手を合わせた。
「あゆみ様。焼けぼっくりなった観音像がこの中に納められています」
側から信國が声をかけた。あゆみはゆっくりと頷くと、少し微笑みながら口を開いた。
「私の目には、まだ焼ける前の観音様のお姿が焼き付いてる……。お姿は変わっても観音様は変わらず、ここでこの地を守ってくださってるの」
そうして、線香に火をつけ灰に立てた。まず小声で観音様にご挨拶をし、もう一度、観音像が祀られている祭壇を見た。一礼をすると、鐘を鳴らし経を唱え始めた。太鼓を叩く手に力が入り気持ちが高揚すると、だんだんと声が大きくなっていく。
あゆみの声は静かな観音堂の中に響き渡り、外の境内にもよく聞こえるほどだった。
観音堂を取り巻いて見張っている魔魅達は、あゆみのお経に合わせて踊るように体を揺らした。そして、あゆみが鐘をゴンと叩いた時、急に観音堂の裏手の空が明るくなった。
「あっ! 観音様がお出ましになったぞ~」
山童が叫んだ!
魔魅達の視線が山童が指さす観音堂の裏手に集中した。そこには光の矢が幾筋も放たれている。そして、その真ん中に観音様の姿があった。
「わ~い。あゆみ様のお経が観音様を呼び覚まされた~」
山気もふわふわと飛びながら喜んだ。山童も川童も手を合わせて拝もうとした。
「いや、いや、ちょっとまった!」
観音堂の裏手に行こうとする仲間に向かって大声をあげたのは藁かざしだった。
「俺ら達、前に似たような事があって、その仏にだまされたんだ。なっ! ひと声おらび」
藁かざしは、ひと声おらびの方を向いて話しかけた。
「うん、だまされた、だまされた!」
ひと声おらびは、何度も何度も首を大きく縦にふって叫んだ。
「そうだった! こいつは闇仏だ! みんなだまされるなー」
山気も思い出したようにそう言うと、裏手の山から離れた。
その時いきなり、ひと声おらびが、「おーい、おーい」と大声で叫び始めた。するとそれに反応した笑びこの「ククク」という笑い声が山にこだました。
「おーい、おーい」
「ククク、ククク」
「おーい」
「ククク」
「おーい」
「ククク」
ひと声おらびの声と笑びこの声がだんだんと大きく早くなって行く。
「なんだ~!? この声は? 頭が可笑しくなる~」
「なんか森の奥に行きたくなってきた~」
仲間の魔魅達でさえも頭が混乱しそうな声。
観音堂の裏手に射していたいたひかりの矢にも変化が表れてきた。
その時だった。
「よし! いまだ」
そう言って、光の中に立つ観音様の形をしたものに近づこうとした魔魅がいた。
「おー」
他の魔魅達は驚きの声をあげ、その様子を見守るのだった。




