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6話 勇気を振り絞って

 山の頂上まで登り切り、レオナは一息つく。山頂には苔むした岩山が連なっていた。グリフとアルマンドも頂上にたどり着き、呼吸を整える。

「うひゃぁー。雲で下がどうなっているのか見えねぇや」

アルマンドは崖から下を覗き込む。山を包むように、白い雲海が風の通り道に沿って広がる。レオナは吹き付けてくる風に身震いしながら周りを見回す。

「ドラゴンはいないのかな?」

レオナは恐る恐る筆箒を構えながら、辺りを見回す。グリフも訝しげに警戒する。ドラゴンどころか、人一人いない。上空にも、岩山の間にも。アルマンドは意を決して一歩前に進み出る。

「お……おい! ドラゴン!!」

絞り出した様な震え声で、アルマンドはドラゴンを呼ぶ。その声は岩山に反響した。吹き荒れる風が突然止む。レオナはただならぬ空気に、石の様に固まる。ブラウの街で感じた空気が、辺りに漂った。重苦しい大気が、レオナ達を締め付ける。

 すると、雷が落ちた様な咆哮が轟く。地響きと共に、巨大な緑色のドラゴンが岩山の上に現れた。ドラゴンは太い尻尾を鞭のようにしならせる。不機嫌そうにかぎ爪で三本の爪痕を刻む。

「……何の用じゃ……小童共」

ドラゴンは忌々しげに、白い顎髭の生えた口を開く。その声はこのブラウ山を切り崩すかのように響いた。眉間に皺を寄せ、ドラゴンは自分を呼び捨てにした人物を見下ろす。豆粒三人が、こちらを睨み付けていた。アルマンドは改めてドラゴンの巨大さを目の当たりにし、萎縮する。巨大なドラゴンの傍らには、気を失って横たわるセルマがいる。その姿を見るなり、アルマンドは自分を鼓舞するように、拳を握った。

「セ……セルマを……セルマを返せ!」

アルマンドは恐怖を押し殺した声で叫ぶ。少年の甲高い声に、ドラゴンは腸が煮えくり返ったかのような唸り声を上げる。

「セルマだと。貴様ら……ワシからセルマを奪いに来おったのか!」

ドラゴンは怒気混じりに言い放つ。口を開く度に、ドラゴンの声は熱を帯びてきていた。怒りに燃えるドラゴンの鼻からは蒸気が漏れ出る。

「どういう事だよ? セルマを攫ったのはお前だろ?」

「黙れ! セルマはワシの孫だ! 貴様らなぞに渡すものか!」  

アルマンドの問いに、ドラゴンは苛立たし気に近くの岩を叩き割った。粉々になった礫が、三人に降りかかる。両翼を広げ、ドラゴンは真っ赤な口を開けた。

「ドラゴンさん、僕達、セルマを助けに来ただけなんだ。だから、落ちついてよ」

「やかましいぞ、小童共! それ以上嘯くものなら、このドレイクが痛い目に合わせるぞ!!」

ドラゴン、ドレイクは猛々しく吼え、口から炎を吐く。赤々と燃える炎は空中をたなびき、まるで警告の狼煙を上げているようだ。暖炉の火しか見たことがないレオナは、顔に恐怖の色が浮かぶ。

「無駄だ。この者は怒りで我を忘れている」

グリフは羽毛を逆立てている。レオナも祈るように、筆箒に縋っていた。お伽話の存在だったはずのものが、今レオナの前にいるのだ。絵本の中の存在に敵意を向けられ、レオナは全身が凍りついた。ドレイクは地面を裂くような咆哮を上げ、翼を羽ばたかせる。雲を切り裂き、ドレイクはレオナ達の前に急降下してきた。地響きを上げて、ドレイクはレオナの前に立ちはだかる。着地の風圧に揺さぶられ、レオナは地面に倒れた。震えが止まらない。目の前にいるドラゴンは、レオナが読んでいたお伽話の存在よりも大きく、荒々しい。レオナの頬に冷や汗が伝う。

「覚悟しろっ! 小僧!!」

ドレイクは前足を振り上げ、レオナを叩き潰そうとする。レオナは四つん這いのまま、ドレイクの前足から逃れようとする。ドレイクの一撃はレオナを捕らえはしなかったが、山肌を抉り取った。足元を掬われ、レオナは岩に叩きつけられる。背中に痺れるような衝撃が走り、レオナの息が詰まる。

「大丈夫か!?」

グリフはレオナに駆け寄ろうとする。だが、ドレイクはレオナを噛み砕こうと、大きな口を開けた。髭の隙間から、大きな牙が見える。ドレイクは勢いよく岩に食らいつく。レオナは咄嗟にドレイクの顎の下に滑り込み、噛みつきを避ける。ドレイクは首を持ち上げ、獲物の噛み応えがないのに気づいた。ドレイクは黄色い目をしきりに動かす。激昂し、ドレイクは爪で地面を抉る。

「小賢しい真似をしおって。出てこい、小僧!」

ドレイクは怒り狂い、尻尾を振り回して暴れまわる。石を砕き、岩をなぎ倒し、とめどない勢いで荒れ狂う。レオナは筆箒を抱え、近くの岩陰に隠れる。ドレイクはけたたましい吼え声をあげ、深く息を吸い込む。喉の奥から火花が散り、ドレイクの口から火炎が放たれた。

「臆病者め! 逃げるつもりか!?」

レオナの背後の岩が、燃え盛る炎に包まれる。岩が赤熱し、火の手が岩の裏に隠れるレオナに伸びた。呼吸する度に、焼け付くような空気がレオナの喉を締め付ける。レオナは熱と恐怖に顔を歪め、岩から離れた。ドレイクは岩から出ていく小さな人影を見逃さない。すかさず尾を振り、地面に叩きつけた。レオナの身体は衝撃で宙を舞い、受け身をとる間もなく地面に落ちる。

「魔法使いさん!」

アルマンドの声を聞くなり、ドレイクはアルマンドとグリフを睨む。地に伏せるレオナを尻目に、ドレイクはゆっくりと二人ににじり寄った。

「忌々しい小童共め!」

ドレイクは大気を口に取り込む。レオナにはそれが何を意味しているのかすぐに分かった。痛む身体を奮い立て、レオナは走り出す。レオナ二人の前で手を広げる。策も無い。手立ても無い。ただ、二人を助けたい一心で、レオナは二人を庇う。かつて師匠が自らにやったように。

「ぼ、僕はどうなったっていい! だけど、二人を……二人を傷つけさせなんかしない!」

「無茶だ! よせ!」

グリフの言葉を背に受けてもなお、レオナは筆箒を構えながら立ち続ける。ドレイクはさらに空気を吸う。口の奥が橙色に発光した。炎の前では無力だ。レオナにもそれは分かっていた。

「くたばれえぇぇぇっ! 小僧っっっ!!」

ドレイクの怒りに呼応するように、口の周りには火の粉が弾ける。怒りで髭は逆立ち、ドレイクの瞳は炎の色を映した。レオナは震える手で、筆箒を握り締める。癇癪玉が破裂し、ドレイクは口から烈火を吐き出す。燃え上がる炎は一直線にレオナに迫る。だが、レオナは一歩も退かない。地を踏み締め、レオナは筆箒を前に突き出した。自分でも分からない。ただ、胸の奥から込み上げてくる熱い何かが、レオナを突き動かしていた。迫り来る火炎がレオナの肌の表面を火照らせる。レオナの胸の内も激しく燃え上がる。

 不意に、筆箒の先が熱くなる。レオナは指先へと伝わる熱を感じ取った。筆箒はやがて黄緑色の光を帯びる。筆先から迸る光は、大きな黄緑色の盾となった。盾は火炎を受け止め、火花を散らす。風に煽られたように、炎は掻き消えた。

「何!? ワシの炎が……消えただと……?」

ドレイクは炎を勢いを殺し、口を閉じて後ずさる。レオナは恐る恐る自分が持っている筆を見た。筆先からはレオナ達を守るように黄緑色の盾が浮かんでいる。強い力に掴まれたように、手は筆箒を握っていた。

「これは……僕が出したの……?」

レオナは放心して呟く。レオナの呼吸に合わせて、光の盾は筆箒に吸収される。

「ええい! おかしなまじないなど使いおって!」

ドレイクは翼をはためかせる。尻尾を振り下ろし、ドレイクはレオナ達がいる岩場を破壊した。足場が粉々になり、レオナとグリフは落下する。

「おっさん! 魔法使いさん!」

このままでは二人とも地面に真っ逆さまだ。逆巻く風を額に感じながら、レオナは思考を巡らせた。迷えば迷うほど、レオナと地面の距離は近くなる。レオナは目を閉じ、祈るように筆を握りしめる。すると、筆箒が再び輝き、光がレオナ達の下に集まった。光はレオナ達をクッションのように包み込む。柔らかい光が落下の衝撃を緩め、レオナ達は着地する。

「何……? これ……」

レオナは光をつつく。光は柔らかく押し返した。淡い光は、二人を優しく包んでいる。グリフは顎に手を当てた。

「これは……もしや……」

レオナは光のクッションから降り、上空にいるドレイクを見る。ドレイクはこちらを睨み、降り立とうと旋回していた。

「ねえ、グリフ。お願いだよ。空を飛んでくれない?」

「馬鹿者! 何度言えば気が済むんだ! あんな所まで飛ぶのは無茶だ!」

グリフは気が動転してクッションから落ちそうになる。だが、レオナも引き下がらず、真剣な眼差しでグリフを見た。緑色の瞳は、一筋の希望を写している。

「お願い! そうしないとドレイクを止めることはできないんだ」

「……」

レオナがグリフに縋るも、グリフの返答はない。眉間に皺を寄せ、グリフの嘴が震えた。

「消えてなくなれぇぇっ!」

ドレイクは空中から火球を飛ばす。炎の砲弾がレオナに襲い来る。レオナは筆箒を構えるも、火球はすぐそこまで迫っていた。グリフはすぐさま駆け出し、レオナを咥えて背に乗せた。火を躱し、背中の羽を小刻みに動かす。羽が風を捕らえ、グリフの体は宙に浮いていく。地上がどんどん小さくなっていく。グリフ自身も驚き、下を見る。レオナもグリフにしがみついていた。

「と……飛べた……?」

グリフは次第に落ち着きを取り戻し、羽をゆっくりと動かす。聳え立つ岩山の上で、グリフとドレイクが対峙する。

「もう止めろ、ドレイク。それ以上暴れると、お前もただでは済まないぞ」

「黙れぇっ!」

ドレイクは口から立て続けに真っ赤な炎を吐き出す。グリフはぎこちなく羽を動かし、炎を躱した。炎が頰の側を擦り、レオナは目を閉じながらグリフの羽毛を掴む。マントが激しく揺れ、風を切る音がレオナに聞こえてきた。

「もう一度盾を作れ! お前ならできるはずだ!」

グリフの声がレオナの耳に響く。レオナはゆっくりと目を開け、筆箒を握る。雲を貫き、炎の矢が次々と襲いかかる。レオナは炎が迫る度に目を瞑る。

「落ちつくんだ。勇気を出して向き合え!」

レオナは筆箒を前に構え、意識を集中させる。筆箒の前に再び盾が現れ、火を弾く。弾かれてもドレイクは機関銃のように火球を放つ。大気が震えるほどの怒り声を出し、翼で暴風を引き起こす。グリフは羽を精一杯羽ばたかせ、体を上昇させる。グリフとドレイクの距離が縮まった。ドレイクは前足を振り上げ、レオナは筆箒を構えた。

「終わりだ!」

ドレイクの鎌のようなかぎ爪が振り下ろされる。レオナは顔を強張らせ、目を瞑った。グリフも前足で顔を覆う。だが、爪は二人を切り裂く事はなかった。光の盾に、ドレイクの前足が防がれる。レオナが歯を食いしばり、両手で筆箒を支えていた。ドレイクは前足に力を入れるが、びくともしない。

「な……何っ!?」

ドレイクの前足を、盾はクッションのように包む。足は盾に沈み込んだと思いきや、反発によって跳ね返った。勢い余って前足はドレイクの顔を殴りつける。

「ぐはあっ!」

自分の巨大な一撃を受け、ドレイクは大きく仰け反る。そのまま力なく空中から落下していった。レオナは呆然として、筆箒を見る。

「うわわわわっ!」

落ちてくるドレイクに、アルマンドは慌てふためく。ドレイクの影が迫る中、アルマンドはセルマを抱えて走る。ドレイクは山頂の岩山に激突した。弱々しい声を上げ、ドレイクはぐったりとのびてしまう。グリフはゆっくりと羽ばたき、山頂に降りてくる。

「……空を飛ぶのも一苦労でだな」

グリフは大きく伸びをし、身体中を震わせる。レオナもグリフから降り、アルマンド達の方へ走った。

「すっげえ! 魔法でドラゴンを倒しちまうなんてよ!」

「い、いや、僕にもよく分からないんだ」

アルマンドは憧れの眼差しをレオナに向ける。レオナは気恥ずかしくなり、頬を掻いた。筆箒は何事も起こらなかったかのように、静かにレオナの手の上にある。レオナ自身にも分からない。どうやってあの魔法が使えたのか。

「う……う……ん?」

セルマがゆっくりと目を開ける。辺りを見回し、セルマは妙な違和感に気づいた。腰の下に、柔らかな感触を感じる。

「あ……」

アルマンドと目が合い、セルマは頬を赤く染めて顔をそらす。アルマンドも気まずそうな顔をする。

「あ……ありがとう……」

「い……いいって事よ……。このくらい」

アルマンドはセルマをそっと降ろす。レオナは二人の無事な様子に、静かに胸を撫で下ろした。

「むぐぐ……。させんぞ……セルマを連れて行くなど……」

ドレイクは地面に突っ伏したまま、目を開ける。喉の奥から搾り出すような声で、ドレイクは呻く。その姿は、先程の荒々しいドラゴンには見えないほど弱々しい。

「おじいちゃん、もうやめて! この人達は私を助けてくれたのよ!」

セルマがドレイクに走り出す。ドレイクは首をもたげ、両目にセルマを映した。

「セルマ……」

ドレイクの瞳孔が次第に大きくなる。眉間に皺を寄せた厳しい顔つきは、穏やかな表情に変わっていった。ドレイクはセルマの肩を鼻で撫でる。

「魔法使いさん、お願いです。おじいちゃんを元に戻してくれませんか?」

「え? でも……僕は……」

セルマはドレイクの鼻を撫でながら、レオナを見る。レオナは自信なさげに後退りした。手にした筆箒が重くなる。ドレイクも申し訳なさそうに頭を下げていた。

「お願いします。これ以上おじいちゃんの苦しむ姿を見たくないんです」

セルマの瞳が潤む。レオナは二人の視線を気にしながらも、筆箒を構えて前に出た。グリフとアルマンドも、その様子を見守っている。レオナは筆箒を振りかざす。セルマにしたように、レオナは筆箒に意識を集中させた。筆箒から光が漏れ出し、ドレイクの体を包む。巨大な体は縮み、恐ろしげな爪の生えた手足は人間のものへと変わっていく。

 光が収まると一人の老人が呆気にとられてレオナを見ていた。痩せこけた顔に生える長く白い髭が、ドラゴンだった時の面影を残している。

「お……お前は……一体……」

レオナは緊張がほぐれ、筆箒を降ろす。セルマは両手を広げ、ドレイクに抱きついた。

「おじいちゃん、街に帰ろう」

「しかし、ワシは怒りで我を忘れ、街の皆を怖がらせてしまっていた。今更帰るなど……」

ドレイクは顔を落とす。朧げなドレイクの記憶は、怒りに支配されていた。やり場のない怒りに猛り狂う自分。破壊される山の悲鳴。元に戻った今、ドレイクに全ての感触が蘇る。

「ドレイクさんは悪くない。ドレイクさんはただ、セルマを探していただけだよ」

レオナは二人の手を取る。ドレイクは神経質そうにレオナの手を握った。躊躇いがちになりつつも、ドレイクはゆっくりと頷く。

「さあ、行くぞ」

グリフの声に、レオナは二人の手を取りながら歩き出す。夕日が照らす岩山を、レオナ達は慎重に降りていく。ドラゴンがいなくなった山は、雲一つなくその姿を露わにしていた。


 夕日は地平線に沈み、空が紺色に染まる頃、レオナ達は街の入り口にたどり着いた。街は夜になっても相変わらず、ドラゴンの影に怯えている。

「おーい! もうドラゴンはいないぞ。出て来いよー!」

アルマンドは街中に響く声で呼びかける。すると扉がゆっくりと開き、小鬼のような魔物が半分顔を出す。怯えた顔つきで、こちらを見ていた。その様子を見て、ドレイクは肩を窄めた。

「あ……あんたはドレイクさんじゃないか!」

子鬼の街人の言葉に、街のいたるところの扉が開いた。魔物の行列が、ぞろぞろとレオナ達の方へやって来る。目元を震わせ、街人達はドレイクとセルマを見た。

「ブラウ山にセルマちゃんを探しに行ってから行方不明と聞いてたが、一体どうしてたんだい?」

「じいさんはドラゴンになってたんだ。でももう大丈夫だぜ、この魔法使いさんが元の姿に戻してくれたんだ」

アルマンドの言葉に、街人達の視線はレオナに集まる。人間の、よそ者を見る視線が集まり、レオナは動揺した。師匠が禁じて、自身が焦がれた麓の世界は、こんなに恐ろしい顔を見せるのか。レオナはグリフの後ろに隠れる。

「あなた方は一体……」

「吾輩らは旅の魔法使いだ。各地で何が起こっているか渡り歩く道中に、この街に参った」

街人達は何やら言い合いながら二人を見ていた。だが、やがて歓喜の表情で、二人の前に集まる。

「ありがとうございます! 魔法使いさん」

街人達のこちらを気遣う優しい顔が広がっていた。レオナは怖がりつつも、恥ずかしげに頬を掻く。街人達はセルマとドレイクにも、無事を喜ぶ言葉をかけた。

「すまなかったな、魔法使い。ワシはお前に酷いことをしてしまった」

ドレイクは長い眉を伏せ、レオナの頭を撫でる。骨ばった大きな手に撫でられ、レオナは師匠を思い出して赤面した。

「さあ、お前の魔法で街人達を元の姿に戻すんだ」

「う、うん……!」

グリフが筆箒を小突く。レオナは意を決したように頷いた。筆箒を取り出し、レオナは目を閉じて静かに祈る。筆先が淡く輝く。光は強くなり、街全体を灯台のように照らし尽くす。目を閉じているレオナにも、光明が見えた。溢れる力に、レオナの筆箒を握る力が強くなる。光が収まると、そこにはもう魔物は一匹もいない。元に戻った街人達が、お互いに手を取り合っている。レオナは街人の喜ぶ様子を見ると安堵し、一気に力が抜けて崩れ落ちた。

「大丈夫か!? 魔法使いさん!」

黄土色の髪の少年がレオナを支える。レオナは大きく開かられた水色の目から、すぐにその少年がアルマンドだと確信した。一つしかなかった目は二つの目になり、足も蛸のような足ではなく、人間のものに変わっている。

「ありがとうございます!」

「魔法使いさん、ありがとう!」

街人達は口々にあなたに感謝の言葉を投げかける。グリフも優しくレオナの肩を叩いた。

「よし、行くぞ。お前にはまだまだやるべき事が残っているだろ」

魔物の姿のままグリフは、尻尾を振って街を出ていく。レオナは目いっぱい手を振るセルマとアルマンドを見た。

「元気でね! みんな!」

年相応の少年のような表情を浮かべ、レオナは背伸びをして手を振った。月明かりに照らされて、レオナはグリフの後を追う。その後ろ姿は、雪山にいた頃よりも少し逞しくなっていた。

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