表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

5話 山を登って

 レオナ達の前には、茶色の岩山が立ちはだかる吹き付ける突風に、レオナは身震いした。聳え立つ山は、レオナ達を圧迫するように見下ろしている。

「セルマ! どこだー!?」

アルマンドは大声でセルマを呼ぶ。しかし、その声は山肌に空しく木霊するばかりであった。何度も呼び続けるが、返事はない。

「駄目だな。山頂の方に連れて行かれたのか」

グリフは山の上方を見上げる。山頂は渦巻く雲で覆われていた。

「ねえ、グリフ。その羽でここから一気に頂上まで飛べないの?」

「冗談じゃない! あんな高い山頂、途中で力尽きるのが関の山だぞ」

レオナの疑問に、グリフは心外そうな顔をする。背中を覆う程の立派な翼があるのにも関わらず、グリフは何度尋ねても首を横に振る。ついにレオナは根負けし、落胆してため息をつく。

「魔法使いたるもの、こんな山を登れぬのなら話にならんぞ」

グリフが拗ねた調子で小言を言う。レオナは渋々と、山道を歩き始めた。長い間人が通っていない山道は、岩肌だらけでひどく荒れている。

「大丈夫か? そこ、行ったりして」

「でも、この山を登らないと、セルマを助けることはできないよ」

レオナが山道を行くのを引き止めるアルマンド。レオナが行く山道は荒れ、険しい道が続いているのかもしれない。それでもレオナは、ブーツを踏みしめながら進み続ける。力強いレオナの緑色の瞳に見据えられ、アルマンドも頷いた。突風を振り切り、三人は山を駆け上がった。

 陽も傾き、黄昏の光がレオナ達を照らす。山も中腹に差し掛かり、雲海が山を流れていた。レオナに疲労の色が見えてくる。道は狭くなり、少しでも足を踏み外せば、剣のような岩のもとへ真っ逆さまだ。レオナは首元のリボンを結び直し、疲れで緩んだ気を引き締める。岩に覆われた道に足を取られながら、レオナは歩き続けた。

「ハァ……ハァ……。吾輩にはなかなか応える道だな」

グリフが舌を出したまま、レオナの後ろを歩く。息遣いが荒く、尻尾がだらしなく垂れていた。

「アハハハハ。おっさん、疲れてやんのー」

アルマンドは悪戯気に笑い、グリフをからかう。何本もある触手で、アルマンドは岩を縫うように進んでいた。グリフは舌を出しながら、アルマンドを睨む。

「フ……フン、ヒヨッコにはまだまだ負けられんよ」

グリフは痩せ我慢をして、四つの足で地面を踏みしめる。息を大きく吸い込み、グリフはアルマンドの先を歩いていく。アルマンドも負けじとグリフを追いかけた。

「ちょ、ちょっと、二人とも待ってよ」

レオナは二人の後を追う。すると、突然山が伸びをするように揺らめいた。レオナはよろけながらも、近くの岩につかまる。グリフも足を止め、地に伏せた。岩が剥がれ落ち、レオナたちの足元を砕く。

「うわぁああっ!」

アルマンドの足元が崩れ落ちる。残った足場のへりに、アルマンドはかろうじて掴まった。真下には悪魔が手招きする様に、針山が口を開いている。アルマンドの掴む岩肌が、小刻みに揺れた。

「アルマンド!」

レオナはすぐさまアルマンドの手を掴む。両手を乗せ、レオナそのまま引っ張り上げようとした。だが、か細いレオナの腕は、小刻みに震えるだけだ。下へと引きずられる重みに、レオナは苦悶の表情を浮かべる。

「ま……魔法使いさん、俺の事はいい。このままじゃアンタまで落ちちまうぞ」

アルマンドがレオナの足下を見る。レオナの足元は徐々に削れ、今にも崩れそうだ。

「そんなこと言わないでよ。僕は君を絶対に見捨てたりはしない!」

レオナの思いを嘲笑うように、揺れはさらに激しくなる。落下する岩が次々と剣山の餌食となった。レオナの指先は痺れ、手が解けていく。己の無力さに、レオナは歯を食いしばった。その時、レオナのマントが後ろに引かれる。グリフだ。グリフは首を振り、レオナとアルマンドを一気に引っ張り上げた。

「全く、少しは己の身を案じろ」

「グリフのおっさん!?」

アルマンドは目を見開いてグリフを見る。揺れが収まり、レオナは額に浮かんだ汗をぬぐう。アルマンドも地面にへたり込んだ。

「世話を焼かせるな。ここで死んだら、あの小娘も救えないだろう」

「あ……ありがとう、グリフさん」

グリフはレオナのマントを離す。レオナは肩を窄めて、グリフに礼を言った。

「へへっ、ありがとな。おっさんって変だけど意外と格好いいトコあるじゃん」

「と……当然だろ。吾輩はやるときはやるのだぞ」

アルマンドに礼を言われ、グリフは咳払いをして、誇らしげに胸を張る。

「でも、道……崩れちゃったね」

レオナの視線の先には、崩落した道があった。先に進む為の道は閉ざされ、レオナは途方に暮れる。ふと、レオナは崖の岩肌に手をかけた。道なき岩肌は頂上まで連なっている。砂ですすけた手袋を見つめ、レオナはしばしの間思案に暮れていた。そっと岩に手をかけ、レオナは崖をよじ登る。

「な……何をしているんだ。危ねぇぞ」

「ここから行こう。ここからなら、きっとセルマのところに行けるはずだよ」

心配するアルマンドをよそに、レオナは崖を進む。手足は震えていたが、一歩を確実に踏み出していた。グリフも崖に前足の爪を突き立てる。

「確かに、道が閉ざされた以上、ここから行くしかないな」

アルマンドもゴクリと唾を飲み込み、おそるおそる岩肌に手をかけた。三人は絶壁をゆっくりと登っていく。山頂まであと少し。レオナは体に蓄積する疲労をものともせず突き進む。セルマを助ける。ただそれだけを考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ