1話
本編です。
「いや~、素晴らしい体験だったよ。
今後もひいきにさせてもらうよ。
どうやら、設定項目を間違ったようだが、かえってその方がよかったよ。
次回は、十年コースではなく二十年コースで受けてみたいものだ。
はっはっはっは。」
あぶらぎった感じのおっさんが、スタッフの手を取りニコニコした顔で大袈裟に握手しているのがカメラからみてとれるが、俺としては予想と反応が違ったのが残念だ。
『ピンポンパンポン♪
神野様、神野様、第一仮想会議室までお越し下さい
ポンパンピンポン♪』
呼出しか、またか、面倒だけど行くかぁ。
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「また、何を考えているんですか。
一番大事な"現実認識"をオフにするなんて!
今回は結果問題なかったですけど、こんな事が続くと我々が疑われるんですよ!!」
甲高い声で俺を非難してくるのは、さっきのスタッフの上司だ。
30過ぎのキャリアウーマンって感じだな。
"現実認識"ってのは文字通り現実認識をオフにする事だ。
これじゃ何かわからないだろうから、一から説明しよう。
VR技術の発展で、俺が睡眠をとっていたのは第二期とよばれるVRMMOを前提とした技術だ。
しかし、今では一日を4000倍にまで倍速設定できることによって、第三期と言える使い方が出てきた。
それが"もう一つの人生"というサービスだ。
今一番人気があるのは、記憶をもって転生/ハーレム/チートというのが上位を占めているな。
本当に金のある奴等や、権力のあるやつらはちょっと違うがな。
やつらは、悲劇的な人生というのを選ぶ傾向がある。
どうしようもない悲観や絶望、飢餓や貧困、そういった事を"現実を認識しつつ味わいたい"といったものだ。
いってみれば、どMの癖に、臆病なんだな。
こうして一日の間に10年という人生を提供しているのが、わが社のサービスだ。
この技術は俺の本体が関係している事から、ブラックボックスになっていて、独占商売をしている。
だから、さっきの成金程度のおっさんが文句を言っても、それ以上の地位を持った人間が利用しているんだから何も問題ないと思うんだが、何故怒られるんだろうか?
「まあ、俺も暇なんだよ。
たまには、あんな娯楽もあっていいんじゃねーか?
第一、案外つまんなかったぞ、最後は姉が権力者に売られて終わりだしな。」
「内容はいいんです。
それに、顧客の物語を私達に教えない!
それも規約に触れますから!!」
頭の隅で規約を読み直すと確かにあるが、他人にみだりに他の人の物語を語らないというのがあるな。
しかし、俺って生きてないんだから、守る必要ないよな?
「いいですか、この会社が維持されなければ、あなたは永遠にその暇な状態になるんですよ。
判っているんですか?
他に移るにしても、また一から私達相手にやったようなことを行うつもりなんですか?」
「ああ、確かにな。
そんな面倒なのは流石にごめんだ。
あんたも、暫くはまともに話を聞いてくれなかったしな。
開発連中の悪戯とでもおもっていたんだろ?」
「答える義務はありません!
"現実認識"のオン/オフはその人の今後の人生観に影響を与えかねません。
基本、オン、再三の強い要望があったときにのみオフでやるようにシートを変更しますので、今後同じようなことをしたら直ぐに判りますから。
今回の用事はそれだけです!」
キャリアウーマンな女性は掻き消える。
仮想会議室というだけあって、相手もVRの世界のアヴァターだ。
本人と同じ形をとるように指導されていることもあって、同じ顔と同じ身長。
ただ、肌質はVRのが瑞々しい設定だな。
現実は、がっさがさで、目の下に隈ができていて、VRの姿でお見合いしたら、詐欺罪で訴えられるだろうよ。
しっかし、わざわざ違う人生を体験したいなんてな。
何が流行るか分からん世の中だね。
さてと、次はどいつをいじろうかねっと。
俺は、ひとっつも了承したなんて言ってないしな。
相手の怠慢ってやつだ。
展開は、後二話分くらいしか考えていません。
ただ、ノリで書けるようなら、書きます。
ではでは、良いお年を~




