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畑と木霊

「それでは、早速始めましょう」


 ルナが鍬(くわ)を片手に気合満タンに立ちながら言う。

 ファミリアでは食費の節約の為に、庭の畑で野菜を育ててる。

 今日はその畑で作業をする事になった。


「ルナちゃんのお陰で野菜食べる子が増えたから助かるわ。今日は頼りにしてもらうわね」

「はい。任せて下さい」


 施設長さんはルナを凄い頼りにしてる。

 ルナの実家は農家みたいで、野菜の美味しい食べ方や調理方法を知っているお陰で、野菜をあんまり食べない子も食べるようになってきた。


「この間明里さんが泥棒を捕まえたお陰でお金を貰いましたから、本日はビニールハウスを使おうと思います」

「私が捕まえた訳じゃないんだけど……。でもビニールハウスがあるのは便利そうね」


 ビニールハウスは値段が結構するからこれまで買えなくて、強い日差しや防虫対策が出来なくて上手く育たない事がよくあったけど、これでもう大丈夫かも。


「それではまずは、ビニールハウスを組み立てましょう!」

『おぉー』


 早速ビニールハウスの組み立てに取り掛かった。

 鉄パイプを持って組み立てていくけど、やっぱり少し重い。


「その帽子被っても、腕力とか上がらないの?」

「まぁ……力が上がってる感じはしないですね」


 聞いてきたのは、私より学年が一つ上の、中島陽子先輩。

 ちなみにその陽子先輩の隣には、先輩の双子の弟の、中島陽介先輩が作業している。


「賢者様の帽子を被って得られるのは、膨大な魔力と多彩な魔法ですので、明里さん自身の力が上がったりしませんよ」

「色んな魔法が使えるようになっただけだね。頭が良くなったって気もしないし」


 この帽子を被ると、魔力と魔法の種類が増えるだけで、他のパラメーターは伸びないって感じかな。


「でも使える魔法が増えるのは凄いんじゃない? 前に張ってくれた結界のお陰か、虫を見かけなくなったもん」

「……姉ちゃん。喋ってばっかいないで、ちゃんと組み立ててよ」

「分かってるわよ!」


 ちょっと弱気な陽介先輩に、強気な陽子先輩。性格は正反対だけど、決して仲は悪くない。

 ただよく、陽子先輩が陽介先輩に「しっかりしなさい!」って言ってるけど。

 その後鉄パイプを組み立て終えて、最後にビニールを被せて完成した。


「完成~……暑い」

「今日は暑いですからね」

「皆ー。休憩にしましょう」


 麦茶を持ってきた施設長さんから麦茶を受け取った私は、庭に一本だけ生えてる大きな木の下の木陰に座った。


「あ~。ここちょっと涼しい」


 木陰で涼みながら麦茶を飲んで上を見上げた。

 風で揺れる葉。葉の間から伸びる木漏れ日。そして、木の上で揺れる足。


(……足?)


 立ち上がった私は木から少し離れて、足が見えた所に目を向けて見ると、和装に身を包んだ、小学校低学年ぐらいの茶髪の女の子が、足を揺らしながら木の上に座っていた。


「えっとー君。そんな所にいたら危ないよ」

「……え? 私が見えるんですか?」

「え?」


 見えるんですか……って。

 え、何? この子まさか、幽霊か何か!?


「どうしたの明里? 独り言?」

「え? いや、木の上にいる女の子に」

「女の子? ……誰もいないけど?」


 空良達は木の上に目を向けるけど、本当に見えてないのか何度も見渡してる。


「え? 私以外見えてないの?」

「ちょっと待ってて下さい。見えるようにしますから」


 そう言った女の子は木の上から飛び降りると、一瞬体が光った。


「えっ!? 急に女の子が!?」


 空良達が驚いたから、今度はちゃんと見えるみたい。


「初めまして。私、木霊です」


 木霊ってこんな人間に近い姿してるんだ。

 昔テレビで見た様な、首をカラカラ鳴らす小さくて白い、シンプルな顔じゃないんだね。

 私はこっちの方が良いな。


「木霊って……確か、木の精霊だっけ?」

「はい。一本一本の木々に宿る精霊です。私の場合は、この木に宿っています」


 木霊はさっきまで上にいた木に目を向けて言うと、私達もその木に目を向ける。

 だからこの木の上にいたんだね。


「宿ってるって事は、ずっとここでファミリアを見てたの?」

「はい。正確には、この木が植えられてから一年ぐらい経った頃に私が生まれました」


 この木は確か、ファミリアが建てられた時に植えられたって聞いたから、大体20年ぐらいかな。

 そんな長い間ファミリアを見てたんだ、この子。


「知らなかったわ。こんな可愛い子がずっと居たなんて」

「普段は見えない様にしていますし、大抵は木の上にいましたから。天気の悪い日は中に入ってますけど」


 世界が融合してから、精霊や妖怪が目撃されるようになったって聞いたことがある。

 異世界では精霊が普通に見える世界だったから、融合した影響で見えるようになったかも知れないって聞いたことがある。


「あれ? 普段は見えない様にしてるって言ってたけど、何で私見えたんだろう?」

「精霊は姿を消しても、能力が高い人には見えやすいと聞きますから、きっと明里さんが賢者様の帽子を被っているからだと思います」

「あ、この帽子被ってる間は能力高い人設定なんだ、私」


 じゃあ被って無かったら、木霊は見えなかったのかな。

 聞いてみると、見える様には出来るけど、どうやって話しかければ良いか分からなかったみたい。

 その後、木霊に見守られながら畑で野菜の種を蒔いて植えて、ルナが選んだ肥料を撒いた。

 あとは育つのを待つだけだね。

 この日から、木霊は姿を見せてファミリアで子供達と遊ぶようになった。

 また賑やかになったなぁ。

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