結界作成
「はぁ~。やっぱり面倒だなぁ、この帽子」
学校からの帰り道、頭に被った賢者の帽子に手を乗せながら、この帽子に対しての不満がこぼれる。
特に授業中が大変。教室での授業なら良いんだけど、移動教室と体育の時がなぁ~。
移動教室の時はバレない様に机の下に隠せば一応大丈夫なんだけど、体育の時なんて体操着の中に隠してたからねぇ。
「随分お疲れだねぇ、明里」
「だって、この帽子私の傍を離れないんだもん。あ~。あの時軽い気持ちで被るんじゃなかった」
「まぁ後悔しても遅いし。運命共同体だと思って諦めなよ」
「何か嫌だ、その言い方」
でもやっぱり諦めるしか無いのかな? 本当に死ぬまでこの帽子と一緒なのかな?
……なんか肩が重くなった気がしてきた。
少し沈んだ気持ちでファミリアに帰って来て玄関に入ると、リビングの方で物音が聞こえてきた。
「何?」
気になった私と空良はリビングに入ると、箒を持って息を切らしてルナが目に入った。
「ハァ……ハァ……あ。明里さん、空良さん。お帰りなさい」
「う、うん。ただいま……。何か騒がしかったけど、何か遭ったの?」
「はい……。実は先程、黒い害虫が現れまして。でも安心して下さい。退治しましたので」
それは大変だったね。
先生が丸めたティッシュをゴミ箱に捨ててるから、退治したのは本当みたいだね。
冬が終わって暖かくなってきたから、そりゃあ出るよね。
「お騒がせしました。急いで晩御飯の支度をしますね」
ルナは箒を仕舞って駆け足でキッチンに向かうと、私と空良も自分の部屋に戻った。
制服から着替えて夕飯の時間になるのを待って、時間になるとリビングへ向かい、皆と夕飯を共にした。
「そろそろ虫対策をした方が良いわね。最近見かける様になったから」
施設長さんは悩ましそうに言う。
確かにこの建物、よく虫が出るんだよね。先生がよく殺虫剤を買い足してるの見るし。
夜、寝てる時に蚊の羽音がして寝れない時もあったなぁ。
「大丈夫です施設長さん」
ルナが自信満々の笑みで口を開いたけど、何か良い案でもあるのかな?
「確かに地球には虫対策に便利な物が沢山あります。ですが、当然お金も掛かります」
「そうよねぇ」
「なので……!」
バッとルナが私に顔を向けてきて、少しビックリした。
「明里さん。結界を作りましょう!」
「……え?」
――――――――――――――――――――
夕飯を食べ終えて食器を片づけると、さっきの事をルナに聞いた。
「それでルナ。結界って?」
「はい。賢者様の帽子の力を使って、虫が入れない様に結界を作るんです」
「う~ん。それで本当に対策出来るんなら、確かに金掛からないけど……私結界なんて作った事無いわよ? どうやって作るの?」
結界は魔法の一種って聞いたけど、魔法に関してド素人だから、全然分かんない。
「結界を張りたい場所の中心に魔方陣を描くんです。大体、張りたい範囲の十分の一ぐらいの大きさの魔方陣を描くんです」
張りたい範囲の十分の一……。
じゃあ、10メートルぐらいの場所に張るには、一メートルぐらいの魔方陣を描けば良いって事かな?
「でも魔方陣なんて描いたこと無いわよ。どうやって描くの?」
「円の中に紋様や魔法語を書くんです。でも綺麗に描かないと、効果が弱まってしまったりするので、広い範囲に結界を張る場合はとっても大変なんです」
……難しそう。
私絶対描けないよそんなの。
ファミリアの敷地内に結界を張るってなると、結構大きい魔方陣描かないと駄目じゃない?
「ですが……賢者様の帽子があれば、魔力の線で囲った場所が、簡単に結界になるんです!」
「なんかいきなり簡単そうになった!?」
「という訳で、早速結界を張りましょう!」
「え、今から!?」
半ば強引にルナに連れられて外に出た私は、早速ルナに言われた通りに結界を張ってみる事にした。
私がやる事はただ一つ。
魔力を浴びせた木の枝で、ファミリアの敷地を囲うように線を引く。
「……コレ、本当に線引けてるの?」
「引けてるんじゃない? 引いた跡が薄っすら光ってるもん」
言われてみればそうかも?
日が沈んで暗くなってるから分かり易いかも。
ルナと興味本位でついてきた空良と一緒に線を引いて、10分以上経って線を囲う事が出来た。他の建物と隣接して無いから引きやすかった。
囲い終えると、線の光が増してさっきより見えやすくなった。
「それで、ここからどうするの?」
「線に手をかざして、どんな結界にしたいか念じながら魔力を送って下さい」
「どんな結界かー」
虫が入らない結界? でもそれじゃあ、また小学生の子が昆虫飼いたいって言った時に入れられなくなるね。
虫全部じゃ無くて、ほんの一部だけ入れなくすれば良いかな?
となると、入れたくないのは……蜂に虻、蚊。それと、G。
あと他にも思いつく害虫とかを思い浮かべて、それらが入れなくなるイメージをしながら、さっき引いた線に魔力を送ると、線が強く光って見えなくなった。
「……これで良いの?」
「はい、大丈夫です。これで結界が発動しました」
実際に効果が目に見えないと分かんないなぁ。
……まぁ、ルナが大丈夫って言ってるから、大丈夫かな。
とりあえず、結界は張り終えたって事で、建物の中に入ろうとすると、サイレンを鳴らしたパトカーが、敷地の前を通り過ぎた。
「事件かな?」
「そう言えば、この辺最近泥棒が出るって聞いたね」
「私も、施設長さん達から聞きました。……明里さん。念の為、結界に泥棒対策の効果を乗せちゃいましょう」
「乗せる? どうやって?」
「さっきと同じように、結界の線に手をかざしてイメージするんです」
「ん~。じゃあ、やってみる」
さっきみたいに手をかざして、頭に結界の効果を思い浮かべる。
そうだなぁー……盗みを働こうとする人が入ったら、体が動かなくなるで良いかな。
そうイメージして魔力を流すと、さっきみたいに線が光って、またすぐ消えた。
「これでもう大丈夫です。もう虫や泥棒に悩まされる事はありません」
「と言ってもなー。実際に結界の効果を見た訳じゃ無いから、本当に大丈夫なのか実感が無いよ。泥棒だってすぐ来るわけじゃないし」
……なんてそう思ってた次の日の朝。
ファミリアの庭に、一人の男の人が痙攣して倒れているのが目撃された。
しかもその男の人は、まさに最近この辺りで盗みを働く泥棒だった。
後日、泥棒を捕まえたという事で、ファミリアに感謝状と謝礼金が送られた。




