異世界の賢者
先生が出したお茶を、エルフの女の子は口にする。
「はぁ~。すみませんでした突然。自己紹介が遅れました。私の名前はルナと言います」
「はぁ……。それでルナさん。さっきこの帽子を『賢者様の帽子』って言いましたよね?」
今私が被ってるこの帽子を指差しながら尋ねたら、ルナさんは「そうです」と言って頷いた。
「間違いありません。その帽子は遥か昔、世界各地で活躍した賢者様が被っていた帽子です」
ちなみに今ルナさんが言った世界は、地球と融合した異世界の事を指す。
「その、賢者様って言うのは……」
「はい……これを見て下さい」
ルナさんは背負っていたリュックから一冊の古そうな本を取り出して捲り、あるページを見せた。
そこには、手に杖を持っている、ローブを着た女性の絵が描かれていた。
そしてその女性の頭には、私が被ってるあの帽子が描かれていた。
「これ、明里が被ってる帽子と似てるね」
「似てるどころか同じじゃない?」
「はい! 間違いなくそれは、この絵に描かれている賢者様のと同じ帽子です!」
ルナさんが凄い興奮気味で話してくる。何このテンション!?
「賢者様が被っていたその帽子は神から授けられたものと言われておりまして、そのお陰で賢者様は多種多様な魔法を使えたと言われています。その力で、世界中の人々を繋げたと言われています」
「あ。だから昨日、明里凄そうな魔法使えたんだよ」
「え、じゃあこの帽子、本物?」
確かに本物だったら昨日のアレは納得出来るけど……でも、神から授けられたって、なんか胡散臭い。
「でも、何でそんな凄い人の帽子が物置に?」
先生が放った疑問に、私も同じ気持ちになった。
そんな大層な帽子が、どうしてファミリアの物置にあったんだろう?
「賢者様は寿命で亡くなる寸前まで、辺境の村で余生を過ごしたと言われています。もしかしたらこの建物が、賢者様が住まわれていた場所かもしれません」
「ここ元々空き家だったから、そうかも知れないわねぇ」
ルナさんの推測に施設長が納得した。
この間先生もそんな事言ってたし、じゃあやっぱりこの帽子本物なのかな?
「それで、ルナさんはどうしてこの帽子を探してたんですか?」
「はい! これを見て下さい!」
ルナさんはさっきの賢者の絵の中で、賢者の後ろに立っているエルフの女性の絵を指差した。
「こちら、私の祖母なんです。母から賢者様の話を聞き興味を持った私は、賢者様の帽子を探す旅に出たんです」
それで旅に出たルナさんは、二年後に賢者が住んでいたと思われる村を突き止めてもう少し……っていう所で、運悪くあの世界融合が起きてしまったらしい。
「世界が大きく変わってまともに動く事が出来ず四十年。やっと世界が落ち着いてきて旅を再開したものの、形が大きく変わり過ぎて見つけるのがとっても大変でした。そして十年経って……ようやくここに辿り着きました」
これまでの苦悩を思い出したのか、ルナさんは泣きながら話していた。
……大変だったんだね。
「それでルナさん。賢者の帽子を見つけるって目的は達成しましたけど、これからどうするんですか?」
「はい……。あの、ここの責任者って誰ですか?」
「えっとー……」
私達は一斉に施設長さんに目を向けると、ルナさんは椅子から立って施設長さんの前に立ち……。
「お願いします! 行く当てが無いので、ここで働かせて下さい!」
「ええっ!?」
急な土下座に施設長さんは驚いた。
――――――――――――――――――――
あの後、施設長さんから許可を貰ったルナさんは、ファミリアで働くことになった。
施設長さんも、若い職員が欲しかったみたいだから許可してくれたみたい。
「ところでルナさん」
「ルナで良いですよ。人間の年齢で換算すれば、明里さんと同じぐらいですので」
「じゃあ、ルナ。今更だけど本当に良かったの? ここで働きたいって」
「実は……世界融合のせいで、故郷の村が何処にあるのか分からないんです。場所が分からないので、手紙などを出す事も出来ませんし」
そっか。住所が分からないんじゃ手紙を出せないもんね。
融合した異世界には携帯とかが無かったみたいだから、連絡手段が結構限られてるね。
じゃあルナの家族も、今ルナが何処にいるとか分からないんだね。
「寂しくないの? 家族に会えないかも知れないのに」
「そうですね……寂しくないと言えば嘘になりますけど、元々独り立ちする気で家を出たので大丈夫です」
意外とたくましい。
働かせてって言ったのも、そういう事なのかな?
「それに、長命種なら何年も音信不通でもあまり気にしませんから」
「あ……そう」
確かにエルフって長生きって聞くもんね。
人間だと私と同じぐらいって言ってたけど、百年以上生きてるみたいだし。
「そう言えば、ルナってこの帽子詳しいよね?」
「はい。色々調べましたから」
「この帽子、私が行く所に現れるのはどうして?」
最初に見つけた物置に戻しても、気付いたら私の元に現れるから、最初すっごい怖かった。
「恐らく、明里さんを装着者と認めたんだと思います。ここ見て下さい」
ルナは帽子に付いている結晶を指差した。
この結晶、私が被ってる時だけ光るんだよね。
「これは『ゴッドクリスタル』と呼ばれてるとっっっっても貴重なクリスタルです」
「ゴッド……神か。凄い名前だね。如何にも貴重そう」
「はい。なんせ数千年に一度だけ採れる……か採れないか分からない程貴重ですから」
そこは数千年に一度だけ採れるじゃ無いの?
採れないか分からないなんて、貴重過ぎない?
「かつての装着者である賢者様が被っている時だけ、ゴッドクリスタルが光って、片時も離れない。……と、祖母から聞きました」
「明里が最初に被った時に強く光ったから、その時に装着者になったんじゃない?」
「え~? でも私、そんな大層な人になる気は無いよ?」
「明里さんの自由で良いと思いますよ? まだ明里さんは賢者様の帽子を手に入れたばかりですから」
そうさせてもらおっかな。
まだ学生の私には、世界各地で活躍なんて無理だし。
それに私は、のんびりと生きていきたいし。




