悪魔姉妹の招待
期末試験が無事に終わって……遂に夏休みに入った。
補習になるかもと危ぶまれていたラーニアだったけど、補修にならずに済んだ。
……回答欄をずらして書いて、試験終了五分前に慌てて書き直したって聞いた時は危なかったけど。
夏休みに入って三日経つけど、まだこれと言ったイベントとかは何も無い。ファミリアでやる行事は八月に入ってからだからね。
今もリビングで皆でテレビを見ているだけだし。
テレビでは、アナウンサーの人が街角で、夏休みに何処に行くのか聞いて回っていた。
『夏休みに何処かへ行く予定とかはありますか?』
『そうですねぇ。ティモパラに行ってみようかなぁと思っています。前から興味があったので』
ティモパラ。魔王が治める魔族の国。
魔王とか魔族とかって聞くと、漫画やゲームで出てくる悪者の代表格だけど、融合した世界にいる魔族ってとっても友好的なんだよね。たまに町で見かけるし。
そう言えば、国の王様ってテレビに出る事はあるけど、魔王って見た事無い気がする。
「ねぇルナ。魔王ってどんな人なの?」
「魔王ですか? 私もよく知りません。見た事無いですし」
魔王は一国の王だから、そりゃあそうか。
「魔族は長命ですので、賢者様が生きていた頃から変わってないと聞きます。確か女性ですね。私が知ってるのはそれぐらいです」
魔王は女性。情報少なっ。
「あと、賢者様のお陰で他の種族と交流が深まったからと、魔王様は賢者様に感謝していた、と聞いたことがあります」
「ん? 魔族って、他の種族とあんま交流無かったの?」
「はい。場所の問題で」
「場所?」
「今って、魔族の国は歩いても行けるじゃないですか」
魔族の国は、世界融合の後にイギリスの隣に出てたから、確かに歩いても行ける。
「融合前っの魔族の国は、とても深い樹海や広い荒地に囲まれてて、馬車でも行けなかったんです」
「そんな場所にあったの?」
「ですが、賢者様のお陰で交流が深まってから、翼竜車や竜船が出来て、交通の便がかなり良くなったんです」
翼竜車と竜船は、翼竜やドラゴンが持ち上げて運ぶ車や船の事。
空を飛んで移動するからとても便利。その分金は掛かるけど。
「魔族の方は情報通と聞きますから、もしかしたら明里さんが賢者様の帽子を受け継いだこと知ってるかもしれませんよ?」
「う~ん。……でも私がこの帽子受け継いだとしてももう関係なくない? もう何千年も前の話でしょ?」
私は偶然この帽子を被ってしまっただけの只の小娘。
そんなのを魔王は興味待たないって。
――――――――――――――――――――
その日の午後、私は空良、ルナ、ラーニアの四人でショッピングモールへ買い物に行った。
夏休みにファミリアの皆でプールに行く行事があるけど、ルナとラーニアが水着を持ってないからそれを買いに。
「良いのが買えて良かったですね」
「ああ。しかし、プールに行くのはまだ先だろ? こんなに早く買って良かったのか?」
「何事も早めに越した事は無いよ」
「そうそう。ラーニアも夏休みの宿題は早めにね。じゃないと最終日に終わって無くて、泣きながら夜更かしする羽目になるから」
「うっ……気を付ける」
ラーニアならありえそう。
まぁ私も無いわけじゃないし、せめて八月の中頃までには終わらせたいな。
あと行事は夏祭りがあるけど、別に浴衣は必須って訳じゃないから良いかな。
「見つけたぜ!」
そんな声と共に地面を強く踏む音が前から聞こえて目を向けたら、そこには水色に近い青い髪のツインテールと瞳。白いノースリーブの服にショートパンツを穿いた背の高い女の人が立っていた。
でもその女の人が人間じゃ無い事はすぐに分かった。
なんせ頭に二本の角、腰からは翼、そして尻尾が生えてるから。しかもどれもが悪魔っぽさを感じる。
「あの人、魔族ですよ」
「うん。見れば何となく分かる」
まさか魔族の話をした日に魔族に会うなんて。どんな偶然?
すると魔族の女の人は、私達を指差した。
というか、気のせいか指先が私を向いてる気がする。
「その帽子……お前だな? 賢者の帽子を受け継いだって女は」
「えっ!?」
やっぱ目的私!? しかも理由がこの帽子っぽい!?
「い、一応そうですけど……何の用でしょうか?」
「なぁに。その帽子が本物かどうか……見てやろうと思ってな!!」
魔族の女の人は右手に青い電気を纏わせてニヤッと笑ったら、地面を蹴って私達に突っ込んできた。何このバトル展開!?
空良達も焦ってるし、このまま何もしないでいたら絶対怪我する。
とにかく身を守ろうと、前にやったように魔法の壁を張って防ごうと両手を前に伸ばした。
「ふぎゃっ!!」
そしたら、空から別の魔族の女の人がやって来て、襲い掛かってきた女の人の頭に手刀を叩き込んだ。
手刀を叩き込まれた青い髪の女の人は、頭を押さえて蹲った。
「「「「え?」」」」
「ったく。何してるのよアンタは」
「げっ! 姉貴!」
空からやって来た、膝裏まで伸びた赤い髪と瞳に、胸元が開いた黒いセーターの服にダメージジーンズを穿いた魔族の女の人が、涙目で目を向ける青い髪の女の人を見下ろす。
姉貴って事は、この二人姉妹なのかな?
「えっと、あの……」
「あーごめんね。妹が馬鹿な真似して。用があるのは本当だけど、別に戦いに来たわけじゃないわよ」
「そ、そうですか」
ホッとして肩の力を抜いたら、そのせいか足元がフラついて後ろに倒れそうになると、後頭部に柔らかい物が当たって、肩に手を付けられて押さえられた。
「大丈夫ですか?」
後ろ……と言うより、上の方から声が聞こえて顔を上げたら、腰まで伸びた紫の髪と瞳に、胸元と肩が開いたベージュの服に、黒いミニスカートを穿いた魔族の女の人がいた。
って言うか私の顔がその人に胸の間にあるんだけど。
その女の人と目が合ったら、その人は一瞬目を見開いて微笑んだ。
(何今の?)
「ふふ。ごめんなさいね、妹が」
「あ……はい」
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「ど、どうぞ」
「ありがとうございます」
施設長さんが緊張しながらお茶を出すと、紫髪の魔族の人は笑顔でお礼を言った。
三人の魔族の女性たちは、本当に私に用があるとの事なので、ファミリアまで一緒に来てもらった。
この三人は姉妹で、紫髪の人が長女のリリスさん。赤い髪の人が次女のアスタロトさん。そして最初に会った青い髪の人が三女のグシオンさん。
今リビングでその三人がテーブルを挟んで私の前に座っていて、他の皆には離れた所で待ってもらっている。
「それで……私に何の用でしょうか?」
「はい。実は最近、賢者の帽子を受け継いだ女の子がこのエイニーに現れたと、魔王様が耳にしたのです」
魔王……また今朝話題に出た名前が出てきちゃった。
「はぁ……そ、それで」
「はい。ですので……」
リリスさんは笑顔でパンっと手を合わせて口を開いた。
「是非、魔王様に会っていただけませんか?」
「…………へ?」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?




