拾いスライム
「うう……やっと早く帰れる」
「良かったね、ラーニア」
学校からの帰り道、ラーニアは嬉し泣きを流していた。
この間行われた中間試験で、ラーニアは補習を受けていて、ここ数日帰るのが遅くなっていたからね。
ちなみに赤点を取ったからじゃなくて、名前を書き忘れて0点になったから。
「でも次は期末があるからね。気を付けてよ」
「ああ。期末で補習になったら、折角の夏休みが潰れてしまう。気を付けなければ」
「夏休みはファミリアでも行事があるからね。参加出来なかったら悲しいよ」
ファミリアでは夏休みに、皆でプールに行ったり夏祭りに行ったりする。
そういう行事をよくやるから、毎年楽しみなんだよね。
まだ先の夏休みの行事にワクワクしながらファミリアが見える所まで来たら、敷地の入り口の前で、ランドセルを背負った一人の女の子が門から中を覗く様に立っていた。
「真里ちゃん」
「わっ! あ、明里お姉ちゃん達!?」
「どうしたの? 入らないの?」
「えっとー……」
二つ結びした女の子、桑田真里ちゃんは、ファミリアに住む小学三年生の女の子だ。
小学生はもう帰ってるはずだけど、どうしたんだろう?
それに、さっきからこの子、顔だけこっちに向けて、何かを隠してる様に抱えてる。
「何だ、それは?」
「うぅぅ……」
ラーニアが覗き込むように上から顔を伸ばすと、真里ちゃんは抱えてるものに目を向けて、私達に見せた。
それは、プルプルした丸い水色の物体だった。
「何これ?」
何なのか分からなくて、私と空良、ラーニアはその物体をジッと見つめていると、その物体は横に回って、二つの黒い豆みたいなのが浮かび上がった。
「これって……目?」
「これ、スライムじゃないか」
スライムって言うと、私でも知ってるゲームの最序盤に出てくる、一番弱い魔物だよね。
湿った場所を好むって聞いたことあるけど、何でこんな街中に?
「近くに川があるから、それで流されて迷ったのかな?」
「あー。そうかも知れないね」
「そこの電柱の陰にいたの。寂しそうに見えたから、どうしようかなぁって」
中に連れていこうか迷ってた所に、私達と会っちゃったんだね。
一応ファミリアではペット禁止じゃ無いけど、施設長さん達に気を遣っちゃったりして、これまで一度も動物を飼った事が無いんだよね。
昔は一度だけ、犬を飼ってた事があったって聞いたことがある。
その名残なのか、ケージが物置部屋にあった。
「皆さん。さっきから何やってるんですか?」
上から呼び声が聞こえて上を向いたら、塀の上から木霊が顔を覗かせてた。
私は木霊にこのスライムの事を話した。
「大丈夫だと思いますよ。前に職員の皆さん、子供達に気を遣わせちゃってるんじゃないかって言ってましたから」
「本当?」
「はい。ちょっとは我儘になっても良いと思いますよ」
「……うん!」
意を決した真里ちゃんは、スライムを抱えて敷地の中に入っていく。
木霊って見た目は子供だけど、長く生きてるだけあって大人だね。
――――――――――――――――――――
「……分かりました。そのスライムを飼うことを許します」
施設長さんからスライムを飼う許可を貰って、真里ちゃんは嬉しそうに笑ってスライムをギュッと抱き寄せる。
「けどお世話はどうやってするの? スライムの飼い方なんて分かるの?」
「あ……」
確かに……。
スライムを飼うのは良いとして、どうやってお世話するのか分からない。
「ルナ、何か知らない?」
「分かりませんね。あまり魔物は詳しく無くて」
結構物知りなルナでも分からないんじゃあ大変だね。
何を食べるのか分からないし、スライムにやってはいけない事も分からないし。
「でも……頑張って育ててみる、この子」
「生き物を育てると決めたのなら、最後まで責任をもって育てるのよ」
「はい!」
施設長さんの言葉に真里ちゃんは元気よく返事をした。
そんな真里ちゃんを見ているスライムの目が、なんだか輝いているように見えた。
――――――――――――――――――――
「皆ぁぁぁ! これ見てぇ!!」
あれから数日経った頃。真里ちゃんが慌てた様子でリビングに入ってきた。
「どうかしたの? そんなに慌てて」
「す、スーちゃんが!」
スーちゃんは、真里ちゃんが付けたスライムの名前。スライムだからスーちゃん、分かり易い。
そんなスーちゃんを抱えた真里ちゃんが前に突き出して見せると、何とスーちゃんに手が生えていた。
「え? 何これ?」
「分かんない。気付いたらスーちゃんに手が生えたの」
そんな急に生えるもんなの?
スライムって丸いイメージがあるから、手があると違和感がある。スライムだからかな? 指がフニャフニャしてる。
でもスーちゃんに生えてるのは間違いなく手だね。腕が無くて、手が直接体……いや頭? から生えてる。
手を振るスーちゃんを、皆が興味本位で見る。
それから数日後。期末試験に向けてリビングで勉強をしていると、また真里ちゃんが慌てた様子で入ってきた。
「皆、大変!!」
「今度はどうしたの?」
真里ちゃんがスーちゃんを前に出して見せたら、今度は何と足が生えていた。人間のとは違う、丸い足が。
太ももや脛が無くて、完全に足だけが頭から生えてて、一頭身みたいになってる。何か、有名な丸いピンクのキャラクターみたい。
「また気付いたら足が生えてたの?」
「うん」
一体どうなってるんだろう?
すると、ルナが何か思い出した様に「あっ!」と声を上げた。
「そう言えば、魔族の地に人型に進化したスライムが住んでるって聞いたことがあります」
「人型のスライム? じゃあ、スーちゃんも人型になろうとしてるの?」
「分かりませんけど、これを見る限りそうだと思います」
「凄いスーちゃん! 人になろうとしてるの!?」
目を輝かせる真里ちゃんに対して、スーちゃんは頭を傾げている。
でも確かに、人型になったら凄いね。




