魔族の国へ
『……』
初めて間近で見る竜船に、私達は言葉を失った。
魔族の国への招待を受けた翌日、電車を乗り継いで空港に着いた私達を待っていたのは、飛行機では無くまさかの竜船だった。
翼竜車、もとい翼竜タクシーや竜船は、空を飛んで移動出来る為、普通のタクシーや飛行機と比べてお金が掛かる。
特に竜船なんて、国の偉い人やお金持ちしか利用しない程。本当に乗って良いのかな?
「さぁ皆さん。どうぞ乗って下さい」
「あ……はい」
リリスさんに言われるがまま、私達は緊張しながら竜船に乗った。
同行者はいても良いと言われたので、私だけじゃなくて、空良とルナ、ラーニアも一緒に行くことになった。
空良は夏休みの宿題に、夏休みの思い出の写真を一枚があるから。ルナとラーニアは賢者の仲間の子孫としてという理由でついてきた。
全員が乗ると、船の横にいる灰色のドラゴンが、私達が乗っているの船の船体に付いている持ち手を握ると飛び上がって、魔族の国へ向かって飛んだ。
飛び上がった時は少し揺れたけど、それ以降は全く揺れないし、中もフカフカなソファがあったりで意外と快適だった。
「あのぉ……本当に良いんでしょうか?」
「何が出すか?」
「だって、私は偶然この帽子を被っちゃっただけのただの一般人ですよ? それが一国の王である魔王様に会っちゃって良いんですか?」
いくら賢者が魔族の友好を広めてくれた恩人でも、私じゃ無いから全然関係ないよね?
「大丈夫ですよ。新たに賢者の帽子を受け継いだ人と言うだけで、魔王様はとても興味をお持ちですから」
「でも……」
「魔王様はそんな細けぇ事気にしねぇから平気だって」
「そうよ。そんな心配することは無いわ」
この姉妹は多分よく会うからそんな事言えるんだと思うけど、私は初めて会うんだよ。しかも魔族の王様。緊張しない方が無理だって。
「まあ時間掛かりますから、寛いでいて下さい。食べ物や飲み物もありますから、欲しかったら言ってくださいね」
そう言われても、食欲より緊張が勝ってあまり喉を通らない。
空良とラーニアは気軽に食べ物を頼むけど、私とルナはジュースだけ頼んだ。
そして数時間後、前方の窓ガラスの遠目に、魔族の国の首都が見えた。流石竜船は速くて、飛行機よりも半分近くの時間で着いちゃった。
「皆さん、そろそろ降りる準備をして下さい。この船は城に下りますので」
「え、城?」
首都の中央に建つ巨大な城。間違いなくアレが魔王様のいる城だね。
お城の幾つもある塔の一つに、竜船が何隻か置いてある塔があって、私達が乗る竜船はその塔の空いてる場所に下りた。
「さぁ皆さん、着きましたよ」
「うぅ……とうとう着いちゃった」
あまりの緊張でお腹が痛くなりそうになりながら、恐る恐る竜船を降りた。
流石元違う世界の場所。やっぱり何と言うか、空気が違うって感じがする。
「おぉ、無事連れて来られたようだな」
声が聞こえた方を向いたら、そこには長い白髪に赤紫の瞳。スリットのある白いドレスを着た魔族の女の人がいた。
「はい。無事に連れて来られました」
「うむ、よくやった。お初目にかかる、私はルスト。ティモパラで人事の代表をしておる。ちなみにそこにいる三人の母だ」
「え!? あ、はぁ……」
この人、リリスさん達のお母さんなんだ。若くない? 姉妹って言われても違和感無いよ。
「では客人達よ。客室に案内しよう、こっちだ」
ルストさんに続いてリリスさん達もお城に入っていって、私達も緊張しながら城に入った。
流石にお城の中は広いし、内装も豪華。
廊下には高級そうなカーペットが敷かれていて、高い天井には立派なシャンデリアがぶら下がっている。
どうしよう、増々緊張してきた。
「着いたぞ。ここが客室だ」
案内された客室はの中を覗くと、結構広くて、どれも高そうな家具ばかり置かれていた。
何だろう、この超優遇対応。
「では私達は魔王様を呼んでくる。それまでゆっくりしていてくれ」
ルストさん達が魔王様を呼びに行って、客室には私達だけが残った。
「なんか……ゆっくり出来る気しないんだけど」
「明里がその帽子被っただけで、凄いVIP対応だね」
「魔族の方々にとっても、それほど賢者様の存在は大きいんですよ」
「でも私、賢者じゃ無いし……」
とりあえずソファに座って魔王様を待ってみる事にした。
やっぱり皆、お城の中だから緊張してるのかな? 一言も喋らなくなっちゃった。
「………………宿題でもやってる?」
「そんな『しりとりする?』みたいな感じで言わないでよ」
でもこの沈黙は、流石に耐えられなくなるかも。早く来て、魔王様。
「こんにちはー!!」
「「「「うあっ!?」」」」
突然ソファの後ろから誰かが飛び出してきて、私達は驚きながら一斉に振り向いた。
「え、えっとー……こんにちは?」
「こんにちは!! 私リルって言うの!」
腰まで伸びた濃いめの綺麗な青い髪に、金色の瞳。可愛げながらも、何処か高級さを感じる白い服と黒いスカート。
頭に二本の角、腰に尻尾が生えた、中学生くらいの魔族の女の子、リルは自己紹介してきた。
「えっと……リルちゃん? ここで何してるの?」
「今日お家に誰もいないの。それでパパが仕事場のお城に連れて来てくれてね、部屋で待ってたの。でも退屈だったからお城の中探検してたら、凄いお客さんが来るって聞いたから、ここで隠れて待ってたの」
「そ、そうなんだ」
いくら連れてきたと言っても、お城の中を一人で動き回るのは危ないと思う。偉い人とかに怒られちゃうかも知れないのに。
「お姉ちゃんが凄いお客さんなんでしょ? 一緒にお話しよ!」
「え……良いのかな?」
「良いんじゃない? 話すだけなんだし」
「やったー! ほら座って座って」
リルちゃんはソファをポンポンと叩いて言うから、私達は言われるがままにソファに座ったら、リルちゃんは私の膝の上に座り出した。
「へへーん。そうだ!」
何か思いついたリルちゃんは、ヘアゴムを二つ取り出して、髪を私と同じハーフツインに結んだ。
「じゃーん。お姉ちゃんとお揃い」
「う、うん。似合ってるよ」
何かこの子、凄いマイペースと言うか、ペースに飲まれやすいと言うか。
リルちゃんのペースに戸惑っていたら、廊下が何やら騒がしい。
「おい、いたか!?」
「駄目だ、いない!」
「こっちもだ!」
「一体今回はどちらにいらっしゃるのだ?」
「魔王様ー、何処ですかー!?」
会話の内容からして……もしかして魔王様いないの?
「また魔王様いなくなっちゃたんだね」
「また?」
「うん。魔王様ってね、いきなりフラフラ~っと、急に何処かに行っちゃうんだって」
「良いのかな? 王様がそれで」
「魔王ともあろう人が、随分と自由奔放だな」
ラーニアが失礼じみた事を言うけど、まぁ私もちょっと思っちゃった。
そしたら、客室のドアが相手、魔族の男性が入ってきた。
「失礼します。お客人の皆さん、緊急事態が起きてしまった為、もうしばらくお持ちくださ……」
入ってきた男性は私……いや、リルちゃんを見て目を見開いて驚く。
「魔王様!? こちらにいらしたんですか!?」
「「「「え?」」」」
リルちゃんは私の膝の上から立ち上がると、クルっと私達の方を向いてニコッと笑う。
「改めて、魔王のリルでーす! よろしくね!」
リルちゃん……いや、魔王様は笑顔でそう言うと、私達の顔は血の気が引いたように青ざめた。




