番外編5 消失。
夜、仕事中に突然の外報……内容はごくシンプルだった。友人の母親からの一本の電話は衝撃と何かぽっかりと穴が空いたような虚しささえも感じる。場所は総合病院……会社を抜けてただひたすらに走ってそこを目指す……。家族ぐるみの素晴らしい友人……それが今、どうなったのか想像もつかない、電話は来て欲しいとだけ。いつも隣の席で社畜のように仕事をこなす友人はどこに行ったのか……それをただ知りたい。
病院に着くと友人の親父さんを発見する、顔色が悪かった……。
「ハルのお父さん……電話きて……。」
走って来たせいで声が続かない……。この苦しさは走って来たものと同時に心配も合わさっている。
「ああ……よく来た……すまんね。仕事中だっただろうに。」
「いえ……。」
声は暗く、こちらを労ってくる……この時点で何か良くないことを察した。
病院の霊安室に連れて行かれる……その道中は不思議と周りの人が背景に見える……ブラーがかかったように今は目的地以外がその効果にかかっていた。
扉を何回も潜ると少し狭く感じる灯りのついた薄暗い部屋に通される、そこには医者と友人の母親が不思議と冷たいようなステンレンスの安置台を挟んで立っていた。
安置台の上には布が被さっており小さい膨らみはクッションだと思う。
「ごめんなさい……急にこんな……。」
「そんな……。」
何か言葉をかけようと選んだが、何も浮かばない。この時点で僕は友人の死を既に理解した。
「集まりましたか?」
医者が僕たちを見て話す。
「妹さんは?」
一人足りないので咄嗟に声が出た、友人には妹が居たはずだ。
「部屋から出てこなかったよ……何度言っても聞いてくれない。」
「そうですか……。」
友人は妹とも仲が良かった、時々友人の住む安いマンションに訪れるぐらいだ。昔はよく3人で遊んでいた。
「良いですか、今から見せるものは精神的にダメージを負うかもしれません……覚悟してください。」
医者は目の前の遺体を乗せる安置台に被さった布を手に掛けた、この時僕はてっきり遺体を保存する安置棚から出てくると思った……既に遺体は少し膨らみのある布の中にあったという……。
布を空けると中にはさらにジッパーのついた袋が……これが何を意味するか答えは簡単だった。
ゆっくりと音を立ててジッパーを開く。
「残念ながら遺体は人の形を残していません、部位を表す破片のものは無く縫合する手段もありません。司法解剖の件でもそうでしたが、電車は減速せずでした。損傷はかなり酷い部類に入ります。」
医者が説明をする……ご両親を見ると母親はただ涙するし、父親は虚な目をしていた、話なんて耳に入って来てない。それらの説明を受けるにはもっと時間を空けないとダメだ……妹さんもここに連れて来なくて良かったと今なら思う。
しばらくすれば緊張こそ解けるが衝撃は脳裏に焼き付く、僕はただ変わり果てた友人の遺体を思い出さないように外へ出た……病院の中は未だに友人の両親がいる。
夜空の中少し寒いような風を感じながら感傷に浸る、この穴の埋めようを考える。
一体誰がこんな事をしたのか……誰を攻めても仕方が無い、なってしまったものは取り返しは付かない。ただ、この原因を作った奴の顔を見たいと思ったのは間違いない。話によると落ちた鞄を拾って事故ったと……鞄一つで命を落とすとか……アイツらしいというか、毎回そうだが彼は色々と世話焼きだったり責任感のある奴だ。何かと困っていたら手段選ばず行動するが……大抵は空回りする事もある……それがたまたま死という運が無いものに当たったのだと割り切る他ないだろう。
結果、穴の埋めようなんてものは存在しない、取り返しがつかないのであれば埋まる事は無いとただ実感しただけだった。
しばらくすると、友人の母親が出てきた……。
「ごめんなさい……急にあんなもの見せてしまって、ここまで酷いなんて……。」
「いえ、むしろ僕は良かったです。最後に彼の姿を見れた事に感謝してるんです。結果はどうであれ、僕にとってここへ来た事に意味はあったんですから。」
「……そう、ありがとう。」
「それで……大丈夫なんですか?色々とやる事があるでしょう?僕も手伝いますよ。」
「本当にありがとう……ハルの友人があなたで良かったわ。」
「任せてくださいよ。」
僕に出来ること……世話になった友人の家族だ……出来る事ならなんでもしてやりたい。
「じゃあ……ハルの荷物をまとめてくれる?確か、鍵ってあなたが持ってたわよね?」
「ああ……はい。荷物……全部持って来た方が良いですか?」
僕は合鍵を持っている、彼女も作る気がないと言ってきて渡されたものだ。
「多分、荷物が多いでしょ?ハルが気に入っていたものを持って来てくれれば良いから……。全ての荷物は後日、親族で持って行くわ。」
「はい、わかりました。」
名残惜しくもその場を後に……お気に入りのものか……彼はゲームが好きだったからな……ゲーム機本体を持って行っても仕方ないような気がするが、何も候補が無い以上はそれに限られるか?
電車を使い彼の住んでた場所まで揺られる……。
彼の部屋を思い出す……他に何があったか……ベッドの下の引き出しに大量の本があった事ぐらいしか思い出せない……よくあそこまで集めたと思う、ただそれを持って行くのも気が引けるしあの世で騒いで閻魔様に迷惑かけるのも良く無いよな。
とにかく、彼の部屋に行き次第決めよう……実際見た方が早い、懐かしいものが多くて手が遅くなりそうだな……その中からよく選んで持って行けば良いだろう。
何か他に無いものかと考える……そもそもゲーム自体、FOOを中心にやってた彼の事だ。他のゲームに手を出していても毎日欠かさずやっていたのはFOO……彼が作ったデータだけは大切に残したい、ゲーム機だけ残したって意味がないんだ……であれば、どう残せばいい?FOOはMMORPGだ……月額制を採用している、払えない以上アカウントにログイン出来ないし、この状態が続けばデータが消える……せっかく彼の作った建物やNPCが無駄になってしまう。それを防ぐにはどうすれば良いか……僕は生憎彼のログインパスワードを知らない、あっちから教えてきたけど敢えて聞かないようにした。それが普通だし常識だと思ったのだが……あの時の事を少し後悔している。
今から彼の端末を使ってメールアドレスを利用しパスワードを再設定するべきか……その前に端末類……スマホやパソコンのパスワードが分からないと話にならないな……それに仮に開けたとして『アカウントの譲渡や共有は利用規約違反』に当たる、運営にバレないように立ち回れば良いけどさ……ダメなものはダメなんだよな……。
思考を張り巡らせ気づいた時には既に目的地に到着した、この建物のワンルームに向かう……エレベータを使い4階まで……少しガタつく音を気にしながら腕を組んで待つ。
未だに不安があるのは何故だろう?ずっと彼の事を考えていたからだろうか?
気の所為だと思いつつ4階に到着し自動で開くドアを通り抜ける……革靴の音が響く中とある友人が住んで居たドアの前で止まる。静けさのせいか、やけに緊張してるようで震えた手を使い合鍵を持って中へ差し込む……すると違和感を感じた。
「軽い……。」
それはいつものと違う、何か空っぽのような……それに新しさを感じる……とにかく軽いのだ。
ドアを開けた瞬間、嗅いだことの無い匂いがする。新居のような……引き戸なので冷たい風が体全体に当たる……その風が通り過ぎると既視感に襲われなかった。
恐る恐る中へ入る、靴を脱ぎ床のなる音を感じながら匂いを堪能する、この先の部屋はゲームとベッドがあるはずだ……。
その部屋のドアを開ける……。
「無い。」
(終)




