番外編4 犬の散歩は責任を持ってしましょう。
大魔王エントロを倒し一時的な休息という休み時間を得るのだが、日常生活においてどうしても休息とは言えない出来事がある、それは……。
「よーし、ガブ太郎……いや、ジャンフォレストキャットだっけ?あれ……ドメスティックアサルト……なんだっけ……。」
『ワン。』
現在、我が家ではフェンリルを屋外で飼っている。この子が帝国へ行って元の召喚門に帰るまではウチで面倒を見るとバーバリティが決めたのだが……。
「全く……約束したのに……なんで僕が面倒を……メイド全員でキチンとお世話するんじゃなかったのか?」
独り言を溢し、餌をあげる……デカい体であれば食べる量も半端じゃない。
差し出したのは、大型犬の餌入れより2回りと大きい皿、その上には動物系モンスターのお肉を添えている……。
『ガウガウ。』
皿に口を突っ込み美味しそうに食べ始める。意外と上品に食べるようで皿から肉片が溢れないように、がっつかないで丁寧に食べる。
「よしよし……全く、どっかのドーベルマンより勝る狂犬とは大違いだ……。」
ま、バーバリティなんですけどね。あいつは毎回口周りに食べカスを付けてポンテ・モーレが拭くという……なんていうかガサツなんだよな……。
『バウ!』
「あいよ。」
綺麗に平らげたようで皿はピカピカ……全くめんこい奴め。
すると、フェンリルが魔法陣を出して口を突っ込む……。
「……どうしたんだよ?」
取り出したのはリードであり口に加えて差し出そうとしてきた。
「ああ……食後だろ?時間を開けてじゃないと……。」
犬の散歩に乗っ取り食前なら大丈夫だが、食後だと色々とリスクがある……。
『グルル……!』
すると、警戒しながら片足を上げて屋敷に……まさか……。
「ああああああああ!!分かった!!行こう!!」
首輪にリードを付けて出発する……こいつもか……俺の脅し方を知ってやがる。
屋敷は修復したが、未だに周りには大きな円の溝が出来ている。近くの森へ向かう為、大ジャンプで溝を飛び越えた。
森の中へ入って、超本格的散歩を始める……。
「はぁ……俺は飼い主失格だ……こういう時こそ躾をしっかりしないと……。」
このままじゃフェンリルが調子に乗って食後でも散歩をして良いと勘違いしてしまう……妹がいればなー……あいつは獣医学科だからな……犬の躾の仕方とか丁寧に教えてくれそう……あいつがいればなー。
『ワン!!』
「ん?」
前足を地面にポンポンと置く……何かあるのか?
シャベルを道具袋から取り出し掘っていく……ここ掘れワンワン的な奴か……こいつも時には役に立つな。
掘り進めると何か硬いものに当たる……大抵このパターンは宝箱だ……いい物が入ってると良いけど……。
シャベルをしまい、手で掘り進める……何か取手のような物が……それを手に持ち引き上げようと奮闘する。
「ん……中々重いな……おら!!」
出て来たのは人一人入りそうな宝箱なのだが……引っこ抜いた勢いで蓋が開き『ゴロン』と中身が出てきた……。
コロコロと何かが足元に……え?
正体は人の白骨化していない男性の頭部……。まさか……死体遺棄とかじゃ……。
「世の中には見なくて良い事もある……今がその時だ。」
何事もなかったように頭を宝箱に戻すか……。そもそもこの世界に警察なんていないしな……何より僕達は秘密治安維持局に狙われてるんだぞ?然るべき処置なんて知ったこっちゃない。
「全く……こんな所にマネキンが……これじゃ一銭にもならないね……だったら元にあった場所に戻すのが良いだろう……きっと持ち主が埋めてしまったものだ……人の物を盗むなんてしてはいけない(戒め)。」
とは言え……直に持ちたくないな……えぇ……どうしよ……。
『わん!』
「何かいい考えがあるのか?」
妙案があると思ったのだが……フェンリルが片足を……え?
「や、やめろおおおおおおおお!!」
叫んだ頃には遅かった……なんて事だ……目の前の冒涜を僕は止める事が出来なかった……。
「くっ……許してくれ……。」
四つん這いになり水の滴る音だけが耳に残る……もし、ちゃんと躾がしっかり出来ていたなら、こんな事にはならなかったのだ……俺は飼い主失格だ……。
『はぁ……はぁ……。』
吐息が聞こえる……。
「何を喜んでいるんだ……お前は今とんでも無い事をしてるんだぞ?少しは反省しろ……。」
だがよく聞くとフェンリルの方からでは無い……もっと低い位置に……。
「ん?」
吐息が聞こえる方に目をやる……声質的にも犬というよりか人のような……。
『はぁ……はぁ……これは……素晴らしいプレイだ……新しい扉が開きそうだよ……恵の雨にも勝る……くっ……300年封印されていた顔に染みるのだ……はぁ……はぁ……。ケモナー冥利に尽きるぞ!!』
そこには興奮し目がキマっている濡れた生首が……。
「ぎゃあああああああああ!!」
気づいた時には右足に力を入れ振りかぶっていた……生首は笑いながらどっかへ飛んで行った……忘れられない記憶が1つ出来たぞ。
「はぁ……はぁ……冗談じゃない……何だあの変態は……気持ち悪すぎる……この国は変態しかいないのか?しかも、あの組み合わせ……ヤバすぎるだろ……。」
なんか、恐ろしいものを見た気がする……あれはニッチというよりも何か……こう、法を犯すようなヤバさだ……実際は犯してないのに犯しているという罪悪感が……まさか……。
この時、頭の中に事件解決のBGMが流れ始める……。
「これが……パラフィリア……普段踏み込めないアブノーマルな領域を楽しみ嗜好する……だから、感覚的に法を犯してるという体感になるからして……今ままでに無い興奮が訪れるという……まさに神が意図的に人を作ったとしても、そこまでは意図されなかったという裏切りの象徴……特殊性癖とは誰もが持って然るべき物なのかもしれない……。」
『バウ……(オマエ、アホダロ。)』
事件は解決した……やはり性癖とは奥が深い……。
犯人のいない事件解決後……宝箱がガタガタと動き始める……。
「え……なんだ?」
宝箱がガパッと開くと中から首の無い人の体が……両手で上下をこじ開けて外に身を放り出る。
「ステ確認しないと……。」
ステータスにはデュラハンとだけ……多分僕が蹴ったのはそいつの首なのだろう……。
周りをウロウロした後に飛んで行った首の方へ走って行った……なんか、すまんな……。
気を取り直し散歩を再開する……所々マーキングをしてるようで本質は犬と変わらないようだ。
「どうでもいいけどさ……膀胱炎にならないの?」
『バウ?』
よく出るなって……そう思って質問したけど、フェンリルは頭を傾げていた……コイツと出会ってから思うのだが、こいつはオスなのだろうか、メスなのだろうか……こんだけマーキングしてるんだしオスで間違いは無いか……うん、きっとそう。
森の奥まで足を進めるとフェンリルが止まり、Uターンを開始する。
「あ、もう満足か?」
『バウ!』
「意外とあっさりだったな……運動量もそこまで必要としないのか?」
鼻を地面に押し付け何かを探っている……どうした?
『フン……。』
鼻を鳴らすと腰をそっと据えてちょっと力ませる。
言わずもがな、アレだ……散歩するなら定番なのは言うまでもない。
『ドサリ』と信じたくない音で落とされる。
「うわ……でっけー。」
草むらにひり落とされたブツの大きさに圧倒された……相手はフェンリル……ゴールデンレトリバーレベルなんて、そんなチャチなもんじゃあ断じて無い。
袋を取り出し……ええ……どうやって掴むんだろう……。大きすぎるな……僕の腕より大きくない?
普段ならビニール袋で生暖かい奴を掴み裏返して無事に処理するのだが……これは……持ったら重さに耐えきれず崩れるのでは?
「うーん……。」
困ったな……こんなにデカイなんて思わなんだ……これは世界最大の脅威であり試練そのもの……てか、バーバリティとか他のメイドはどうやって処理してんだ……?あいつらに聞けば良かったな……。
『バウバウ!!』
「え?」
裾を咥えて何か注意を引こうとしている……その方向に目をやると……。
「ああ……。」
すぐに納得した、出て来たのは大量のスライム……あいつらが処理するのか……。
案の定、例のブツにスライムが寄ってたかるが……なんだろう……ムカムカしてきた……。
「く……。」
口をきゅっと締める……これで合っているのか……僕はこいつの飼い主として……正しい事なのだろうか……否……。
そう思った時には衝動に駆られ、体が動いていた……。
「そ、それは……俺のうんこだああアアアアアアアアア!!触んじゃねぇえええええええええ!!うおおおおおおおおおおお!!」
こっからはスライムと成人男性の巨大うんこの取り合いに発展する……身を挺して魔犬のフンを手に入れたぞ!!
「あっち行け!!シッシッ!!餌の味を覚えやがって野良どもが!!2度と来るんじゃねぇ!!」
スライムは恐ろしい成人男性を前に動揺してビクついていた……。
『バウ……(えぇ?)』
それはフェンリルも同様である。
何故このような行動を取ったか……それは簡単だ……動物を飼う身として、ペットの糞もろくに処理できなくて何が飼い主と言えるだろう……ちゃんと持ち帰りこっちで処理してこそ責任ある飼い主というものだ、己のエゴで飼っている……まぁ一時的に保護しているのだけど……あっちから飼われに来てるけど……と、とにかく!!飼い主としてウンコの一つや二つ処理出来ないなんて、ありえんのだ!!
スライムとの戦いも終わり、フェンリルと共に来た道を戻る……結構満足そうな顔をしている、散歩も色んな意味で悪くないな……。
「そうだ……名前……どうしよっか?」
『バウ……。』
フェンリルも困っているようでいつもメイド達に固有名詞が定まらない変な名前で呼ばれ続けては疲れると言いたげだ。
「……ガブ太郎で良いんじゃない?しっくり来るけど。」
『アフゥ……。』
不満げだな……。
「バーバリティの付けた名前に気に入ったものは無いの?」
『バウ……。』
これもダメか……そもそもバーバリティなんて愛嬌のあるクソガキだしな。適当に名前なんてつけられたら、たまったもんじゃ無いな。
「ヤマザキキョウジロウは?……まぁ、流石に気に入らんだろ。」
『ワン!!』
「え?」
嘘だろ……そんなんで良いのかお前は……冗談で言ったんだけど……。
——屋敷に帰還しキョウジロウを元の場所へ……犬小屋も作らんとな……。
「き、キョウジロウ……えぇ……ダメだ……キョウジロウじゃねぇだろ……。」
なんだこの名前は……ふざけ過ぎてる……全く冗談じゃない……。
「やっぱりさ……キョウジロウってやめない?」
『バウ!!グルルルル……』
反抗してきやがった……一体何を気に入ったのやら……。
そんな中、屋敷からセンシアが出てきた……。
「おや……お散歩ご苦労様です……。」
「あのさぁ……世話ってお前らの仕事じゃねぇの?」
「今日のお世話はバーバリティです。朝、起きられなかったようですね……。」
「全く……。」
「さて……ガブ太郎……ご飯の時間ですよ。」
『バウバウ!!』
キョウジロウは既に食べたと抗議してくる。
「あら……お散歩前にご飯は危ないですよ、ガブ太郎。」
「お前も何言ってるのか伝わるのか……(動揺)。」
「何はともあれ、ご主人と一緒にお散歩出来て良かったですね?ガブ太郎。」
『バウバウ!!』
そんな事より自分の名前はキョウジロウだと言う。
「えぇ……なんですかその名前……。」
「いや、なんで伝わんだよ……。全く合わないだろ、文字数と文字自体が……。」
「一応、ここの家主はハルマ様ですので、名前はハルマ様本人に付けてもらいたかったそうですね。」
「お前って奴は……隣にいるアホと大違いだな。良い男友達になれそうで俺は嬉しいぞ。」
『バウ!!』
キョウジロウの頭を撫でる……もふもふで素晴らしい。なんだか、僕自身がキョウジロウへの好感度が上がってきたぞ……。
「一言余計ですが……ご主人様……。」
「どうしたセンシア?冗談で言ったんだぞ?」
「そっちの話では無くてですね、キョウジロウはメスなんですよ。」
「は?!」
嘘だろ……ずっとオスだと思ってた……。
『バウバウ……。』
すると顔を舐め始める……こいつ……メスなのか……。
「なるほど……だからデュラハンは……確かに、それはケモナー冥利に尽きるわな……。」
真実はいつも一つって事を改めて身に染みた。
(終)




