第三十七話 帰れる場所。
「ニュネイを返してもらうぞ。」
ゆっくりと歩み寄る……目の前にいる巨大な敵の左手にはニュネイが掴まれており、中で気絶している。
「プリセット6に変更。」
剣士系になると両手に大剣を持つ……そして、突進を開始。
同時にエントロも右手に魔法で生成された剣を召喚した……黒く禍々しく普通に剣で受けるのは危険と判断した。
降りて来た巨大な剣は遅い、避けてエントロの右手に突っ込むと回転斬りで手から腕へ、そして頭へと斬り進める……顔付近に近付いたところで目を潰しに掛かるが、魔法陣が発生し剣が弾き返される。
「流石に目は守りたいよな?」
距離を置くと宙に浮いた状態になる、周りに多くの魔法陣が敷かれると中から針のような黒い魔弾が発射される。
「守り切れるか?」
両手の大剣を回し飛んでくる魔弾を弾いたり上手くかわすが、体の至る所を掠める。
「ダメージも大きいか……。」
とにかく考えて動き続ける事……FOOにはいない敵、正真正銘未知の敵であり規格外……全ての不安要素を詰め込んだみたいな出会いたくない敵だ……それと同時に本当に異世界に来たと興奮する自分がいる。久しぶりに骨のある奴という感じだ。
「本当に……なんか、厨二病みたいになりそう……でも、それが良かったりする。」
大剣をぶん投げ大剣はエントロの両足へ向かって飛んでいく、足に差し掛かった所でまた魔法陣が……今度は弾かれるのでは無く跳ね返る……。
「プリセット4に変更。」
帰ってくる大剣は消失する、魔法系のプリセットに変更し左手に魔導書と右手に杖を装備した。
「召喚魔法レベル5……ダークハンド。」
今度は自分が魔法陣を出す、魔導書によって魔力を底上げして、その中からエントロよりも大きい黒い手が出現するとエントロを平手で突進し奥へ突き出す。かなり強いようで体が仰向けに倒れると大きな音を立てて砂煙が舞う。
「拘束魔法レベル5……マイティーレストオブチェーン」
エントロの体の周りに無数の鎖が巻き付く……普通のレストオブチェーンよりも強力であり簡単には解けない。
「刺突魔法レベル5……ライトニングニードル。」
今度はこっちがエントロの周りに無数の魔法陣を出すと同じく針のような魔弾を出す、唯一の違いは雷属性を纏っていることぐらいだ。
それらが身動きの出来ないエントロの体に全て刺さる。
『ウヴァアアアアアアア!!』
鈍い声を上げるとやっと大きなダメージが入ったと感じた。
「……物体転送。」
するとエントロの手の中に入ったニュネイがこちらに転移されると抱き抱える、この物体転送は対象をこちらに転移させる魔法である。ただし距離が設けられており、精々15メートル以内でなければ使えない。
「……魔弾爆破。」
現在あるMPの三分の一を消費……エントロにはまだ突き刺さった魔弾がある、それらが光ると大きな爆発を起こしエントロは煙の中へ消えていった。
「いや、まだ終わらないよな。」
煙の中で何かが不穏に動いている、完全に倒しきれないのは明確だった。
攻撃が来ると思い、ニュネイを降ろし前へ進む……。
「プリセット8。」
『アーマーナイト』『ガーディアン(特別職)』『マジックガーダー(混合職)』の防御系特化のプリセットに変更する。レベルは100でカンスト。
盾を出現させ、どこから来るか分からない攻撃に備える……まずは出方を伺おう。ニュネイを抱き抱えたまま後退すれば巻き込まれかねない……そうであれば多少のダメージを喰らう前提で攻撃を喰らわなければ彼女の安全は確保出来ない。
攻撃が右側に来る……そっと盾をそちらに向けると。
「な……?!」
攻撃を喰らう、ふっと体が浮く感覚に陥る、高く吹っ飛ばされ岩壁へめり込んだようだ……幸いダメージはそこまでは大きくないが……めり込まれた後、大きい手で押さえ込み潰す気のようだ。
「冗談じゃない……。」
盾で守った所で押し潰されればお陀仏だ、ギチギチと体が圧縮されダメージが持続的に喰らう。
『ガアア……』
「なんだ?」
押し潰されているため暗く外何が起きてるか分からない、何か開くような音が聞こえた。
その音と共に黒い光に包まれる……いつの間に強力なダメージに襲われていた。
外ではエントロが口を開けて圧縮された魔力が飛び出す、それを己の手をも巻き込み、ハルマの後ろの岩をも貫通する……確実な死を届けようと出た攻撃は強力であり、殺意がこもった魔力だった。
「まずいな……。」
全身が痛い……まともに喰らってしまったために残りHPも少なくなっている、これ以上の攻撃はやばい。
地面へ着地しエントロを見る、自分で吹き飛ばした腕を再生させた……何より驚いたのはHPが持続的に回復してる所だ。勝ち目があるか怪しくなってきた。
「これは……ハードモード過ぎるな。」
少し苦笑いをする、楽しいとか……そういう余裕も無くなってきた。
エントロが再び大きく口を開ける……魔力が集まり禍々しく光っている。そして、顔を下へ向け狙いを定め始めた。
「来るか……。」
魔力が発射されると盾で受け止める衝撃が強く踏ん張ると足が地面にめり込むほどだ……。
「反転魔法レベル5……リフレクション。」
魔法が反転されるとエントロの頭が吹き飛ぶ。ダメージもそこそことくらってるがゼロにはならない。
「どうやったら倒せんだよ……。」
徐々に頭が修復していく……ただ、修復にはスタミナが掛かるようだ、あれをゼロにすれば勝ち目はあるか?
「無理だな……。」
そうぼやいたのはスタミナの量が半端じゃなく多い、そして修復に必要なスタミナも少ないときた……無理ゲーか……いや。
「そこが弱点か?」
胸にめり込んだ石、ミトラスが壊そうとしたら攻撃が跳ね返る魔法陣が出現した……そうであれば、盾を投げるに限る。
「おら!!」
盾が飛んで行くと後に続くいて飛ぶ、盾がエントロの胸に接近するとエントロの魔法陣が発動、攻撃反射が来るが……。
「リフレクション!」
反射の反射……何か数回とぶつかったような特殊の音がした後、最終的にエントロ自身にダメージが入る。埋め込まれた石に少しヒビが入ればダメージも特大……あと二、三回やれば確実だが……そんな余裕はこちらに無い。
「プリセット2に変更!」
そのまま格闘系のプリセットに変更する、プリセット8で装備していた盾を外しプリセット変更をしてシステム上の装備消失を防ぐ、この盾を間に挟み強い蹴りをお見舞いしようとした時だった。
空が暗くなる……エントロの大きな手が影になっていた……それが降ってくると浮いた状態では大変危険であり、盾を装備する暇もない、虫を叩き落とそうとするのと同じでデカイ一撃を浴びる。
超スピードの落下で地面と接しようとした時、魔法陣が下から出現……せり出てきたのは針の山だった。
「うわあああああああああ!!」
受け身を取ろうとして仰向けに……背中を複数貫き瀕死の状態まで持って行かれた。腹やら胸やら腕にも針が飛び出す……頭を避けられただけ運が良かった。
針の山は魔力で出来たものじゃない、物体だ……その針から血が滴り落ちる……。
「が……無理……死ぬ……。」
吐血する……ステータスの状態異常には出血と裂傷……持続的にダメージを喰らう。
エントロの顔が少し修復し片目だけでも見えるようになっている、こちらの生存に気が付けばゆっくりと地を鳴らし近づいてきた……アクションゲームでよくある明らかに負けるという予測的で瞬間的な感覚が襲ってくる。
「ガメオベラ……するか……くそ……。」
必死に体を動かすとダメージも増えていく、何よりこの状態で身動きは取りにくい。このままでは……。
「待って!!」
下から声が……まさか、ニュネイが起きたのか?運が良かったと思いたいが、今度は彼女が危険だ……。
「ニュネイ……逃げろ!!無理だ……」
必死で声を張り上げる……彼女に聞こえてるだろうか……。
「お父さん!!私は無事!!心配する事もない!!この人だけは……!!」
それでもエントロは歩みを止めない、重い足を動かし地を鳴らす。そして、右手をニュネイに近づける。
「お父さん……。」
「……逃げろ!!」
あれではまた掴まれてしまう……エントロは何故かニュネイを捕えようと必死だ、それにこだわる理由がよく分からないが。とにかく助ける事しか頭にない。
「うおおおおおおおおお!!」
残ったスタミナを全部使い腹に刺さった針を手で避けるように破壊すると地面へ落下した……ダメージはHPだけじゃない、スタミナ、精神力も結構減っていた……。こんなに追い込まれたのは初めてかも……。
「聞いて!!私は……あ!!」
「相手なんかするな!!」
ニュネイを引き寄せ捕まるのを回避させる……恐らく、エントロは正気を失っているのでないか?会話なんてものは通じない、そうであればニュネイには逃げ続けてもらう他ない。
「ニュネイ!!逃げろ!!とにかく足を動かせ!!」
「でも、ハルマは!?その怪我じゃ……」
「俺はどうにでもなる!!」
道具袋からポーションをいくつか取り出す、HP回復とスタミナを回復するものを一つずつ……それらを一気に飲み干し刺さった複数の針を無理やり引っこ抜けば体はある程度修復しHPとスタミナも少しだけ回復するが……完治じゃない、状態異常も続いたままで結構厳しい。ここで完全回復のポーションを使いたい所だが、ハルマ自身は最後まで取っておきたいというケチな部分が邪魔していた。
「待って!お父さんは私に用がある、そうであれば捕まって経緯を観察してて欲しい!」
「バカ言ってんじゃねぇ!!信じれるかそんなものに!!」
捕まえて何をするか……その先が分からないのが怖い。
口論してると足が降ってくる、急いでニュネイを抱き抱え一気に距離を取る事に。エントロを背に足を走らせ続ける他ない。
「口が聞けない以上、容易に預けられるか!!お前が本当に殺されたら俺はもう一生引きずるわ!!メンヘラになってたまるかって話だよ!!」
「メンヘラ?」
背後から黒い光が出来て強くなっていく……。エントロの口がまた魔力を貯め始めた。
「一緒に巻き込もうってか?」
その攻撃を放てば俺もニュネイも木っ端微塵になるはず……それか、庇うと知ってて撃つつもりか?
「プリセット4!!」
魔法系に再び……そして、射線上に多くの魔法防御型の魔法陣を敷く。防御系のプリセット8は盾がない状態……代わりに魔法系でカバーするしかない。
「げ?!」
エントロが口に魔力を溜めながら突進を開始する……並んだ魔法陣を破壊しながら進んで行き至近距離から魔法を発射する気だ。
突進のスピードはその体格に似つかわしくない程速かった、終焉の攻撃が口から発せられようとする。
「クッ……絶対魔法……パーフェクトガード。」
絶対魔法は現在のMPを全て消費し発動する魔法、そしてこのパーフェクトガードは攻撃の一歳を無効化。
ニュネイの前に立ち魔法を発動しエントロの攻撃が発射されると完全に無効化した。大きな爆発が溝全体に広がりを見せるとミトラスが蓋をした障壁結界の間から煙が立ち込める程に威力が強く振動が発生してた。
エントロの攻撃が終わるとその名残として砂塵が舞っている、衝撃に負けたのか、ニュネイが倒れていた。
「ニュネイ!無事か?!」
すぐに駆け寄り安否を確認する……息はしてるが大きな衝撃で目眩を起こしたようだ。
「だ……大丈夫……。」
目を頑張って開こうとしている……。
「急いで立て!」
「ハルマ!!後ろ!!」
「クソ!!」
エントロの手が上から押さえつけるように潰しにかかる、それを手で押さえ残り少ないスタミナで踏ん張る事にした、地面に足がめり込み少なからずダメージも受け続けている……現在のプリセットではいつまで持つか分からない。骨が軋み始めてきた……。
「ダメだ……やばい……ニュネイ……にげろ……。」
こんな時にメイド達の顔が浮かぶ……俺が死ねばあの名簿の意味も無くなるはず、あの名簿は管理権限が俺と各寮長が持っていても、そのマスターは俺だ……彼女達がどうなるか知らないが……実質上の俺の管理下からいなくなる。あの名簿がなくなれば……消えずに自由になって欲しい……ただ、世の中そんな都合良くいかない事もある。もしゲームの要素を引き継いでいれば、彼女達は跡形もなく消える。
「ニュネイ……早くしろ……。」
彼女の顔を見ると涙が頬を伝っていた……。
「ごめんなさい……私は無力で何もあなたの役に立たなかった……みんなに迷惑かけて……本当に……」
「悪いが、こんな所で会話イベントは御免だ……俺は多分死ぬ……だが、お前はまだ諦めるな!!」
足元にエントロの魔法陣が出現する、今度は針山ではない。その魔法陣はニュネイをも巻き込んでいた。
「……何をする気だ?」
魔法陣が稼働すると全身に黒い煙が纏われる。
「これは……?」
己のステータスを確認する、HPの減少率が前よりも大きくなっている……痛みは感じない……その煙はニュネイにも及んでおり……。
「は、ハルマ……。」
彼女は焦りもしなかった……自分の死を受け入れるつもりか……。
「……シェアリング。」
己のHPをニュネイへ分け与える、これで死期が早まった。エントロは間違いなくニュネイを庇うと知ってて俺を殺しにかかっている。頭が回るというのは厄介だ、何としてもニュネイを奪いたいのか……その執念は計り知れない。
『ニュネイ……。』
エントロが口を開く……その姿で叫び以外を初めて耳にした。
「ニュネイは……帰りたく無いとさ……お前の所に行って……彼女が楽しいと思えるかって話だ……」
「いいよ……ハルマ……これ以上私に構わなくて……私は大人しく……父さんに着いていく、少ない時間だったけど……楽しかった……少ない幸せな時間に後悔はないよ。」
「……何故その選択を取る必要がある?」
「……私にとってハルマは大切な人だから。」
ニュネイの目が虚になる、それは初めて会った時を思い出す……全てを諦め虚無になって、檻に佇んでいた……あの姿を思い出す度に苛つ。二度とこの感情に触れたくないのに……。
——屋敷周辺では未だに戦闘を繰り広げていた、魔物の死体は分解が早く、部位もといアイテムを剥ぎ取らないと、それごと数分で跡形も無く浄化される。もし、死体の山が積まれていたら屋敷周辺を死臭を放ち地獄のようになっていただろう。
バーバリティはフェンリルの上に乗って魔物を無双していたが、どちらもスタミナの限界に近づいていた。
「だ、だめだー!!敵が多すぎる……倒してもキリがないよ……。」
『ガウガウ。』
「え……あの扉は特殊なんですか?一度開いたら石を壊さない限り閉じないってマ?」
エントロの胸に埋められた石こそ召喚門を出現させる、魔界結晶石だった。魔界結晶石は使い切りで出現した扉は時間経過で閉じる。だが、エントロは融合した事により本人を倒すか、石そのものを壊しない限り扉が閉じる事は無い。
ヴェスターズはミトラスによるエリア制限魔法に限界が来ていた、MPが残り少なくゼロになってしまう。
「ミトラス様!私たちも限界です!」
プリマのMPも少なくこれ以上ミトラスを守りながら敵を倒すのは限界だ。
「それに、マオとナショルナも眠ってしまってますし……起きる事が無い限りは……私達も撤退を……。」
アシスも同様に限界が近い、そして、ミトラスの後ろではマオとナショルナが疲れて寝ている状態だった。二人が起きて大暴れを起こさないのであれば持ち堪えるのが難しい。
「なりません……私は何があってもここから離れない。ご主人が敵を倒すまで私達は信じ続けなければならない。」
「ですが……皆の命が……。」
プリマが口を挟む。
「皆の命よりご主人が最優先です……考えればわかる事……わたしたちは彼に作られた、そして……彼に仕えるNPC……彼がいなければ私たちの『存在意義』はなくなる!死んでしまえば意味はない!」
「ならば、ご主人の意思を尊重するべきでは?!彼は私達に生きててもらいたいと思っています。それに応えを……」
「それで良いのですか?仮に私達だけが生き残ったとして……彼を見捨てるのは……彼のして欲しい事であっても、期待の裏切りであるに変わりは無い!!ご主人は私を信じて我儘を聞いてくれたのは、期待をしたから……違いますか?!」
「ミトラス様……。」
「彼は私達に人生をくれた……いつものように、屋敷で佇み変わらない会話ログを開く日々ではない。私達に意思という存在を認識してくれたからこそ、生活という豊かさを教えてくれた……ならば、この恩を仇で返すと?違うわ……これからも、一緒に生活する為に今までの恩を返すに過ぎないわ!」
ミトラスのMPがとうとう尽きる……そして、エリア制限魔法である結界が途切れるのだが……。
「私……諦めません。何があっても……ご主人にアレを飲ませなければ……。」
アシスがミトラスにMPを分け与える。
「ミトラス様の言う通りでした……皆んないなければ意味が無い。私はまだ、ミトラス様みたいにご主人に対し好感がなかった上での発言……許してください。」
同様にプリマもMPを分け与える。
エリア制限魔法が復活する。
「皆さん……信じれば救われますよ、彼も私たちに背中を預けてくれている……。」
背後に敵が複数やって来る……。
「おら!!」
襲って来る敵はヴァリアンズとヘイムス・ヴィティズで守る。
「良いか?もう一踏ん張りだ!ヴェスターズに指一本触れさすなよ!!」
カストディーアが率先し敵を薙ぎ倒しまくる、皆ボロボロだが、気合いという現象に駆られ精一杯に体を動かす、ゲームのパラメーターなんてものは時には当てにならない場合もある。今がそれだった。
——溝の中ではアホの童貞が笑っていた。
「ゲラゲラwwwww。」
「え?」
ニュネイの虚な目が元に戻る……そもそも意味が分からない、この状況と空気で笑うなどと頭がおかしいと思った。
「ああ……今のはお前のカーチャンの真似……それと……。」
息を思いっきり吸い込み腹に力を入れる。
「嘘言ってんじゃねぇええええええええええ!!何が後悔してないだ!!しまくりじゃねぇか!!インキャ特有の身を引く行動はやめんかアアアアアアアアア!!」
「え……。」
「何が大切だボケェええええええええ!!大切だったら、主人をぞんざいに扱わねぇだろおおおおおおおおおお!!」
「いや……それは、そう言う意味じゃ……。」
「はぁ……はぁ……ああ……分かってる。お前はもうこっち側なんだよ……俺に対して、多少なりとも心を開いてくれてるだろ?そうであれば、何かを諦める目はやめろ!!」
「目……。」
ニュネイはハルマと初めて会った時の事を思い出す……その諦める目は心を開くまでに偽りの目として出し続けていたものだ。
「お前はどうしたい?俺はお前を仲間の一人としてちゃんと見ているぞ……だから、本音が欲しい。父親と一緒にどっか行きテェのか……それとも、俺達と一緒に暮らすのか……どっちだ?!」
「私は……。」
「早く決めろ、限界だ……。」
スタミナが尽きる……同時にHPも……早くしてくれ……。
「あなた達と……いたい……。」
声が詰まっていて全く分からない……このインキャめ……ボソボソはやめろ……。
「声を張れぇえええええええ!!」
「私は貴方達と一緒に居たい!!これからもずっと!!」
……これから起きる事を許してくれとは言わない、彼女の願いを叶える為の強引とも取れる方法を今からする。
「オラアアアアアアアアア!!」
押し付けてくるデカい手を拳で打ちあげる、隙間が出来て開放されるとニュネイに近づき抱きしめた。
「ええ?!」
顔を赤くして驚いてる所悪いが、時間が無い。こうしてる間にもエントロが手を伸ばしてきている。
「今から起こる事を恨んでも構わない!俺を殺しても構わない……望まない結果である事に間違い無い!ただ、お前の願いは確実に達成されるってだけだ!!」
道具袋から転生石を取り出して握り潰す……。
本来であればキャラクリ画面が出てくるが……全てデフォの状態で確定する。
エントロの手の中に入ろうとした瞬間、黒い光が発せられる……エントロの手は吹き飛び大ダメージを喰らう。
「これは……。」
黒い光が晴れるとニュネイは己の変化に目を丸くして驚いている。
彼女は転生した、レベルは1だけども強力……素材なんてものはいらない、既にニュネイ自身が持っているからな。
「ニュネイ!!反抗期って奴を見せてやれ!!」
ニュネイの頭には角が生えており尻尾も悪魔っぽい、翼も禍々しくただならぬオーラがある。
「……破壊魔法……貫通魔弾。」
ニュネイが両腕を伸ばし手の平をエントロに向ける……徐々に魔力が集まり黒いイナズマを帯び始める……。エントロが口に魔力を溜めていた魔法と似ている。
「狙いを定めて……落ち着いて撃て。」
エントロが近づく瞬間ニュネイが撃つと反動で尻餅を着くが、出た魔力はエントロの左胸部を吹き飛ばす。真ん中に埋め込まれた石は逸れてしまったが左胸から先、半身が無い状態まで持って行った。
「う……外した……。」
彼女は立ち上がりよろめきながらも再び両腕を伸ばす……。
「俺も手伝う。」
後ろに周り伸ばした腕に手を添えた……狙いの補助と反動を抑える、MPも分けて攻撃力もあげさせた。
「次は絶対当てれる……信じて背中を預けてくれって。」
ニュネイは体重を後ろに預けてきた……信頼してくれてると分かる。
「大魔王ニュネイ様の力を見せてやれ。」
「うん。」
彼女の種族は『魔族』であり、職業は『大魔王(種族職)』エントロと同じだ。
『ニュ……ネ……イ……。』
娘の名前を口にした後口から再び魔力を貯め始める……地は再び揺れるが魔力によって生じた爆風が生じる……それに耐えていると髪が自然と後ろへ流れる……恐らくこれが最後の一発。エントロのMPはギリギリであり、全てをぶつけるつもりだ。
「ニュネイ……最後は思いっきり力を貯めろ……。」
ニュネイの魔力を底上げするとMPはゼロになる……俺達も全てをぶつけるつもりだが、不思議と結果は分かっていた。
「これが最後だから……人思いに。」
エントロの口から今までの比にならない巨大な魔力が放たれる……岩壁が崩壊していき衝撃で地が震える、近づいて来た魔力は熱波が肌を刺激するが怖い感情はなかった。
「「いけぇええええええええええ!!」」
こちらもエントロに負けない魔力をこちらも放出すると、強い衝撃がニュネイの背中を通じて分かる、背中を自分に完全に預けてると分かると勝てる自信だけがついて回った。臨場感が刺激してくれたかもしれないが、何よりニュネイが信頼してくれたと言う事……絶対的な信頼の前に人の感性は麻痺する。その麻痺が心地よく導いてくれるのならばそれに乗る他ない……おかげで気持ちが強く保たれる。
お互いの魔力が衝突すると、ミトラスの結界が破壊される。魔力の強さはこちらが圧倒的に上回ってくれた。今までに削ったHPやMPが功を奏してくれた事もあるが、何より気持ちが反映されたと感じてしまう。
エントロは魔力に押し負けニュネイの魔力に取り込まれる……体が消失していき跡形もなく消えていく。ハルマは達成感を感じ、ニュネイは儚さを感じた。
——エントロの消失後、召喚門は閉ざされたのと同時に魔物も消失した。
「遅過ぎます……。」
ミトラスは苦言を溢しながらも少し笑っていた。時期に体が崩れて地面にペタンと腰をついた。
——屋敷周辺が安全になると同時にハルマ達はエントロが消えた場所まで歩いた、空からは白い雪のような物が優しく降っていた。地面に落ちると何事もなかったように消える。それがなんなのかは分からないが、虚しく感じるのと同時に強敵を倒した余韻が残る。
「お父さん!」
その雪の中にエントロが倒れていた、ニュネイは走って近づき腰を下ろした。
「ニュネイ……すまなかった。私の気持ちが抑えられなかった……あれが私の本心のようだ。親であれば黙って見送れば良いものを……情けないな。」
ニュネイの方からそっと手を握った。後ろからでは泣いてるか分からないが、悲しいという感情の波は感じる。
「勘違いがこうも進んでしまうと取り返しがつかないな……あの時、私が悪魔暴走薬を打たなければ……これは後悔だが、同時に娘の手で死ねる事にこんな喜びを感じるなんて……最後に顔を見れたのだ……思い残す事はない。」
その話をニュネイの後ろで聞く、エントロ自身が注射器を打ったのか……それか打たされたか……考えても仕方ないか。
「私も最後に……お父さんと会えて良かった……。」
「それが聞ければ安心できる……。」
エントロの足が優しく散り始め消えていく……顔をこちらに向ける。
「ニュネイを頼むぞ……平凡な方。」
「一言余計だけど……安心して眠ってくれ。」
それを最後に完全に綺麗な白い塵へと変わった。最後の顔は穏やかだったのは印象に強く残りそう。
——ニュネイと共に溝から出る……そこには皆んなが揃っており俺たちを待っていた。
デカい声で『おかえりなさーい!!』と聞こえるが……色々迎えの声が混ざってて聞こえない。
声が響き渡る中で隣にいるニュネイの方を見る。彼女に謝らないといけない事が……。
「ああ……その、悪かったな……。勝手に種族を変えるっていうか……なんかこう、嫌だよな……悪魔の血を引いてる事はコンプレックスのはずなのに……」
インキャぽい口調になりながら謝罪する……でも、仕方なかったじゃん。こうでもしないと助からなかったし……。
「ふん……。」
「ん?」
よく見ると少し表情が柔らかい……笑いを堪えてるというか、鼻で笑ったというか……。
「別に……なんとも思ってないですよ……これだからインキャは……周りをずっと気にして……生きてるから……アホやなー。」
「殴ろうか?」
ニュネイは笑いを堪えながらインキャを馬鹿にしてきた……お前も大概だからな?
「ハルマ……皆んな貴方を待ってる。」
「みたいだな。」
彼女が前に出て振り向く……たとえ角が生えようが尻尾が生えようが、可愛らしい見た目は変わらない。
僕はその笑顔を待ち望んでいた。
「今、とっても幸せ……ありがとう。」
「あいよ。」
第二章(完)
ここまできたら三十八話まで続ける……と思う。
最後まで読んでくださりありがとうございます。第二章は温度差が激しい展開が多かったと思います、それでも最後まで読んでくれた方には頭が上がりません。よくもまぁ、こんな勢いと急なロジカルに巻き込まれるのは『何だこれ』感が強いと私自身も思います。それでも、いつもの完成したら直ぐに掲載する方向性を見直したら、意外と良い感じという感触がありました。時間をかける事の大切さというのが、この遅い段階で分かった気がします。これからも、続けていきますのでよろしくお願いします……他の作品も責任持って仕上げないと……。




