第三十一話 気まずい空気は殴っちゃえ。
「は?!」
目を覚ますとベッドの上である事に間違いないが、両手両足が拘束されており大の字に寝ていたようだ。そして、不思議と赤い灯りが部屋全体を覆っており緊張が走る。
「朝ですよ、ご主人様。」
この声は……ニュネイ……。
顔をギリギリと上げる、ニュネイがコスプレをしていた……完成度が高い。2本の悪魔的な角に尻尾も悪魔のようだ。そして何より……。
「これは……やばい……。」
服装がボンテージ……ミニスカート型だが、露出は少ない方だ。何より太ももに食い込む網がヤバイ……てか、ヤバイそもそもやばいという感想しかヤバい。
「何を見てるんです、ご主人様?そんなにスカート中が気になります?」
「いや!俺は断じて気にはしない!君は一時的とは言えメイドだ!そんな目では絶対に見ない!チキン童貞としての誇りを貫かせてもらう!!」
すると、自分からスカートたくし上げるが、中は黒いボンテージパンツ……Tバック型でもないし下腹部全体を覆ってるタイプだった。
「まさか、前みたいにシマシマおパンツ期待してたんですか?キッショ。」
「愚アアアアアアアああああああ!!」
「そんなご主人様にはお仕置きが必要ですよね?」
そして、何故か場面が切り替わり三角木馬に乗っていた……。
「オラ!!もっと鳴け!!無理矢理起こしに来てんだから感謝しな!」
鞭が背中に当たる。同時に首輪が何故かつけられていた。リードがつながっておりニュネイに引っ張られると背中が沿ってしまう。
「うわ!!あ!!」
「オメーは変態なんだからよ!!人間の言葉使ってんじゃねぇ!!豚でも犬でも変態なりのプライドってもんがオメーにはねぇのか?!あ?!」
ニュネイは木馬を思い切り蹴ると激痛が走る。痛過ぎる!!
「ぶ……ぶひ……。」
「声を張れえええええええええええ!!」
「ぶひいいいいいいいいいい!!」
髪を掴み木馬から引き下ろされる。
「ブヒャ!!」
「おい!!四つん這いになんだよ!!早くしろよ!!」
すぐさま四つん這いになり準備する。
「あつううううううううううう!!」
いつの間に蝋燭を背中にかけていた……しかも白の普通のやつです……。
「だーかーらー!!お前は人じゃねぇって何回言ったら理解できんだ?!義務教育は何年間受けたんだボケ!!」
「九年です!!」
「義務教育の敗北じゃねーか!!文部科学省に謝れよ!!こんな、変態に育ってしまって申し訳ございませんってな!!」
ヒールを腰にグリグリと足で捻り込み背中をムチでしばきまくってきた。
「ああ!!じゃなかった……ぶひ……こんな、変態に育ってしまって申し訳ございません……ぶひ!!」
「こんな出来損ない……生きてる価値がねぇな!!こんなバケモン童貞の種の繁栄なんか許すかボケェえええええええ!!種の保護法に誓ってキンタマ潰すぞオラアアアアアアアアア!!」
すると、金的を……蹴り上げてきた……これは……。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「オメー!!豚か犬って言ったろ!!焼き入れられてぇか?!てやあアアアアアアアアア!!」
蝋燭をケツに……ん?
「だああああアアアアアアアアアアアアアアアアー!!」
——「だああああアアアアアアアアアアアアアアアアー!!」
目が覚めるとそれは、いつもと変わらない自室だった……。
「ハァハァ……悪夢だ……。」
起き上がると汗が大量に出ていた、疲れてるのか……服が体に吸着して気持ちが悪い。
「ちょっと変な時間に起きたな……はぁ……シャワーだけ浴びよう。」
少し早歩きで浴室まで……今回は大丈夫。バッタリメイドと鉢合わせる事は無い。
脱衣所で服を脱ぎ中へ……。
「は?」
「え?」
湯船の中に立っていたのは夢の中で留まってて欲しい人物だった。ニュネイはボンテージ姿ではない……もう、何も着てないという……。
「きも……。」
そして、こっちを見るや否や体を湯船に沈める……。
「すいませんでした……。」
普通の『きも……。』はダメージがデカすぎる。なんか、物でも投げて攻撃してくれた方が心が助かるのだが。
Uターンして扉に手を掛けると開かない……あれ?
「どうしました?」
「閉じ込められた……。」
最悪だ……せっかく数日前に仲を進展させたのに、これでは逆戻りしてしまうのでは?とにかく心配だ。
「とりあえず、シャワー浴びて湯船に浸かったらどうですか?風邪ひきますよ?」
「そうですね……。」
この微妙な空気……仲良くなって日の浅い時期というべきか、接し方を考えてしまう。
シャワーを浴びて彼女から離れた場所で湯船に浸かった……暖かいはずの湯は冷たく感じる。
「なんで、この時間に?」
会話を探した結果出た話題はこれ……。
「いえ、ただ単にシャワーを浴びたかったので……ついでにお風呂も頂きました。」
「あっそう。」
気まず……。何これ?
「そっちにはお風呂っていう文化あるの?」
「いえ……ありません。帝国にはあるらしいですが、王国は異文化として認識してるようです。」
「へぇー。」
普通にトリビアだった。
「……。」
「……。」
無言の時間が続く……だめだ……何を話せば良い?!
「あなたはどうして、私を救ったんですか?」
「どえ、何ですか急に?!」
唐突な質問に度肝を抜かれた。こいつ怖すぎるだろ!!
「あなたばっかり質問させるのは申し訳ないと思って。」
もうちょっと別な話題あるだろ……。何考えてるかさっぱりだ……。
「正直に言うと分からないんだよな。多分表面で責任とかどうとか言って取り繕った罪滅ぼしの一環に過ぎないけど……結局は可愛い女の子だからっていうのが……僕はエゴイストさ。」
体温も上がっており勢い任せで言った言葉がこれだ……これが本心なのは間違いない。
「それでも、私は感謝してるかもしれない。」
「へ?」
「ここでの生活は悪くないかも。カードゲームとかマンガとか色々とノクターンズが教えてくれた……あなたの国の文字は分からないけどそれも必死で教えてくれたの、それが新鮮だった、父の屋敷にいた頃とは違う感覚……人と話すのって悪くないね。」
「そう……。」
ただでさえ他国の文化に厳しい王国だ、娯楽も限られていたことだろう。そして、彼女は悪魔の血を引いている。他人と交われることが少なかったはずだ。
「近衛騎士だった時も、分かる人には分かるみたい……私だけ一人ずっと見回りだったから……。」
「あ、そうなんだ……。」
ぼっちだったのか……。通りで話し方が陰キャぽい訳だ。
「あなたのお陰で解放された、ありがとう……ただ、それだけ。」
「どういたしまして……。」
無機質な会話だったが感謝を感じた。不思議と心が軽くなったし何より彼女に気を使わせてしまった。
「ところで、これいつ開くんだ?」
そろそろ逆上せそうだったので湯船から上がり扉まで。手を掛けるもびくともしない。勘弁してくれ。
「建て付け悪いとか?いや、そんな事ないだろ。」
自問自答しながらガタガタと扉を揺さぶる、いっそ吹き飛ばすか。
「どうするんです?」
ニュネイが近づいてきた。
「離れてろ、ぶっ壊す。」
拳を振り抜こうとすると扉の奥から人の声が聞こえる。
『あれ、扉開きませんよ?』
『仕方ありませんね……壊しましょう。』
「待てぇええええええええ!!ほわああああああああああああ!!」
咄嗟に拳を収めニュネイを庇う。
その瞬間扉が吹き飛び奥から人がゾロゾロと……。
「何してるんですか?」
冷たい目でセンシアが俺を見る……そんな目しないで……。
現在、ニュネイに覆い被さってる状態であり、お互いが全裸であれば冷たい目で見るのは当然な訳で……。
「最低ですね……右も左も分からない子におじさんが教えてあげよう的な事ですよね?犯罪以外の言葉が見つかりません。」
「ち、違う……これは事故なんだ!!」
「犯罪者はみんなそう言うんです。」
「本当だって……ニュネイからもなんか言ってくれ!!」
「……?私に覆い被さってきました。」
頭にガッと手の感触が……まるで猛禽類に掴まれたよう……。
「おはようございます。」
そっと振り返るとルトロスが……結構表情はにこやかだが……怖いな……。
「おはよう……。」
そして、カリス・ピスティソスの奴らにボコボコにされる……この後ニュネイによって誤解は解けたけど……殴る前に話を聞けってんだ!!
——ボコボコの状態で廊下を歩く……。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない。」
ニュネイの問いかけにぶっきらぼうに答える……全く酷い目にあった……この屋敷の主人ってなんなんだろう?不思議でならないわ。
「そんな事より大丈夫なの?君、夜勤でしょ?」
今の時間帯は午前9時ごろ……昼夜逆転現象を除けばノクターンズは就寝時間なはず。
「いえ、私は自称ショートスリーパーなので。」
「お前って変な奴の認識で大丈夫?」
「あなた程じゃないです。」
俺って変な奴なのか……まさかねぇ?
「てか、今日もお付きなの?」
「はい、本日はクレアトラ街に行き外でのお付きを研修します。」
「俺の意思は?」
普通に外出たくねぇんだけど。てか、俺は今休養中なのでは?
「なんでも、バイアトリットさんが珍しい品を預かってるようでして……ソワレさんが今日は楽しみでならないと。」
「いや、あいつの買い物じゃねーか。」
「まぁ、ご主人様は根暗クソ陰キャなので、たまには外に出て太陽の光を浴びた方が良いんじゃないですか?どうせ部屋に篭ってシコるしか頭にないんでしょ?」
「グハァアアアアアアアアア!!」
なんじゃそりゃあああああああ!!どこでそんな言葉覚えたんだ?!
「さぁ、行きますよ。外でソワレさんが待ってます。」
「待てぇええええええ!!なんで急に当たり強くなったんだ?!説明が先だ!!」
「いや、だってMって言ってたじゃないですか?申し訳ないですけど、力に自信がないので踏むとか蹴るとか無理ですよ。」
「ちげーよ!!合ってるけど、ちげーよ!!何故、今なんだ?!」
「わかんね。」
「わかんねぇのはお前じゃ!!」
これ以上突っ込むのは野暮ってもんだ……多分こいつはズレてる……何となくだが心を少し開いてきてるのは分かる。だが……変な奴っていうのが垣間見えるんだよな……。
仲良くなればなるほど、為人が分かってくる。だいぶ良い方向に事が進んでると思った、このまま心を開いてくれたら嬉しい事この上ない。
——屋敷から外に出るとソワレがウキウキの状態で待っていた。
「おっす!じゃあ行こうぜ!」
「待て。まず、何を買うのか俺に教えろ。」
「ちょっと……やめてくださいよ……私にだって知られたくない事ぐらいあります。」
「ほう……余計気になるな、バイアトリットが何を仕入れたか知らんが、お前が楽しみにするなんて……どういう……」
「今日、女の子の日なんです……それを言わせたいっていうセクハラですよね?今の時代、上司相手でも戦えるんですからね?」
「……それはすまなかった……ストだけは勘弁してください。」
じゃあ、お前ら二人で行けって話だろ?!てか、お前ゾンビだけど、例の現象になるのか?
「最低ですね……チキンだからって手を出さなければ正解とか思ってるんですか?なんて、卑怯な。」
ニュネイからお叱りの言葉が……くそ……なんで……いつも集中砲火を喰らうんだ……そもそも、今日一緒に行く必要あるんですか?
3人でクレアトラ街まで行く……ソワレとニュネイが前を歩き楽しそうに話していた……。
「笑ってるよ……。」
ニュネイは僕の前ではあまり笑わない、だけどソワレの前だと笑う。プライベートもあるので彼女達の話は聞かないように立ち回っているものの何の会話か予想は付く。互いの好きな物が合致した時の会話は大事であり、こういう積み重ねがあると自然とお互いの距離感も分かるはずだ。信頼するかどうかは個々によって違うが一緒にいて楽しかったとか気が落ち着くなどの感情が生きる上で必要だと感じる。ニュネイにはソワレという素晴らしい友人を持ったと考えればその仲を育んでほしい。
偉そうな事を考えながらもクレアトラ街の中央の噴水に着くとソワレと別れる……え?教育係なんだよね?
「私は買いたい物があるから!じゃーね!!」
「おい!!待て!!俺らも付いて行くとかしなくて良いの?!研修は?!せめてニュネイぐらい連れていけ!!」
足早にバイアトリットの店まで走って行った……アイツ……また、二人きりか。
「あの野郎、本当に買いたい物別にあるだろ。決して女性用のアレじゃ無いだろ……分かるからな……俺には……」
「さて、私達は如何なさいましょうか?」
「俺らも行くぞ……君、知ってるよね?ソワレが何を買うのか。」
「しかし、ここクレアトラ街も久しぶりです。お父様とよく遊んだっけ。」
「あのさぁ、俺って君の主人だよね?話を聞く事って難しく無いよね?」
「もし、あの時に戻れたら……でも……。」
「もしもーし?『でんわにでんわ』つってな……回線悪いのかな?」
「嫌でも思い出す……あの時の事……。」
「何、自分の世界に入ってんだ。帰ってこい。自分語りで文字数埋めようとしてんじゃねーぞ。」
そして、長話が始まる……おい!!聞いてんのかあああああああ!!無理やりシリアスに持ってこうとしてんじゃねぇええええええ!!
ニュネイには母親がいたようで、幼い頃は毎日暴力の日々だった……その暴力に意味があるのか、それとも悪魔という血に対する嫌悪からか……そうではないと彼女は語った。母は元々商人ということもあり金の亡者と言って良いほどに守銭奴だった。あらゆる手段を使いその多くは汚い手による財だった。目的は定かでは無いが悪魔の血が高く売れると知るとニュネイに対する目の色が変わった、以前までただの娘と思ってたはずが金のなる木へ変わったのだ。エントロでは当然無理があるので、右も左も分からないニュネイに当てられた。採血を拒んでは暴力で解決した、この定期的に続く暴力は注射の痛みよりも優れてるので必然と注射の痛みを求めるようになるのは言うまでもない。エントロは宰相で家にいる事が少ない……それを利用し採血の頻度を上げていくと、いつしかエントロにバレてしまう。この後はエントロの方から強制的に離婚をする、幾つかの条約を掲げてだ。その中に娘との関わりを一切持たなくするなど、全てが娘を保護する条約だった。ニュネイは解放されたと同時に父に大きな感謝の意を持つようになった。それ以来、父を恩人として見るようになった。母親はエントロに悪魔の血を引いてる事を訴訟する事はなく、それが少し不思議であるものの予想として未だにニュネイの血を狙ってるためエントロが捕まるまではチャンスをずっと伺っていたのではと……とはいえ、相手は宰相であるので権力がある、訴訟した所で権力の壁がある。それのおかげでニュネイは守られていたのだから、それが無い今、ニュネイを外に出すのは大変危険だ。その原因を作ったのは……。
「だから、私は今も母を憎んでる。私にとってお父さんが全てだったのかも……。」
「へー。」
そんな長話を一緒に噴水のベンチに座り僕は鼻をほじりながら聞いていた。まぁ、大好きなお父さんの事だ、嫌でも引きずるに決まってる。
ハナホジをやめて真剣な目で彼女を見る……言いたい事ははっきり言おう。彼女は本心から話している、ならば僕も隠していた……というか、言いづらい本心を言うのが筋だ。
「……ニュネイは僕の事嫌い?」
「……嫌いじゃない、ただ苦手。感謝はしてる……前も言ったけど不慮の事故だって事も知ってる……だけど、理解できても納得が出来ない。複雑な感情。」
「何故、自分がって?」
「うん。」
「なんかさ、その話聞いてると毎回落ち込むわ。クズの発言を許してほいのだけど運命だと思って受け入れてくれねぇか?流石に毎回受け入れてメンタルボロクソになると俺が死ぬ。精神的にも物理的にも。元はと言えば、お前の親父がマルクレイブを離反させなければ何事もなかったし、王様が変なアイテムを別世界から持ってこなければ良かった。そして、僕がこの世界に転移転生しなければ……って事だ。」
「そうね……私の母親が毒親じゃなかったら良かったし、お父さんが悪魔じゃなかったら良かった。でも、それらが無かったら今は無いしソワレとも出会ってない。」
「そうそう……何より、お前の親父がショタコンじゃ無かったら起きなかった事だ。」
「ショタコン?」
「ソワレにでも聞いとけ。あいつとサマニアが詳しいから。」
あの二人に見られるのは癪だが、ニュネイだったら良いだろう……ハマるかどうか知らんけど。
「呼んだ?」
「うわ!!」
ニュネイの目を凝視していた為ソワレの存在に気づかなかった。
「ねぇねぇ……何話してたの?私も仲間に入れてよ。」
「そんな事より、なんだそれ?」
気になったのはソワレの手に持った紙袋……何入ってるんだろう?
「あーこれはねぇ。」
ソワレは袋の中に手を突っ込む。
「嘘……本当にあったの?」
ニュネイが何か焦ってる……どうしたんだ?
「何でも、服屋が他国から輸入出来ないから申し訳ないって……だからオーダーメイドで作ってくれたんだ。ただし、料金は頂くとのこと……バイアトリットの店に卸して販売するとさ。」
ソワレはずっと袋の中をガサゴソしてる、とっとと掴んで見せてくれ。
「だ、だめ!!」
ニュネイが間に入り阻止してくる……どうしたんだ?珍しい事に顔を赤くして……そんな感情が前に出る事もあるのか……。
「何でさ?」
ソワレはニュネイの阻止に疑問を持ちポカンとしている。
「こんなとこで見せなくて良い!」
あのニュネイが焦って大きな声を……ん……マジで気になるな。
そっと紙袋に手を近づけるとニュネイは手で『パシン』っと強く跳ね除けた。
「触ったら殺す。見たら殺す。オメーは豚なんだから地でも舐めてろ。」
「えぇ……。」
余程見られたく無いらしい……あと、もうSM関係なく悪口だろ。
その時、事態は急変する……近くの建物から大きな物音が聞こえた。
「おい!何をしらばっくれてやがる!命が惜しく無いのか?!」
とある民家から人が出てくる……この街では珍しく物騒だ。
「ほ、本当に何も知らない!だから、命だけは!」
命乞いしてるのが、この街の会長だ。
「どうしましたか……?」
普通じゃないのが分かったので近くに寄る。怪我はしてないだろうか?
「危険です!離れてください!」
慌ただしそうに話す会長……それは何かを恐れてるようで。
「あらあら、誰かと思えば……吉兆ですわ。」
出てきたのは貴族だろうか……上品な服装であり背後には武装した人間が多く見られる。
「さぁ、ニュネイ……早くお家へ帰りましょう。」
その発言を聞いて直ぐに理解した、コイツがニュネイの母親であると。
「なんで……ここに?」
ニュネイは動揺し震え始めた……。
「そんなの簡単よ、あなたのお父様から頼まれたの。救って欲しいって。」
「だったら……こう伝えて……私は大丈夫だって。」
僕の後ろに隠れる……自分の存在を相手に知られたくないように。
「なんて可哀想なの……きっと言いくるめられたのね……貴方は何処へ行っても助からないって……それはただの洗脳であり戯言よ。目を覚ましなさい。」
ニュネイの母親の話が気に入らないのかソワレが前に出てきた……少しムスッとしており不機嫌そうな顔だ。
「おい、BBA!ニュネイは自分の意思でここにいるんだ!初めての友達や楽しいと思える趣味を手に入れたんだ!洗脳なんて言葉使うなよ!」
「それが、洗脳って言ってるのよ。十代の考えなんて成熟しきれない……若い内に娯楽に埋れれば抜け出す事は難しい。それを使ってあなた達は洗脳させた。おかげで反抗期も良いところだわ。」
もし、仮にニュネイが楽しみを見出せなかったらどうなってたのだろう……あながち母親の言ってる事は間違ってないのでは?
「……本当の目的は何?」
ニュネイは声を絞り出すように話す。辛そうだ。
「目的?そんなの決まってるわ、あなたを救い保護する事よ。私はあなたを愛してるわ。」
「嘘言わないで!どうせ、血が目当てなんでしょ?!」
ニュネイは急に憤慨する……後ろで叫ぶからびっくりしたわ。
「もう……いやねぇ。昔じゃないんだから……それに、今の親権は私になってるの……手続きは済ませたし、さぁおいで。」
手を広げ迎え入れようとするが……胡散臭すぎるだろ。
「ああ……あの……。」
勇気を出して話しかける。ニュネイは仲間だし助けるのは当然、それに話し合いで解決しないと……相手の話し方は上品だ……であれば僕も上品に立ち振る舞おう。
「ちょっと黙って頂戴。平凡なモブは家に帰ってシコってなさい。」
「ババア!!殺されてーのか?!きえぇえええええええええええ!!」
「うわ!びっくりした!」
今度は隣に居たソワレの肩が跳ね上がった。
憤慨しちゃったよ……全て終わらせる権利はこっちが握ってるからな?
「そもそも、貴方は誰なの?金も力もないモテもしない、権力もない、信頼もない、友達もいない、運もない、他人に迷惑かける、性格悪い、チキンで童貞、周りに舐められて生きていて………」
「うるせええええええええ!!何を知って言ってんだあああああああああ!!」
あー久々にキレっちまったよ。屋上は無いからな……地下に呼び出そうかな……。
「とにかく、貴方の主人であるヤマザキファミリアの長を出しなさい。平々凡々の貴方に構ってる暇は無いと言ってるのよ。」
色々疑問に残る、なぜ僕たちの正体が分かったのかとか……それより、僕自身が山崎春馬だと言った方がいいか……。
「いや、俺ですけど?」
「貴方が?ゲラゲラゲラ……。」
笑い方キメェ……マジでゲラる奴いるのか……。
「全く見栄っ張りは嫌ねぇ。女性の前では品が落ちるのよ……『レイガー』!」
人の名だろうか……奥から一人音を立てずに姿を現す。容姿は全身黒の装束であり変な仮面をつけている……鬼を彷彿とさせるような面だ。
「さぁ、奴を斬りなさい。私に楯突いたこと……死を持って償わせるのよ!」
「……。」
レイガーという男は何も言わずじっとこちらを見ている。
「何をしてるの?!大金を注ぎ込んだのだから働きなさい!」
「……断る。強者以外を斬る必要があろうか?」
「仕事なの!分かってるでしょ?!ギルドのヘマタイト級冒険者の力を見せるのよ!」
レイガーの装備は両腰に刀を刺していた……片方の刀、柄頭の部分に赤いギルドタグがぶら下がっていた。彼は裏依頼をやってる人物だ。
「……力とは何か……それは、正しき道を見失わない為にある、己を信じ突き進むため……」
「そっちを聞いてんじゃねぇよ!!」
ニュネイの母親がキレだす……このレイガーという男も変人枠か?
「……力を見せつければ納得するか?」
「ええ!それで良いわ!奴らを恐れ戦かすのよ!!」
「仕方あるまいか。」
レイガーは速く僕の目の前に接近した。普通の人であれば目には留まらない……この世界では珍しく強敵かもしれないが……レベルはこっちの方が上……ある程度は目で追える。
「……!」
接近してすぐに後退り……目で追ってるのに気づいたのか一気に距離を置いた。
「ほほう……面白い。平凡な見た目とは裏腹にやる口か?」
「え?何すか?」
なんか言ってんな?
再びソワレが前に出て僕を庇ってきた。
「悪いが、主人を守るのが我が勤め……拙者の名はソワレと申す。これよりの戦いを望むならば名乗りをあげ私を倒して見せよ。」
なんか、役に入ってんな……まぁ、職業アクトレスだし……仕方ないとは言え修正しないと。
「あのさ、話がややこしくなるから……今はニュネイとババアを……」
「なるほど……通りだな。我はレイガー。『アキア道場』門下生、『破龍生生流』伝承者だ。」
「お前も乗っかってくんのか……。」
「私は『大島英雄監督』の門下生(ただの大島監督のファン)流派は本人の分派である『ライジング流』(ゲタルギアライジング)だ。」
「ただのオタクじゃねぇか。」
「君もオタクかい?」
ツッコミ返しやめろ……だが……ムズムズする。
「ファンの一人だよ……。」
言っちまったああああああああ!!我慢できるか、チクショー!!
「ほう……俄然興味が出た。その流派『ライジング』とくと見たいな。」
仮面の奥からでも分かるようにレイガーも何かを期待してる……。
いや、監督変わっただけだから……スタイリッシュアクションになったからね。そんで、めっちゃ面白いからね。
「ならば、この娘ニュネイをかけ勝負致すか?」
「おい、勝手にかけるな。」
とりあえずバシッとツッコミを入れといた。
「良い加減になさい!!」
更年期ババアが声を張り上げる……耳が痛いのなんのって。自分を置いて話をしてるのが気に入らないように見える。
「レイガー!!貴方はさがってなさい!!主導権は雇い主である私にあるのよ!!仕事の少ない貴方を雇ったのは私!!自重なさい!!」
「……ふん。」
レイガーはやれやれと鼻を鳴らした。
「ニュネイ!!良いのかしら?!お父さんが死刑になる前に顔でも拝みたいじゃないの?!見たいならこっちに来なさい!!」
「うわ、ひっでぇな。」
もっと上手い誘い方あるだろ……てか、人の心とか無いんか、ノンデリとかってレベルじゃねぇ。
「……絶対に身なんて預けたくない。私の血が目的の癖に……。」
嫌な目で実の母を見る……そりゃ、子供に私利私欲で暴力振るってたらねぇ?
『くそ……生意気なガキが……こっちが下手に出てりゃ良い気になりやがって……雇った冒険者もクソの役にも立たないし……』
小声で愚痴を溢してる……聞こえないようにしてるがこっちはスキルである地獄耳で聞き取れている。予想するまでも無い、分かりきっていた事だが、ババアはニュネイを救う気なんて一歳無いようだ。
「痛い目を見るわよ!!ニュネイ!!貴方の友達が消えてくからね!」
「さぁ、行くわよ!」と身の回りに居た兵士達を引き連れどこかへ行ってしまった。
「ソワレ……ハルマもごめんなさい……。」
ニュネイの謝罪を見るに……自分ごとで周りを巻き込んでしまった事に申し訳なさが伝わる。
「いや……ニュネイは悪く無いだろ。あのババアが悪いし……。」
「そうそう、大丈夫だって。それに私らはあんなものに屈しはしない!!」
「ああ……それなんだが、そうとも言い切れないぞ。」
「どうして?」
ソワレに教えてやらないと、ステータスを見たのだが結構手強いかもしれない。
「奴の……レイガーだっけ。レベルが78とかなり高い。俺たちと同じ規格外の強さかもしれないな。」
「おお……俄然燃えてきたぜ。」
「あのなぁ……お前のレベルは69だ。そこそこ良い勝負するかもだが、数字の壁には抗えない事もある。」
「でも、戦うって約束したし。」
「俺はお前を傷つけたくないの。大人しくしてろ。」
「ええ……じゃあ……戦わせてくれないの?」
ソワレはしょんぼりと下を向いた……そんな落ち込まなくても良いだろ?でも、可哀想とか……勝手に考えるんだよな、それって甘いかな?
「……でも、あれだな。危険の芽は早めに積んどくに限るよな?」
「え?」
再び顔を上げる……何かを期待する眼差しを向けてきた。
心配しすぎるのは信頼してないって事になるのか……本質的には多分違うのだろうけど……それが彼女達の枷になってる事もあると考えれば任せてみるのも大事かも。
「こっちから迎え撃とう、前みたいに攻め込まれる前にな。ノクターンズには前線に出てレイガー達と交戦して。両脇から挟んで堕とす。」
「じゃあ?!戦わせてくれるの?!」
「ん?ああ。でも、なんでそんなに戦いたんいんだ?」
「ニュネイは友達だから、ずっと遊びたい。邪魔する奴らは私の手で全部斬り倒してやる!」
「なるほど……良かったな、ニュネイ。」
「うん。」
彼女の瞳は前よりも生きている。彼女にとって一番必要だったのは趣味でも身を置ける暮らしじゃない。出会いであり、信頼できる友人だ。この単純な答えに僕は長い時間辿り着けなかった。
三十二話へ続く……。




