第三十話 ゲノム兵過ぎるそんな貴方に朗報が……9年経っても入れる保険があるんです。
「起きて下さい。」
その言葉を聞いても中々目が覚めない、昨日飲みすぎたのが原因だが不貞寝という物事を忘れていたいような睡眠をしたのが大きい。一時的に責任を放棄する……時にそれが僕を救ってくれると信じ過ぎているのかも。
「あの、起きないんですけど。」
「あー、こういう時はですね……」
後からセンシアの声が耳に入る。最初の声は誰だろう?流石に誰が誰の声かは分かる。ただ、聞いたことあるような……。
少し思考してると瞼に何かが触れる……人の指なのは間違いない……。
「起きてくださぁい。」
「いたあああああああああああ!!」
ギリギリと瞼を強制的に開かせてきたのはセンシアだが、あまりの痛さに起き上がり、彼女よりも別の女性に目が行った。
「おい!なんでここにニュネイが……それにその格好……。」
「ああ……私達で話し合った結果、ここで働かせる事にしました。」
「ホワイ!?」
「何故って……行く当てが無いなら資金を握らせて自由な暮らしをと……それに、彼女自身の意思でもあります。」
「え?」
再びニュネイを見る、容姿は全くと言って良いほど変わっておりメイド服なのはもちろん、髪型がツインテールに……なんだろう、居たんだな……こういうテンプレな金髪碧眼ツインテ……しかも野生個体……略してワイルドツイキン。
「これからよろしくお願いします、ご主人様。」
頭を下げるニュネイ……やべー居た堪れねぇ……何故急に心変わりを?そもそも僕を嫌っていないのだろうか?
「おい……無理する事ないだろ?何もメイドじゃなくても……」
「大丈夫です、私の意思ですので。それに、皆から聞きました……私はどう足掻いても生きてけない。そして、不慮の事故であることも……それらに責任を持って行動するハルマ様を見てられないと皆が言ってました……であれば、人生をやり直す機会をくれた事もあるので私なりに解決してあげようという話です。わかりますか?」
「話が長い。」
淡々と答えるニュネイの目は前ほどでは無いが不思議と死んでいた……とりあえず、負目というべきか?その旨は伝わるとして、昨日までの人生を終わらせたい発言はどこへ行ったのか?
UIを開き名簿を確認する……Unknownの項目は無くニュネイの名前は確認出来ない、マリーダの事例のようにこちら側に付きたいという意思が無いという事だ。つまり彼女はこちらに心を完全に開いてない事が分かる。
「如何なさいましたか?」
センシアが顔を覗かせてきた。
「いや、何でも無い……。」
とにかく……彼女の意思と反するような……気まずいよー。
そんな空気の中バタバタと廊下を入る音が聞こえる……誰だろう?
扉がバンっと音を立てて開く……また俺の部屋を壊す気か?
「ニュネたそ!!いい洋服見つけたぞ!!」
出てきたのはソワレだった……いつの間に元気に……よかったよかった。
「来ましたね……教育係です。」
「は?」
センシアの発言に思わず声が……良いのか?こんなオタクに教育係なんか任せて……いらん情報を吹聴する可能性があるぞ?
「大丈夫なのかセンシア?ソワレに教育係なんか任せて?」
「良いのでは?何故か分かりませんが、ニュネイはソワレと仲が良いようなのです。」
「へー。」
まぁ、良いか。仲が良いのは素晴らしい事だ、きっとニュネイのおかげでソワレも元気になったに違いないだろう。
ニュネイはソワレと共に部屋を出ていった……。
「さて、ご主人様はしばらく休養をとって頂きます。」
「え?でも、元気になったよ?」
「良いですか?貴方は前世でも社畜でおまけにここでも働き詰めでした、社畜特有の動いてないと気が済まない症状に陥っているのです。このままでは疲労麻痺に陥り鬱病のリスクが劇的に……いわゆる、休み最後の日ソワソワ……」
「分かった!これ以上聞きたくない!!やめてくれ!!」
てか、それ小遣いのやつな?!それに彼は鬱じゃないだろ!!生きがいなんだから、あれが……。
「では、お休み下さい。」
続いてセンシアも部屋から出て行った。
そして僕は四つん這いになり思考が巡り始める……。
「よく考えてみたら、帰ってゲームしてシコって寝る繰り返しだった……この世界にゲームがないのだが……俺は何を楽しみに生きれば良いんだ?」
早速自分の時間をと思ったが……そう、娯楽が無いのだ。探せばあるだろうけど……今更何か新しい物に着手するのは難しい。そもそも異世界転生なのだからゲームの世界観を満喫しスローライフするのが普通だろう?てか、それが趣味で良いじゃん。でも結局はそれが生活に繋がり仕事に強制変換されてしまう……チェリやああアアアアアアアアアー!!
「ふざけんじゃねぇえええええええええ!!」
そして、うずくまり床をゴロゴロと転げ回る……決してキメてる訳ではない。ただ、この世界の攻略がどうしても屋敷の安寧とメイドの生活に直結するという話だ。
「いや……そもそも、考え過ぎか……彼女達だけでも十分生活できる……ただ単に彼女達を深く信用しなかった俺が悪い……。」
何を隠そう自分を追い込み爆発したのは彼女達の力に頼らなかった事だ。おかげでとは言わないが、改めてここでの生活を見つめ直す機会をくれた。
再びドアをノックする音が聞こえる……。
「どうぞ。」
立ち上がり入室を許可、一体誰だろう?
「失礼します。」
入ってきたのはニュネイだが、服装が変わっている……まさかのセーラ服……誰が着せた?
「ジャーン!!可愛いでしょ!?やっぱり、金髪碧眼ツインテは何をしても似合う黄金比に違いない!!」
後から出てきたのはソワレ……彼女も同様に同じ服を……間違い無いコイツだ。
「嫌なら嫌って言ったほうがいいぞ。」
「ひっどいなー!!ニュネたそはそんな事思ってないって!!むしろ服選ぶのに時間かかってたよ。」
というのも、ニュネイ自体悪魔の血を引いてるため生活も閉鎖的だったそうだ。騎士を目指しても位が低かった為、着られたのは平凡な兵士の甲冑ぐらいだった。そんな彼女が唯一楽しみを見出したのは僕がためにため込んだFOOの装備品、どれもデザインが富んでおり様々なバリエーションが存在する。
「ニュネイはこういうの楽しい?」
「どうなんでしょう……。」
微妙な反応、でも目はイキイキしている。少なくとも楽しいという感情が彼女には必要だ。心は開いて欲しいし信用もして欲しい。今までメイドに深く信用してこなかった僕が言えることではないが、彼女には二度と殺して欲しいなんて言わせたくない。趣味という分野で彼女の気を紛らせてくれれば最高……というのは最低かな?
「またまた〜下着も時間かかってたくせに。」
ソワレがニュネイの背後に回ると急にスカートをたくしあげてきた、パンツは白とライトグリーンのシマぱ……。
「何してんだあああああああああ!!」
慌ててソワレの手を下に下ろす……一瞬すぎてびっくりしたわ!!てか、黄金比すぎる……神々しい……まるでパルテノン神殿だった。
「えぇ〜、いいと思ったのに。」
「馬鹿野郎!!ニュネイに何しやがんだ!!」
ソワレは残念そうな顔をする、お前はデリカシーを覚えろ!
「いいえ、私は別に気にしませんけど。」
ニュネイは気にしてないようだった。それは危険な考え方だと教えなくては……。
「良いか……男相手にパンツなんか見せて良いわけが無い!!男という生き物は獣だったりするんだよ!!襲われたらどうするんだ?!」
「獣じゃなくてチキンの間違いじゃ?」
「クソが……。」
ソワレの言葉に引っ掛かりを覚えるが……あながち間違いではない……逆に取れば襲ってくる心配が無いという信頼が……いや、バカにしてるの間違いか。
「あのねぇ、嫌なら嫌ってハッキリ言う!ウチはウチ!よそはよそなの!ウチはブラックじゃないから、余程の事がないと命令はしないし無理強いもしない、他の亭主様と比べちゃいけません!」
「は、はぁ……。」
少し引き気味で頷くニュネイ……コイツは何を言ってるんだと思ってそう。
心を開いてないとはいえ仲間であるに変わりない、ここで馴染む為には嫌なものは嫌とハッキリ言うのが彼女には必要だろう。特に異性にパンツ見られるとか嫌だろ。
話はうって変わりニュネイの入寮先を聞く事にした。
「そういえばソワレ、ニュネイはどこへ配属される?」
「ああ、私達ノクターンズに入寮予定です。何でも、マルクレイブ近衛騎士だった時、夜警警備が主な仕事だったようで、都合が良いかと。」
「そうか。顔は合わせたか?」
「決まって日が浅いので私以外とは……挨拶しに行かないと。」
「ならば、行かねば。起きてるかな?」
とにかく、寮長であるフォスノーラには知っておかないと。3人で監視室まで、どうやら寮には戻らず最近監視室に篭ってるとか。
「おーい、入るぞ。」
監視室の扉を叩くが声が返ってこない、現在お昼頃……件のビデオやエロ本の獲得のせいで昼夜逆転してるので起きてるはずだが。
そっと、ドアノブに手をかけて中を確認すると。フォスノーラが椅子に座り各種監視カメラを確認してるがそれより壁に目がいく。
「は?」
そこには多くの写真が……全部自分だが、一つ一つ内容が違う、食事にシャワー、睡眠と極付きはエロ本を読みズボンを下ろす……。
パタンと扉を閉め何も見なかった事にした。
「どうしました?」
ソワレが不思議そうに話す。
「忙しそうだったから、時間を改めるか。」
「うっそだー!ずっと暇してますもん!」
「多分あれは暇じゃないよ、さて次はヤミコ達に挨拶しないとね。」
「え?ちょっと?」
ソワレの話は聞かず、ノクターンズ寮へ……世の中には見なくて良いものもある。
ノクターンズ寮の部屋に行くと皆んな起きていた。
「何してんの?」
ヤミコとロンガがカードゲームをしている……サマニアはルール説明を読んでおりずっと首を傾げていた。
「屋敷を散策してたら見つけた。『デュエル王』……。」
ヤミコが散策して見つけたそうだ、でもどこに?確実に地下に私物が多く転送されてそうだが。
「で、どうしたん?」
ヤミコが本題を切り出す。
「ああ、お前達に新しい仲間が加わる。」
ニュネイが前に出て挨拶をする、緊張はしてない……心を開いてないからかな?急に仲間が出来ましたと言っても飲み込めるまで時間はかかるだろう……。
「どうも、ニュネイ・ブリジット・ハウズです。お世話になります。」
「んー長いな……ニュネたそは?」
それ流行ってんのか、お前ら?
「……ではこれからニュネたそと名乗れば……。」
「いやいや、愛称だから。真面目に受け取らなくて良い……。」
「はぁ。」
まさかと思うがニュネイってちょっとズレてたりするか?それとも郷には郷に従うように受け入れやすい性格なのか……。
「そんな事よりニュネたそもデュエル王やろうよー。」
ヤミコが強引にニュネイの手を引っ張る。
「あ、それは後でです。ニュネたそにはご主人に付き添いの研修がありますから。」
ソワレが止めに入る……そういえば、何故私室に入って来たのかさっぱりだった。てか、研修っていう概念がお前らにもあるんだな。
「別に付き添いはいらないよ、敷地外には出ないし大丈夫だって。」
話から察するにお付きがニュネイ……普通に気まずいんだよなー。これを機に仲を深めるのも大事なのは承知だが、いかんせん何を話して良いか分からねぇ。
そもそも、ここのメイドはグイグイ来る子が多いので陰キャな自分からすれば恵まれている。だが、ニュネイはそうじゃない。彼女が心を開かない限り自分の話をして来ないタイプだと感じてる。ファーストコンタクトは最悪だったからこそ独白されたけど今の感じじゃお互いの距離感を探るか彼女の性格上仕事での私語はしないタイプの人間だろう。まぁ、予想ですけど。
「仕事であれば、全うします。」
まぁ、こんな感じだしな。いかにも仕事だけして、私語はしないタイプと感じる。こういうタイプは少し苦手だ。それでも……。
「……気が変わった。庭周りでも歩いて行くよ、ニュネイも来てくれる?」
「はい。」
一つ僕の中で目標が出来た、何が何でもニュネイの心を開かせる事。名簿の欄に彼女の名前を出現させよう。ソワレも付いているから攻略しやすいはず。気まずいとは言えコミュニケーションは大事。ソワレがオタク話で話を膨らませて僕が補足するようにツッコミを入れれば僕達がどんな生活でくだらない会話をしているか分かるはずだ。それに慣れてくれれば心も開きやすくなると思う。
「じゃあ、私はデュエル王やるんで……とりあえず、デッキ破壊極めないと……。」
ソワレは足早にヤミコ達の元へ……え?
「おい……お前は付いてこないのか……教育係だろ?」
「ドロぉおオオオオオ!モンスターカード!!」
「聞けえええええええええ!!」
『後で合流します。』とか言ってるけど……ぜってー来ないだろ。
——そして、庭に出て外の空気を吸いに……後ろにはニュネイが居る、気まずい……ぐわああああああ!!
なんだ、この地獄みたいな空気は……小学校の頃を思い出す。机に僕が居るのだが、周りが女子のグループと陽キャのグループに挟まれてる感覚だ、陰キャグループこそあったがそれすら混じられない……その時友達は別のクラスで寂しい思いをしたあの感覚に近い!高校の時教室に戻ると自分の机を女子が占領していた時すら思い出す……中から取り出したい教科書があるのに、怖すぎて断りを入れられなかったあの感覚にも等しい……。
つまり、何が言いたいのか……一歩踏み出す勇気が僕には無い……やはり童貞なんだ……僕は。
「あの……。」
「ファイ!」
急な伺いにびっくりした。
「私と二人きりで気まずくないですか?」
「へ?」
まさか、そっちから話してくるなんて……予想外だった。
「さっきからその……表情が優れないというか……大丈夫ですか?」
「いやいや……大丈夫だって……そう、ただ何て話しかければ良いか……。」
「嫌ですよね、私みたいな……急に殺して欲しい何て言われて、二人っきりになっちゃうなんて……結局私は死ねない人間なんだし。」
「死ねない?」
「死ぬ勇気がなかった……誰かの手で殺されれば……特にあなたのように強いに人間が一撃で屠ったら痛みもないだろうと……でも、あなたは拒んだ……私はソワレにも頼みましたけど、彼女も無理だと……だったら自分で……でも、自分で自分を殺すって結構難しくって痛いのが怖いっていう感情が出て来たんです……そこからズルズルと私は自分の立場とソワレさんの居心地に甘えました……。」
「そうか……。」
ソワレの奴も苦しかったかもしれない……あれは空元気なのだろうか……いや、彼女はそんなスタンスは取らないはずだ。自分で楽しいと思った事を共有できる良い奴だから……それをニュネイにしたまで。
「正直、私は機会があれば死にたいと思ってます。既に父は戻らない、王国では犯罪者の娘の汚名を着せられます、悪魔の血を引いてるだけで冷遇される。他国へ行くお金もないですし、ここで何年働けば良いのか……。私に居場所は見つかるのか。」
こいつネガティブ過ぎるだろ。そろそろめんどくさくなってきた。疲れてんのにこんな話聞きたく無い。そういえば、ミトラスは責任を放棄しろと言った。その言葉に僕は甘えさえてもらう。ニュネイはメイド達に任せると決めたしな……。
「じゃあ、ずっと居れば?」
「え?」
少しヤケクソ気味だが、それが丁度いい事もある。
「答えが無いなら、目標を立てればいい。まずはお金を稼ぐ事、ウチは低賃金だけどベッドはあるしご飯もつく、なんなら仲間もいる、変な奴しかいないけど。」
「え?」
「あと、これから死にたいって言葉も禁止な。命令だから。」
「は、はい。」
「黙って働けとは言わないし、自由にしてくれた方が俺はありがたい。社交辞令もいらん。楽しく過ごせ、コスプレ趣味だったらそれでも極めとけ。」
「はぁ……。」
何がなんだがという顔をしている。
「笑った方が可愛いって言ってんじゃ!!」
今度は彼女の瞼をギリギリと開かせる。
「イタタタタタタ!!」
「俺を無理矢理起こしたかったらこれぐらいしても構わない。殴っても構わん、俺はMだから強めに頼む。」
そして、彼女の瞼から指を離す。
「俺が俺達が責任を持ってお前を幸せにする。(外に出して自由な暮らしをさせる意味で。)だから、ここでは楽しく過ごせ。」
「はい……。ありがとうございます……。」
彼女の頬に涙が流れる……。
「うわああああ!!ご、ごめんなさい!!」
強く言いすぎてしまった……きっと怖かっただろうに……。
尚、ニュネイはただ単に解放された気分になって泣いただけだ。
——一方でヘイムス・ヴィティズ寮では。
「はぁ……。」
シックス・アイズがため息を吐く。
「どうしたの?」
オロチはそれを心配する。
「私達……嫌われたのかな。そう考えるとご飯も喉通らないし生きていけない。ムカデって20から50個の卵が生まれるらしいのよ。」
「最後は何の関係が?」
「恐るべき子供たち計画が終わる……私の夢が……どうやったら仲直りできると思う?」
「それは簡単ですわ。」
そして、ひょこりとドロシーが出てくる。
「謝るしかありません事よ、そもそも私達の勝手な行動で招いてしまった事……ご主人とニュネイ本人に謝罪するしか……あと、ソワレにも……。」
ドロシーは最後だけ小声で話す。
「私はご主人には謝ったけど、肝心のニュネイが……。」
バツが悪そうに頭を抱えるシックス・アイズ。
「暫く間隔を空けるべきね。急に顔を出しては驚かせてしまう。」
「そうね、オロチ。暫く私達は安静にするべき。」
「てか、恐るべき子供達計画とは?」
オロチが疑問を口にする。
「簡単よ……ハルマ様のクローンを大量に生産するのよ。私という種を交えて。もし、いつか旦那様が元の世界に帰ってしまったら私は苦しくなって発狂する未来が見える訳よ。」
「なるほど……。」
「だから、大量の子供達と一緒に過ごすの♡男の子だろうと女の子だろうと構わないわ……私と旦那様の可愛い子供ですもの……。」
三十一話へ続く……。




