第二十七話 見れぬ顔。
脅威は去った、王都アトロニクスでショタの貞操を守るという大仕事が出来て光栄だ。
ダン伯爵が手配した馬車で僕とセンシア、マリーダとノクターンズの6人を乗せて屋敷まで戻る。お菓子のお土産も買ったし、帰ったら渡さないと……。
「どうでも良いけどさ……狭くね?」
最大でも6人のれる馬車を利用してるが両肩がぶつかる。
「ヤミコが誰かの服の中に入ればいいだろう。」
ロンガの言う通りだ、少し空きを作ればマシになる。
「お前忍者なんだから、上に張り付いてろよ。」
いや、無茶言うなよ。
すると、パンパンとセンシアが手を叩く。
「良いですか?この際仲良く帰るのが大事です、喧嘩などせず大人しく屋敷に着くまで待ちましょう。」
さすが全寮の統括……ごもっともな意見を述べる。
「ですので、ご主人を外に出すのは如何でしょう?」
「は?」
なんで?なんで?俺は仲間じゃないの?
「た、確かに……。」
サマニアが変に納得している、だから何故?
「良いですか、ハル様……あなたは痩せる必要があります。」
センシアがこっちを見て話す。痩せるとは?
「え?それって、どういう?」
そして急にセンシアが向かって右側に移動し、僕からの視点でも右端にいる、そしてその奥にはマリーダがいるのだが……。どこかで見た構図だ……。
「良いですか、落ち着いて聞いてください。あなたは昨日腹を下しながら眠っていた……ええ、ええ、そうです。」
「いや、頷いてるけどこっちは何も言ってねぇからな?」
そんで、本家はそんな事言わねぇ。
「どのくらい眠っていたのか……数時間です。」
「そりゃそうだろ。」
「もう一つ……これが今のあなたの姿です……実際に見てください。遅かれ早かれいつかは受け入れないと。」
そう、僕の体は太っていた……昨日食べたオムライスが原因で……。
「だからなんだよ?」
「両肩が当たるのはあなたが原因という事です。」
「別に良くね?」
「狭いんですよ。」
すると、ロンガが腹に縄を巻いている、何しとん?!
「とりあえず、シェイプアップです。」
5人が一斉に僕を持ち上げ馬車の外へ放り投げる……。
「「「「「せーの。」」」」」
「がああああああああああ!!」
そして地面を転がるように落ちると縄が引っかかり引き摺られる。
「イタタタタタタタ!!」
「頑張って痩せてくださーい。」
センシアが外に顔を出し叫ぶ。
「こんなんで痩せられるか!!」
立ち上がり必死に馬車に付いて走る……まぁ5キロぐらいの速さだったら全然ついて来られるか……。
「御者さん……スピードってあげられます?」
「へい。」
すると、急に速度が……魔法の世界であれば10キロ以上のスピードを出せる訳で……。
「まずい!!スタミナが……うわああああああああ!!」
10キロ以上というか20キロ近く速度が上がっていく……太っているためか普段なら付いてこられるはずが付いて来られなくなっている。時たま引き摺られると当然ダメージを喰らう……。
——こうして、全力疾走で帰る……着いてる頃にはスタミナとHPがゼロに近い状態だった。
「良かったじゃないですか?痩せれましたよ?」
「ほんまや。」
何で?何で?代謝が良かったのだろうか?いやいや、だとしても都合が良すぎるだろ……。
疑問に思いながらも無事に屋敷に着いた。やっと我が家に……色々大変だったが皆んなと協力して脅威を払った……資金も十分に確保できたし、これから待っているのは安定のほのぼの異世界生活だ……。
玄関の扉を開けると多くのメイドに迎えられる。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様。」」」」
「ただいまー」
まず自室へと向かった。
アルガニーテからもらった木彫りの像を目立つところへ置く……お供物は後でで良いか……神棚も後で作ろう。
あらかた用を済まし、部屋を出るとフォスノーラが立っていた。
「お、どうした?」
「あの……最近、ソワレが……。」
「なんか元気無いらしいね。」
「はい、帰ってきた皆んなもソワレを元気付けようとしてるんですが……ダメそうで……出来ればご主人本人が話を聞いてあげて欲しいと……。」
「もちろん。」
結構緊急事態かも……それに気付けなかった自分が許せなくなる。
お土産を持ってフォスノーラと共にノクターンズ寮へ向かい部屋の中へ……。お菓子ぐらいしか渡せないけど、何もしないよりはマシだ。
中にはノクターンズメンバーが揃っておりベッドの中でうずくまるソワレを囲むようにロンガ、サマニア、ヤミコがいた……。
「あ、きたきた……ソワレ、ご主人来たよ。」
ヤミコがソワレに伝えると、少しビクッと跳ねる。
「どうしたんだよ、ソワレ……。」
とりあえず凝視すると、ステータスが……状態異常に不安と悲しみの状態になっている……明るい彼女にそれは似合わない。何故こんな……。
「ご主人……。」
毛布の隙間から顔を覗かせる。
「とりあえず、話してみ?話したく無いならそれで良い。どうだ?」
腰を下ろし彼女と同じ目線で話す。
「うん……。」
「ヘイムス・ヴィティズと喧嘩した……。」
「そっか……じゃあ仲直りしないと。」
とにかく、またケンカは起こして欲しくない。喧嘩の発端と解決をしなければ彼女達が仲良く生活は出来ない。
「ん……でも、難しいと思う。彼女達は何とも思ってないし、謝ったところで考えが変わるか……。」
「……?それって、どういう……。」
「彼女達……本当に嫌われちゃう……本当の事言ったら……ご主人絶対に怒っちゃう……う……うう……!!」
すると、ギャン泣きする……えぇ……。
「泣かないで、僕が君達を嫌いになったりはしないさ。ここに住まう30人は絶対に嫌いになる事は無い。」
「ズピ……分かった……」
鼻を啜り首を縦に振った……。
もう、話せそうな状況じゃないな……一度出て再度訪れよう、ソワレが落ち着いてる間にヘイムス・ヴィティズ寮へ向かわなければ。
疑問に思ったのは喧嘩という割にはヘイムス・ヴェティズを庇っているような……彼女は仲が悪くなるのを恐れてるのと同時にヘイムス・ヴィティズが僕に嫌われてしまうのを恐れていた。それは一体どういう事だ?
「ああ……あとこれお土産……。」
最後にフォスノーラに紙袋をポンと渡す。
ノクターンズ寮の部屋を出ると今度はセンシアがいた。
「どうですか?ソワレは?私以外も皆んな心配してまして……。」
「ああ、とりあえず今は話せる状況じゃない……どうやらヘイムス・ヴィティズと喧嘩したらしいけど……。」
「では、お供します。統括として知っておかなければ。」
「ああ、頼む。」
センシアと共に地下へ毎度のようにお土産を手に……ヘイムス・ヴィティズの寮へ訪れると何かを感知する。
「ん?」
生体反応……生きてる、人間か?だけど、瀕死の状態か……。どちらにせよ仲間じゃなさそうな……。
扉の前まで行きノックする。
「入るぞー。」
「これは……ご主人様……ど、どうぞ……。」
シックス・アイズが出てきて扉を開けてくれるが……後ろがバタバタと動いている、何をしてるんだ。それに、いつもだったらそんなにしどろもどろな迎え方をシックス・アイズはしない。
「お前、どうしたの?」
「いや……特に何も……。」
なんか、隠してね?
中に入るとメラニアが椅子に座っていたが、目線を合わせない……。
「いた!!聞いてくださ……むぐ!!」
ドロシーが出て来るとオロチの尻尾で口を塞がれる。
「はは……ドロシーはソワレと喧嘩しまして……ちょっと不機嫌なだけで……。」
「ソウ。」
オロチの説明にリンが流されるように同意してくる。
「……その喧嘩の件だが……。」
すると、ヘイムス・ヴィティズの面々が固まる……バツが悪そうだ。
「なんか、今日おかしくね?どうしたの?」
「あ、あれですよ……えっと……。」
シックス・アイズが何かを思い出そうと奮闘している、マジで何か隠してんな……事と次第によっては……。
「……ご主人。すまない。」
すると、メラニアが急に口を開く、第一声は反省の言葉だった。
「隠し通そうとした訳じゃ無い……裏切るつもりもなかった……言おう言おうと考えていたが……怖くて……。」
「く……メラニア……そこまで言っては……。」
シックス・アイズが更に焦り始める……。
「つまり、お前らは俺に何か隠し事をしてるって事だな?」
「はい……。」
メラニアがそれを認める……嫌な予感がする。子供の遊び程度であって欲しいが……この感じは……。
「で、でも……不可抗力、私達にだって娯楽やら生活がかかってるのだし……これぐらいは……。」
シックス・アイズが必死で何か話してる……正直どうでもいい……問題は俺に何を隠してるかだ。答えを言えと強く言いたい。
「ハルマ様……こちらを……。」
センシアが何かを見つけた……その場所まで歩み寄る。
「し、仕方ないですよ……私達は、上のメイドとは違いますし……そういう感性が無いんですから……。」
シックス・アイズの言い訳が後ろから響いてくる、センシアの案内した場所に目をやると不思議と怒りが湧いた。
「は?」
思わず手に持っていたお土産を落とす……音は寂しく紙袋の軽い音を立てるが、不思議と感情の重みが伝わる音だ。
檻の中に居たのは人間の女性?だろうか……四肢は切断され皮膚は全て無くなっている、所々骨が見えており削られた場所であると目で分かる、女性器なんて形すら無い。
その姿を無意識に凝視していた……嫌でもステータス画面が出現するとレベルは5であり、名前を確認すると一気に感情が押し寄せる……。
ニュネイ・ブリジット・ハウズ……間違いなくエントロの娘であり、行方不明の扱いを受けてる……こんなところにずっと居たのか……そして俺はそれに気づかなかった。
「一つ聞く、以前の戦いでこの子はお前達を襲ってきたのか?」
「えっと……。」
レベルは5……正直コイツらと戦ったところで勝てる訳はない、問題は愚かにもヘイムス・ヴィティズと闘ったかどうか……。
シックス・アイズは答えを探している……悪いがこれに答え探しはいらないしシンプルな回答で十分だ。
「はいかいいえで答えろ。」
「いいえ……。」
「そこに並べ。」
センシア以外のヘイムス・ヴィティズが並ぶ……全員の顔を見るに気まずそうに顔を伏せていた。
「まずは、俺が全て悪い……すまなかったな。もっと事細かに説明すべきだったし襲って来ないなら見逃せと強く言うべきだった。ただな?」
ここからが問題だ……俺に断りを入れずに勝手に人を利用した事だ。
「なんで、俺に許可を求めなかった?」
「最初は言うべきか迷いました……でも、メラニアの話を聞いてる内にお許しが出ないと分かりまして……なので、隠しながら利用しようと……。」
シックス・アイズが説明する。
「そうか……どちらにせよ俺がこういうの嫌なの知ってて隠してた訳か。」
「ちが……」
シックス・アイズが否定しようとした瞬間、思いっきり重力魔法が出てしまった……知らない間に恐怖のオーラも……怒りから来てるのか、制御できない。センシアは顔を歪めながらも必死に立っているが、前のヘイムス・ヴィティズは立つ事が出来ない。床が激しく揺れ、小石は少し浮き用水路の水は波を立てていた……普通はこんなに強くはない。
「メラニア……お前がいながらこいつらを止められなかったのか……そして、お前まで……。」
「も、申し訳ございません!!私も女性の綺麗な皮膚が欲しかったので……お、お許しを!!」
ヘイムス・ヴィティズは重力に逆らえずついに体全体が床に沈み始める……ダメージの概念を無意識に打ち出していた。
あー、てか……なんで俺はキレてんだ……彼女達はただ生活がかかっていたに過ぎないだろ……娯楽も必要さ……ただ、裏切られた気分だから怒っているのか……それとも、エントロの娘だと知ってキレたのか……はたまた、俺の管理不足のなさに……もう、分からねぇや。
「は、ハルマ様!!皆の体力が……!!」
センシアの言葉に我へかえると魔法を解除する……何してんだ……俺は……こいつらに傷をつけるなどと……くだらねぇや……。
床はボロボロに……ニュネイにだけ何故かダメージは入ってない庇おうとしたからか?……お土産も……ボロボロだ……そして、目の前にいる彼女達も……壊す事だけは得意なんだよな……。
「センシア……この子をミトラスの元へ、体を復元させろ……。」
「はい……。」
センシアが檻を開けてニュネイを抱き上げ部屋を出ようとする……。
「良いか、絶対に元へ戻せ。ミトラスが拒みでもしたら……俺がこの屋敷の脅威になると伝えろ。」
「……かしこまりました。」
背中で返事をした後部屋を出て行った……。
「さて……テメェらだが……。」
どう伝えれば良い……俺は、彼女達に倫理というものを教えなくてはならない……他の寮は多少なりともそれを身に付けてるが……こいつらにはそれが一歳ない……。
「メラニア……お前には少なからず倫理はあるだろ?」
「恐れながら……心得てます。」
「なら良い、問題はお前らか……。」
何が正解なんだろう……今思いついた事は間違ってるかな……それで彼女達がどう受け取るのか……楽しみになってきて……いや、おかしいな……今日はなんかぶっ壊れてるよ……俺。
——教会ではミトラスによってニュネイが意識を取り戻した……。
「ここは……。」
最後の記憶である地獄とは想像も付かないほど神々しく教会であると理解した。
「とりあえず、これを。」
近くに居たセンシアが布一枚を差し出す、ニュネイは裸であり状況を知るため辺りを見渡していた。
「一体何が……。」
「本当に……何も覚えてない。それか、記憶するのをやめたか……。」
「一体何を?」
ミトラスの言葉がよく分からなかった。
そして、その教会へ誰かが足を踏み入れる……。
ニュネイはハルマを見た後、その後ろにいた人物達に嫌悪感を示す。
「こ、来ないで!!」
後ろにいるヘイムス・ヴィティズを見るなり足をすくませながらも後退りをする。
僕はただ、彼女に近づき膝をおろす。彼女に向き合うの事しか頭にない。
「謝って済む事でないのは重々承知だが……全て俺の責任です……大変申し訳ございませんでした……。」
土下座した……。ヘイムス・ヴィティズは呆然と突っ立っている。そうしろと命令した。
「後ろにいる彼女達は俺のメイドであり、俺が生み出したものです……倫理が欠如しているのは俺の不手際であり、あなたに恐怖という感情を植え付けたのは他ならない俺です……。」
そして、彼女に攻撃力の高いナイフを渡す。
「これで、俺を刺してください。ズタズタに……。」
「は?」
「あなたの父親を殺したのも俺です。つまり、俺はあなたの人生を奪ったと言っても過言ではありません……なので……殺して下さい。」
どちらにせよ、エントロは死刑……王族を手にかけようとしたのだから……その事実を彼女に伝えよう。もし、彼女が生きていると分かればエントロも罪を犯さなかったのだ……。
「く……死ねぇえええええええええ!!」
問答無用で彼女は俺の心臓を刺す……すぐに息絶えたが、それでも見てられない程に死体を刺しまくった……それをセンシア、ミトラスとヘイムス・ヴィティズが見送る、何もしないのは俺がそう命令したからだ。
僕は俯瞰で彼女が疲れて眠るまで己の死体を見続けた……正直見てられない……これが正しい事なのかすらも分からない。目を赤く腫らしながら人を刺すという行為は何か特別な感情……それも、望んでいない類に入っている。今から僕は是が非でも蘇生させられる、また彼女と面と向かわなければいけない。この特別な感情があるせいで生き返るのが苦しく感じる。だが、僕の意思には死にたいという気持ちはまだ無い……この屋敷にはメイドがいる……主人である僕がいないと成り立たない、最後まで引っ張ると決めたら、何でも受け入れてやる。それが例え自分自身で作り出した負目であってもだ。
二十八話に続く……。




