第二十三話 イチャイチャしてる暇があるなら勉強しなさい。
カーテンの隙間から陽が刺してくる……一体どれくらい寝ていたんだろう?今、頭はスッキリしてるし昨日の気分が嘘のようだ。やはり、寝るに限る。これだけで気分が晴れるんだからな。
ただ、そう言い聞かせて自分の正当性を図る。人間として当たり前の思考をしているに過ぎないだ。
気分としては昨日よりはかなりマシ……。それでもベッドから出たく無いのは何故だ?
「あー。」
「どうしたの?」
「それがさー……ハッ?!」
ポンテ・モーレ……いつからベッドに?!クソ爆睡してたせいで気づかなかったか……。
「まだ、元気でない?」
すると、右手の平を合わせて絡んでくる。えぇ……なんていう手の繋ぎ方ナンデスカ、コレ?
ポンテ・モーレの顔が近くなる……これはズゴゴゴゴッご。
ヤバイ!なんか、ラノベでよく見る情景だ……こんな事を望んじゃいない!
耐えかねてベッドから出てしまった……あんなに出たくなかったのに……やはりキャラを守る為には出る必要もある。
「さて……僕は行動を開始するよ。元気も出たしね、ありがとう。」
僕は紳士だからね、童貞であっても平常心を忘れちゃならない。本物の魔法使いになるために30歳まで守るんだ。既に魔法使い(定期)。
「良かった。」
同時に彼女もベッドから出てくる……え?
だけど、僕の平常心は直ぐに折られた。体は硬直し視線が彼女から離せないほどに……。
「どうしたの?」
その視線に気付いたのか、心配してくる。これは……とてもじゃないが……僕にはまだ早いとすら感じた。
「ポンテ・モーレ……お前、何で裸なの?」
「うん……好きかなって?」
白い肌を凝視していれば当然、ステータスが出てくる。そこには、見過ごせない項目があった。
「は?」
「ん?」
性格が『クーデレ』だとおおおおおおおおおおおお!!
「お、お前!!何の本を読んだ?!」
か、変わってる……『クール』から『クーデレ』に……。
「ああ……これ。」
手に取り出したのは、『君が見せない表情。第二章』だ……誰だ渡したやつ!!
「カストディーアが、ヴァリアンズ入寮の先祝いとしてくれた。」
「そんなもん、ポンポン渡すな!!」
アイツかアアアアアアア!!ふざけんじゃねぇえええええええええ!!
「でも、こういうのが趣味なんでしょ?……昨日のあの様子を見たら私……心配で。」
「……。」
ポンテ・モーレは心配している、こんな表情は見たくない……ならば、僕が不安を煽がないためにも通常運転を心掛けなくてはならない。
「心配しないで、僕はいつも通り元気だから。だから、ポンテ・モーレもそんな顔するな。僕は君が好きだから(メイドとして)。僕なんかの為にそんな顔をする必要はない。体を使う必要もない、僕は君に傷を埋めるような行動をして欲しくないんだ。」
すると、彼女の方から抱きついてきた……えぇ?
「好き……私もご主人が好き……だったら、何でも出来るよ。好き同士だったら。」
「ん?」
どういうこったい。童貞だからか……はたまた己がアホだからか……言ってる意味が分からない……多分後者だが。
ハートの器のステータス画面に変化が現れる……。
『愛の器が満杯になりました。ヤッタネ!』
謎の電子音……。
ポンテ・モーレから出ているUIを改めて確認する。例の恋愛ゲームのUI画面だが、ハートの器はMAXになっており100%、そして最後の文だが。
『あなたを最高の彼氏だと思っています……チッ……死ねよ、殺すぞ?』
というテキスト……なんだ、最後の文は?お前も感情があるのか?UIのくせに……お前は俺をどう思ってんだ?変態ってつけたいのか?どうなんだ?
「ご主人……。」
抱きしめが強くなる……え、ナンデスカ?
「えっちなご奉仕してあげるね。」
最悪の展開だああああああああああ!!いや、最悪じゃなけどヤったらお終いなんだよ!童貞のキャラクターが崩れてしまううううううう!!
「うがああああああああああ!!」
押し倒される……馬乗りになると完全に身動きが出来ない……。
「ま、待て!!俺はこういうのは望んでない!!」
「私は望んでる。」
両腕を抑えられる……力はこっちの方が上だ、もし力を込めすぎて怪我でもさせたらと思うと力が入らない。
出来る限りの抵抗をしてるとドアをノックする音が聞こえる。
「失礼しまー……した。」
少し開けて直ぐ閉めた……声的に多分センシアだろうか。
「良いから助けろおおおおおおおお!!」
あの野郎……めんどくて見て見ぬふりを……。
「く……誰か助けてくれえええええ!!センシア!!廊下に誰か居れば来てくれええええええ!!」
叫んだところで何も反応はない、僕はここで童貞を捨ててしまうのか?
「今は私だけに集中して……他の女の名前とか聞きたくない。」
さらに力が加わり両腕がちぎれそうになる。
「お、落ち着け!なってからでは遅いんだ!」
「みんな赤飯炊いてくれそう……。」
「みんな優しいからなー……赤飯……まだ擦ってんのか……。」
赤飯ネタはもう良いんだ!!とにかく抵抗するしかない!!
「もう、覚悟を決めて。刺すよ?」
すると、ナイフを取り出す。その武器は相手にマヒ効果を与える……このままでは……本当に……。
その時、僕たち付近の床に素早く謎の切れ込みが出来る。
「危ない!」
咄嗟にポンテ・モーレを引き寄せ彼女の顔を胸に抱き寄せる。頭を手で守り腰に腕を回した……敵か?
直ぐに床は抜け落ち、下の階へ落ちる。
「あ、出てきた。」
そこに居たのはマリブルであり、刀を抜刀していた。お前が犯人か?
「何してる?」
意味分からん。とにかく疑問を口にした。
「なんか、カストディーアが良からぬ気配がすると。『乙女のカン』らしい。」
「は?」
どういうこったい。
「ご主人……何してるの?」
すると本人が出てくる……寝起きなのか、メイドの服は着ておらずボサボサな髪にスポーツブラっていうんですか?そんでもってスパッツだし、健康的な体のラインがくっきりしている。
「なんで怒ってんの?」
表情が少し不機嫌そうだった。何かあったのかな?
「やっぱり……そうやって、私は二の次。もう、良いよ……私は実家に帰らせてもらいます。」
「いや、実家とかねぇだろ。」
カストディーアが下を向きながらその場から消えて行った。
「浮気者。」
マリブルがゴミを見る目で酷い事を言う。性格が『マグロ』だから顔に出てないけど、しっかりと圧があった。
「ま、待て……俺は……。」
「ご主人……早く謝った方がいい。私も協力する。」
ポンテ・モーレが協力するとか言ってるけど……お前が一番の原因だからな?!
「ちゃっかり自分を外しやがって……。」
だけど、これらの発端は僕にある。勝手に落ち込んで周りを心配させてしまったのが大きな原因だ。ポンテ・モーレは心配して行動を起こしたに過ぎない、スケベイベントを発生させてくれただけ感謝するのが道理ってもんだ。
ギルドの仕事を継続させるには彼女達の信頼関係が必須。今日はカストディーアに許しを得て頂く日にしよう。なんと言っても彼女は戦闘要員として完成されている、大事なメンバーであり彼女は4番目に作った思い出のあるメイドなのだから。
因みにだが、マリブルに聞いた所『乙女のカン』というのはスキルの一種らしく突然カストディーアに発現したらしい。効果として意中の人間が危うい時に知らせてくれるようだ。
まぁ……メイドだし彼女達は僕に使える都合の良いNPCの訳なのだから僕が意中の人間であるに変わりはない。意中であっても決して僕は手を出さない……童貞のプライドを守る為に……。
「どうでも良いけど、離れてくれない?」
「眠い。」
ウトウトして腹の上で寝てしまった。
ポンテ・モーレはキャットリアン……猫だからね、1日の大半を寝て過ごすから……。
彼女を抱き抱えカリス・ピスティソス寮の扉を開けると、ルトロスがおり『ヤンデレもデレてるだろうがよ。』と言ってきて半殺しにされた……その時、不意に彼女のステータスを開いてしまったが、項目の中に彼女にも乙女のカンがあった……そのスキルを入れた覚えは無い。聞く余裕もなかったので言及はしなかったけど……あのスキルは自然に発生するものなのか……ギャルゲー要素が僕にも付与されたのだ……おかしくはないか。
ボロボロの体を動かし、カストディーアを探す。どこにいんだ?
廊下を散策しているとアーマードセキュリティーシステム部隊……ASSだっけ?彼らが何かをしている。居たのはコモンの甲冑達だ。
そっと壁から彼らを覗くとエプロンを付けて床を掃除していた。
『はぁ……それにしても、フォスノーラ様は俺たちの扱い方が荒いぜ。』
『仕方ないだろ、あの方達は睡眠の要素があるんだ。俺たちにはそういった要素は愚か、疲労を感じない。所詮オブジェクトだ、NPCじゃない。』
『だが、最近仕事を切り上げるの早くないか?そして、残業を押し付けてるんだぜ?』
うわ……なんて事だ。オブジェクトとは言えこんな事をさせてはいけない……恐らく、ベッドの下から取った俺のベコのせいで勤務が怠慢になっているのか……これは厳しく言わなくては。
『先輩方!!』
するともう一体甲冑が走ってくる。
『なんだよ?C6?』
『小耳に挟んだのですが、主人がカストディーア様の乙女の純情を踏み躙ったとの事です!』
『へー、まぁいつもの事だろ。』
え?いつもなの?
『それが……今回はヴァリアンズ寮から出て来れない程だとか……。』
『……ふーん。』
『今から、N10や隊長にも伝達していきます!!』
おい!!そんなの広めなくて良いから!!
すると甲冑は音を立てて再び走り出した……くそ、お前らも噂好きか?
——とりあえずヴァリアンズ寮へ……一刻も早く謝ろう。
寮の扉を叩き、入室の許可を得る。
扉が開く、開けたのはプロファンダーレ……。
「あ。」
彼女が顔を確認するなり、直ぐに閉めた。なんでだよ?!
「おい!!人の顔見て直ぐに閉めんな!!」
『ご主人はこの寮を出禁になりました、お引き取りください。』
「なんでだあああああ!!」
そして、少しだけ扉を開け、その隙間から顔を覗かせる。
「良いですか?カストディーアは今、傷心中なんです。今のご主人が来ても逆効果ですよ?」
「そうかな…そうかも…。」
犬のように流される……どうだろう……いや、面と向かって腹を割って話せば分かってくれるはず。
「お願いだ、一言だけ謝りたいんだ。」
「ダメです、そもそもカストディーアはベッドから出れない程……」
聞き馴染みのある声が奥から聞こえる……。
「うわあああああああ、漏れるううううううう!!」
その肝心のカストディーアだが、扉をぶち破りプロファンダーレと僕を下敷きにトイレへ直行した……。
「出てっけど?」
「尿意は抑えられないですから。」
プロファンダーレと共にトイレの出口で待機する。
「ふースッキリした。」
やっと出てきた……。
服装はさっきと変わらない、本当に寝てたんだろう。
「なぁ、カストディーア。」
「さて、もう一眠りするかな。」
全く話を聞いてくれようとしない、それどころか居ない者として扱った。
「お、おい。」
「……。」
プロファンダーレと共にヴァリアンズ寮へ……その後ろ姿をずっと見ていた。
UIの画面を開き、彼女の好感度を確認するけど。ハートの器はパンパンになるほど膨れており120%と大きかった。だけど今現状、僕のことは『あなたを嫌いだと思ってます。』という表記になっている。ちゃんと悲しい。
——どうやったら口を聞いてくれるか、それが知りたい。なんせ相手は乙女だ、ならば乙女に近い女性の話を聞くべきだろう。
「どうすれば話を聞いてくれると思う?マリーダ?」
「え?」
ダイニングでお茶を嗜んでいるメルヘン女子ならば何か良い引き出しを持ってるはず。
「そうですね……聞いた所によればカストディーアさんは乙女だとか……そうであれば、ロマンチックな展開を望んでいるはずです。」
「うーん。」
ロマンチックねぇ……そんなのとは無縁だからな。もうだめぽ。
「仲直りデートとか良いんじゃないんですか?恋する乙女は皆んなそれを望んでますよ。」
そんな訳あるか、ファンタジーの世界だけどファンタジーじゃないし、都合よくご機嫌になるのか?そもそもご機嫌取りとしてデートって……それって見合わないんじゃ……。
「そうと決まれば実践あるのみです!デートに誘えばいくらでも口は聞いてくれるもんです!!」
「いや、僕は。」
「今日の夕食は豪華に行きます!任せてください!良い雰囲気を作っておきます!」
「あの、聞いてます?」
「これ、おすすめのデートスポットです!!頑張って下さい!応援してます!!」
「聞いてんのかあああああああああ!!」
「よーし!!私も頑張るぞおおおお!!」
「これ、強制イベントか?!」
『はい』も『いいえ』もないイベントに巻き込まれた……これに関しては現実で起こらなくて良いから……。
——マリーダが張り切っていたが……とにかくなってしまったものは仕方ない……ヴァリアンズ寮へ再び……。
「カストディーア、デート行こうぜ。」
もう知らん……何が起こってもだ。野球しようぜ感覚で扉に話す。
すると、扉が少し開き再びプロファンダーレが顔を出してきた。
「良いですか?そんな言葉でカストディーアが……グバアアアアアアアア!!」
後ろからカストディーアがぶっ飛んで来る……今度はプロファンダーレのみが下敷きになる。
「で、デート?!準備するから待ってて!!」
それだけ言うと、また戻って行った。
「が……た、助けて……。」
「これが、強制イベント……。」
プロファンダーレの心配をするより予想外の出来事に衝撃だ……マジで分からん、やっぱり行動は色々と起こしてナンボなんだな。
——カストディーアと二人きりでクレアトラ街へ……メルトケーレなどの城郭都市は異種族に厳しいのでここしかない、おまけにマリーダからデートマップたるものを渡された……これ、いつ準備したんだ?
「よし、早速行こうぜ!!」
「お、おう。」
なんか張り切ってんな……服装が白色の長袖ワンピース。スカートが長くボッタリしてるがいつもの豪快なイメージはなく女の子っぽい……肩が少し露出したデザインで気合が入ってるのか……。
「へへ……。」
なんか、モジモジしてるし……。ああ、あれか。
「可愛いね、いつも可愛いけど。」
「あ、ありがとな。」
これで良いのか……やはり、脳筋だよな。こう……直ぐに受け取るのが。
——最初は昼食を取るためカフェたる所へ……。
「うお、うめー!」
カストディーアはバクバクとパンケーキを食べる。
「よ、良かったな……。」
コレで三皿目……体格が大きいからか結構食べる。僕は普通にコーヒーだけ。テーブルの上の八割はカストディーアが占領していた。
口を見るとクリームが付いている、一口がデカイし噛まないで食べちゃうからな。
「カストディーア。」
「うん?」
口をハンカチで拭く……少し体を前にしないと彼女の口まで届かない。
「あ、ありがとう……。」
なんだ……これは、おかしいぞ。普通はあまりコイツで萌えないのだが、今日は不思議と萌えが来る。何が起こってやがる。
——次は服を買いたいそうで、服屋へ。
「おお……。」
カストディーアは辺りを見渡し、羨ましそうに見ている。この世界の服も案外オシャレ気があるが、ただ一つ問題がある。
「すいません……ここのお店は人間用のものが多くて……。ヤマザキファミリアさん達の事も思って異種族用の服も発注したんですが……ちょっと厳しいようで……。」
店員が申し訳なさそうに話す、仕方がない。そういうお国柄なのだから、郷には郷に従うのが普通さ。
「ご主人!」
「おう。」
なんか手に持ってんな。
「どっちが似合う?」
見せてきたのは色違いの下着……童貞すぎて感想が出ねぇ……なんて言えば良いんだ?
「まぁ……どっちも似合うんじゃない?てか、サイズ大丈夫なの?」
「どっちもって……まぁ、サイズは気合いでなんとかする。」
「気合いじゃなんともできないだろ。」
「とりあえず、着てくるね。」
カストディーアは試着室へ入っていった、試着室は吹き抜け……背が高い彼女だ、頭が少し見える……。
彼女はあえて小さい下着を選んできた。そっちの方が柄がありデザインに富んでいる……大きいのは質素で機能的であるから彼女にとって選ぼうとは思わなかったのだろう。
そもそもメイド達の衣食住の衣に関してだが、今まで手にした衣服もとい装備が大量にある、それを彼女達が勝手に着る事も可能だが……頑なに着ていない、ほぼメイド服だし……そこはブレないようで別にオシャレしたって構わないのだが……着る気配はないな……因みに服は自在に伸び縮みというか、彼女達が手にすればサイズは勝手に適用される……ゲーム特有の都合の良いサイズになるのでおかげで困りはしない。
「てか……服いっぱいあるのに……わざわざ買う必要あるのか?」
「えっと……女性とデートしてるのに、それは禁句では?」
店員さんに注意されてしまった……やはり僕は恋愛なんて向いていない……。
そんな話をしていると試着室から声が聞こえる。
『ダァアアアアアアア……キツイ。』
試着室で見せてきた下着を着ようとしてる……無理しないでくれ。
そして、試着室のカーテンが開く。あえて下はカーテンで隠していた、絶対入らなかっただろ。
「どうだ!これ……。」
苦しそう……。もう、締め付けてるだろ……それ。
「いや、まぁ似合ってるけど……苦しくない?」
「苦しい……。」
「とりあえず、服着ようか。」
——そしてクレアトラ街中央の噴水まで、カストディーアの手には下着の入った紙袋を持っている。
ベンチに腰を下ろし休憩する事に。
「……ダメだった。」
なんか落ち込んでる……下着如きで……なんて言ったら失礼だな。
「なぁ……カストディーア、なんで今日は付き合ってくれたの?」
「だって……滅多に一人を見てくれないから……特に私の事。いつも、平等に目を配ってるけどさ……誰かが暴走したらそっちに注力するでしょ?不可抗力ってやつか?いつもそんなスタンスなのに、ご主人から誘ってくれたから……チャンスかなって。」
お前、脳筋なのにロジックを固めた話をするな……困惑するわ。
「だからさ……構って欲しいっていうか……私からそう言える勇気はなくて……」
拳をゆっくりと握りそればかりを見つめていた……顔は赤く唇を閉めており顔を見せないようにしていた。
「……。」
それに気づいてるのに、結局かける言葉なんて僕には思いつかなかった、なんて答えるのが正解なんだ……?
「……出来れば、今後は私だけ見て欲しいというか……。」
「すまない、恐らく僕は誰かを一人だけ見るのは出来ないかも。」
誰かとなんて……無理だな……俺は皆んな平等に愛してるし……。この答え方は流石の僕でも最低だと分かってる。
「知ってる……童貞だから。」
「関係ねぇだろ、舐めやがって。」
「だから、私頑張る。」
「ん?」
「誰にも負けないように……ご主人……いや、アンタが私だけを見てくれるように……する。」
「そうか……え?」
「今はご主人様だけど、それってずっと続くの?」
「ああ……そうだな。」
確かに、ずっとこのままって事はないよな。年もとるし人生観も変わってくる……この世界はゲームじゃない、意思があって時間が進んで行く。この意味を考えるに今のままでは豊かな生活に限度があると言う事だ。それに気づかせてくれたのは……。
「ありがとう、カストディーア。俺はお前が好きだよ。」
「いや、騙されない。どうせ、メイドって意味だろ?」
今更期待はしないというようにカストディーアはジト目で見てくる。
「かもな。」
ぶっきらぼうに答えよう……なんか、今の僕の心の内とか知られたくないな……。
「なんだよ……。」
彼女は少し残念がった……。
「でも、君のおかげで昨日の事は全部吹っ飛んだ。デートして良かったと思ってる……正直ドキドキした。」
「へへ……。」
改めて彼女の笑顔を見ると気持ちが洗われるというか……特別な感情……いや、そんな事ないか……所詮、エロ本見て作ったキャラだし……そんな感情はないはずだ。でも、またその笑顔を見たいとか勝手に思うのは何なんだろう。
「日も暮れてきたし……帰るか。」
手を繋いで帰った……初めての感覚だが悪くない。
——屋敷に戻るとマリーダが出迎えてくれる……。
「おかえりなさいませ、ご主人様。お嬢様。」
「うん?」
お嬢様?カストディーアの事か?
「今夜はスペシャルディナーを用意してます。どうぞこちらへ……。」
それっぽい動きをしてダイニングまで案内される、中央にテーブルがあり向かい合うように座らされる。
すると早速食べ物が……小前菜か。クラッカーの上にチーズがある……恐らくコース料理を出してくるか……。
「いただきまーす!」
カストディーアがクラッカーを手に取り口へ頬張る。
「うん……ゴフジンもタヘレバ?」
こいつにテーブルマナーは無い。とはいえ、流石に口に入れながら喋るのはよろしくないな。
直ぐに皿の上は無くなる、そこから前菜、スープ、魚料理と一般的な流れで進行して行く。
食事を楽しんでいるが……いつの間にか紅茶が出されている……おい、速くないか?そんなに早く食べたらお腹壊すぞ?
心配したもののカストディーア満足そうに平げた……元気よねー。
周りを見渡すとメイドは居ない、おかげでムードは結構良い。
「……ご主人さ。この後はどうするの?」
「いや……特に予定はないけど。」
「だったらさ。」
すると、両手をゆっくり握ってくる……不思議と暖かく感じた。そして、体を突っ伏し顔を覗かせる。
「部屋に行っても良い?」
「いや、床抜けってけど。」
「もう助からないゾ♡」
両手をがっしりと掴んでくる……離す気が無い。
「聞いてます?あと、それ飛行機のやつね。」
床抜けてるって言ってんだよ。墜落するって言ってんだよ。
すると、センシアが出てくる。
「いたいた。」
「な、なんだよ?」
こんな時に……マジで何だ?
「明日、アリスの婿役として出席しますので……お付きを誰にするか……」
「ふん!」
カストディーアに握られた両手がテーブルに沈む……それどころか体も持っていかれ事故現場のような感じになる。
「バカ!!私はNTRが嫌いなんだよ!!何が婿役だ!!もう知らない!!」
スタスタと早歩きでその場から居なくなる。
ムードをぶち壊されてお怒りだ……あーなんてこったい。これはもう助からないぞ……。
「全く……空気を読んでください。ご主人様。」
「お前がな?」
「乙女相手にはムードを作って楽しませるのが鉄則ですよ?それを肝に命じて行動しましょう。」
「お前がな?」
「さて……明日の夜には王都に着きたいので。今のうちに準備をしましょう。ブックマークをしてない場所ですので、直接行かなくては……」
なんで、どいつもこいつも話を聞かない奴ばかりなんだ……。
ていうか、婿役の件すっかり忘れてた……ギルド関係で忙しかったのが原因か……それでも計画的に行動しなかった自分が悪い。
そんな事より今日はこの世界に来て一番印象に残った日かもしれない、カストディーアに感謝しよう……。彼女にだけは何かと特別な感情を抱いている……いや、ねぇや。
二十四話へ続く……。




