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そんなこんなで、プチお茶会を終えた私たちは、莉嘉さんにお会計を完全に任せてそのままお店の外に出て待機する。


「……ねぇ、本当にあたしたちお金払わなくていいの?」

「払える金額じゃないと思うけど」

「……なんで断らなかったの、あたし……っ!!」

「まあ、いいじゃない。払ってくれるって言ってるんだし!」

「そんな呑気な問題じゃないんだけど!?」


……まあ、正直私だって本当は内心ドキドキしてるけどさ。してんるだけどさ。こそっと財布を鞄から取り出したのに、それを目ざとく見つけられて、あんな笑顔を向けられたら何も言えなくなりますって。

すごすごと引き下がるしかできなかったのです。


「けど、流石にケーキ美味しかったねぇー」

「それは認めるわ!」


ケーキの話題に切り替わった途端、キラキラとしだした千霞ちゃんをみて、さすが女子……と思う。

いや、私も一応女の子の分類なんだけどね。

外はすっかり暗くなっていて、ちょっとだけ肌寒い気がする。さすが、まだ5月と言うだけあって季節の変わり目だ。

長袖を着ているのだけれど、それでもちょっと寒いなーと思うのはきっと私だけではないはず。

あー……カーディガンだけは持ってくればよかったなぁ……。

と、そんなことを考えていると千霞ちゃんに突然話を振られる。


「ところで、ひめはどうするの?」

「え?なにが?」

「今度の連休」

「……お家でおとなしくしてる」

「……やっぱり、そう言うと思ったわ」


思ってたなら聞かないで欲しかった。改めて自分の口からそう言うと虚しくなるんだから。


「だって、ルクスくんが意味のわからないことを言ったから。外に出て鉢合わせようものなら問答無用で連れていかれそう。それは怖い。本当に怖い。だから、お家でおとなしくしてる。お菓子でも作ってようかな……」

「ひめにとってどれだけプリンスが恐怖の存在かありありとわかるわね」


いや、うん。だってねぇ。


「あれだけのことをやってのけるあの人も私はすごいと思うよ。ある意味尊敬する」

「……ひめ……」


私の言葉の意図に気づいたのか、千霞ちゃんが微妙な表情をする。まあ、その想像は間違っていないのでなにも言いません。

そんな会話をしていると、夕ちゃんがひょこりとこちらに顔を出す。


「じゃあ、私と遊ばない?姫ちゃん」

「え?」

「誰かと一緒にいたら、流石にあの変態もなにかしようとは思わないでしょう?」


……聞かなかったことにしたほうがいいのか。これは。


「え……っと、夕ちゃん、今なんて……」

「え?変態」


容赦ない単語が聞こえてきました。いや、私は別にいいんだけどさ。私もその認識でいるんだから。けど、一応ここには親衛隊のトップである莉嘉さんもいるんだからあまりそう言うことは言わないほうが…。

とか思っていると、莉嘉さんがお店から出てくる。


「ルクス様の新しいあだ名ですか?」

「いえ、私と姫ちゃんの共通認識です」


あ、なんか普通に受け入れられてる……。どう反応したらいいんだろう。反応しないほうがいいのか。

それは私だけではなく千霞ちゃんも感じたらしく、微妙な表情をしていた。うーん……慣れって怖い。


「あ」


突然、莉嘉さんがそう小さく声をあげた。何だろうと私と千霞ちゃん、夕ちゃんが首をかしげると、背後から肩を掴まれた。


「……っ!?」


驚きすぎて声が出なくて、思い切り肩に置かれたその手を振りほどいて背後にいる誰かから背中を守る。私のその行動に驚いた千霞ちゃんと夕ちゃんもハッとしたように自分たちの背後を見る。

そこにいたのは、ルクスくんの付き人であるゼファーさんだった。


「……何の用ですか」


私のその反応に驚いたのか、ゼファーさんは両目を見開いて驚いている。けれど、それを気にする余裕など私にあるはずもなく、棘が強すぎるほどの口調で相手を問い詰める。


「何か用か、と聞いているんです。なんですか」

「……いえ、こちらにいたのをお見かけしたので、挨拶を……」

「なんで普通に声をかけることができないんですか。嫌がらせかなんかですか。それとも、あの時のように、私が反応しないとでも思って?」

「……いえ…決して、そのようなことでは……」

「あなた、私が今のようにされたら驚くと分かっていたでしょう。なんでそれをやるんですか」

「それは、忘れて……」

「忘れていたら、あなたはなんでも許す人間なんですね。なんと懐の広い。感激します。ですが、私はそんなにも寛大な人間ではありませんし、あなたがわざとやったとしか思えません。なので、もう私に関わらないでくれませんか」

「……」


黙ったゼファーさんを睨みつけながら、私は莉嘉さんの隣まで移動した。そして、みんなに声をかける。


「じゃあ、私は帰るね。莉嘉さん、ごちそうさまでした。今度は是非、私たちが行っているカフェに行きましょうね」

「ええ。楽しみにしています」

「はい。じゃあ、千霞ちゃん、夕ちゃん。また明日ね」


そういって、私はその場を後にしたのだった。


* *


「……それで、その方はどなたなんでしょう?」


莉嘉のその言葉にハッとしたように、千霞と夕が反応する。けれど、夕もまだ知らない人物であったため、答えられない。そのことに思い至った千霞が、すこし居心地が悪そうに目の前のイケメンを紹介する。


「……雪村の付き人さんだって」


そういって、千霞は当たり障りのない紹介をした。名前を言わなかったのは、なんとなくいってはいけないような気がしたから。

なにせ、莉嘉の雰囲気がとてつもなく怖い。


「まあ、ルクス様の。それにしては礼儀がなっておりませんのね?」


バッサリとそう言い切った莉嘉の言葉に、その場の人間は沈黙するしかできない。

千霞と夕も何も言わずに黙ってしまい、ちょっと居心地が悪い。が、莉嘉の言っていることが間違っているとも思えないため、弁護することもできない。


「それで?“わたくしの”姫乃さんに何かが用があったのかしら?」

「……ねぇ、千霞。聞き間違い?」

「……私も今夕に確認しようとしたんだけど」

「莉嘉様、姫ちゃんを“わたくしの”って言ったよね……?」

「聞き間違いだと言ってほしいわ……っ!」


そんな千霞と夕の会話など物ともせず、莉嘉は目の前にいる男を睨みつけるようにして見つめている。一応笑顔を作っているのだからそこは大人な莉嘉だった。

そんな莉嘉の反応を見て、ゼファーは少し怯む。

目の前にいる日本人形のように美しい少女がどうしてそこまで自分に敵意をもったのか、いまいちわからない。

確かに、姫乃に対してのあの行動はいけなかっただろう。けれど、それは自分と姫乃の問題であって、目の前にいる少女には全く関係ないことだ。突然現れてまるで全てを知っているかのようなその態度に、ゼファーは少なからずイラつきを覚えた。


「あなたには関係ないだろう」

「関係ない?よく言えたものですわね。姫乃さんの安らぎを奪った男がよくもぬけぬけと」

「…」

「自覚なさっているのにそれを認めないのは、ただのガキですわよ」


ふん、と鼻を鳴らして莉嘉はその長く美しい漆黒の髪を手で払う。

莉嘉の言葉にゼファーは流石に苛立ちを隠せなくなったのか攻撃に出た。


「だから、あなたには関係ないと言っている。突然出てきてなんでも知ったような態度をされるのは大変不愉快だ」

「あら。この場合、突然出てきたのはあなたの方でしょう。わたくしたちは4人で仲良くアフタヌーンティーを楽しんだおりましたのよ?それなのに、突然あなたが訳のわからないちょっかいを姫乃さんに出したから、彼女だけ先に帰ってしまったではありませんか」

「うぐ……っ」

「やっと彼女を思う存分愛でられる日が来たというのに、何邪魔し腐ってくれてらっしゃるんでしょうね?地獄に落ちろ」


千霞と夕は事の成り行きを見守るしかできなかったけれど、流石に呆然としてしまった。

あの莉嘉が、あんなにも憧れてやまなかった莉嘉が、そんな言葉遣いをするだなんて。ちょっと夢を壊された気分である。

最初にハッとしたのは夕だった。


「……莉嘉様、莉嘉様。言葉遣い」

「あらいやだ。これは大変失礼したしましたわ。ついでてしまいましたわね」

「つい、で出ていい単語じゃなかったんだけど……まあ、そこは気にしないでおきましょう」

「夕さん、何も私も完璧な人間ではありません。このストレス社会で発散場所がなければわたくし狂ってしまいますわ」

「……否定できないですけど」

「なので、これからはあまり気にしないでいただけると嬉しいですわね!」

「……ど、努力します……」

「ありがとうございます」


なんだかよくわからない会話をしていると思ったけれど、これは突っ込んだら負けなんだと理解した千霞は黙することに決意した。

莉嘉自身も言っていたけれど、このストレス社会で発散しなければならないことはたくさんあるのだからこれ以上彼女の発言についてとやかく言っても仕方がない。

一方のゼファーは今までにないタイプの女を目の前にしてどうすればいいのかわからなかった。

姫乃もそうだったが、なぜか見た目に騙されてくれないタイプの人間なのだ。基本的にゼファーは自分はイケメンだと自覚している。そして、一国の王子でもあるルクスの付き人ということもあり、よくわからない妙なプライドも持ち合わせていた。だからこそ、ただの一般人である姫乃や莉嘉にここまでバカにされたような態度をされるのは我慢ならない。

無意識に莉嘉に掴みかかろうとしたけれど、それは突然現れた別の人間に止められる。

セミロング程度の髪を後ろで一つに括ていて、完璧にスーツを着こなしている女性だった。高いヒールの靴も履いている。

一体どこから出てきたのかと言いたくなるほどだ。


「……お嬢様に触ったら殺します」


低い声でそんなことを言って相手を威嚇するその女性に、ゼファーはひっと流石に息を飲んだ。それは、その女性に守られるようにして立っている千霞と夕も同じだった。


(ちちちちちちょっとぉ!!千霞っ!!)

(待って、あたしに言わないでよ!初体験よ!)

(こ、この女の人、わたしたちを守ってくれてるのよね!?守ってくれてるんだよね!?)

(た、立ち位置的に、そうなるんじゃない……?まあ、あたしたちをっていうよりも莉嘉様をって感じだけど……)


ひそひそと会話を交わすことしかできない2人は、それでもなんとか話をして意識を恐怖から逸らそうとしているんだと、2人して自覚していた。

目の前にいるこの女の人、めっちゃ怖い。


「あらあら、ダメよ、エル。わたくしの友人を怖がらせないでくださいな」

「も、申し訳ございません、お嬢様……」

「その謝罪は、お二人におっしゃって?」

「は、はい。あの、えっと……、その…………」

「…………」

「…………」

「し、失礼ですが、お名前は……?」

「……えっ、あ、あたしは千霞です」

「ゆ、夕です」

「千霞様に夕様ですね。失礼いたしました。怖がらせてしまい、申し訳ございません……!」


目の前でおろおろとしている女性を見て、千霞も夕もどう反応すればいいのか分からなくなった。さっきまでの人と同一人物だよね?と、思わず2人共が胸中で考えてしまったほどに。

振り向いて自分たちに謝罪してくれている女性は、恥ずかしそうに俯いておろおろしている。それは、先ほどまでの怜悧な空気を醸し出していた女性とは似ても似つかず本気で「誰?」と言いそうになった。

しかし、それが口から出なかったのは、彼女は振り向いて恥ずかしそうにしているにもかかわらず、その右手にはギリギリと締め上げるように握っているゼファーの手があったからだ。

相当力が強いのか、ゼファーの方は痛みで顔を歪めている。


「エル。いつまでも握っていたら、あなたが汚れますわよ?」

「それは嫌ですっ!すぐに離しますっ!ですからお嬢様、手を繋いでくださいっ!」

「まぁ。甘えん坊さんね」


くすくすと小さく笑いながら、それでも莉嘉はエルと呼びかけていた女性に向けて手を差し出す。それにすがりつくように行動するこの光景を、千霞と夕はどんな気持ちで見ればいいのかと本気で悩んだ。


「さて。長居が過ぎましたわね……。お二人とも、今日は駅まで送りますので、乗ってくださいな」


え?と思った時には、莉嘉のすぐそばに黒塗りの車がすでに止まっていた。いつの間にと言いたかったが、もう気にしないほうがいいだろうと2人は諦めの境地に立った。


「お言葉に甘えて、お願いします」

「あたしも、お願いします」

「ええ、どうぞ。車内で姫乃さんの可愛さをわたくしに存分に語ってくださいね!」


莉嘉のその言葉に思わず足を止めそうになった2人だったが、それでも車に乗り込んだ。

そして、一番最後に乗り込もうとしていた莉嘉が後ろに振り向き、言葉を投げ捨てた。


「いつまでもその身分にあぐらをかいていていいと思っていたら大間違いですわよ、ゼファー」


そう言って、莉嘉は車に乗り込んだ。車はすぐに発射し、ゼファーを置いて去っていった。

その場に残されたゼファーは悔しさに歯噛みするしかできなかった。

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