15
「え、昨日ひめちゃんの家に行ったの?なんで連れてってくれなかったの?」
次の日のお昼。私は変わらず、千霞ちゃんと夕ちゃんとお昼を一緒に食べていた。場所は教室。昨日のことがあったからなのか、ルクスくんは近づいてこず、今日はお昼になると同時に教室から出て行った。
後からなだれ込んできた女子を見て、うわ、大変そうだなー、とか他人事のように思いつつも、私は気にしないようにした。
「いや、声をかけようかと思ったんだけど、おまけがいたから嫌がるかなと思ってさ」
「おまけ?」
……おまけ呼ばわりされている。
あれでも一応どっかの国の王子なんだよね?
こんな扱いに私自身が慣れてきたけどいいのかな……。
「まあ、でも元気になってよかったよー」
「うん。本当は熱があるとかじゃなかったんだけど、大事をとってお母さんがお休みの連絡入れちゃっただけだから」
「それでも、倒れたなら要安静だよ!ひめちゃんって、自分のことあんまり頓着しないよね」
「あー……うん。そうかも」
「その分、私たちが大切にしてあげるから安心して!」
うん、そう言ってくれるってわかってて言葉を返したんです。ほんと性格悪いな、私。
「それよりも、今日の帰りどっかのカフェに行かない?」
「え?でも、部活あるでしょ?」
「大丈夫!先生と先輩の許可は取ったし。後輩たちにもちゃんと事情話してあるから!」
いったいどんなことを言ったのか、ものすごく気になるんだけど…夕ちゃん……。けれどそんなことを聞くだけの勇気は私にはないです、はい。ごめんなさい。
そんなこんなで、私たちは今日の放課後にカフェによることになった。
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授業が全て終わり、約束の時間になった。
けれども、一応部活に一回顔を出さなきゃいけないと言っていた二人に、私は行ってらっしゃいと声をかけて見送り、危険度の低い図書室に行くことにした。
いちおう、夕ちゃんと千霞ちゃんのラインにその旨を記しておくってある。
私は一人でてくてくと図書室に向かって歩き出した。
「あっ、姫乃さんっ!!」
ものすごく会えて嬉しい!みたいな声が背後からかかり、私は後ろを振り向く。そこには、日本人形のように美しすぎる女の子が立っていた。
「あ、莉嘉さん……」
「お会いできて光栄です!姫乃さん!」
「お久しぶりですね」
「ええ、昨日、お休みしたとお聞きしていましたので心配しておりましたの。大丈夫ですか?」
「はい。熱などはなかったのですが、大事をとってお休みをいただいただけですから。平気です」
そう私が言うと、莉嘉さんはすごく安心したような表情をした。
「私、まさかファンクラブのとある一味の人間が姫乃さんに害をなしたのではと思っておりましたので……今すごく安心致しました。まあ、もしそうなら抹消するだけなのですけれど」
……ちょ、怖い怖い怖い。
そんな物騒なこと言わないで。そんな見目麗しい姿と見惚れるほどの笑顔でそんなこと言われたら本気に聞こえちゃうじゃないですか。
そんなことを思いながらも、私は目の前にいる莉嘉さんを見て一応の笑顔を作った。この人、絶対に敵に回したくない。
「そうだ、この後、時間ありまして?一緒にカフェでも行きませんか?」
……今日はやたらと誘われるな、カフェに。でも私はすでに約束してしまっているために、莉嘉さんの誘いは断らなければならない。少し心苦しい気もするが、仕方がないだろう。
「ごめんなさい。私、この後友人とカフェに行く約束をしているんです」
「あら、出遅れてしまいました?」
「そう、いうことに…なるんですかね?申し訳ありません」
「まあ。お気になさらないで。お話ししたいと思っただけですのよ。もちろん、姫乃さんをもっと知りたいという個人的欲求を満たすために」
「……莉嘉さんに私のことを知っていただいても、なんの得もないと思うのですが……?」
「そんなはずはありませんわ!!」
え…なんで突然全力否定されたんだろう。
不思議に思って、私は思わず莉嘉さんを見つめてしまう。莉嘉さんはそんな私の視線にまるで答えるかのように力説を始めた。
「ルクス様のお側にいるという奇跡を体現されている姫乃さんですのよ!?少しでもお話ししてあなたのことを知らなくては!もしあなたがルクス様に傷をつけた場合、もしくは逆に傷をつけられた場合に、私は正確な判断をすることが叶いませんもの」
話を大きくしないで。ほんと、お願いだから。
そもそも、私がルクスくんと一緒にいるのは本当に偶然出会って、何か私が含むところがあって近づいたわけではない。そこのところは理解してもらわなければ納得ができない。
と、そこまで思考を巡らせて、私は今の莉嘉さんの言葉に首をかしげた。
「……私がルクスくんに傷つけられる?」
「何をそんなに不思議そうにしているのです?」
「あ、いえ……偏見で申し訳ないですけど、ファンクラブの方ってルクスくん第一みたいに考えている人が多いと思っていたので……」
「本当に偏見ですわね」
「す、すみません……」
相当失礼なことを言っている自覚はあったが、莉嘉さんの声音に寂しさのようなものを感じて私はすかさずに謝った。さすがに、失礼すぎることを言っている自覚はある。
しかし、莉嘉さんはそんな私を見ながらくすり、と小さく笑った。
思わず、莉嘉さんを見つめてしまう。
莉嘉さんは口元を片手で優雅に少し隠しながら言葉を紡いだ。まるで扇でも持っているような仕草である。
「そうやって、あなたは素直に謝ることも、他人を思うこともできる方ですもの。一方的にあなたを悪者と決める事はいたしませんわ。それに、私は姫乃さんと友人になったのです。確かに、その動機はとても不順だったと私も理解しておりますが、それでも、あなたと仲良くしたいと思う心に偽りはありませんわ」
そう言って、莉嘉さんは口元から手を外すと、両手で私の両手を握った。
少し驚く。
「そう思っている人間がいるとうことを、忘れないでくださいね、姫乃さん」
にこり、と優しい微笑みで私を見つめる。日本人形のように整った美しいその表情に、とろけるような微笑みを乗せて見つめられれば、一瞬で顔を真っ赤にできる。実際、同性の私も赤面できた。
この人、美しすぎる……。
一体、何人の男を泣かせてきたのだろうかと、ちょっとどうでもいいことを考えてしまった。
「ところで、姫乃さんはどなたかを待っていらっしゃるの?」
突然話を振られて、私は慌てたように返事をした。
「あ、はい。そうなんです。先ほど話した、今日一緒にカフェに行く約束をしている友人を待ってるんです」
「姫乃さんのご友人……。私も会ってみたいです」
「いいと思いますよ。じゃあ、私と一緒に待ちませんか?今、二人とも部活の方に少し顔を出して今日はやtt無旨を伝えているところですし」
「そうですか。では、お言葉に甘えて、私も姫乃さんと一緒にお待ちしますわね。私が一緒であれば、姫乃さんに害を加えようとしている輩も出ては来られないでしょうし」
そう言いつつ、莉嘉さんはちらと周りを見渡す。……え、まさか監視されている感じなんですか……?
そんなことを胸に思いつつ、私は莉嘉さんを伴って一緒に図書室に行くことにした。
「多分、そんなに時間はかからないと思いますけど、ごめんなさい。私の安全のために、図書室に行かせてくださいね」
「ええ、もちろんですわ。それには、私もそのほうが安心致します」
「…そ、そうですか……」
もう突っ込まないほうがいいのだろうかと思う程度には、諦めがついて来た。うん、諦めも肝心て言葉がみにしみるね。
しばらく私は莉嘉さんとともに図書室で待っていると、千霞ちゃんと夕ちゃんが私を迎えに来てくれた。そして、私と一緒に待っている莉嘉さんをみて、ぽかんとした。……あれ?そんなに驚くことなの?
「……え、なんで莉嘉様がここに?」
「マジで?幻覚……じゃないよね?」
……ちょっと待った。なんで莉嘉様?この人、そんなにもすごい人なの!?
「あら、お久しぶりですわね。お二人とも」
ご存知なのね!?
「ちょっと、姫ちゃん!莉嘉様とどうして一緒にいるの!?」
「え?えっと……」
「私と姫乃さんは友人ですのよ。一緒にいても問題はないでしょう?」
「莉嘉様と友人とか!私も友人になりたい!!」
「まあ、もちろんですわ!姫乃さんの友人なら、喜んで歓迎します」
「嬉しい!」
……このキャッキャウフフ的な空気はどうなんだろうか。呆然とそれをみている私とは千霞ちゃん。もういま目の前のことについていけない。
「……これは、突っ込んでいいの?千霞ちゃん」
「……るい……」
「え?」
「ずるいわ、夕!あたしだって、莉嘉様と仲良くなりたい!!」
「えぇ!?」
「まあ、もちろんいいですわよ。まあ、私はあなたたちのことは存じ上げておりますけど?」
莉嘉さんのその言葉に、二人は手と手を取り合って大はしゃぎしている。……いい加減、この置いてけぼり感がハンパない。
というか、カフェいないの?
「それよりも、お二人は姫乃さんとカフェに行く約束をしていたのではなくて?よろしいの?」
「はっ、何もよろしくないです!ごめんね、姫ちゃん。ちょっと興奮しちゃった」
「え、うん。いいよ」
むしろ、置いてけぼりにされた方が正直ありがたい。話に混ざってと言われても私には無理だ。絶対に無理だ。
「えっと、莉嘉さんは有名人なんですね?」
「ええ。ファンクラブの中ではそこそこ」
「……知らなくてごめんなさい」
「まあ、お気になさらないで。私のことを知らないという姫乃さんとお話できたことはとてもうれしいのですから」
……この反応、前にもあったぞ。
というか、ここ公立だよね?なんでこんなにもお嬢様やら王子様やら面倒な人種がわんさかといるの?
私立行きなよ。ほんと。その方が冷暖房完備ですっごく嬉しい環境がついてるのに。なぜ私立に行かなかったの。
むしろ私が行きたかったよ。私立。冷暖房完備とか、なにそれ。嬉しすぎる特典だよね。
「さあ、行きましょう?このままここにいては日が暮れてしましますわよ。それに、余計な方々もついて来ようとしていたみたいですし。私も一緒に行くと言ったら散っていきましたけど」
「………えっ」
「まあ、そんなに不安にならないでください。できる限り、私もあなたのことを気にしますわ、姫乃さん!大丈夫です!」
……いや、本当に大丈夫の要素がなにもないけど。
「そうですわ!安全な場所を選ぶなら、私の行きつけのカフェに行きませんか?」
「莉嘉さまがいくカフェに!?し、敷居が高いです!!」
「そ、そうですよ!そんな……っ、贅沢なこと……っ!」
千霞ちゃんと夕ちゃんのその言葉を聞いて、私は開きかけた口をとっさにむぐっと閉じた。
……危ない。私遠慮なく是非とか言いそうだったよ。そうか、莉嘉さんがいく場所は敷居が高いのか。私あんまりそういう認識持ってないな。もうちょっと気をつけよう。
「まあ、でも、姫乃さんは行きたそうな表情をなさってますけど……」
「ひめ!?」
「ひめちゃん、行きたの!?」
「うえっ!?そ、そんなに顔に出でました!?」
「ええ。口を閉じた瞬間もしっかりと見ましたわ」
「……えっと」
そご見られているのも、なんだか微妙な気分なんですが……。
「えっと……い、行きたいけど……二人がそこまで言うなら……」
「……ひめ、顔。顔」
「だ、だって……絶対に美味しいところだと思うよ?」
「私もそう思う。思うけど、私たちみたいな学生が払える場所ではないと思うのよ。わかる?」
「うぅ……っ」
それを言われればなにも言えない。私も一応お金は持っているけれど、確かに大金を持ち歩いているわけでないのだ。
でも…食べたい……っ!
「でしたら、今回は私が皆さんにごちそうします。もともと3人でいかれるところに無理やり入った上に、お店の変更を提案したのですから、そのくらいはいたしますわ」
「やったーっ!」
「ちょっ。ひめ、喜びすぎだから!」
「だって、美味しいものが食べられるなんて嬉しくて!前パフェ食べてた時はルクスくんに邪魔されて全部食べられなかったよ!?」
「どんだけ前の話してるのよ!?忘れてあげてよ!」
「食べ物の恨みは忘れない!」
諸手を挙げて喜んだ私に千霞ちゃんが突っ込み、けれど私はそれも気にしない。私は忘れない。あの時に食べ損なったパフェのことを!!
「……まあ、ひめちゃんがいいなら、行ってもいいんじゃない?」
夕ちゃんのその言葉で、私たちは莉嘉さん行きつけのカフェに行くことになった。




