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落ち着こう、私!

……いや、無理だよ、見られたよ絶対に!

やばい、さすがにあれは恥ずかしすぎる。どうしよう。扉を思い切り閉めてしまった。いや、でもあんなところにいる人も悪いと思う。いるならいると、千霞ちゃんと一緒にカメラに映るべきだったと思う。だって、カメラがあるのは見ればわかることなのだから。

もしかして隠れてたの?え、何のために?

私への嫌がらせなの?趣味悪い嫌がらせだな!

はっ!だめだ。ここで一人で考えてると口がどんどん悪くなる。いや、もともとお上品な人間でもないけど、下品にもなりたくない。

……とりあえず、長めのパーカーを羽織ってもう一度扉を開けよう。

そう決意して、私は玄関の靴棚を開ける。ここは一部改良してあって、突然の訪問者が来た時のために何か上に羽織るためのものが少しだけ置いてあるのだ。

私もお母さんも面倒くさがりだということがこれで理解していただけるだろう。

いや、今はそんなこと関係ないですね。


「……ごめん、閉めちゃって」

「あ、うん。大丈夫。あたしも悪かったから…………って、何も変わってないじゃん!!」


と、千霞ちゃんに突っ込まれ、本日二度目の扉バタン事件(何のことやら)。近隣に迷惑なのは間違いないです。本当にすみません。

仕方がないから、一度部屋に戻ってきちんと服を着込む。と言っても部屋着なのは変わりないけれど。お風呂に入っちゃったらもう外出用の服を着るのは嫌なのだ。だから、部屋着で勘弁してください。

今度こそ、私は千霞ちゃんとルクスくん、そしてゼファーさんを家に招いた。

私の姿を見て明らかにみんながほっとしたのは、何というか……喜んでいいのか悲しんだほうがいいのかわからないから、それを表情に出してほしくなかった。

まあ、私が悪いですよね、わかってます。


「とりあえず、リビングまで来て。そこにソファあるからそこでくつろいでて。なんか飲み物持ってくるね」


そう言って、私はぱたぱたと先にリビングに行き、キッチンに立った。

……特に何か飲むものが常備してあるわけではないけれど、やたらとティーバッグだけはあるから適当にそれを使って飲み物を作る。カチャカチャとやっていると、少し遅れて3人が入ってきた。

千霞ちゃんはきたことがあるから迷いなくてくてくと歩いているけれど、ルクスくんとゼファーさんは少しあたりを見回しながら入ってきていた。

そんなに珍しい家でもないだろうに。

そう思いながら私は淹れたての紅茶を3人の前に差し出した。


「……それで?どうしてうちに来たの?」

「だから、プリントを渡すために」

「うん。でも、それって明日学校でもできることだよね?体調不良で休んでるんだから課題の提出も別に明日じゃなくてもいいはずだし」

「……」

「だから、どうかしたのかなって。何かあったのかなって」

「…こういう時に鋭いのは本当に……」

「うん、性格悪くてごめんね」

「そんなこと、思ってない……」


ぼそっとそう言ったくれた。

しかし私はへへっ、と笑いながそう言ってしまった手前、その言葉になにも返すことができなかった。

私は千霞ちゃんを見つめた。少し居心地が悪そうに千霞ちゃんがふい、と視線を逸らした。

まあ、別にいいけど。


「……今朝は、申し訳ないことをした」


突然、ルクスくんがそんなことを言い始めて私は少し驚いた。

……何か申し訳ないことをされた記憶は全くと言っていいほどないが、まあ謝られているんだから甘んじて受け止めよう。あとで誤解を解けばいい。謝り損だと言われてもそれは私のせいではないのだから。

私は静かにルクスくんを見つめた。

今度はルクスくんが居心地が悪そうに視線をそらす。おお、なんかにらめっこしたら勝てそうだ、とかそんなどうでもいいことを考えてしまうあたり、私の思考はあっちこっちに飛びすぎていると自分でも思う。

まあ、とにかく話を聞くしかない。


「あんなことになるなんて思わずに無理に……本当に、すまない」

「うん、まあ……誰にでも間違いはあるからしょうがないとおもいますよ?今度からは気をつければいいかと」

「……姫乃……」


あれ、なんか感動されてる。何でだ。

当たり障りのない励ましの言葉をかけただけなのに。

なに、この空気。

なんか拝まれそうなほどの眼差しを受けているんだけど。


「二度と無粋な真似はしないと誓う!だから、俺と結婚しよう!!」


……何故そんな話になったのか理解できる人、挙手ー。はーい、いませんよねー。


「……いやです。ごめんなさい」


もうこの言葉しかかけることができない。


「何故だ!?」

「いやいや、普通に考えてください。何で結婚なの?最初はお付き合いからでしょう普通」

「付き合えばいいのか!では、俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

「ねえ、これ私、この人追い出してもいいの?いいんだよね?私の家だもん。私が主人だもんね?」


私は黙って聞いている千霞ちゃんとゼファーさんに質問を投げかける。

さすがの二人もあっけにとられて言葉を失っているようだった。そして私を見てそっと視線を逸らした。しかも二人とも!せめてゼファーさんは私の味方でいて欲しかったよ!


「姫乃!」

「嫌ですってば!私は誰ともお付き合いしませんし!というか、私あなたのせいで地味に嫌がらせされてるのわかってます!?」

「それら全てから姫乃を守ろう!」

「いや、守ってもらわなてもいいんですけどね!?あなたが私に関わっているせいで私の平和な毎日がなくなったと理解してくださいません!?」

「俺とともにいれば、その平和な毎日を約束する!」

「だからっ!あなたが私に関わらなければ私は平和な毎日を過ごすこそができるの!そこを理解してください!!」

「姫乃と……関わらずに生きていけと……!?なんという拷問なんだ……っ!」

「拷問!?話大きくなってる!?」

「こんなにも愛しているのに離れなければならないなんて……拷問以外なんだというんだ……っ!!」

「……そうですね。その拷問を喜んで受け入れてくれれば私が幸せになれるということは理解しました」


だんだん相手するのさえも面倒臭くなってきた。なんで私はこんなよくわからない人の相手をしなければならないんだ?

そもそも、今目の前にいるプリンスの頭の中は一体どうなっているのか。本当に知りたい。

別に興味があるとかではないけれど、それでも私は一度知りたいと思う。これからのことを考えると、こういった面倒なことを回避するためにも。


「……とりあえず、落ち着こうか、雪村……」


やっとの事で千霞ちゃんが私の味方をしてくれた。

……もうちょっと早く助けてくれると助かったんだけど、まあ仕方がない。何せ、なぜか思考が宇宙人な人の発言を聞いてしまったのだから立ち直るのにも一苦労だったと思うもん。

続いてゼファーさんもハッとしたように私たちを見て、ルクスくんをなだめてくれている。……もうちょっと早く回復して欲しかったよ……。

しかし、興奮しているルクスくんは他人の話など全く聞いていおらず、私にグイグイと寄ってくる。


「姫乃、俺がお前を必ず幸せにする。だからこの手を取ってくれ」


ずっと差し出された手を見て、私は2、3歩後ろに後退する。どうしろというのだろうか。いや、私にはどうにもできないのだけれども。なんでこんなにも追い詰められているんだ、私。

目の前にいるこの人はなんでこんなにも私を追い詰めることが好きなんだ。


「雪村、ひめがすごく困ってるから」

「そんなことはない!とても嬉しそうだ!!」

「どこをどう見たらそう見えるのか聞きたいけど、それだけはないって断言できるから」

「失礼なことを言うな!!」

「何も失礼じゃないから…。お願いだから、追い詰めないであげて……」


なんとか頑張って説得してくれているけれど無理そうだ。

というか、千霞ちゃんがこんなにも弱々しく説得するのは初めて見た。いつもだったらもうちょっと強気で言ってくれるのに。

なんだか全然説得力がない気がするんだけど。頑張って、千霞ちゃん。私の運命がかかってる!

とか思ってても、話は平行線。

ルクスくんはひたすらに意見を曲げなければ、千霞ちゃんも弱々しくも私をずっとかばってくれている。譲れないものがあるって素晴らしい。

そんな光景をぼーっと見つめていると、すぐそばに人の気配を感じて、ふと顔を上げる。そこにはゼファーさんが立っていた。


「……?どうしました?」

「……ひとつ、尋ねてもよろしいですか?」

「え?はい。答えられることなら答えますけど……」

「…………今朝、あなたは何があったか覚えていますか?」

「……」


今日はなぜかこんな質問ばかりされる気がする。お母さんもそんなことを聞いてきた気がする。そんなに重要なことなのかはわからないけれど、それでもみんなが聞いてくるからちょっと不安になってくる。

ゼファーさんは私をじっと見つめたまま動かない。

……ものすごく居心地が悪い。私なんかやっただろうか。

でも答えないわけにはいかないから、そっと口を開く。


「……今朝、母にも同じことを聞かれて、同じことを答えたんですけど」

「はい」

「今朝、私は何があったのか覚えてないです」


私のその言葉に、今まで言い合っていた千霞ちゃんとルクスくん、そして、私に質問を投げかけてきたゼファーさんが私を凝視した。

うお……突然に居心地が悪い。


「なにも、覚えていない?本当に?」


本当にと聞かれても、本当のことなので頷くしかできない私はちょっと困惑する。


「本当に覚えてないですけど……。あ、でも、玄関前で倒れてたっていうのは聞きました」

「え?」

「なんか体調が悪かったみたいで」

「……倒れていた?体調が悪くて?」

「はい。そう聞きましたけど」

「……誰に?」

「母に」

「……そうですか……」


何かを考えるようにゼファーさんが言葉を止める。沈黙が痛い。けれど知らないのだからしょうがない。


「分かりました」


え、なにが、と言いたいが、ゼファーさんはその言葉を言ったと同時に来るしと私に背を向けてしまった。なぜ私が言葉をかけることを拒絶するような態度を取るのか理解できないが、もうなんでもいい。


「千霞ちゃん、プリントありがとう」

「えっ、あ、うん」

「すごい嫌な言い方する。だから先に謝るね。ごめんね」

「え?」

「申し訳ないけれど、帰ってくれない?」


突然の私のその言葉に、3人が驚いたようにこちらを見た。

しかし、私はにこっと笑顔を作る。


「もう一度言うよ?帰ってくれない?」

「……ひめ?」

「時間も遅いでしょう?まあ、多分ゼファーさんが送ってくれるんだと思うけど、あんまり遅くなってもね?だから、帰ってくれないかな?」

「ちょっと、待ってください。藪から棒になんですか?こちらはあなたの心配をして――」

「黙ってくれません?」


ゼファーさんの言葉を止めるように、言葉の先を食うようにして私はそういった。

驚いた表情で私を見ているゼファーさんに、私は先ほどと同じようににこっと笑ってみせる。


「私の心配をしてくれたのは大変ありがたいですけど、私、心配してくれって言いました?言ってないですよね?それに、私の都合も考えずに勝手に押しかけてきてきたのはあなたたちだわ」


苛立っている。

そう、私は苛立っているのだ。


「わざわざ来た人間に対してその態度はなんだ」


高圧的な言葉で私を押さえつけようとするゼファーさんに、私は再びにこっと笑ってみせる。


「ですから、私はそうしてほしいと頼みましたか?先ほども言いましたけど、あなたたちは私の都合も考えず話に勝手に押しかけてきているんですよ?」

「だから――っ!」

「それに、言いますけど、私だってそこまで馬鹿じゃありませんから。ルクスくんとゼファーさん、なんで千霞ちゃんがエントランスホールからここに呼び鈴を鳴らした時に隠れてたんです?」

「!」

「あそこから来ていたのならわかっていると思いますけど、あそこにはちゃんとカメラがあって、そこの壁の受話器をとるとその画面に人が映るようになってますから。わかりますよ」

「それ、は」

「千霞ちゃんがカメラに写っていた時、あなたたちもそばにいましたよね?まさか、たまたま来てたまたま千霞ちゃんがマンションに入るところだったから呼び止めて、一緒に来たなんて言いませんよね?あ、ついでに言いますけど、そこの画面、受話器を置かない限り画面消えないのでそんな偶然があったならちゃんと私も見てますからね?」

「……」

「思ったんですよね。自分たちが一緒だと、私が扉を開けてくれないんだと」

「っ!そんなそとはっ!」

「じゃあ、もうしましょう。今この場で。――もちろん、開けませんでしたよ」


その言葉に、今まで黙っていたルクスくんが絶望を宿した表情で私を見た。

しかし私はそれを、見ないふりをした。


「どうしてって、思います?」


誰かが言葉を発する前に、言われそうなことを私が言葉にする。はっと息を飲む音がした。


「言いますけど、先ほどの入れないというのは、今のこの状況を踏まえてのことですからね?私だって、わざわざ来てくれた人をその場で追い出すようなことはしませんから」

「では、なぜ……」

「分からないんですか?私と、あなたたち二人との間に、信頼の一欠片も無いからですよ」

「信頼?」


そんなに不思議そうに聞くのが、私をさらにイラつかせた。どうして、この人は、この人たちは、こんなにも自分勝手なのか。


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