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ふと目が覚めて目に入ったのは、見覚えのある天井。ごそっと動いて次に目に入ったのは見覚えのある掛布の色。


(……私の……部屋……?)


いまいち思考が追いつかず、ぼーっとした頭で一つ一つを確認していく。


(うん。間違いなく私の部屋だ……どうして?)


たしか学校に行くために家を出たはずなのに、どうして私は再び自分の家に戻っているのだろうか。謎過ぎる。


「ていうか……今何時……?」


いつも枕元に置いているスマホを手に取ろうとしたけれど、探しても私の手に当たることはなく、疑問に思ってようやっと私は腕で支えるようにして体を少しだけ起こした。

早く起きて、お弁当を作らないと。それに、お母さんの分の朝ごはんも作らなきゃいけない。昨日、お母さんの帰りが遅かったから、きっとまだ寝ている。音をあまり立てないように作らなきゃ。

頭の中でそんなシュミレーシヨンをしていたけれど、私は自身の格好を見て動きが止まった。

……なぜ私は制服を着たまま寝ていたのだろうか。もしかして、二度寝したのかな?

いや、でもそんな記憶ないし。そもそも、私一回ちゃんと起きた気がする。そしてちゃんとお弁当も朝食も作った気がする。

あれ。じゃあなんで私ここにいるの?ここ、私の部屋だよね?もしかして全てがそっくりな別の誰かの部屋?いや、もしそうだとしても、じゃあなんで私はその人のベッドで眠っているのかという疑問が出てくる。ここは間違いなく私の部屋なのだろう。

でも、なんで私がここにいるのか全然覚えていない。

とりあえず、きちんと起きて一度リビングに行ってみよう。何わかるかもしれないし。

混乱しながらも私はベッドから降りて、裸足でペタペタと歩いた。


「あれ?」


思わず首をかしげる。

リビングから人の声が聞こえてきたのだ。本来なら聞こえてこないはずなのに。しかもなんか会話してる?

そっとリビングの扉を開けてみると、そこにはなぜかお母さんがいた。


「お母さん……?」


私の小さな呟きを拾ったのか、お母さんは私の方を向いて、ちょっと待ってというジェスチャーをしながら電話対応している。

なんか邪魔をしてしまったみたいで申し訳ないと思いつつ、おとなしくリビングのソファに座って待つことにした。

結局、電話が終わったのはあれから5分ほど経ってからだった。


「おはよう、姫乃。体調は?」

「ん?うん。平気」

「そう、ならよかったわ」

「うん。ありがとう。忙しいのにごめんね」

「何言ってるの。もっと甘えてくれてもいいのよ?」


ふふ、と笑いながらお母さんはそんなことを言ってくれた。

けれど、問題はそこではない。


「……仕事は?」

「行くわよ」

「…?」


即答されただけに、今のこの状況が本当によくわからない。行くのならもうすでに家を出ていてもおかしくない。それなのに、どうしてお母さんはまだここにいるのだろうか?

私の疑問がそのまま顔に出ていたのだろう。ふっと再び静かに微笑んでから、私のそばに来て頭を撫でてくれる。


「聞きたいことはたくさんあると思うけど、先に私の質問に答えてちょうだいね?」

「え?うん…?」

「――今朝のこと、何か覚えてる?」


どうしてそんなにも意味深に聞いてくるのかわからなくて、私は首をかしげる。

そして、正直に答えた。


「ごめん。なにがあったのか、よく覚えてないの……」

「……そう」

「なにがあったの?」


私の聞き返す言葉に、お母さんは少し考えるそぶりをしてから、ゆっくりと、もう一度私の頭を撫でた。


「仕事に行こうとしたら、あなたがマンションの前に倒れてたのよ。きっと体調が悪かったんでしょうね」

「えっ、そうなの!?」

「ええ、だから、家に連れて帰ってきたのよ。さすがに、そんな状態の一人娘を家に残すことなんてできないから、せめてあなたが目覚めるまでそばにいようと思って、まだ仕事に出ていなかったのよ」

「そ、そうだったんだ…。ごめんね、迷惑かけちゃったね……」

「迷惑なんて思ってないわ。それよりも、学校にはもうお休みの連絡を入れておいたから、今日はゆっくりと休みなさい。疲れが取れるように」

「うん……そうする。ありがと」


コクリと素直に頷くと、お母さんは安心したようにもう一度私に向かって微笑んでくれた。

ああ、そんなにも心配かけてしまって申し訳ない。


「じゃあ、目覚めて早々で悪いけど、仕事に行ってくるわね。お昼ご飯も、おかゆ作っといたから食べなさい。熱があるようなら、薬を飲んでもいいけど、ないなら飲んじゃダメよ」

「わかってる、大丈夫だよ。そんなにも心配しないで」

「心配するに決まってるでしょう。全くもう……、本当に自分のことには頓着しないわね……」


はぁ、とため息をついてしまったお母さんを目の前に、私はちょっとおろおろしてしまう。そんなにも私は自分のことを後回しにしているだろうか?

そんなことはないと言いたいが、きっとそれは否定されるのだろうと思う。ここまで来て私の意見が通るなんて流石に思っていない。それに、周りからの評価はきっと正当なんだと思う。

私はたぶん、私をあまり大切だと思っていない。だからこそ、周りが私を大切にしてくれる。私が自分を大切にしない分を埋めるかのように。

それが一番如実に表れているのがお母さんというだけなのだと思う。


「じゃあ、仕事に行ってくるわね」

「うん、いってらっしゃい」


玄関まで見送って、目の前で扉がパタンと閉まるのを見届ける。なぜか妙に胸が苦しくなった。


(…ちょっと、寂しいな……)


仕事で忙しいのはわかっているけれど、なんとなく寂しさを感じてしまう。けれど、それは言ってもどうにもならない事だ。だから私は、首を左右にぶんぶんと振ってその考えを追い出した。

寂しくなんてない。これは、きっと何か勘違いしているだけに違いない。


(……とりあえず、一応熱だけ測っておこう。そして寝よう)


私はそう決めて、早速動き始めたのだった。



**



(……いま、何時……?)


むくっと起き上がって、まず私が考えたのはそんなことだった。学校を休むということをほとんどしたことのない私だから、いつまでも眠っているという行為に慣れないらしい。

体がうずうずする。

動きたくて仕方がない。

別に体調が悪いわけでもないし、何度か体温を測ってみても熱があるわけでもないから起き上がっても大丈夫だと思う。うん、そうに違いない。

そう勝手に結論付けた私は結局起き上がってベッドから降りる。

自室を出てリビングに行き、壁に掛けてある時計を見ると、まだそんなにも時間は経っていなかった。


(……まだ、お昼少し過ぎたくらい……か)


ちょうどいいからこのままご飯を食べてしまおう。たしか、作り置きしてくれているおかゆがあるって言ってたからそれを食べればいい。……足りるかな。まあ、足りなかったら自分で追加して何かを作ればいいか。

そう思って私はキッチンに立つ。

そして、ガス台の上にどーんといるそれに私は少し絶句した。


「……たしかに、通常の女の子とは食べる量が違うけど、これはちょっと多いのではないですか?母よ……」


私の目の前にあるのは、普通に家族4、5人で囲むような大きさの土鍋。恐る恐る蓋を開けてみると、まあ、予想通りというかなんというか……うん、土鍋いっぱいにご飯が入ってましたよ。裏切らないね、私の期待を。

でも、これはちょっと困った。こんなにもたくさん食べることなんてできない。まあ。全部食べて欲しくて作っているわけではないと思うから問題ないとは思うけれど、私の気持ち的になんだか残すという行為はとてつもなく許せないのだ。

しかし、お腹は空いているのでとりあえず温めることにした。その間に薬味のネギを少し刻んでおく。


「……そうだ。別にこのままで食べなきゃいけないってことはないんだから、どうせなら色々な味を作ろう!」


おかゆを別の味にするなんて結構面倒な作業だが、こんなにもたくさん食べることなど不可能だ。しかも、同じ味で。きっと、お母さんもそのことをわかっていたのだと思う。だって、味付けは昆布出汁だけだったから。その気遣いは大変ありがたい。

いっその事リゾットとかに改良できないだろうか。

……いや、チャレンジすることは別にいいけど、和風の味っていうのは如何なものか。この上から別の味を出そうと思えばできないことはないけれど、味がわからなくなりそうだ。

……うん。やめよう。

おとなしく、卵とか梅干しとか、そこらへんの味にしよう。それがいい。

私はそれ以外の味も何種類か用意して、大量にあったおかゆを少しずつ消費していくことにした。

特にすることもなく、熱が出ているわけでもないけれど、夕飯作るのはきっとやめておいたほうがいいだろうと思って私はお昼の残りを温めなおしてそれを頬張る。

夕方のニュース番組を見つつ、目の前のものを平らげていく。

テレビを見る以外にすることがなくて、ぼーっとしていたけれど、明日は学校に行けるのでその準備をすることにした。

時間割表を見ながら必要な教科書とノート、あとはルーズリーフなどをカバンに詰めて準備完了にする。

時計を見ても実はまだそんなに時間が経っていない。

まだ6時を過ぎたくらいだ。

うーん……お風呂にでも入ろうかな。洗ってあるからあとはお湯を張るだけだし。そもそも風呂自動のボタンを押せば自動でお湯がはれるんだから便利だよね。

そう決めた私は、さっそくお風呂に向かう。入る前に一応ボタンを押して、お湯を溜めながらシャワーを浴びつつ、体と髪をきれいに洗っていく。もちろん、洗顔なども忘れてはいけない。

だいたい30分ほど経ってから私はお風呂から上がった。下着をつけて、ちょっと丈の長いTシャツを羽織る。

わしゃわしゃと髪の毛の水気を取っている時、インターホンが鳴った。この音はエントランスからの来客を示す音だ。こんな時間に宅配かな?と思いつつ、私はタオルを首にかけたまま壁に掛けてあるカメラ付きの受話器を取る。そのに写っていたのは千霞ちゃんだった。


「はーい、どうしたの?」

『ひめ?体調大丈夫?一応、今日配られたプリントとか、宿題とかを持ってきたんだけど、出られそう?』

「あ、うん。平気平気。念には念を入れてお母さんが休みを取ってくれただけだから!今開けるね」


そう言ってわたしは目の前の開くのボタンを押す。このボタンを押さないとエントランスからここに入ることはできないのだ。

……まあ、開いた瞬間を狙って入ることも可能だけど、そこはあえて考えない方向で。


数分で今度は玄関のチャイム音が家に響く。

私は少し大きめな声ではーい、と返事をしながら玄関に向かっていく。

その時にハッとして自分の格好を見た。…うーん…ちょっとラフすぎる?髪も濡れてるし怒られるかな?

でもまあ、自分家だし、問題ないかと思って扉を開けたのがそもそもの間違いだった。

もちろん、私は来ているのは千霞ちゃんだけだと思っていたからこそ、この格好で玄関まで出迎えたのだ。まさか、誰か別の人を連れているなんて思いもしていなかった。

何の疑いもなく開けた私も悪いとは思う。

けれど、連れがいると言ってくれなかった千霞ちゃんも悪いと思う。

一瞬にして思考が止まった。

相手も私の今の格好を見て固まっている。千霞ちゃんもあっけにとられている。

なぜそんな格好で出てきたんだと言いたげな視線だが、私は千霞ちゃんだけだと思っていたのだから当たり前といえば当たり前だ。女同士で遠慮する必要などない。

だからこそ、私は思考が止まった。

目の前には、目を疑うほどの美形様が驚きの表情で私を凝視していたのだ。

その後ろには、負けず劣らずの美形様がいらっしゃる。その人も、さすがに私の格好を見て驚きを隠せないのか、目を見開いている。

ものすごく長い時間が経ったように感じたが実際は数秒間だったのだろう。

私は顔を真っ赤に染め上げて、ものすごい勢いで玄関のドアをしめた。閉めた音はきっと隣近所の人に迷惑なほど大きかったと思うが、私はそれどころではない。

いや、それよりも……。


――悲鳴を上げず、即座に扉を閉めた私を誰か褒めてください。


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