龍司様
頭が、ズキズキと痛みます。
ふと目を開けると、見慣れない天井が目に入りました。
「ここは、ホテルですか。」
どうやらあの後、気絶してしまったようです。
スマホを見ると、「6月28日」。
すでに夜は明けて、日付が変わっていました。
「……私のせいで、人が亡くなった。…ですよね。」
172人もが。
葛木茂さんの両親が。
「皆さんに、謝らないと。」
普段の私なら、躊躇いなくそうするでしょう。
頭を下げることは恥ではありません。
でも、
「彼らは、彼は、私が元凶だと知ったら、どう思うでしょうか。」
私はただ、恐ろしいのです。
「お前のせいだ。」
と、言われることが。
遺された人たちの視線が。
想像するだけで、頭痛はより一層強まります。
そして、悪い、恥じるべき考えが頭を過ぎります。
「……黙っていれば、見つかることはない。」
そう言ってから、気づきます。
私は、なんてことを言っているのだろう。
こんなの、悪党と何もかわりません。
「でも、もう——」
私は、私の精神はもう限界です。
そう言おうとした時。
『お前は、それでいいのか?』
それは、ゲームの中で聞いた声でした。
何回も、何十回もプレイする中で完成された、私の思考回路。
龍司様の声。
——そんなもの、最初から決まっています。
駄目です。それでいい筈がありません。
私は、龍司様のように生きると決めたのです。
私の生き様は、龍司様の生き様。
私は、私を信頼している。
私《龍司様》は信頼されている。
先刻の、あの悪魔の囁きは、夢です。悪い夢です。
忘れてしまいましょう。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものです。
九条芹奈、私が恥じることはありません。
やはり、あなたは真の勇者です。
私は、私として生きることができます。
龍司様ならば決して諦めません。
なら、私も最後までやり遂げてみせましょう。
「この後、龍司様なら———」
ーーーーーー
一方その頃。
「母さんが、死んだ?」
カタン
最新鋭の携帯端末が、軽い音を立てて床に落ちる。
——青年の、今までの人生は、全て、母親に褒められるためだった。
決して母親が特殊だったわけではない。
母親は優秀な息子と比べ、外見以外は平凡であった。
だからこそ、よく褒めた。
自分よりも優秀な息子を、惜しみなく褒め続けた。
そして……彼は母親に依存した。
彼にとって、母親が世界の中心《恒星》であり、自分の全て。
サッカーの県大会で1位を取ったのも。
ボランティアで表彰されるのも。
席次が全て、1位なのも。
全て、母親に褒められるためだった。
「誰だ。誰が殺した。誰が。誰が。誰が、誰が、誰が、誰が誰が誰が誰だ誰だ誰だ誰だ誰が誰が誰が誰が誰がダレがダレがダレがダレガダレガダレガ——」
しかし、恒星を失った惑星の軌道は、狂い始める。
「———コロしてやる。」
うーん、不穏な話が続く。
あれ、おかしいな。芹奈の話は3話くらいで終わらせるつもりだったのに……




