……から永遠に
回想シーンです。一体何があったんだ?
時は少し遡ります。
ーーーーーー
それは、葛木茂さんを振った(?)2日後くらいの話です。
この時、私は何となく、このまま家に帰ってはいけない、という予感を感じていました。
龍司様は、直感を大切にします。
人間を含めた生物の直感には、馬鹿にならないところがあるからですね。
なので、母様には都合のよい適当な言い訳をして、
今日は少し安めのホテルに泊まることにしました。
このホテルはある程度、家の息が掛かった場所なので、
高校生の私でも問題なく宿泊できます。
葛木さんを振ったその日の夜。
私は父様に、「母様が浮気をしようとしている」という情報を匿名で伝えました。
なので、今頃情報を集めている頃ではないでしょうか。
そう思った私は、スマホからアプリを開きます。
『エコー・リスナー』
マイクなどの盗聴器やカメラと連動して、音声や映像を拾うアプリです。
早速私は、父様の部屋にある盗聴器、カメラと連携します。
この盗聴器セットは、私が小学生のときにスパイなどに憧れて買ったものなのですが、無駄に多い財力、非常に高い技術力、そして『グランツアリット』が、軍事関係にも手を伸ばし始めていたことが原因で、子供の玩具にするには、実用的すぎるブツが入手できてしまいました。
私も数年経って、まだ使えるとは思ってもいなかったので、驚きです。
端末の再生ボタンを押します。
ここから先は、すでに録音された音声です。
大きな動きがあるまで早送りしましょう。
「………!」
『ガチャ!!』
スマホから扉の開く音がします。
それから少し、金髪の男が入ってきました。
もしかして、本当の情報屋でしょうか?
真っ黒なスーツに黒いサングラス、黒い帽子。
とてもかっこいいですね。
その姿は、どう見ても、コードネームがお酒の名前の某裏組織の構成員でした。
でも、金髪は黒に染めてください。
『これはこれは。九条・導・グランツ様。ご機嫌うる——』
男は媚びへつらった様子で父様に話しかけます。
『御託はいい。依頼だ。……期限はできるだけ早く。いや、明日までだ。』
が、お父様は本題を切り出しました。
『……はぁ、明日まで、ですか。目標と依頼内容は?』
父様が机に書類を置きます。
その内容はこちらからは見ることができませんが、
恐らく『葛木茂』を示すものでしょうか。
父様は書類の中から彼の写真を取り出し、一瞥すると、深くため息を吐きます。
『……あぁ、何度見ても、気に入らない。本当にムカつく顔だ。』
そう呟いて、今度は胸ポケットから一枚の写真を取り出しました。
そこに写っているのは、若い頃の母様です。
父様はその写真を愛おしそうに撫でます。
『私の妻は素晴らしい女性だ。』
情報屋らしき男からの返事は、ありません。
しかし、父様は構わず続けます。
『美しく、気高く、そして聡明だ。彼女の心は決して他者には奪えない。
そう、この、私自身にもだ。
それでも、だからこそ、私は二十年以上、彼女だけを愛してきた。』
そして、葛木の写真へ視線を落とす。
その目に宿る感情は氷のように、冷ややかでした。
『それなのに、それなのにこのガキは。』
父様の声は、聞いたこともないほどに低くなっています。
『身の程も知らず! 彼女の気を引こうとした!』
父様は写真を握り潰しました。が、
(ん? 何か勘違いしてません? まるで、葛木茂さんが、母様を誘惑した様な言い方ですが……)
父様は、先程からずっと黙っている情報屋に対して、怒鳴りつけます。
いえ、情報屋にではありません。
その目は、何もない虚空を捉えていました。
父様にはそこに何かが見えているかのように。
父様に見えているのは、葛木茂さんでしょうか。それとも母様でしょうか。
もしかしたら、どちらでも無いのかもしれません。
父様は、椅子から思い切り立ち上がり、一際大きな声をあげます。
『許せると思うか!?」
静寂。
父様は、ゆっくりと椅子に腰掛けます。
『……それで、……依頼内容は?』
情報屋が恐る恐る問いかけます。
『アイツを、葛木茂を。……いや、不快な奴の両親を諸共——』
『消してくれ。』
(えっ?)
『はっ?! ……殺害ですか?流石に数日では——』
殺害。
殺人、殺し。
情報収集では無く?
でも、ここまで、大事になる筈は、筈では、
せいぜい、嫌がらせ程度で——
そして、男も、私とシンクロしたかのように戸惑います。
無理もありません。
この男は、父様は、
たった一日で、一家全員を皆殺しにせよ、
と言っているのです。
そんなことをすれば、十分な準備もできません。
間違いなく、警察などに勘付かれるでしょう。
殺害とは、それだけリスキーなのです。
父様はもともと商売敵が多く、生き残るには、
あのような手段をとることもあったと聞きます。
しかしそれは、年単位で入念に練られた計画で、です
今回とは、全く違います。
もはや、正気だとは思えません。
いえ、実際、もう正気ではないのでしょう。
『違う。』
しかし、何故か。
父様は首を横に振りました。
その表情は、怒っている人のものとは思えないほど平坦です。
……ですが、それに続く言葉は、それ以上に冷たいモノでした。
『奴を、私の妻の視界から、永遠に消してくれ。』
芹奈パパ「★を、視界の端の★を押してくれ。」
日記の時系列がおかしかったので、修整しました。




