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いざ、決戦 13


 ヨウラ首相とダーホア首相の会談内容については、ヨウラ首相の秘書が適宜メールで概要を伝えてくれたので、速報で順次SNSへ発信するとともに、ヒカルゴの情報調査室とアストルのリリック分析官にも内容を伝えていた。


 アストルやヒカルゴのほかシルバーピークではニュースで会談について伝えられ、各国のネットニュースでは、三人が発信したSNSを引用する形で速報として順次伝えられていた。


 それに引き換え当事国のチカリヤは元々情報統制が徹底しているので、この会談については何も報じられていないし、オルダヤのマスコミはいまだに旧態依然の洗浄党にとって都合が悪いことは報じない姿勢で一貫している。このために両国ではテレビや新聞で事実を知る術がない。


 ウネマ市長が署名を保留した際に立ち上がった記者がいたが、彼は匿名でSNSに発信しており、ハットたちとは違って文章の体裁が整っていて読みやすくかなりの人気を博している。少しずつだがオルダヤ国内でも洗浄党の流れに逆らわずに成すがままだった記者の中にも、流れに抗う人が出てきている。いわゆるオールドメディアは旧態依然のままだが、そのオールドメディアに属する記者が、今のところは匿名だがSNSを使いメディアの役割を果たさせよう、そんな機運も高まっているようだ。


 こうなってくると、いまだに洗浄党にしがみついていれば安心だと考える議員は減少していき、百四十三名の議員中七九名が洗浄党にべったりだったが、急速にその数は減り三〇名程度になっているとリリック分析官は伝えてきた。




 ヨウラ首相がホテルに戻ってきたのは夜一〇時過ぎだった。七時からアストルのインターネット放送局の生番組に一時間ほど出演し、チカリヤとの交渉をすべて打ち切ったと宣言した。


「ハット君、ペト君、ブル君、SNSで会談内容を順次を投稿してくれていたんだね。会談が終わってホッとしたところにジェンキンズ大統領から電話がかかってきて、今晩中にアストル軍を進駐させると言ってきたんだよ」


「アストルの軍隊をオルダヤに入れるのですね」


「そうだよ、ペト君。アストル軍だけではなく、ヒカルゴやシルバーピークからも平和維持活動の一環で派兵してもらう。まず私は選挙制度改革を早急にまとめ上げて、国会を通さなきゃいけない。選挙が無事に終わるまで各国の軍隊に駐留してもらうことになるんだよ」


「首相、それってチカリヤの反発を招きませんか?」


「正直言って招くと思う。でもここを何とか乗り切らないと、オルダヤの自主自立なんて無理なんだよ。とにかく洗浄党の多くの負の遺産を一掃して国を正常化する。そして私は政治家を引退して一国民として働いていくつもりさ」


 ヨウラ首相はこれまでの自分は働いてはいなかった、ただ上からの命令に忠実に従い動いていただけだった。今、首相として動いているのはこれまでの罪滅ぼしであり、政治家を辞めてから本当に働く機会が来ると思っているのようだ。それだけではない、国民がそれぞれ自分の生きがいとして働ける環境づくりをしなきゃいけない。そして作り上げたら自分もそれに乗っかって、自分らしく働いていきたい、そう考えているのかもしれない。


「生番組が終わってすぐに、全議員に明日再び臨時国会を召集すると通告したんだ。大急ぎで選挙制度改革の骨格を作らなきゃいけないから、まずは明日国会の場で話し合うことにしたんだ」


「ヨウラ首相、その選挙のことで……」


 ハットは分厚い資料をヨウラ首相に手渡した。


「これは?」


「これはアストルの国家安全保障庁が立案した内容を、ヒカルゴの情報調査室でオルダヤに合うように改変した選挙制度の改定案です。スピード感が絶対に必要だからと話すと、それぞれの国が作ってくれたのです。主に他国からの干渉と特定の政党のみが政権を独占しないよう、公平公正に選挙ができることを主眼にした内容になっているらしいです」


「ということは、選挙監視団の派遣といった細かい部分まで考えられた内容なのかな?」


「おそらくそのはずです」


「ありがとう、今晩はこの資料を読み込んでさらに改良すべき点を見つけ、明日の国会に間に合わせなきゃいけないな」


 ヨウラ首相は資料をすべて持ち、自室へと帰って行った。


 三人ははヨウラ首相から聞いたことをつぶさにSNSに発信していった。チカリヤとの交渉決裂は好意的に捉える人が多かったが、アストルやヒカルゴの軍隊がオルダヤ国内に駐留することには難色を示す人もいた。他国の軍隊が駐留することに対して全面的に賛成する人はもちろん少ない。SNSで国民に理解してもらえるように発信をしていく。それも三人の大事な仕事です。


 またアストルで制作し、ヒカルゴが手を加えた選挙改革に関する資料を首相に手渡したこともSNS上では賛否拮抗状態だった。自国の大事な選挙に関するルール作りなのに、その骨格部分は他国が制作したものというのが不安視されたのです。選挙において他国からの影響が加わるようなことはなく、これまでのように選挙結果を恣意的に変えられないようにするため、その公平さと公正さを担保するためのものだと発信を繰り返していった。


 それだけではなく、三人は手分けして議員たちに個別のメールを送る作業もしていた。ヨウラ首相が提案した案に賛同するように促すためです。カストやマカイといった洗浄党顧問が処刑されたことで、多くの議員がヨウラ首相の提案の支持に回っていますが、今でも三〇名ほどは洗浄党の旧来の考え方を支持しています。


 できるだけ多くの支持によってヨウラ首相の提案を実行に移すことで内外に、特にチカリヤに対して、これまでのオルダヤとは違うのだと見せつけたい気持ちがあるのです。もちろん議員だけではなく国民の圧倒的な支持も必要ですから、三人の活躍はオルダヤの未来に直結するのです。




 一二日目の朝。ハットたちが起きた頃には、ヨウラ首相はホテルを出て議事堂へ向かっていた。少しでも早くオルダヤの改革を進めたいという一心からだろう。気持ちはわかるけど今はじっくりと戦術を練って、進むべき道が明確になってから一気呵成に突っ走るほうが良い気もするが……。


 レストランで食事を取っていると、三人を守るヒカルゴの特殊警察隊員が近付いてきてペトに耳打ちした。小さく頷いてから二人に。


「ロビーに面会希望者がいるそうだ」


「誰だ、こんな朝早くから」


「フッケ・オウダだって、ブル」


「チカリヤに魂を売ったやつか、自身の行く末が見通せなくなって泣きついてきたのかな」


「多分そうだよね、ブル。僕もそう思うし、あの人と会って話をしても仕方がないんだけどなあ」


「結論は出たね」


 ペトはそう言うと、隊員に面会は断ると伝えてほしいとお願いした。


「イグリーと手を組まなきゃ、俺たちが手を組んでいたかもしれないのにな」


「私も洗浄党の内情をよく知るバーブやオウダと手を結んで、内から変えていこうかと一時は思っていたけどね」


「僕もそう考えていたけど、風が吹くほうだけを見る風見鶏な人だもんね……。あっ、そうだ……」


 ハットは特殊警察隊員に何やら耳打ちをした。


「どうした、ハット?」


「うん、オウダって結局はどこからも手を切られたんだよね。それで打開策として僕たちを選んだけど面会もしてもらえない。自暴自棄になってヨウラ首相を襲うなんてことが起きたら怖いなと思ったから」


「なるほどな。ヨウラ首相って今のオルダヤの体制を作った人でもあるもんな。ヨウラ首相は洗浄党がほぼなくなった状態になってもそのまま首相、洗浄党に不満があって飛び出したオウダは誰からも相手されない。そりゃあ、襲う動機としては十分すぎるほどあるもんなあ」


 ヨウラは首相なのでオルダヤの治安警察が警護に当たっていますが、万が一のことを考えて増員するように伝えてほしいとお願いしたのです。




 国会では選挙改革の骨子案が了承された。法案として整え、できるだけ早く施行に持ち込むつもりのヨウラ首相。反対した議員は十数名とかなり減ったようですが、賛成に寝返って選挙戦に挑むほうが有利だと計算した議員も多いためでしょう。反対した議員は選挙制度改革が洗浄党の完全消滅につながるとの危機感を持っている人たちで、今の制度をとにかく維持したい。特に副党首のヒメキ・ヨークはその思いが強く、いまだに洗浄党の党首の座を狙っているようでした。


 議事堂内の控室で、洗浄党から実質的に離れヨウラ首相を支える側に回った議員たちとの会合をこなし、今後の行程を確認してから帰路に就いたヨウラ首相。首都の外れまで進んだところで銃弾を撃ち込まれた。予想していたことが起きたのです。警備の人員を増やしていたので犯人はすぐに取り押さえられ、ヨウラ首相にケガもなかった。


 逮捕されたフッケ・オウダ。


 ノガユ・バーブは逮捕され、メリー・イグリーがチカリヤへ去ったことで行き場をなくした彼。朝、ホテルを訪ねたのは、今のヨウラ首相の考えと自分の考えは一致するから、自分を仲間に加えてほしいとハットたちにお願いするためだった。洗浄党を去った理由が、ヨウラが党首であり続ける限り、自らは上に立てないからだったはず。なのにヨウラ首相を頼ろうとした風見鶏だった。


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