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いざ、決戦 12


 カストとマカイの両洗浄党顧問の処刑と、オルダヤの譲渡問題で渦中の人間メリー・イグリーに対する逮捕状の交付。これ以上の大きなメッセージは今のオルダヤでは考えられないほど、とにかく大きな出来事だった。


 アストルとその陣営の各国はオルダヤの判断を歓迎し、公式にオルダヤへの融資や貿易の再開のほか、これまでオルダヤへは発給していなかったアストルへの入国ビザも原則発給されるなど、全面的なバックアップが約束された。


 ただしチカリヤが黙っているはずはなく、イグリーの逮捕状が交付されるとただちに彼女をチカリヤ本国へ逃がし、オルダヤ政府は国と国との大きな約束を簡単に反故にする国だと強烈に非難し始め、事態収拾のためにチカリヤの首相ガルダ・ダーホアをオルダヤへ向かわせることを決めた。表向きは事態収拾となっているが、実際にはシュトレ・ルキン国家主席の親書という名の恫喝文書を手渡し、オルダヤに対してすぐに考えを改めるように説得という名の脅迫のためにオルダヤに来るのです。




「ヨウラ首相、チカリヤから首相が来るのですか?」


「そうなんだよペト君、国家主席がいら立ちを見せ、首相をわが国に送り込みどうにかしろと怒鳴るだけの会談を行う。そんな感じだろうね」


「首相、なんだか落ち着いてますね」


「ハット君、私は特に変わったわけではないんだよ。上からの指示に一〇〇パーセント従い自分の意思を一切政治に反映させない。それが洗浄党での生き残り方だった。でも今は洗浄党も名前だけで、私に指示を下すこともなければ罰を与えてくることもない。障害がないから首相としてやるべきことができる、やらなきゃいけないことを確実に行う、それしか考えていないからだよ」


「チカリヤから首相が来ても平気なんですね」


「平気とまでは言えないけど、オルダヤの考え方は以前とはまったく違うこと、今、受け入れることが可能なことはこれだけだと伝えるだけさ。どちらにしても、国民に信を問う公正な選挙が実施されない限り、オルダヤをタダでくれてやることなんて認められないからね」


 十一日目の朝、ホテル内のレストランで朝食を取りながら首相と話をしていた三人。チカリヤのダーホア首相は今日の二時にやってくるそうで、会談を終えるとすぐに帰国するという。そんな状況ですがヨウラ首相は意外なほど落ち着いており、チカリヤの出方はすべてわかっている、そんな様子に見えました。




「ダーホア首相、お久しぶりです」


 ヨウラ首相はあいさつをすると手を差しだした。


「握手は話がまとまってからするものです」


 ダーホア首相に拒否された。


「チカリヤ側の要求に関してはほぼすべてを受け入れることができません。なので今日は握手をすることはないでしょうね」


 ヨウラ首相も負けじと言い返す。


 官邸で二時に始まったチカリヤのダーホア首相との会談。さすがにハットたちは参加できないので、ヨウラ首相の秘書から会談の内容をメールで送ってもらい、概要をSNSで発信していた。


「最初からすべてを拒否すると宣言されたわけですね。党の最高顧問トクル・カストとわが国が約束した事項がありますが、これについてはどうお考えですか。約束をすべて反故にするのですか」


「わがオルダヤは法治国家であり立憲主義を唱える国です。元最高顧問は閣僚どころか議員でもなく、また官僚どころか公務員でもない。他国との約束事をオルダヤを代表して取りまとめる権限をそもそも有していません。ですので反故にする以前に、それらの約束事自体が無効だし違法行為でもあります」


「これまでもトクル・カストやヘム・タテハナと約束を取り交わしては実行に移し、オルダヤとチカリヤ両国の繁栄に資してきたのは明らかだが、これまでの成果もすべて否定するおつもりか?」


「これまでの成果ですか? 党にとっては有益だったかもしれませんが、オルダヤ国民にとっては苦痛の元凶。だからと言って過去をなかったことにはできませんから、これからは前を見据え、国民の意見に沿った政策を実行していきます」


 ヨウラ首相はチカリヤの要求をすべて拒否し、国民の意見に沿う政治運営をすることを宣言した。それと同時に洗浄党政治との決別宣言もしたわけです。洗浄党の党首でもあるヨウラ首相が、チカリヤに対して反旗を翻したことに驚きを隠せないダーホア首相。


「今回のオルダヤ救出に関する条約締結とその署名に対して、なぜそれほど神経質になっているのか? 君たちの最高顧問だったトクル・カストが、わが国のシュトレ・ルキン国家主席に頭を下げてお願いするから、仕方がないと思って助け舟を出しただけなのに、その船に対して石を投げつけるようなことばかりする。何があったのかね?」


「事実がわかったからですよ。チカリヤが世界中でどのようことをし、その結末はどうなっているのかがはっきりとわかった。条約締結のための署名に臨む前にその事実を知り、署名するとわが国民はどうなるのか、自分自身もこの先どうなっていくのか、そんな不安が先立ち署名に躊躇したのです」


「それはあのSNSのことか?」


「ええ、そうです。SNSに書かれていたことと一般の方の投稿を照合し、さらに各国の情報機関が入手している情報などから、大元となったSNSでの投稿は真実だと確証を得られたからです」


 ヨウラ首相はハットたちのSNSへの投稿が、すべて事実だと確証を得たからだと明言した。


「そうですか。では今のオルダヤの窮地をどうやって救うつもりなのかな?」


「アストルとその関係国によって打破していきます」


「アストル? そう言えばここ最近頻繫に大統領が来ていたようだが、敵国扱いされていなかったか?」


「ええ、チカリヤの属国だとして敵国扱いされていました。でも今回の一連の動きの中で、チカリヤとは手を切る方向性が歓迎されたので、これまでとはまったく逆の扱いになっています。これもすべてはSNSのおかげです」


「脱獄囚の戯言を信じる国のトップか、おめでたいヤツだな」


「でも彼らがヒカルゴにいた時、国を割譲しようとした当時の大統領は彼らのSNSを利用しようとしました。チカリヤへ逃亡したメリー・イグリーも、シルバーピークでは彼らのSNSの発信力を認めたから利用しようとした。都合が良い時は利用し、悪くなればその言い方だ。だからチカリヤという国を信用できないのですよ」


 奥歯を噛みしめ、こめかみに浮いた血管がピクピクし始めたダーホア首相。何も話さず五分ほどの時間が過ぎ去った。


「何があっても、わが国から支援を受け入れるつもりはないということだな、ヨウラ首相」


「ええ、現状のオルダヤにとって何も残らない、国ごと飲み込まれてしまう条約に署名することはできません」


「わが国の戦闘能力をご存じではないのかな?」


「よく知っていますよ、わが国の軍はそれほど武力を整えていません。ただ、オルダヤの代表者が署名をした瞬間に、シルバーピークに駐在しているアストル軍がオルダヤへただちに進駐することになっていました。今もまだその態勢は崩されていないようです。ヒカルゴの軍隊もわが国の治安維持のための即応体制を取っていて、すぐにわが国へ展開できる態勢となっています」


「ほお、このオルダヤという国が舞台の世界大戦が勃発する危機が、相当高くなっているようだな」


「チカリヤという国の人たちは大昔から、恫喝しては他国からすべてを奪い取ってきた。そのDNAは綿々と受け継がれているのですね」


「ヨウラ首相、交渉は決裂ということでいいですな」


「ええ、何日かかっても接点は見出されないでしょうから」


 ダーホア首相はやれやれといった顔つきになり、官邸を後にした。


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