正しかったのか……
ヨウラ首相が先頭に立ち、これまでの洗浄党政治を一掃するために奔走する。
選挙制度改革法案を数日で作り上げ、ただちに審議に入った。これまでの制度を根底から覆した内容なので、洗浄党擁護派議員たちは猛烈に反対した。ただ反対したところで法案の内容は身分、財産、性別、納税額などによる制限をなくした普通選挙に変換するものだし、年齢のほか犯罪などによって公民権が停止していなければ誰でも投票でき、誰でも立候補できるという内容。
このごく普通の選挙を実施するための法案に難色を示せば示すほど、国民からはそっぽを向かれるだけなのだが。
ヨウラ首相は三日間の討論の末に審議は尽くしたとして採決を行った。強行採決だとして議長に掴みかかる議員まで現れたが、採決の結果は賛成一一三名、反対一八名、棄権一二名。ハットから選挙制度の改革案を受け取ってから一週間後のことだった。こうしてまずは選挙制度の抜本的な改革法案が可決された。
法案に反対や棄権した議員の名はSNSで発信し、その名は瞬く間に国中に広がる。こうして国民の間では反洗浄党が当たり前に語られるようになっていった。
選挙制度改革法案の成立を受けて、三人はヒカルゴへ戻った。オルダヤでの滞在期間は約三週間だった。
オルダヤがこれまでの方針を大幅に転換し、チカリヤ一極集中外交から全方位外交へと舵を切った。洗浄党自体は今も残るが、実質的に影響力がなくなっています。
業を煮やしたチカリヤはオルダヤとの貿易を全面的にストップし、食料も資源も枯渇させる兵糧攻め作戦に打って出た。しかし、アストルとその陣営の各国は、それまでのチカリヤからの輸入量を大幅に超える物資を輸出し、国民はチカリヤから離れるほうが幸せになれると実感。またハットたちのSNSの発信が正当だったとはっきりしたことで、チカリヤ離れをさらに加速させていく。
次にチカリヤはオルダヤへの侵攻を念頭にチカリヤ艦隊を派兵した。ガルドラ刑務所のあるガルドラ島の沖合でヒカルゴの領海を無害通航権をかざし通過しようとしたが、艦隊の規模や装備、ヒカルゴの領海を通過した先にはオルダヤしかないこと、そのオルダヤはチカリヤ艦隊の入港を拒否していることなどから、ヒカルゴは領海の無害通航権を認めなかった。
当然だがヒカルゴとは一触即発の事態に陥り、多少の小競り合いも起きた。しかしオルダヤに駐留するアストルやその同盟国の治安維持部隊のほか、シルバーピーク軍の睨みも効いたのか、それ以上の混乱は起きなかった。また国連で行動が非難されチカリヤ艦隊は撤収したが、今後もチカリヤはオルダヤに対して揺さぶりを掛け続けるだろう。ただ揺さぶられたらその分だけオルダヤ国民は一致団結し、チカリヤに対抗する意思を表すので逆効果になっていく。
オルダヤ強奪の先頭に立っていたイグリーは逮捕状が出るとチカリヤへ逃げたので、チカリヤ系の人民は統率が取れない状態となった。またこれ以上オルダヤに留まっていると危険だとし、もともと住んでいたシルバーピークに戻ろうとしたりヒカルゴへ移り住もうとするが、両国ともにチカリヤ系住民の入国を禁止しており、チカリヤ本国へ帰るか第三国へ脱出するかの選択を迫られているようです。
混乱が続くオルダヤだが、ヨウラ首相が国を正しく引っ張ることで正常なコースを歩み始めた。
普通選挙はアストル陣営各国が選挙監視団を派遣し、公正公平に実施された。選挙改革法案に反対または棄権した元議員は全員が落選し、法案に賛成はしたが洗浄党から立候補した議員も軒並み落選。議員定数一四三名のうち洗浄党から出馬した人は五名が当選しただけ。ヒカルゴ洗浄党の元党首でオルダヤの洗浄党副党首ヨークも落選し、実質的に洗浄党は過去のものとなった。
ヨウラは宣言どおり出馬せず、選挙以降は表舞台から完全に姿を消した。〇一、一市長のウネマも洗浄党を離れ政治の世界から身を引いた。
ヨウラに変わり首相にはバルダー・ボームが返り咲いた。年齢を考慮し一期だけで引退すると公言し、オルダヤ国内の地名をすべて復活させ、法律も洗浄党政権以前に近い状態に戻すことに尽力した。ハットたち三人は誰も出馬しなかったが、脱獄を手助けしたイタロ・アソールをはじめ、三人を支援した人たちの立候補はかなり多く、そしてかなりの人数が当選した。
洗浄党の元締めであり黒幕で総帥と呼ばれていたヘム・タテハナは、法律改正前に 「国民に対する影響を考えたうえで罪状と刑期を判断する法律」によって逮捕され、即日結審で終身刑と私財のすべてを没収するという判決が下された。洗浄党政権下ならば間違いなく処刑が言い渡されるのですが、一瞬で罰を終わらせるより、生きている間ずっと罰せられたままで幕を閉じるほうが良いとの、国民の声に押された形です。
「もう俺たちはオルダヤに帰るほうがいいよな」
ヒカルゴに戻って一年が過ぎた頃、ブルが何気に呟いた。
「やっぱり故郷のほうがいいかな……。故郷の名前も復活したことだし」
ペトも帰郷に思いを馳せる。
「僕はオルダヤに戻って高校を卒業し、卒業証書をもらいたい……」
ハットは高校三年生の時に逮捕されていました。
「俺はもう大学はいいよ。普通の大人が経験しないことをたくさん経験したからな」
「そっか、ブルは大学生だったんだよね。ハットは高校生か……。アレン・ホール先生とエルナ・ホール先生の代わりに、パシラで教鞭を執ってもいいかもしれないね」
「ペトが先生をしてくれるの? それは楽しみだ」
仕事の合間にお喋りを楽しむ日が多くなり、それだけオルダヤは平和になったのだなと思っていた。
その数日後、三人はオルダヤへ戻りたいとパガーノ大統領へ報告した。
「そうね、もともとオルダヤで生まれ育った人たちだし、不幸にして収監されて脱獄したんだものね。いいわよ、退職を認めます。でも条件があるの」
条件としては、オルダヤもヒカルゴも二重国籍を認めているので、ヒカルゴ国籍を取得すること。そして、どうしても助けが必要になった時にはすぐにヒカルゴに戻ってきてほしい、その二点だった。もちろん三人は快諾してオルダヤへ戻ることが正式に決まった。
オルダヤへ戻ることをSNSで発信すると、祝福するメッセージが大量に届き嬉しい悲鳴に襲われる三人。やっと本当の意味で帰国できるんだと大いに喜んでいたのですが、ハットは一通のメールを読み終えると、あまりの衝撃の大きさに身動きが出来なくなるほどのショックを受けた。
〝そう、帰ってくるのね。オルダヤを正常化に導いたことは本当に感謝はするけど、あれほど洗浄党は悪の集団みたいな言い方する必要はあったの? おかげで私は……〟
メールはハットの恋人だったシュゼット・グラハムからだった。シュゼットはハットが逮捕され、悲しみに暮れ自暴自棄に陥った。そこを救った男性と恋に落ち、やがて結婚して子供にも恵まれた。ご主人はシュゼットと同じ第八ランクだったが、洗浄党の職員として働くうちに党所属と認められ第四ランクに抜擢された。さらに最高顧問のカストに見出されて議員に選出された。シュゼットにとっては洗浄党とカスト最高顧問は救世主、何があっても尊敬の念を捨て去ることはなかった。
ただし洗浄党によって多くの国民が苦しんでいることは自身も経験しているので、ハットたちの言い分も理解し、洗浄党が少しでも良くなればと願っていた。しかしハットたちの執拗な発信によって、洗浄党を許してはいけないという国民の意識が強まっていった。それは普通選挙が終わっても続き、元洗浄党所属、特に元議員への風当たりは非常に強く、一部の国民は過激化していき元議員とその家族が襲われる事件が頻発する。
ヨウラはオルダヤの農村部で暮らしていたが、反洗浄党派の過激グループに惨殺された。ウネマは〇一、一に住み続けていたが、自宅とともに火の海にされた。元ヒカルゴ大統領で洗浄党職員のタイダは人々からの関心が薄く、今どこで何をしているのかもわからない。
シュゼットのご主人は二人の子供を車に乗せて帰宅途中、暴徒化した反洗浄党派の集団に襲われ帰らぬ人となった。
〝ハット、もしも今度帰国したら、私は何があってもあなたを許さない。主人や私の子供たちが遭ったのと同じ目に、いえ、もっとひどい仕打ちをしてやる。チカリヤ初の女性首相メリー・イグリーの協力のもと、必ず実行してやる!〟
チカリヤではガルダ・ダーホア首相の後任として、イグリーが首相の座に就いていた。そのイグリーはハットのことを調べ上げシュゼットに行き着き、いっしょにハットに対して仕返しを行おうと言って接近した。
自身のSNSの発信でオルダヤの人々はみんな喜んでいるはずだと思っていたが、オルダヤの人々から恨みを買う事態も作り上げていた。浮かれ切っていた三人は、退職を撤回してヒカルゴの情報調査室所属のまま一時帰国することにした。これまでと同じように、特殊警察隊の助けを借りることにして。
ハットはこれからもSNSを武器として使うのかは、まだ決めていない。




