いざ、決戦 6
官邸に入ってきた洗浄党最高顧問のトクル・カストと顧問のイムロ・マカイ。事前にわかっているから、ジェンキンズ、パガーノ両大統領が陣取っていても特に驚きもしない。
「ヘム・タテハナはいないのか? せっかく会えると思って楽しみにしていたのに」
「総帥は来ませんよ。党運営はわれわれが担っていますから」
「タテハナの存在は名前だけで、実際に党を取り仕切っているのは君たち二人なんだな」
「簡単に言えばそういうことですね」
「ところで、亡くなったマガラについてはどう思っている?」
「何も自ら命を絶たなくてもよかったのに。これからがある人だっただけに残念です」
「チカリヤ軍の一〇一式消音拳銃で撃たれて亡くなっているんだ、殺されたんだよ」
「わが国の治安警察によると自死だったと結論付けられてます。これ以上変な詮索はやめていただきたい」
最高顧問が話し終えると、ジェンキンズ大統領は数枚の写真を上着の内ポケットから取り出し、顧問たちに見せた。
「防犯カメラにマガラを襲った人物がはっきりと写っている。ご丁寧に手には一〇一式消音拳銃と思われる拳銃まで確認できる」
その写真はパガーノもハットたちも初見だった。
「え? これってノガユ・バーブ?」
ハットが覗き込むようにした見た写真にくっきりと写ったその顔は、まぎれもなくノガユ・バーブだった。
「君たちの党で副党首を務め、追われるようにして逃げて行き、チカリヤのイグリーの手下となったバーブに間違いはないだろ」
「これだけでは何とも……」
「一〇一式消音拳銃からサブソニック消音弾薬が発射されことまでは紛れもない事実。彼の体を貫通して壁に残っていた弾はわれわれの警備隊が押収している」
「オルダヤ国内でなぜアストルの警備隊が捜査するんですか! 証拠もすべて引き渡してください!」
「悪いがそのつもりはない。マガラは署名を拒否した後わが国に亡命申請をしていた。またオルダヤに大使館などがない現状、宿泊しているホテルを大使館の代用として使用している。このためにまずはアストル側で捜査を行い、ほぼ結論が出てからオルダヤ当局にすべてを引き渡す」
「ジェンキンズ大統領、さすがにオルダヤの主権を無視しての行動は非難に値しますよ」
「そうか。ではカスト、君に聞くが、洗浄党を先に解党して今後はどうやってオルダヤを治めていくんだ。解党して即チカリヤに国を丸ごと譲渡なんてバカげたことはできないだろ」
「そこは臨時措置として法規に問われることなく、ことを進めていきますよ」
ジェンキンズ大統領はニタッと笑う。
「この国の法律では議員も閣僚も、それこそ公務員の上級職も洗浄党所属でないとダメなんだろ。その洗浄党を解党していったい誰が責任を持ってオルダヤの舵を操るのだ? 法規にとらわれずなんて言ったが、それは結局法規を無視して好き勝手にやるっていう宣言だろ? そんなこと併合で得をするチカリヤ以外、どこの国も認めんだろ」
「洗浄党は無くなっても、これまでの選挙で信任を得た者が指導に当たれば問題ないでしょ?」
「それは君たちではないはずだな。何せ君たちは選挙で選ばれた人間ではない。そうだろ? それにだ、私に対してオルダヤの主権を無視しているなんてきつい言葉を放ったが、君たちは多くの国民の声を無視し続けているだろ。今回の話だって国民に賛否を問うたわけではない。私もよく批判はされるが、君たちは誰からも信任を受けずに独裁を続けている。どちらが酷いのかは一目瞭然だろ?」
ジェンキンズ大統領と洗浄党最高顧問カストの舌戦は続く。
「あの、少しいいですか?」
「君はいったい誰?」
舌戦に割って入ってきたハットに、顧問のマカイが怪訝そうな表情をしながら答える。
「僕はミッドハット・ホールと言います。少しSNSに呟いただけで投獄された者です」
「ああ、脱獄囚だな。一応言っておくが、国としては君の存在は認めてはいないから」
「そうでしょうね、生きていたら都合が悪いのですから。あの、ジェンキンズ大統領、事件関連の証拠はすべてオルダヤの警察に託しましょう」
「ハット、私もそうしたいのだが、いかんせん信じ切れないからなあ」
「大丈夫ですよ、SNSで今回のことも広く発信しますから。もしもおかしなことを警察がすれば、本当にオルダヤの信用失墜に繋がるだけですし」
ハットには確信があった。オルダヤの治安警察はそこまで腐ってはいないと。
「脱獄囚の君、大統領とは違ってまともなことを言うじゃないか」
「どうも……、顧問にお聞きします。脱獄後からずっと続けているSNSによってオルダヤの人々、周辺国の人々、世界中の人々の考えが僕は本当によくわかってきました。そしてその考え方はチカリヤなどごく一部の国のように、国による制御によって人々の考えまで抑圧されているケースがありますが、オルダヤをはじめ多くの国々の人たちは自由に、そして安全に生活できることを望んでいます」
「当たり前だろ、どこの世界に不自由で危険な国に住みたいと思うんだよ」
「でもオルダヤの多くの人たちは今のオルダヤには自由はなく、そして少しの発言でも摘発される危険な国だと思ってますよ。人々の意思は洗浄党によって踏み潰され、人が住んではいけない独裁国家だと思っています。知っていましたか?」
「何を言うのかと思ったら、そんなくだらないことか。お前たちがうるさいから仕方がなくSNSを解放したら、多くの国民は調子に乗るばかり。バカがさらにバカになっていくだけだったよ。結局国民には何も考えさせずにわれわれが良いと思ったことをどんどん進めていく、これまでの手法が正しかったと実感しただけだったよ」
「バカだと……、いま国民をバカ呼ばわりしたな。マカイ、今のおまえの言葉は全世界に生配信したからな。世界デビューおめでとう。オルダヤ国民だけではなく世界中の一般国民を敵に回したぞ」
ハットが話す前にブルが震えながらマカイに言い放つと、我慢の限界に達したカストが命令を下した。
「悪いがジェンキンズ大統領もパガーノ大統領も、そしてくだらないSNSの発信者たちも今すぐ退邸しろ。そもそも誰の許可を得て官邸に侵入しているんだ。もしかしたらおまえらは大統領のそっくりさんか? おい、タイダ、すぐに治安警察に連絡してこいつらを退去させろ、そして留置場にぶち込んでおけ」
「わかりました、最高顧問」
ヒカルゴの大統領から洗浄党の一般職員に成り下がっても、顔色一つ変えずに忠実に命令通りに動くタイダだった。
数分で官邸に突入してきた治安警察の部隊。いつものように全員がショットガンを構え、おそらく隊長だと思う隊員が大声を張り上げる。
「全員手を上げろ!」
その様子を見てカストとマカイは共に片側の口角を上げて、フンと言う小さな声とともにジェンキンズ大統領を睨みつけた。
「カスト、マカイ、タイダ、お前らも手を上げるんだ!」
「党の最高顧問に向かって何を無礼な事を言うんだ!」
「最初に全員手を上げろと言っただろ、従わなければお前らを撃つぞ!」
一斉にショットガンを向けられさすがに慌てるカストたち。指示に従い手を上げた。
ただしブルは左手は頭上高く手を上げたが、右手はスマホを持ってこの様子をライブで配信している。ブルは配信をやめようとはしないし、治安警察も何も言わない。
「大統領、あなたたちは手を降ろしてください。それと、マガラの件は殺人事件として捜査しますから、証拠の品を渡してもらえませんか?」
ジェンキンズ大統領はしてやったりの顔をした。
「警備隊が持っているすべての証拠を渡せ、できれば警察署へ行ってからな」
「そうですね、われわれも捜査状況を詳しく聞きたいので、後でいっしょに署に来てもらえませんか?」
「おい、いつまで党幹部のわれわれに手を上げさせるつもりなんだ! まるでわれわれを犯罪者のように扱っているではないか!」
「ええ、そうですよ。えっと、ウネマ市長、今は首相代行ですよね」
「ああ、そうだが」
「国民に対する影響を考えたうえで罪状と刑期を判断する法律に基づき、カストとマカイの両名を逮捕する許可を出してください」
ウネマは顔面が蒼白になった。いま自分が許可を出せばオルダヤを実質的に牛耳っている両顧問が逮捕される。そんな恐ろしいことに許可を出してもいいものなのか。
「おい、ウネマ! われわれではなく、その大統領を騙る連中を逮捕する指示を出せ! そうすればおまえはチカリヤ編入後の自治区でも一定の職に就けるように配慮するそ! おい、ウネマ、これは命令だ!」
ウネマはまた下を向く。どうやら重大な決断ができないタイプの人間のようだ。
「ウネマ、好きにしろ。難しい決断を後悔なくやり遂げるのが政治家と言う職業だ。私やパガーノが悪いと思うのならば、私たちを逮捕するように命じろ」
ウネマは顔を上げ、治安警察の隊長に命令した。その命令に従って治安警察は手錠を掛けて官邸から連れ去った。




