祖国を取り戻すため 10
パガーノ大統領とのやり取りを終え、改めてSNSへ今日の会談の内容や演説について投稿していく。オルダヤ国内の反応はもとより、他国からのリプライもかなり多く、世界的にオルダヤ・洗浄党そしてチカリヤの出方を気に留めている人が多いように感じた。
洗浄党の進出に対して最大限の警戒をするオルダヤの隣国シルバーピークも、今はチカリヤの出方も合わせて警戒しているようです。何せシルバーピーク国内のチカリヤ系の人民を束ねているのがイグリーであり、その彼女がオルダヤに現れてハットたちの演説を聞き、激しく抵抗する様子がライブで配信されているのですから。
ハットたちに対して抵抗を見せるということは、イグリーは洗浄党寄りな立場なのではないか、そんな危機感がシルバーピークで広がっていると言います。また同国はアストルの重要な軍事拠点でもあるため、チカリヤが洗浄党とともに進出することがあれば軍事拠点としての機能がしぼむだけにとどまらず、一気に周辺地域にもきな臭さが漂うことに。
今は絶妙なバランスを保っているシルバーピークですが、今後洗浄党やさらなるチカリヤ系の人民の流入があれば、絶妙なバランスは一気に崩れオルダヤのようになるのではないか。その際にはヒカルゴのような絶妙な舵取りができる人物と、アストルのような大国の支援、そしてハットたちのような国民を良い方へと誘導する人がいなければ国が滅びる。そのようなリプライがシルバーピーク国内から送られてきます。
「シルバーピークの国民って、すごく事態を切実に捉えているんだよなあ。チカリヤ系の人もシルバーピークにいるけど、考え方や行動がまったく違うからすぐ判別できる。それに俺たちを本当に支援してくれるしなあ」
「私たちがシルバーピークのことを一切触れたことがない時から、ずっと投稿を見て返信してくれているから。私たちがシルバーピークに滞在している時もすごく好意的だったし。それだけ自分たちの身近で起きることだと認識しているんだろう」
「ずっとそうなんだよね、シルバーピークの人たちって。それに比べてチカリヤ系の人は、みたいな……」
「とにかく、私たちは洗浄党の思い通りにことを運ばせないようにするために、オルダヤの人たちに訴えていくしかないんだよ」
「ただね、僕はイグリーの動きが気になる。もちろん今は選挙制度の変更や、選挙の監視団の受け入れを洗浄党に認めさせないとこれからも洗浄党政治が続く。一般人が立候補できて、国民が投じた一票が正確に反映されなきゃ意味がないもんね」
「俺もイグリーの動きは気になるなあ。今日は演説会場には来ていなかったんだろ?」
「うん、赤バッジを付けた人は騒いでいたけど、その周りにはイグリーはいなかったね」
「私も演説台の周りから気にしながら見ていたけど、いつもは台のすぐ目の前に立つのに今日はいなかったよ」
「俺たちは洗浄党と戦いながら、実はチカリヤっていう大きな国と戦っているのかな……」
「チカリヤにすれば、計画を邪魔するやつ……、って僕たちを捉えるだろうね」
「ペト、ブル、ハット、朝からすまないが、オルダヤ政府の使者が来ているんだ」
四日目の朝、いつものように夜が明けるころまでSNSに掛かりきりだった三人は、ドアを叩く音で起こされた。時間はまだ朝六時を回ったところ、ベッドに潜り込んで一時間も経過していなかった。ペトがベッドから抜け出しドアスコープを覗くとをヒカルゴの特殊警察隊員が立っていた。チェーンをしたままドアを少し開けた。
「洗浄党の使者が来ているんだよ」
「まだみんな寝ているんだ、ロビーで話を聞くよ」
「OK、私たちも同行するよ」
ペトは手早く着替えを済ませ、隊員と一階のロビーへ降りて行った。
「朝早くからすみません、党職員のカウル・ソーサラーと言います。今日の会談は中止してほしいと党首が言っておりまして、それを伝えに来ました」
「中止ですか? 何かあったのですか?」
「あの、これは内緒ですが……、明日ですがチカリヤの代表団がお見えになるようで、それで、オルダヤの譲渡を正式に認め署名するようでして……」
「え? いきなり合意ですか? それって条約に署名するっていうことですか?」
「はい、最高顧問から昨夜急に通告されたようで、ヨウラ党首も気が動転しておりまして……」
「それで私たちとの会談を急遽中止と……。首相や党首という名もやはりお飾りでしたね。だったらなおさら私たちとの会談を実施して、国民のこれからのことを話し合うべきじゃないのですか?」
「それがですね、署名を終えるとすぐに洗浄党解散に関する話し合いがチカリヤと行われるようでして、正式決定すればその場で党の理事も役員も職員も全員解雇するという話が来ているようで、党首は錯乱状態になっていまして……。私もいきなり無職になるわけで、どうしたらよいものかと……」
「党首にお伝えください、私たちは今日も約束の時間に官邸へお伺いします。私たちは約束を破るようなことは何があってもしませんと」
ロビーから部屋へ帰ってきたペト。
「朝の早くから何かあったのか? さすがの俺も気になって目が覚めちまったよ」
「明日チカリヤの代表団が来て、オルダヤの譲渡に関する条約に署名するそうなんだ。譲渡の話が正式決定すればその後に洗浄党の解散に関する会談もあり、幹部も含めて全員が解雇されるそうなんだ……」
「え? ペト、それってチカリヤが実力行使に出てきたということ? 資金の無利子援助とかインフラ整備などもすべてパスしていきなり?」
「ハット、そういうことなんだよ。それで党首が錯乱状態になっているとかで会談の中止を申し入れてきたんだけど、使者には時間通りに官邸へ行くと言ったんだ。やっぱりあの合意文書なんてタテハナかカストあたりが作った偽造だったんだよ」
一気に目が覚めた三人は警護している警備チームに朝食の手配をお願いする一方、速報として全世界に、オルダヤが明日にもチカリヤへ国の譲渡を決定するようだとSNSで発信し、ヒカルゴやアストルの大統領に直接メールで今の状況を伝えた。
「これはどういうことなんだ?」
アストルのジェンキンズ大統領からすぐに電話がかかってきた。
「大統領……、今朝、洗浄党からの使者に急に伝えられたもので……」
「その声はペトか? リーダーのハットに代われ!」
「大統領、すみません、ハットです。あの、ペトが使者と応対したので僕は又聞きになるのですが、メールでお知らせしたように……」
ハットはメールで知らせたことをジェンキンズ大統領に説明した。
「チカリヤの連中、ハットたちのSNSの発信や特使としての行動に焦っているな。今からすぐパガーノと電話会談をする。それと私は今ヒカルゴへ向かっている。その後にオルダヤへ乗り込むことになるだろう。今日も予定通りに官邸へ乗り込むんだな?」
「はい、今日も官邸へ行きます。少しでも情報を仕入れるのと、党首に圧力も掛けてみます」
「ハット、それでいいぞ。何かわかったらすぐに教えてくれ。私から同盟各国の首脳に説明しておくから」




