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祖国を取り戻すため 9


 夕食は警備チームが買ってきてくれたハンバーガーで済ませ、マーシュ中央公園へやってきたハットとペト。今日の会談内容のほか、チカリヤとオルダヤとの合意案の文書のことなどはすでにブルがSNSで発信済み。そのためかマーシュ中央公園に集まったオルダヤ国民の多くは、すでに怒り心頭な状態だったのかもしれません。


 いつものように元刑務官のイタたちが準備してくれた演説台に乗り、ハットがマイクを握って第一声を発しようとしたその瞬間のことだった。


「洗浄党のヨウラ党首を引きずり降ろす良い手はないのか!」


「もう我慢の限界だ、洗浄党を一刻も早く叩き潰そう」


「チカリヤにわが国を渡してなるものか!」


「すべての元凶のヘム・タテハナを捕まえて私刑にしようぜ! もうじっとしていられるか!」


 ハットが話し出す前に観衆から次々と洗浄党を潰そうという狼煙が上がる。これまでのハットたちによるSNSの発信で、オルダヤという国がいま置かれている現実を知り、さらにいま洗浄党はオルダヤという国をチカリヤにプレゼントしようとしている。その見返りはタテハナなど洗浄党のごく一部の首脳たちだけが受け取り、それ以外の国民は煮え湯を飲まされることになる。


 いいや、今までにも煮え湯どころか腐った水を散々飲まされ続けてきたが、いよいよ洗浄党の一部の人間によって毒が振る舞われようとしている。ハットが演説をしなくても今にも大暴動が起きそうなほど聴衆はヒートアップしている。聴衆として治安警察の隊員もかなりの人数が参加しており、その人たちも声を上げる。


「もう俺たちは洗浄党の腐った連中の指示には従わない、今、誰を守るべきか、それはここに集まっているみんなさ!」


 この状態では洗浄党側は治安警察だけではなく、もともと洗浄党に懐疑的な警察官が多い所轄の警察でも反洗浄党の動きが加速しそうだ。また警察だけではなく、今日の演説にはオルダヤ国軍の軍人も多くが参加している。ハットたちや聴衆を威嚇する目的ではなく聴衆として参加しているのです。軍人たちはみな軍服を着ての参加ですが、彼たちはシュプレヒコールを上げる。


「打倒、洗浄党政権!」


 軍人たちが上げ始めたシュプレヒコールは、やがて聴衆全員が一体となって声を上げ、ハットも同じように声を合せた。


 少し落ち着くのを待ってから。


「今日は警察や軍隊の方まで、本当にありがとう! もう僕からぐたぐたと説明はしません。みんなで動いて洗浄党を叩き潰しましょう!」


 ハットのこの一言で演説会場は興奮の坩堝と化し、 「打倒、洗浄党政権!」のシュプレヒコールが再び始まった。




「もう説明の必要はありませんね。洗浄党を叩き潰しましょう、そしてチカリヤの野望も打ち砕きましょう! すみません、すみません、ちょっと静かにお願いします。だからと言って暴力的な行為は慎みましょう。揚げ足を取られます。みんなで公正な選挙を実現するように要求するのです」


 これも今までに何度となく訴えてきたもので、アストルをやヒカルゴをはじめアストル陣営の各国の協力を得て圧力を強めていく。そして、今、存在する不公平な選挙制度、例えば立候補するには洗浄党に所属しなければいけないといった文言を削除し、誰もが立候補できるようにしよう。そして選挙において不正が働かないように、国連や各国の協力を得て選挙の監視団に入ってもらう。これだけでも洗浄党にはかなりのダメージです。


 ただし、左胸に赤いバッジを付けた聴衆は猛反対します。


「なぜすぐに、チカリヤを悪だと決めつけるんだ!」


「わが国はオルダヤを救うために洗浄党に力を貸すだけだ!」


 といった声が上がりますが、多数のハットのたちの支持派の聴衆からは。


「おまえらの好きにはさせない!」


「オルダヤをおまえらには渡さん!」


「チカリヤの人と洗浄党は一緒にこの国から出て行け!」


 一部ではチカリヤ系の人たちと直接言い合う場面もあり、いつも以上にヒートアップして今にも飛び掛かりそう。その様子に所轄の警察官のほか、治安警察の隊員や軍人が駆け付け間に入ってなだめていく。


「暴力行為に出れば逮捕拘留することになる、落ち着け、チカリヤ人の話に耳を貸すな。われわれ自身ですべてを解決していく、チカリヤ人が出る幕ではないし、これから先もチカリヤに力を借りることはない!」


 そんな様子もいつものように世界中に配信されていく。




 演説会場を後にしホテルに戻ってきたハットとペト。


「もう何も喋らなくても国民はみんな気付いているんだな。今日の配信を見てそう思ったぜ」


「うん、僕はほとんど何も喋らなかったからね。でも選挙制度の改革もそうだし、選挙実施の際の監視団の派遣など、ヒカルゴやアストルにはかなり協力してもらわないといけないから……」


「ハット、ここからはヒカルゴの情報調査室の出番だよ。演説の模様はパガーノ大統領も見ているはずだから事情はよくわかっているはずだし、協力をお願いしよう、公正な選挙実現のためにさ」


 ペトはそう言うとすぐにヒカルゴの情報調査室に連絡し、外圧によって洗浄党が選挙制度改革を約束するまで追い詰めてもらうことはできないか、また選挙監視団の結成を各国に打診できないかなど、数点について要請してみた。


 するとすぐにパガーノ大統領から電話がかかってきた。


「今日のは演説とは言えないかもしれないわね、どちらかと言うと決起集会みたいだった。国民の多くがあなたたち三人の言葉を信じ、そして動き出そうとしていることもよくわかったわ。早速わが国はヨウラ首相のほかヘム・タテハナとの電話会談を実施する」


「大統領、ありがとうございます」


「チカリヤも必死になって動いてくるはずだから、これからすぐに電話会談を申し入れるつもりよ」


「それとアストルのジェンキンズ大統領に……」


「ペト、それも心配なく。リリックがチカリヤとオルダヤに関するレポートを出したことで、すでにジェンキンズ大統領も各国に対して動いてくれているから」


「本当にありがとうございます」


「私があなたたちに命令した作戦よ、あなたたちを派遣する時点でシミュレートはできているわよ。もちろんジェンキンズ大統領も陣営各国に水面下で打診済みよ」




 オルダヤ正常化に向けて一気に動き出したのですが、その裏ではやはりチカリヤが虎視眈々と一瞬のスキを突くために作戦を練っていた。


「ハットたちはアストルやヒカルゴの助けを得て、一気にオルダヤの選挙制度を変えるつもりね」


「ええ、しかしヨウラはダメですね、あんな連中にチャンスを与えるようなことばかり。偽物の文書で誤魔化せと、おそらくトクル・カストやイムロ・マカイの指示で行われたと思うが、偽物だと言うのならばおまえたちには今後一切極秘資料なんて見せないぞ、くらいにヨウラは突っぱねなきゃ」


「バーブ、私はまたヘム・タテハナの入れ知恵というか指示だと思っていたのに、違うの?」


「イグリー、あの人は直接お金が絡む話以外には口出ししませんよ。トクル・カストが思い付きで指示して、イムロ・マカイは〝言うことを聞かなければ叩き潰せ〟が口癖の人です」


「洗浄党ってもっとしっかりした党なのかと思っていたけど、そうでもないのね」


「ええ、全然ですよ。ヘム・タテハナはお金のニオイを嗅ぎつけたらそちらへ動く。トクル・カストとイムロ・マカイはその方針に従って作戦を考え、副党首だった私に無理難題を吹っ掛ける。党首のヨウラは自分で考えることはなく、台詞の一字一句まで言われたとおりに話をするだけですから」


「なるほどね、洗浄党の構造がよくわかったわ。しかし、ヘム・タテハナという男も大したことがないわね。チカリヤの口車にまんまと騙されているのだもの」


「ヘム・タテハナが騙されている?」


「オルダヤを自治区にした後は、あなたに知事の座をあげるって言ったら嬉しそうに飛び付いてきたけど、知事って正確には行政のトップ。簡単に言えば公務員のトップなの。でもその上には党自治区委員会があって、役員とか理事とかたくさんの階級があって、オルダヤが自治区になると私が最高位の書記に就くことになっているのよ」


「チカリヤは党中心の国だから、地方自治も党主体。だから自治区のトップは党の書記が就くんだ! ヘム・タテハナを手玉に取るだなんて、イグリー、大したものですね」


「私に協力してくれるあなたも、党自治区委員会の理事に推薦するわよ」


 元洗浄党副党首のバーブは自身の先々の安定を最優先に考えた末、チカリヤに加勢することを決めた。洗浄党のみならず、オルダヤを裏切ったのです。さらに洗浄党の役員だったオウダも加わった。オウダは党だけではなく議員経験が豊富だったことからメリー・イグリーが引き抜いたのです。


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