祖国を取り戻すため 6
洗浄党首脳との会談は三日目を迎えていた。昨日までは洗浄党役員だったオウダ元議員や副党首だったバーブが同席していたが、二人とも辞任したことで〇一、一地区市長のサモイ・ウネマと、以前はヒカルゴ洗浄党所属で中央議員だったセビイ・マガラが、オルダヤの洗浄党に復党して副党首に就任し会談に同席している。
今日の会談にブルは参加しなかった。断片的にハットとペトの二人から送られてくる会談内容のメールを、要約してSNSに投稿するためです。ハットやペトではおとなしく優等生的にまとまった文章になりますが、ライブ感を出すにはブルの少し荒い言葉遣いの方が伝わりやすい、そう判断したためです。
「ハットとペトを騙る二人か、ヒカルゴでは君たちの姿をよく見たが、ここオルダヤでは君たちのハッタリは通用しないよ」
「副党首に就任されていきなり私たちとの交渉ですか、大変ですね。ヒカルゴで中央議員をされていたそうですが、私はあなたを存じ上げません。落選したからお目にかかる機会がありませんでしたので」
マガラが仕掛けてきた口撃に応戦したペト。
「君たちが仕掛けた作戦でヒカルゴ国民をうまく誘導し、その煽りをまともに受けたからね。何せ私はモドル・タイダを支えてきた一人で、君たちが洗浄党は悪だとレッテルを張りまくったおかげだよ」
「僕はレッテル張りなんて一切していませんよ、すべて証拠に基づいた事実でしたから」
「ハットと騙る君、悪いがオルダヤの方向性はもう変わらないよ。国民が選んだわれわれ洗浄党が責任を持って、チカリヤの協力を仰ぎながら昔のような光輝く国に復活させる、それだけだからね」
「ウネマ市長、もっと現実を見た方が良いと思います。僕たちはアストルをはじめ各国からの情報を元に発信しているにすぎませんが、得た情報ではチカリヤに協力を仰いだ国で無事に復興を成し遂げた国は一つもなく、すべてがチカリヤの自治区として取り込まれています。この事実に対してはどう思われているのですか」
「そこは副党首である私が答えるよ。ヒカルゴも同じようにアリス・ホフマンがチカリヤと手を組み国を変えようとしていたが頓挫したよね。あれはヒカルゴ洗浄党が主導したものではない。合意案でははっきりとヒカルゴの土地の割譲が明記されていた。だからあのまま計画が進めばヒカルゴは一地方の名前として残るだけだっただろう。他国はそのまま条件を呑んだからチカリヤの自治区になったんだ」
「だとしたら、オルダヤもチカリヤとは手を組むべきではないと私は考えますが」
「ペトと騙る君、わが洗浄党は他国の失敗を見てきたし、ヒカルゴの失敗しかけた合意案も議員として読んだよ。だからオルダヤでは領土の割譲だなんて文言は入れさせなかった。あくまで経済特区として土地を貸与する、そういうスタンスなんだ。だから何も怖がる心配はない」
「あの、情報によるとオルダヤをチカリヤの自治区として併合し、オルダヤ自治区の知事にヘム・タテハナを充てるという情報がありますが、それについてはどうお考えですか」
「アストルの国家安全保障庁が発信したデマですね。チカリヤとの協力関係を何としても打破したいアストルが仕掛けたもの。チカリヤが手を引き、その隙にアストルが入り込む計画を立てているのでしょう」
「副党首は僕たちが発信した内容は、アストルのデマであるとおっしゃるのですね」
「そういうことですね。ヒカルゴでの計画を見て、オルダヤでは何としてでもチカリヤの思い通りにさせてはいけない、その一心で動いた成果がオルダヤとチカリヤ両国間の合意案です」
「では、その合意案の文書を見せてもらえますか。アストルからの発信がデマだと言い切るのならば、その証拠として見せてください」
「君は国家間の約束事を見せろと言うのか、バカも休み休み言いたまえ!」
ハットの要求に対してヨウラ党首が猛然と反対した。
「党首、見せればいいんですよ。そして彼たちに、自分たちの発信は間違っていましたとSNSで正式に謝罪させましょう。そうすればオルダヤ国民たちの安心感にも繋がるわけですから」
副党首は平然と言いましたが、ヨウラ党首はかなり難しい顔をしています。
「見せたいのはやまやまだが、チカリヤとの約束で正式合意に至るまで一切開示できないんだよ……」
「党首、そこがわが洗浄党が国民に信頼されない理由ですよ。合意してから公表するということは、国民には何も知らせずに勝手に他国と合意し、その過程は国民には一切知らせないということ。そこがダメなんですよ」
「副党首、国民の声を気にしながら政治ができるのか。様々な意見が噴出して何も決められない方が良いのか。これで進めますと強いリーダーシップを発揮して、国民を引っ張って行くのが真の政治家だろう」
「しかしその方法だと、こいつたちのデマに踊らされた国民が真に受けて、われわれを信じないどころか目の敵にするから今の状態に陥ってるのです。すべてを公表する必要はない、今、問われている部分だけを公表すれば良いのです!」
「しかしだな、タテハナ総帥にもきつく公表厳禁を言い渡されているしな……、悪いが君たち、席を外してくれ。上と相談するから」
そう言われるとハットとペトはオルダヤ側のSPに官邸を出て行くように促された。仕方がなく官邸を出て、門番のように立っていたヨウラ党首の秘書に、話が付いたら連絡してくださいと伝えて後にした。
「あれ? 帰ってきたのか」
「うん、ヨウラ党首と新しい副党首のセビイ・マガラっていう人の意見が対立して、話を擦り合わせるから官邸を出てくれって。待つような場所もないし帰ってきたんだ」
ホテルに帰ってきたハットとペト。そしてペトがその理由を答えた。
「そのマガラっていう新しい副党首の意見が正解だと思うけど、党首にすれば総帥や顧問のOKをもらわないと、一存で公開なんてできないしって感じなんだろうな。何せヒロム・ヨウラってやつは、指示通りにしか動けないやつだからな。あれ、セビイ・マガラってどこかで聞いた名だなあ」
ブルはメールで送られてきた会談内容とこれまでの経緯から感想を述べた。
「ヒカルゴで中央議員をしていて落選したらしいよ」
「ハット。だから名前を聞いた記憶があったのか、どんなやつかまでは知らんけどな」
「ヒカルゴの情報調査室にセビイ・マガラってどんな人なのかを聞いてみるよ」
ハットはそう言うとすぐにメールで問い合わせた。
その間にホテルの売店へ昼食のパンなどを買いに行き、部屋に戻ってくると返信が届いていた。パンを頬張りながら添付された資料を見る三人。そこにはヒカルゴにいた間の、彼の言動などが詳細に書かれていた。
チカリヤ系のオルダヤ人で、幼少期にヒカルゴ国籍取得。若い頃から政治家を志し大学在学中に政治研究会を発足させる。この研究会が母体となって活民党を旗揚げ、自らが党首となる。初めて国政に挑んだ選挙では落選し、活民党での活動を終えて公正党に参加。二年後、党内でのパワハラ問題や不正会計処理により公正党は解党、再び活民党に戻り政治活動を続ける。一年後中央議員に初当選、同党初の中央議員となったマガラは再び党首就任。
三年後、活民党の複数の党員が国の機密事項を漏らし、その対価として金品を受領。マガラ本人は知らなかったらしいが、党首の責任として活民党を解党して自立党に参加。党の役職を歴任し、三回目の中央議員当選を機に自立党の党首に就任。自立党は連立政権に否定的な党だったが、マガラの党首就任で一転、時の与党努力党と連立政権を組みマガラは交通大臣に就任。
ヒカルゴ国内の公共交通機関があまりにも脆弱だとして、交通によるヒカルゴ改造論を提唱。全国津々浦々に鉄道を敷き詰め、ヒカルゴ国内の各地から多くても一度の乗り換えで首都アレグム市に到達できるよう整備する計画を立てる。しかし国債の発行によって資金を調達し整備する計画だったが、あまりの巨額のために国債の格付けが投機ランクにまでダウン。結局全国鉄道網計画は頓挫した。
この当時努力党の支持は急速にしぼんでいく途中で、連立を組んだマガラ率いる自立党も支持率急落。同党所属の中央議員が大量に離党するなどしたため同党は解散となり、マガラは努力党に参加。泥船状態だった努力党も耐えきれなくなり、アリス・ホフマンが率いる中央党に吸収合併される。
アリス・ホフマンがチカリヤとの連携を重視しはじめ、チカリヤは政党政治に難色を示したことで大統領就任時に努力党を解散。マガラはヒカルゴ洗浄党に参加した。政治経験だけは長いマガラなので、ヒカルゴ洗浄党に参加してからは党の役員を歴任。ヒカルゴ洗浄党が推すモドル・タイダが大統領に当選するとマガラは再び交通大臣に就任した。
ヒカルゴやオルダヤの洗浄党内からは、以前交通大臣時代に大失敗を犯しているため難色を示す党幹部が多かったが、本人が大の鉄道マニアで、交通大臣以外の閣僚への登用は拒否する構えだったため、仕方がなく起用したというところが事実のようだ。
ヒカルゴでは現大統領のミスティ・パガーノが就任して以降は国内でのヒカルゴ洗浄党への風当たりが相当きつく、結果としてヒカルゴ洗浄党は休眠状態となる。議員でもなくなったセビイ・マガラはオルダヤへ移り、オルダヤの洗浄党に参加し今に至る。
「このセビイ・マガラって男は政党クラッシャーマンって言うのが正しい評価だよな?」
ブルはレポートを読みながら大きな笑い声をあげ、こんな感想を持ったようです。
ペトとハットは顔を見合わせてニヤッと笑っていた。




