祖国を取り戻すため 4
台上で話し続けるバーブ元副党首。これまで洗浄党に尽くし続け、その見返りに裕福な生活が与えられていたのですが、自分が知らないところでチカリヤとの間で話が進んでいた。オルダヤはチカリヤの自治区になり、その際には洗浄党は消滅する。洗浄党が消滅した後は一部の上層部はチカリヤ側が用意する椅子に座ることができるが、バーブのことまでは知らないと切って捨てられた。
簡単に言えばチカリヤへ実質的に併合された後はバーブは用済みで、もう不必要だと宣告されたのです。その恨みもあり、演説台上のバーブはかなりヒートアップして話を続ける。
「私はついさっきまで洗浄党の副党首をしていた人間です。だから内情は誰よりも知っているつもりでした。ところが副党首であっても仲間外れにされるんですよ。そんな党の人たちが国民のことを考えて政治なんてできるはずがない。まず選挙制度の改革を要求しましょう。たった一項目だけ変えればいいんです、洗浄党に所属していなくても立候補できる、そのように変えさせましょう!」
ハットに対して具体的な説明をするよう求めていた人が、今度はバーブに質問を投げ掛けました。
「あなたは洗浄党を今日辞めたそうですが、それでいきなりハットたちの仲間になったのですか? そんな簡単に宗旨替えするような人は逆に信用できません!」
「私はハットたちの仲間にはなっていません。ただ参考になる情報を大量に持っていて、今日も官邸でいろいろと見させてもらいました。ただそれだけです」
「ハットたちと組んで政界に打って出ることはないんですか?」
「私個人としては、洗浄党を倒すために議員になりたい気持ちは大いにあります。今現在の気持ちで言うと、自ら新しい政党を立ち上げて、その政党から出馬したいと思っています。ハットたちがこの先どういう方向へ進むのかはわかりませんので何とも言えませんが、協力できる部分は協力すればいいし、論戦を交える必要があればそこは徹底的にやっていきたいと思います」
まだ法改正どころか要求も出していないのに、洗浄党以外からの出馬を明言したバーブ。そこまでもって行くのが大変だし、そのためにSNSで世界中へ発信してアストルをはじめ各国の首脳に訴える形を取り、海外からの圧力を強めて洗浄党解体まで持っていきたいと頑張っているのに。
ハットもペトもこの時、このバーブという男がなぜ副党首止まりだったのかを考えていた。その役職とは裏腹に国内を飛び回り洗浄党の新しい方針の説得を行うなど、党の宣伝マンとしての役割を担っていた。国民にとって非常に厳しい提案を説明して回ることも多く、見方によっては汚れ仕事を押し付けられていたようにも見える。
他の党役職者はその厳しい提案が法案として正式に可決した後、上辺の見栄えの良い部分だけを強調しつつ喜々としてマスコミに登場し、バーブとは違って優しい顔つきで手を振っていればそれで良いだけで、立ち位置がまったく違っていたように思う。特に党首のヨウラはその厳しい提案や法案の中身についてあまり知らされておらず、洗浄党の顧問カストやマカイ、そしてタテハナ総帥の指示に従って笑っていればそれでいい、そんな役割なのかなとも思った。
いずれにしても洗浄党の中枢部におり、その中で汚れ仕事ばかりを押し付けられながらも自身の将来についてまったく知らされず、洗浄党消滅とともに自身の価値が無くなると感じたのだから、一般国民以上に洗浄党への怒りは大きいだろう。だから演説台から降りようともせず、延々と話し続けているわけです。
「おい、ノガユ・バーブ! おまえはまず最初に謝れよ! もっとほかの洗浄党の連中がこの国をおかしくした主犯だとしても、おまえも大勢の国民を騙していたのは事実だろう! 偉そうなことを言う前に頭を下げてわびろや!」
ハットには詳しい説明を求めたものの、ここまではバーブの話は黙って聞いていた聴衆の一人は一気に爆発したように話しはじめた。
「悪いが国民の大半は洗浄党のおかしさに気付いていたんだ。おまえにすれば洗浄党にだまされていたという気持ちが大きいのかもしれないが、それはおまえが善悪の判断をせずに盲目的に洗浄党に付いて行ったのが原因だ。そして何も考えずに悪政を国民に強いたのはおまえ自身だ、だからここでわびるのは当然のことだろ!」
その強烈な言葉にバーブは演説台の上でフリーズしていた。おそらく自分も国民と同じように洗浄党に騙されていた被害者なんだという、かわいそうな自分をアピールしたかったのだろう。しかし国民はバーブのような贅沢な暮らしなど一度もしたことはない。第九ランクに落とされたと訴えても、そんな制度をおまえは支持したから洗浄党に残れていたわけで、ただの自業自得だろうとしか思えないのです。
そんな国民感情を理解できないバーブは演説台上に立ち尽くしていた。その顔は呆然としており、ようやく自分は国民から見ると敵なのだと悟ったのでしょう。
「申し訳ありませんでした!」
バーブが立ち尽くしたままの演説台に駆け上り、彼の横で土下座を始めた男。党首に洗浄党の役員辞任届を叩きつけ、自動的に洗浄党から離党し議員も自動失職となったオウダだった。彼もバーブと同じように洗浄党を叩き潰そうとか言って、国民を味方に付けようと目論んでいたのかもしれませんが、思いもしなかったバーブへの風当たりの厳しさに、慌てて土下座をチョイスしたのかもしれません。
ただ彼は議員時代にはバーブとは違い、議場においてもかなり口汚く国民を罵る場面が多く、その様子をテレビで何度も見せられてきた国民側にするとバーブ以上に嫌悪感が強かった。
〝今さら土下座したって、これまでの暴言が無かったことにはならないんだぞ!〟
〝味方がいなくなったから国民に擦り寄る気か? 国民はそんなバカじゃないぞ!〟
公園中が騒然となるほどオウダへの批判の声は大きかった。その様子を横で黙って見ていたバーブも事態が収拾しないと思ったようで、オウダと並んで土下座を始めた。演説台の下にいたハットとペトは二人に対して台から降りるように促し、怒声が響き渡り聴衆が大混乱に陥る中を、背中を丸めて公園の裏口の方へと消えて行った。
二人に変わり演説台に立ったハット。混乱が静まり話を聞いてもらえる状況に近付くまで、何度も何度も落ち着いてくださいと呼び掛けた。多少落ち着きを取り戻すまでに三〇分近くを要した。
「思いがけない方々が来られました。でも、僕とは違ってバーブ元副党首は演説が上手ですね。うまく笑いを入れながらみなさんを話に引き込んでいました。僕にはそんな話術はありません」
ハット本人は少し軽い話から入ったつもりですが、残念ながら聴衆はまったく反応せず、ただ一心にハットを見つめます。
「お二人は今後法改正によって、洗浄党に所属していなくても立候補できるようになれば出てくるでしょうね。僕は一切立候補とか議員になるだなんて考えたことはありません。なのでお二人から手を組もうと言われてもお断りします。僕はあくまでごく普通に暮らせる国になってもらいたくて発信を続けているだけで、実現すればそれを享受して暮らすことしか考えていません」
そんな話をしていたのですが、演説台のすぐ近くに陣取っていた赤バッジを付けた人たちが目の前から消えています。気になって目の届く範囲を見渡したのですがやはりいません。どうやらバーブとオウダ元議員が帰る際の混乱に乗じて、公園を後にしたようです。
――もう僕の話なんて聞いても意味がないと思って帰ったのかな。
ハットはそんな風に考えたのですが、実際はかなり違っていました。
イグリーはある作戦を思い付いたのです。そのためにハットの演説を中座してその作戦遂行のために動き出したのでした。




