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祖国を取り戻すため 3


 演説を好意的に受け入れる人もいれば、赤バッジを付けた人たちのように敵対視している人もいる。そしてもっと具体的な方法を出さなければただの絵空事だとバカにするような人もいる。今ハットたち三人が演説やSNSの発信でもっとも納得し共感してもらわなければいけない人、それは絵空事だとバカにする人です。


 そういう人を納得させるだけの方法を詳しく説明しなければいけません。


「そうですね、ここで話すだけ、SNSで発信するだけで自身の身には何も危険が及ばず、僕たちが鼓舞して動いていただいたり、声を上げた人は捕まってしまう。いい気なものだとバカにされるのも仕方がないですね。すべてをここで話したりSNSで発信することはできませんが、例えば公平な選挙を実施するために、他国に協力してもらうことも考えられます」


 具体的なことには言及しませんが、アストル陣営の各国から選挙監視部隊を派遣してもらうことは考えています。これはアストルのジェンキンズ大統領が提案したのですが、さすがに先走って口にすることはできません。


「法改正の手続きが完了しないと、洗浄党員以外の立候補は認められません。法改正ですから国民の力がなければ国は変えようとはしません。ただし多くの人が声を上げることで、海外からの圧力も相当かかってきます。デモや暴動といった直接的な訴えでなくとも、声を上げSNSで発信することも大きな力となります」


 アストル陣営の各国首脳はオルダヤの状況を注視していて、そのうちの一つに選挙制度の改変が上げられています。現状のように洗浄党の党員以外は立候補できないという形だけの選挙ではなく、志ある人が自由に立候補できる体制への変換が求められています。


「先も話しましたが、今、ここですべてを話すことはできません。洗浄党だけではなくチカリヤ系の方もおられる前ですべてを話せば、場合によっては上手く行きかけた作戦が頓挫することも考えられます。デモや暴動といった直接的な行動でなくとも、例えば僕がSNSに発信した内容にいいねを付けるだけでも構いません。その数が洗浄党への圧力だけではなく、世界中の各国へオルダヤ国民は強い意思を持って現政権に抗議している、その証になるんです!」


 ハットの口からは今ここですべてを話すことはできないし、そのことも説明したのですが、それでも。


「口先だけなら誰でも言えるんだよ! ここに集まってる人間はみんな何かにすがりたい気持ちでいっぱいなんだ。だからこんな中身のない話にも熱狂するんだよ。そうではなく、安心できる確たる証拠を話してほしいんだよ!」


 さすがに困ったハット。これまでも貶されたり誹謗中傷めいたことを言われたり投稿されことは何度もあった。でも今回は誹謗中傷でも貶されているわけでもなく、これまでの抽象的な言葉では安心できないから安堵できる的確な証拠がほしいと言われているだけ。でもその証拠を出すということは各国の出方をばらし、洗浄党やチカリヤに有利に働く危険性が大きい。


 言える範囲ギリギリまでは話したのですが、当然相手は納得してはくれない。そこへ聴衆の中から男性が演説台へ近付いてきた。その男性はハットと少し話をするとマイクを受け取り演説台に乗った。


「ええ、ハットの冒頭のあいさつでも触れておりましたが、私は今朝まではみなさんの敵だった元洗浄党副党首のノガユ・バーブです。第二ランクで悠々自適な生活を送ってきましたが、今日からは第九ランクです。困った事に無職になりました」


 聴衆がザワザワする中、気にも留めずに話を続けるバーブ。


「今朝は官邸のそばのマンションの最上階で目を覚ましたのですが、今夜からはここから二〇〇キロほど離れた小さな町にある古い小屋で寝泊まりします。本当に何もかもを失いました。ここだけの話ですが預貯金や株などもすべて没収され、冗談抜きで無一文です」


 洗浄党の表向きのナンバーツーだったバーブは、もっとも汚くて洗浄党らしい酷い法律や決定事項を周知徹底させる役割を担っていた経験から、多くの人前で話をするのが得意。特に最初に笑わしておいて耳目を集め、本題に入って行く話術は演説の基本中の基本。こういった面ではハットよりはるかに長けています。


「先ほどから聞いていますと、ハットに今後の洗浄党やオルダヤ、そしてチカリヤに対してどうしていくのが良く、そして具体的な方法を話してくれないと安心できないと言った反応がありますが、まあ、これまでの洗浄党政権を考えればそう思うのも仕方がない。ここが良くなりますと言いつつ、いつも改悪でしたからね。良くなるのは洗浄党だけ。私もそのおこぼれを頂戴していたわけですが……」


 バーブの演説は続く。


「まず選挙を公正に実施するための方策ですが、国連主導による選挙制度改革の提言や、実施の際には監視団の派遣が常套手段です。基本は国連による仲介作業ということになります。中には他国への派遣に反対する国もあるでしょうね、オルダヤ自身だったりチカリヤもそうかもしれません」


〝チカリヤは世界で最も公平公正な国だ!〟


〝国連の正しい判断にチカリヤは反対しない。反対するのは国連が間違った判断をしている時だけだ!〟


 赤バッジの人たちから反論が噴出します。


「いやいや、チカリヤが反対するのは自国にとって都合が悪い時だけでしょ? 悪いがチカリヤは自国が良ければ他の国のことなんてどうでもいい、そんな国です。他の国がどうなろうが知ったことではない、それがチカリヤという国を表す言葉です」


 当然ですが赤バッジの人たちが、放送禁止用語を交えてバーブを口撃します。それらの言葉を遮り話し続けます。


「今、罵詈雑言が飛び交っていますね。チカリヤにとって都合が悪いことを言われたからです。本質的にチカリヤはこういう国です」


 さらにヒートアップする赤バッジの人たち。警備チームが武器を出して演説者を守る体制を敷いた。


「これまでにもわが国はチカリヤと何度も手を結んできました。私自身がその旗振り役をしていました、今となってはお詫びのしようもありません。だって手を結ぶたびに国民の生活は疲弊していきましたから。中にいるとその辺りがわかりませんでした。ヘム・タテハナ総帥を筆頭に上層部は口を揃えて大丈夫だ、われわれが責任を持つと言って私を実行役に仕立てていたのです。本当に私は信じるしかなかったですから」


 洗浄党内部ではタテハナが総帥と呼ばれていることを公にしたバーブ。聴衆の多くも薄々はタテハナが後ろで糸を引いているはずと感付いてはいましたが、元副党首の口から聞いたことで、洗浄党はタテハナが牛耳っていることが明らかにされました。


「ハットが発信しているチカリヤによるオルダヤの乗っ取り、これも一部の上層部主導で進められています。本当に酷い内容で、私自身今朝まで知らされていませんでした。知ったのはハットが用意したアストルからのレポートです。党首に確認すると間違いはないということでした。本当にオルダヤは乗っ取られてしまいますよ!」


 赤バッジの人たちが一斉にバーブに襲い掛かろうとしますが、警備チームと治安警察がそれを阻止し、一部のチカリヤ系の人は身柄を拘束され、公園中に異様な熱気が渦巻きます。


「具体的にわがオルダヤに対して、どの国がどのような動きするのかは私にはわかりません。あくまで個人的な予想ですが、先日アストルとヒカルゴの大統領が起こしになったことも踏まえ、両国が何らかの動きを見せるとは思います。さらに言えば、アストルのジェンキンズ大統領を激怒させる事案もあり、宣戦布告と同義だと言っておられます。この辺りの事情から、みなさん、どうか察してください」


 ハットに明確に答えるように迫っていた人も黙って聞いていた。あれだけ不平を口にした人もバーブの話は黙って聞き、聞いている多くの人を納得させる話術。ハットはそういう術が自分には皆無なことを痛感し、SNSでの発信とともにもっと勉強しなきゃと思い知らされました。


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