ついに故郷へ 14
静まり返る官邸内。オウダが洗浄党役員の辞任届を党首に叩きつけたのだから。
オウダは洗浄党内では副党首に次ぐランクの役員で、洗浄党が正常な政党ならば、その頑張りによってはやがては党首や首相になれる地位です。しかし、残念ながら党内では選挙は行われず、顧問のカストやマカイ、実質的な党の元締めタテハナの一存だけですべてが決まります。今、副党首の次に位置付けされているということは、彼の力量はその程度であると見限られているということ。
つまりはどうあがいたって党首や首相の座に座ることはできないのです。だからハットたちの意見に擦り寄ることで、国民の方を見ているとアピールし、洗浄党を改革していく人だという印象を植え付けようとしているのです。ヨウラ党首の失言をきっかけに辞任届を出すというシーンをあらかじめ想定していたのかもしれません。
「オウダ議員、洗浄党の役員を辞めれば自動的に離党となる。そしてこの国の決まりによって議員も自動失職となる。もちろんそれくらいのことはわかっていての辞任届の提出だな!」
「ヨウラ党首、それを理解しているから直接党首に手渡しました。もちろんあなたが首相を務めていて、あなたが私を失職させる手続きを行うこともわかっています」
「おい、オウダ! たった今、おまえは洗浄党を辞め議員でもなくなるわけだ。今すぐ官邸から出て行け!」
「わかっていますよ、副党首。洗浄党の人間でもなくなり議員も失職した私は無職ですから、ランクで言えば第九ってところですかね。長い間お世話になりました、そして、必ずあなたたちを引きずり降ろしてみせますよ」
そう言うとオウダは官邸から出て行こうとした。ドアを開けるためにノブを掴んだところで振り返った。
「ハット、ペト、ブル、頑張ってくれ、君たちを応援しているから!」
そう言い残して官邸を後にした。
党首と副党首は離党や議員辞職の扱いについて話し合い、二人を見る限りは官邸内の空気はかなり重たく感じる。
それに対して三人は、こういう事態が起こるかもしれないと予想していたので特に驚くこともなく、ただこのタイミングで辞任届を出すのかと呆気に取られている感じだった。三人を警備する目的で数人のヒカルゴの特殊警察隊員も同席していたが、彼たちは顔色を変えることなく状況を見守っていた。
手続きのことなどである程度の目星がついたのか、バーブが三人に聞いてきた。
「君たちはフッケ・オウダと組んで企んでいたのか?」
「いいえ、私たちはオウダと会うのは昨日が初めてでしたし、これまで連絡を取ったこともありません」
「そうか……、オウダもバカな国民と同じく、君たちに感化されたクチなんだな」
「バカな国民って……、やはりあなたたちはそうやって国民を下に見ているのですね」
「いや、あの、バカな国民というのは言葉の綾でだな……、そんな深い意味はないから……」
「バーブ副党首は見下した意味で使ったわけじゃない、そのくらいわかるだろ?」
「僕にはわかりましたよ、洗浄党の方々が日々国民をどう思っているのかが。思っているからこそ、言葉に出るんですよ」
ヨウラはバーブのフォローのつもりで話したが、ハットが冷静に反応するとヨウラもバーブもこれ以上この話題に触れたくはないと思ったのだろう。
「本題に戻ります……」
バーブは謝るわけでもなければ発言を撤回するわけでもなく、そのまま会談を続けようとした。
「本題に戻るんですね、俺もいいと思いますよ、それで。洗浄党側が国民をどう見ているのかが、今の一連の流れでよくわかりましたから」
「洗浄党内のゴタゴタを見せられても僕にはどうすることもできないので、本題に戻るほうが良いと思います。ただし、洗浄党の国民に対する考えがよくわかりましたので、僕もそのことを念頭において話を進めていくつもりです」
ブルとハットが怒りを包み隠して冷静に洗浄党側に話したわけですが、なぜか党首も副党首も特に反応を見せません。
〝え? われわれのことを今まで知らなかったの?〟
みたいなことを思っているのだろうかと、ハットは考えた。
「君たちはわが国がチカリヤに接近することを警戒しているが、それはアストルやその陣営側に引き入れたいからだろ?」
「副党首、当たっている部分はチカリヤと手を組むことをやめてほしい、その部分だけです。アストルやその陣営の特使として来ていますが、オルダヤがアストルに接近するしないはどうでもいいことです。とにかくチカリヤとは手を切ってほしい、それだけです」
「チカリヤと距離を取りアストル陣営にも近付かないとすれば、それはオルダヤという国に対して野垂れ死ねと言っているのと同義だ。君たちこそわが国民たちを愚弄しているではないか!」
「副党首、ということはここ数年間は、その野垂れ死ぬ道を洗浄党が選択していたということですね」
ペトとバーブとの舌戦が続く。
「だからだな、そこは反省して、チカリヤの力を借りて国を立て直そうとだな……」
「だから、これまでの政策は失敗だったということですね!」
「ああ、そうだとも。タテハナの指示どおりにしていたら、あんなふうになったんだよ!」
「バーブ副党首、タテハナ総帥のことをそんな風に言うのはさすがに、訂正してください!」
バーブの発言にヨウラ党首が素早く反応して訂正を求めたのですが、彼が口を開く前にハットが口を開く。
「へえ、タテハナって洗浄党の総帥なんですね。僕は見えないところから洗浄党を操り、オルダヤという国を利用して金儲けだけしている黒幕的な人だと思っていました。これまでの失政もタテハナ総帥が原因なんですね」
「いや、あのだな……、ちょっと頭に血が上って、つい勝手な想像を口走ってだな……」
「副党首、別にそれは訂正しようがしまいが僕たちには関係ないです。それよりも、タテハナ総帥を引き合いに出した発言は直ちに訂正するのに、バカな国民という発言は訂正する気もない。僕はこの方がはるかに大きな問題だと捉えています。国民を愚弄して自分たちだけお金儲けできればいい、如実に洗浄党の体質が現れていますから」
「だからあれは言葉の綾であって、そう悪く取らなくてもだな……。われわれは常に国民を意識して国を動かそうとしているぞ。だからこそ、今の窮地から脱するためにチカリヤの力を借りようとしているわけだ」
「あの、僕たちは昨夜もSNSに発信しました。かなりの反響があったのですが、僕たちのSNSなんて見ていないですよね?」
「見る必要がないからな」
「昨日副党首が〝何の努力もせず低レベルに据え置かれている国民が騒いだところで、おまえたちが悪いとしか言いようがない!〟という発言されたことに対して、これまでとは次元が違う反応が多く寄せられました。〝今の政権を倒さないとオルダヤの未来はない〟こんなスローガンが多く発信されています」
「だから、そういった文言は言葉の綾であって、本心ではない! そんな重箱の隅を突くような発信ばかりしやがって!」
「今、オルダヤ国民の多くが、洗浄党による政権運営は他の国と比べようがないほど酷い、同じような一党独裁のチカリヤのようなち密な計算もない、すべてが行き当たりばったりだと言われていますが、それについてはどうお考えですか?」
副党首に変わりヨウラ党首が答える。
「先々を読むのは本当に難しい、今はたまたま洗浄党の読みがすべて逆に出ているが、これから先はそんなことはない。チカリヤとともに手を携えて進めば間違いないんだよ」
「そうですか……、今朝早くにアストルの国家安全保障庁の分析官から届いたレポートでは、チカリヤはオルダヤを含む数カ国を助けるという名目で国を編入し、それらの国名が消えることになるとチカリヤの首脳が発言したそうです。わかりますか、オルダヤという国は呑み込まれて消えてなくなるんですよ!」
ハットはリリックからのレポートをコピーしたものを、ヨウラ党首に手渡した。
「このレポートは今朝早く届いたのでまだSNSには発信していません。しかしこれまでとは比べ物にならないほど大きなデモが、国内のあちこちで計画されているという情報も伝え聞きます。これまでのように治安警察の力だけでは抑えられない規模になるようです。それでもまだチカリヤに頼るのですか? このレポートの内容が国民に知れ渡ったら、国の機能は完全にマヒしますよ」
今朝リリックから届いたレポートにははっきりと書いてあった。チカリヤはオルダヤを呑み込むつもりだと。さらにこのレポートには恐ろしいことが書かれていた。




