ついに故郷へ 12
オウダ議員が意外にも三人の話に耳を傾けると言うので、どうせ全否定するのだろうと思いながらも考えを話していった。
まずは国民の意見に耳を傾けてほしい。多くの国民は今のオルダヤの制度全般に不満がある。先ほども話したが国民を階級制度によって区別し、仕事も住む場所も、さらに結婚や同棲にまで制限を設けるのは近代国家がすることではない。犯罪を犯した人に対して重いペナルティを課すのはやむを得ない部分もあるが、その家族までペナルティとして低いランクに落とさすのはさすがにおかしい。
その犯罪も、過失と故意を明確に分けるべき。過失によって人を殺めても原則処刑というのはさすがに厳しすぎる。あまりにも重い過失、例えば自動車を運転していて五〇キロ以上の速度オーバーとか、お酒を飲んで運転していて人を殺めた場合は処刑でも良いが、過失の軽重を一切考慮せず今のように一律で処刑という運用はもっと考慮するべきではないか。
他国との貿易に反対する気はなく、逆に積極的に行うほうが良いと思う。ただ現状のオルダヤでは輸出できるものが少なく、輸入超過による貿易赤字が深刻な額に達する恐れがある。国内産業をもっと活発化させるためにも、国民のランク制度を撤廃して労働力の流動化を図る必要がある。
現状オルダヤでは洗浄党以外の政党が認められておらず、一党独裁体制となっている。この制限を無くして多党間での対話を活発化することで、もっと活力ある国に生まれ変わらせるべき。現在は議員に立候補するためには洗浄党の所属が必須となっているので、この規定を撤廃しなければいけない。
今オルダヤはチカリヤに寄り掛かろうとしている。チカリヤに擦り寄った国々の大半は、経済も政治も国土までもが実質的に吸い上げられている。その現状を知っているからこそ、チカリヤ一辺倒となるのはすぐやめてほしい。まったくチカリヤと貿易を行うなとは言わないが、リスクヘッジとしてアストルをはじめ、もっと多くの国との交流を促進するべき。
現在チカリヤ国籍の人民はオルダヤへほぼフリーパスで入国でき、さらにオルダヤ国籍を容易に取得できる制度を作ることをチカリヤが求めているが、絶対に反対する。国を守るためには、海外から流入する人を選りすぐる必要があると考えます。また永住許可や帰化申請に対しては、どこの国からであっても厳しい制限を設けなければいけません。そうしないとオルダヤへ入ってきた外国人によって国が破壊されていきます。
大きな項目はこのような感じで、さらにこれらの要件を実行するための条件や運用方法などを含めると膨大な量の要求となった。
「こんな要求、一つも呑めるはずがない! 今のオルダヤの体制をすべて壊せと言っているだけではないか! 国の制度を壊して君たちはオルダヤを乗っ取るつもりなのか!」
「バカも休み休み言え! 何の努力もせず低レベルに据え置かれている国民が騒いだところで、おまえたちが悪いとしか言いようがない! それとチカリヤの件、君たちはアストルからの特使でもあるからチカリヤを切りたいだけだろ? だいたい国政はSNSで騒ぐだけでは運営できないんだよ!」
「首相、副党首、私たちは国政に進出しようとはまったく思っていません。ただ安全に自由にオルダヤで暮らしたいだけです。アストルやシルバーピーク、そしてヒカルゴで経験した当たり前な生活を、このオルダヤでも味わいたいだけです」
ヨウラやバーブがほぼ恫喝するような口調で反論してきたのに対し、ペトは気持ちを抑えつつ丁寧に返答した。
「あの、僕も国政なんてそんな簡単にできるものではないと思っています。内政だってどれだけ国民を納得させつつ負担に応じてもらうかが必要だし、外交なんて国同士の利益の奪い合いですから、SNSで偉そうに発信しているだけの僕らでは何もできません。できるのは、それらの難しい仕事をするんだ、達成するんだとの強い気持ちを持って立候補して当選した議員と閣僚ですから……」
ハットがおとなしめに話をしたのに対してペトは。
「でも今のあなた方は私利私欲にまみれているじゃないですか! 税金の無駄遣いをなくすと言って公務員を削減し、足りない人数は国民のためと言いながら、洗浄党の黒幕というか実質的オーナーのヘム・タテハナが経営する人材派遣会社から派遣する。結局はヘム・タテハナが儲かっているだけですよね! ヒカルゴではこれも原因の一つとして、大統領選では洗浄党の候補やチカリヤと手を組んだ候補が落選しているんですよ」
「じゃあ何かね、役場などに派遣されている派遣社員のクビをすべて切れとでも言うのか!」
「首相、違いますよ。そう考えるのではなく、その派遣社員をすべて公務員として正式に雇えばいいのですよ」
「なに! これまで世話になってきた派遣会社を切れと言うのか!」
「なぜそうなるのですか? 公務員は公が責任をもって雇い、異常時や緊急時は責任を持って働いてもらう。一般の人がわからない分野も専門的に解決するといった本来の公務員の仕事をしてもらい、派遣会社はもっと違う分野へ進出できるように会社自体が努力すれば良いのです」
「君はあまり知らないようだけど、わが国では派遣会社は公務員の代替要員しか出してはいけないんだよ」
「そんな答え俺にだってわかるぜ、法律を変えればいいだけだろ?」
「党首、副党首。私は彼たちの意見に賛成します。チカリヤの本当の脅威などは、彼たちがSNSで発信してくれたおかげでわが国民にも急速に知れ渡っています。またわれわれが何もせず、都合が悪くなればわれわれにとって都合が良い法改正と解釈で切り抜けてきましたが、さすがにもうそんな時代ではありません。われわれが率先して動かないでどうするんですか!」
ヨウラやバーブの意見を抑え、三人の意見に賛同するオウダ。絶対に何か企みが無ければ近付いてくるはずがないと、三人はすぐに気付いたはずだ。ただどんな企みがあるのかは現時点では何もわからない。
今はオルダヤを自由な普通の国にするために、洗浄党を消滅させることが重要。オウダに近付けば洗浄党を生き長らえさせることに繋がりかねないが、ひょっとすると今より弱体化させることはできるかもしれない。とにかくオウダが何を企んでいるのかが知りたい。それがわからなければ不用意に近付くことは危険だろう。
「オウダ議員、ありがとうございます。私たちの意見に賛同くださるようですが、議員は個人的にどのようなビジョンを描かれているのですか?」
「私は今の洗浄党一党による国政はそろそろ限界だと思っています。世界最大の貿易ボリュームであるアストル陣営各国とは国交断絶状態で、国内はとにかく物が無い。物がないから物価は高騰し、反比例するように国民の所得は減少し続けている。国民たちは我慢の限界に達し小さな暴動が続き、そのガス抜きのためにSNSを開放したが、リアルな世界を垣間見ることになってさらに不満は高まっている。そこに君たちによる現実が綴られたSNSの投稿を見て、さらに実物の演説を見た。もう今の状態で押さえ続けることなんて不可能ですよ」
「あの、僕たちの演説をご覧になったのですか?」
「うん、君の演説を生で見たよ、マーシュ中央公園でね。一般の国民だけではなく、国に忠誠を誓った警察官たちも君の演説に感動し、そして感化されて、今のままではダメだと気付いた者も多かったようだ。あの現場を生で見れば、今の洗浄党のやり方ではもうダメなんだと私だって気付いたよ。党首、副党首、われわれが考え直す時期に来ているんですよ」
でもオウダには絶対に裏があるはず。この国の政治家は、いや、世界中の政治家の大半は大きな野望を持ち、自身の懐をいっぱいにすることしか頭にはない。そのためには平気で仲間も裏切り、それまで敵だった相手とも平気で手を組む生き物、それが政治家という生き物だ。
会談は夕方まで断続的に続き、ヨウラ党首とバーブ副党首は三人の意見を徹底的に拒否し、オウダは意見を取り入れて自分たちが変わらなければいけないと力説する、何だか妙な時間を過ごした。




