ついに故郷へ 11
「君たちが射殺されたわが国の脱獄囚の名を騙って、わが国やわが党を貶す発信をしているわけですか。本来ならば即逮捕拘留するところだが、ヒカルゴやアストルをはじめかなりの国の首脳から警告を受けている。君たちの身に危害を加えれば、それはアストル陣営への宣戦布告と同義であると。なので逮捕などはできないが、すぐに帰っていただくことはできるので悪しからず」
ハットたち三人はマンションの一室にある首相官邸を訪れて、洗浄党との会談に臨んでいます。洗浄党党首で首相のヒロム・ヨウラから発せられたあいさつは敵意むき出しのものでした。言葉だけではなく、官邸へ入っても握手することもなく着席を促され、洗浄党側はソファーに座りハットたちはパイプ椅子という扱い。
別にソファーに座らせろとは思わないが、これほど露骨に〝いやがらせ〟を受ければ、洗浄党側がいかに三人を嫌い、さっさと話しを切り上げこの会談を打ち切りたいという意思が見え見えです。またこの会談には洗浄党の黒幕ヘム・タテハナをはじめ、顧問のトクル・カストやイムロ・マカイなどの主要メンバーは出席していません。ヨウラのほかには副党首のノガユ・バーブと議員が一人いるだけ。初めから話し合う気も洗浄党側には無いようです。
「私たちは招かれざる客どころか、ただの迷惑な〝外国人〟という感じでしょうか。では直球で話をしますが、チカリヤと手を組めば、私たちからの生易しい迷惑を被る程度では事は収まりませんよ」
ペトがストレートに、チカリヤの援助を受けると大変なことになると警告を発し、それに対してバーブが答えていく。
「君はわが国がチカリヤと手を組むことに反対なのですね。当然ですよね、チカリヤと対立するアストル側の特使として来ているのですから」
「副党首はご存じないのですか? チカリヤからの借款を受けた国の末路を?」
「どういうことかな?」
「チカリヤは必ず債務国の国家予算の数倍規模のお金を貸し出し、港湾や軍事施設を含むインフラ整備を行います。国家予算より多額の金額ですから返せるはずもなく、結局は整備した設備はすべて抑えられてしまう。さらにそれらの設備を効率的に使用するためとして経済特区を設けるように言われ、返済できないためにその要請を呑む。経済特区は国中にどんどん広がり、気が付けば領土のすべてを好き勝手に使われる」
「ハットと名乗っている君、それでも各種税金はわが国に落ちるんだよ。そして経済拡大に伴いわが国民の就労機会が増え結果的に潤う。チカリヤ資本の大企業が進出することで法人税収入も莫大に増える。整備したインフラ設備をチカリヤが優先的に使うにしても、わが国内での事業についてはわが国に法人税が落ちる。何も悪いことはない」
「副党首は実態を知らなさすぎですよ。同じようにチカリヤからの借款を受け入れたばかりに、ほぼ植民地に近い状態に陥った国が多数あることを。そもそも税金なんて落ちないですよ、経済特区という名のチカリヤの自治区なのですから。それに、オルダヤだって一時期は経済面も統治面でもチカリヤの人たちに牛耳られ、盛んに国外追放していたじゃないですか」
「あの当時はアストルとの取引だけではそれ以上の発展が見込めないと判断し、新たな取引先としてチカリヤを巻き込もうとした。ところがチカリヤの移民たちのバイタリティが凄まじく、国内の多くの企業がチカリヤの手に渡り、さらに国への関与も激しくなり止む無く帰ってもらった。しかし、チカリヤとの取引がほぼ無くなった現状を見ると、正直に言って惨憺たる状態だ。だからもう一度チカリヤと手を組み国を立て直そうと考えたわけだ」
「僕たちはアストル側の代表でもあるのですが、チカリヤではなくアストルとやり直そうとは考えなかったのですか?」
「アストルやその同盟国は、チカリヤとの取引を拡大した途端に手を切ってきたのだ。そんな国々とやり直せるわけがない!」
「待ってください、副党首。チカリヤとアストルの関係を見ればすぐわかることですよ。私は一介の教師にすぎませんが、両国が対立している中でチカリヤと手を結べば、アストルに切られることくらいはわかるはずですよね。それはヘム・タテハナの判断で行ったのですか?」
「タテハナ氏は当時わが国の主要な閣僚であり、チカリヤと取引を行うことでわが国がさらに発展すると氏が判断したのは間違いないですし、特に誤った判断だったとは考えていません。チカリヤとの取引拡大を嫌がったアストルとその同盟国がわが国から遠ざかり、露骨に揺さぶってきたという認識です」
「チカリヤと手を組み、一度はオルダヤという国のすべてが乗っ取られそうになったのに、再び手を組もうと考えることが僕には理解できません。他国の例もある中でなぜチカリヤを選択するのか。その理由は何ですか?」
この質問には党首で首相のヨウラが答えた。
「おそらく君たちもわかっていることだと思うが、タテハナ氏によるアドバイスだ。特にアストルは自国の利益しか考えない人間が大統領を務める国だから、いま手を結んだところで輸入ばかりを迫られ、輸出に関しては高関税を掛けてくる可能性が高い。その反面チカリヤはわが国へ直接お金を落とし、さらに各種インフラの整備まで行うわけだ。これだけ条件が違えばチカリヤを選ばない理由はないからね」
ここまで黙っていたブルが直球勝負を仕掛けてくる。
「俺……、私は政治にはまったく疎いど素人ですが、ど素人だから思うことがあります。ヘム・タテハナをはじめ洗浄党の偉い人たちは、チカリヤにいくらもらったのですか、それともいくらもらう約束をしたのですか?」
「失礼な! われわれが賄賂を受け取るとでも言うのか!」
「だって、以前に会社をたくさんチカリヤに乗っ取られ、法律を駆使してそのチカリヤの人をやっとの思いで追放したのに、またその人たちを受け入れるって何かがないと認めないですよ、普通は。お金か土地か何かは知りませんし、俺個人的には受け取っても良いと思いますよ。でもその前提として、洗浄党は国の運営をしているのだから、国民が納得できて幸せになれなきゃおかしいと思うんですよ!」
「われわれの手法では、国民は幸せにはなれないと言うのか!」
ブルもヨウラもエキサイトしてきたので、ペトが間に入るように話をする。
「私は洗浄党のみなさんだって、国民が幸せに暮らせるように願って政治運営や法律の整備、デジタル化などを行ってきたと思います。でも国民にまったくその実感がありません。正直に言ってすべてが裏目に出ています。生活の実感として一般庶民はみんな中の下に届かず、下の中から下の下なんですよ」
「それはランクが低いためだろう。努力して上がろうとせず、その地位に甘んじることを選択したその人が悪いだけでは?」
バーブのこの言葉にペトもキレかける。
「ではお聞きしますが、第一〇ランクの方はどうやって上がればいいのですか?」
「第一〇ランクと言えば犯罪者の家族だろ? 家族に犯罪者が出ないように努力を怠ったのが悪いのだから仕方がないだろ!」
「車を運転していて故意ではなく過失で人命を奪ってもその運転者は極刑となり、その家族は第一〇ランクの中でも死刑囚の家族として扱われる。そんな理不尽なことがありますか!」
「じゃあ何か、君たちは車で人を殺しておいても何も処分されない世界の方が良いのか?」
「首相、故意と過失では意味合いがまったく違いますよね? 過失での事故なのにその家族まで国が虐げる運営が正常だとは思えません!」
話し合いは完全に平行線をたどり、とてもではないけど決着点なんて見出せません。
「われわれも反対するばかりではなく、私は君たちの意見にも少し耳を傾けるべきだと思っている。少し考えを話してくれ」
無駄な時間を過ごして終わるのかなと思い始めた時に、オルダヤの議員で洗浄党の役員をしているフッケ・オウダがこんな言葉を発しました。オウダはその言葉も見てくれも武闘派なのですが、そんな人が話を聞きたいだなんて口にするとは思いもせず驚きましたが、おそらくは話すことすべてに否定的な意見を述べられて、話を切り上げる作戦なのでしょう。




