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ついに故郷へ 10


 手拍子と大きな声援に包まれながら駐車場へと歩くハットとペト。周りは合同警備チームに囲まれているが、多くの聴衆がその後を付いて来る。何とか車に乗り込み窓を開けて手を振ると、さらに大きな歓声が沸き上がる。


 不思議だけど前回とは違って、聴衆がハットたちに近付かないように治安警察が銃を構えて警告する場面が見られない。なのでハットたちが乗った車は聴衆に取り囲まれて身動きが取れなくなっている。合同警備チームが聴衆にこれ以上近付かないようにと説得を試みるが、多勢に無勢でまったく役に立たない。


 車の中に避難している格好になっていますが、何となく車を引っくり返されそうにも思えてくるほど集まった聴衆の圧が凄まじい。ちょっと身の危険も感じ始めたころだった。


「それ以上ペトやハットに近付かないで! 彼たちは今からホテルに戻り、一晩掛かって世界中へこの演説のことを発信するのです。明日は洗浄党の首脳たちとの会談もありますから、そのことも考えなきゃいけない。車が進むように道を開けてください!」


 公園内に設置されたスピーカーからそんな声が繰り返し聞こえてくる。


「イタって本当に僕たちのことを考えてくれますね」


 ハットがペトにそう話し掛けた。


「これはイタの声じゃない、別の刑務官上がりの人じゃないかな」


 ペトはハットの意見を打ち消しましたが、半分当たって半分外れ。マイクで叫んでいる人はオルダヤの治安警察の隊員でした。演説台を駐車場が見える場所に移動させ、その上からマイクで聴衆に指示していました。それだけではなく、別の治安警察の隊員たちは合同警備チームとともに、聴衆の整理に当たっている。


 その様子がチラッとだけ見えたハットとペト。二人を乗せた車は駐車場を出てホテルへ向かいました。




 ホテルに到着し車を降りようとしたところ、女性が足早に近付いてきた。合同警備チームの隊員数人が止めようとしたが、ペトがそれを制して近付くことを許した。


「ペト、ハット、わが国のことをかなり貶していたわね」


「貶す? 私たちが入手した各種資料を元に、ハットは今日演説していました。貶したのではなく事実を述べただけだと思います」


「わが国はオルダヤを助けようとしているだけ。その代わりにこの国で暮らしていたチカリヤからの移民や、親やその先の代から住んでいるチカリヤ系のオルダヤ人を戻せと言っているだけ。どうして貶される必要があるのか!」


「イグリー、僕は一切貶してなんかいません。オルダヤで起きそうなこと、他国で実際に起こったこと、ヒカルゴに持ち掛けてきたことなど、そのすべてが事実です。その状況を調べていくうちに、オルダヤはチカリヤと手を結ぶべきではないと思ったうえでの演説です」


「だとすると、オルダヤはチカリヤが見放して野垂れ死にすれば良い、そう考えているということね」


「イグリー、僕はオルダヤ人として断言できますよ、チカリヤと手を切り、アストルなどの自由主義陣営に加わることがオルダヤ再建の道だし、それ以外に良い道なんてありません」


 ハットが断言したところで合同警備チームの隊員数人が間に入り、メリー・イグリーをホテルの敷地外へ連れ出した。


「ハット、ペト。これは脅しではなく忠告ですが、チカリヤ人たちは国の命令となればわが身を顧みることなく、忠実に何でも実行に移してきます。おそらく今の女性も国から何らかの指示が出ているはずです。私たちだけでは完全に守り切れない恐れもありますから、不用意に近付けてはいけません」


 警備チームに注意されたハットとペト。


 イグリーは演説内容に不満があり抗議のために押し掛けたのだろうか、それともチカリヤが国として警告を発しているのだと、知らしめるために来たのだろうか。どちらにしろ、チカリヤという国がハットたちの言動に過敏になっているのは確かなようだ。


 それ以上に不思議なのがオルダヤ・洗浄党の動きだ。これまでの洗浄党ならば演説が行えないように、例えば公園を封鎖して出入りできないようにするとか、ハットたちに手出しはしないけど演説を聞くために集まろうとした人々を追い返すとか、人々を次々に逮捕してもおかしくはない。


 治安警察の中にはハットたちの主張を受け入れる人も少なくはないようだが、そういった警察官は前回の演説後に何らかの処分があってもおかしくはないし、今回の演説に当たってそういう警察官を排除して配置することだってできるはず。なのに今回の演説でも銃などの武器を構えもせずに、ハットの演説に対して拍手を送る人もいた。


 ハットたちの想像以上にオルダヤ・洗浄党の内部で何かが起きているのかもしれない。




「ペト、ハットおかえり! 今日のハットの演説はかなり攻めていたな。はっきりと洗浄党ではダメだと言っていたし。現場で感じた聴衆の反応はどうだった?」


 部屋に戻ったハットとペトにブルが早速声を掛けた。


「聴衆は熱狂的になる人が本当に多かったけど、僕たちを捕まえる気なんてまったくないといった感じで治安警察の人たちが拍手を送ってくれたり、イグリーなどチカリヤ系の人たちが色めき立っていたり、なんて言うのかな、カオスな状態って言えばいいのかな……」


「ブル、チカリヤはかなり焦っているのかもしれないよ。ここへ戻ってきた時、駐車場にイグリーが来ていて抗議されたよ」


「それってあれか、チカリヤがオルダヤに近付いているとか、お金の話やチカリヤ系の人をオルダヤへ入れろと言っているとか、そのあたりに対してだよな」


「チカリヤの人たちがザワザワするのはある程度想定済みなんだけど、オルダヤっていうか洗浄党が何も仕掛けてこないのが不思議というか不気味で。明日、洗浄党の上層部と直接会って話をするけど、その時に何かが起こるのかなって……」


 明日朝から洗浄党党首で首相のヒロム・ヨウラとの会談が行われる。ハットたちはアストル陣営の各国の要求のほか、オルダヤに住む人々の要求とそれらを実現するための方策の提案など、かなり多岐に渡る交渉の場となります。それに対して洗浄党側は、今現在の洗浄党の立ち位置を変えることなく話し合いを終えたいだろうし、アストル陣営の各国の要求だから仕方が無くハットたちに会うが、本音で言えば、はぐらかせて終わりにしたいでしょう。


 洗浄党としてはチカリヤとどう向き合うつもりなのだろう。チカリヤの言い分をすべて受け入れ、これまで以上にチカリヤ依存の国になることを選ぶのか、それともチカリヤとの距離の取り具合を測っている最中なのか。元はと言えば、チカリヤのお金と人を当てにして大きく門戸を開いたがために、国内の経済も政治も人々の生活もすべてを滅茶苦茶にしてしまい、これ以上の依存はダメだとしてチカリヤ系の人たちをどんどん追い出したことが発端だけど。


 今後のオルダヤの舵取りを知る上でも重要な会談になるはずだ。




 三人は今日の演説のこと、明日の洗浄党首脳との会談のことなどを次々に発信し、質問に答えたりお礼を発信するなど寝る間を惜しんでノートパソコンと格闘していた。


 気が付けば夜が明けていた。いよいよ洗浄党のトップたちとの会談が行われる。


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