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ついに故郷へ 7


 首都アレグム近郊の空港で離陸を機内で待つハットたちと合同警備チーム。


 オルダヤの首都〇一、一(マーシュ)との間に定期便は飛んでおらず、今回もチャーター機での移動です。前回のオルダヤ訪問では、当初は車での移動が予定されていましたが、アストル大統領ジェンキンズも訪問団に加わることで人数が膨らみ、またアストルの訪問団は政府専用機で移動することになったので、ヒカルゴ側もチャーター機を用意しました。


「前回はジェンキンズ大統領が加わり、警備上車での移動は危険すぎるとかで飛行機になったらしいよ」


「どういうことだ?」


「車で大人数の移動となれば台数がかなり多くなるし、その分狙われやすくなるということらしいよ」


「俺たちが金を出すわけじゃないからいいけど、チャーター機なんて相当な金額が必要だろ?」


「私も詳しくは知らないけど、片道何百万円の世界なんだろうね」


「この間のオルダヤ訪問の時は普通の旅客機だったけど、今回の飛行機は小さくてプロペラが付いているんだな」


「前回は人数がそこそこいたから中型の旅客機、今回は人数が少ないから小型機になったんだね」


 ペトとブルは饒舌に話をしているが、ハットは黙って外を見ていた。ペトもブルも特に機嫌が良いのではなく、ただ高ぶる気持ちを抑えることができないために話をしているだけだし、ハットは気持ちが高ぶりすぎて血が頭に昇って興奮していて、落ち着いて言葉を発することができないだけ。


 飛行機にはハットたち三人のほかに警備担当者も三〇数人が搭乗している。今回の合同警備チームは前回と同じヒカルゴの特殊警察隊とアストルの警備隊のほか、アストルの大手民間軍事会社に所属している世界最高水準のボディガードも加わっている。このボディーガードたちは紛争地帯での要人輸送や警護を専門としています。




 オルダヤの首都の郊外にある空港に到着した。飛んでいる時間は三〇分に満たない程度の距離だが、乗っている時間は一時間を超える。前回とは違い空港の隅の駐機場近くに飛行機は停止し、横付けされた小さなタラップで降りると遠く離れた建物まで歩いて行った。建物に入るとオルダヤの入国審査官による審査が行われた。前回は飛行機から降りるとそのまま車に乗り込み空港を後にしたのですが。


「処刑された脱獄囚の名を騙り、わが国を侮辱し続ける人間が特使だと? 笑わせるな! 上からの指示で入国を認めろと言われているから仕方がないが、本当ならば即時強制送還するか拘束されてもおかしくないんだよ、おまえたちはな!」


 アストルの入国審査の時のように長時間の足止め、軟禁状態にされるかもという想像を三人ともにしていたのですが、入国はすぐに認められたものの言葉は辛らつなものだった。洗浄党側から見た三人はどういう風に映っているのかを如実に表したもので、呆れながら空港のターミナルビルを出て車に分乗した。


 車を用意したのはオルダヤ国ではなくアストルで、輸送機でオルダヤへ車を運んだそうです。通常は受入国側(今回のケースではオルダヤ)が用意するのですが、オルダヤ・洗浄党は信用できないとはっきり意思表示しました。アストル陣営を代表して派遣された特使を象徴させるために、ジェンキンズ大統領が陣営の各国へ働きかけて各国の最高級車が用意されました。


 今回もまた同じホテルに宿泊するので、客室に入る前に合同警備チームによる室内検査が徹底的に行われた。さすがに今回は盗聴器などは仕掛けられていませんでしたが、客室の電話機に細工が施されていて、受話器を置いている状態でも通話状態となっていた。電話機のフックが言ってみれば無効化されていたのです。合同警備チームによって送話口のマイクが取り外され、客室内の電話は使えなくなりました。


 また客室内の備品は触らないほうが良いとの報告を受けました。小さな電気ケトルに入っていたのは水ではなく尿で、コップやタオル、ガウンに至るまでがクリーニングされたものではない可能性が非常に高く、三人に対する幼稚な嫌がらせを国を挙げてしているわけです。


 ――この国に入れてはやるが、おまえたちをもてなすなんて気持ちはこれっぽっちもない! ただの厄介者だからな。


 そんな洗浄党の強い意志をひしひしと感じた。


 前回とは違って部屋はツインルームにエキストラベッドが入れられており、当初から三人一室で使用するように仕向けられている。ただそのほうが三人の警備は行いやすいだろう。また全館貸切ではなく旅行者なども普通に利用しているので誰もが三人の部屋に近付きやすく、空室時も含めて二四時間体制で部屋の警備も行われる。




 入室するとブルがたずねた。


「ハット、今日すぐにでも演説を行うのかい?」


「うん、そのつもりだよ。明日は首相たちとの話し合いがあるからね」


「それはいいけど、もう盗聴されている可能性はないだろうな」


「ブル、それは大丈夫だと私は思うよ。盗聴器は警戒されるだろうからアナログな電話に細工したけど、警備チームが見つけてくれたし」


 結局、洗浄党はこういう党でありオルダヤはこういう国だ。自分たちにとって不都合なことがあれば、どんな汚い手を使ってでも都合良い状態に持っていく。三人が洗浄党やオルダヤにとってまずいことを話し合っておれば、それを傍受して先に対応しようとするわけだ。オルダヤには 「国民に対する影響を考えたうえで罪状と刑期を判断する法律」という便利な法律があるので、洗浄党にとって気に喰わないことを話し合っていたら、この法律を使って簡単に処刑できてしまう。


 この法律を適用するにしても形式上は証拠が必要、だから盗聴してそれを証拠としたかったのでしょう。


「オルダヤ滞在中はどこにどんなトラップが仕掛けられているかわからないけど、僕たちはやるだけのことをやる。後は合同警備チームに任せるしかないよね」


 ハットはややため息混じりに言った。




〝今日夜八時から、マーシュ中央公園において演説を行います〟


 オルダヤ国内向けのSNSにそれだけを送信し、元刑務官のイタなど数人には直接メールを送った。イタからは前回と同じように準備をしておくとの返信が来たが、一部の人は三人の演説に参加すれば逮捕すると警告が発せられているとの返信もあった。やはり三人の演説を洗浄党はかなり警戒しているようです。


 そしてSNSのDMには治安警察の代表だとするものには、もしも善悪がわかっていない国民を動員して演説を行えば、演説に集まった聴衆たちも含めて全員逮捕するとの警告文も送られてきた。


「オルダヤの治安警察や軍隊が数百人規模で演説会場に来たら、俺たちはひとたまりもないんだぞ。そんな状況で演説なんてすれば、俺たちはともかく聴衆にも相当な被害が出る。ペト、ハット、本当にマーシュ中央公園へ行くのか?」


「ブル、心配するな。合同警備チームのうち数人はこの部屋の監視で残るから、私たちを守ってくれるのは二十数人だ」


「ペト、だったらよけいに危ないだろ! だいたい、俺たちみたいな人間に一国を動かす力なんてあるわけがないんだ!」


「ブル、危ないと思うのならば部屋で待っててよ。僕は一人でも行ってくるから。逮捕されようが処刑されようが僕にとってはどうでもいいことだもん。だって本当は今でもガルドラ刑務所に収監されているか、処刑されているかだし、脱獄の時だってたまたま助かっただけで、あの場で撃ち殺されていてもおかしくはなかったし」


「ハット、もちろん俺だってそのことはわかっているさ。でも俺は今こうして生きているんだ、ガルドラ刑務所へ戻されたり、その場で処刑なんて俺はまっぴらだから」


「そう考えても不思議じゃないよ、誰だって死ぬのは嫌だもん。もちろん僕もね。でも僕はオルダヤを何とかしたい、SNSで発信することしかできないけど、でもそれで国が少しでも変わるのならば僕はチャレンジするよ。ブル、強制なんてしないし、嫌々付いて来なくたっていいさ。ブルのように考えるのが至極当たり前なんだからさ」


 ブルはいつも以上に恐怖を感じている。洗浄党の怖さやしつこさ、守ってくれる人が少数なのに多くの人前へ出る怖さ。これまでも何度も恐怖を味わいながらハットやペトに付いてきたが、本物かどうかはわからないがオルダヤの治安警察からの警告が届くなど、いつもとは段階が違う恐怖だと捉えたようだから、それはそれで仕方がない。


 本当はハットもかなり恐怖を感じているのだが、ハットの名で発信したSNSを信じ、オルダヤが自由な国になるのならば治安警察による身柄拘束の恐怖を払いのけて、演説会場に集まってくれる人がいる以上は発信した本人が逃げ出すわけにはいかない。怖くてもオルダヤを救うという義務感で動こうとしているに過ぎないのだ。


 住人だって演説に参加すれば拘束されるかもしれないから、ネット配信で演説の模様を見るだけにする人もいるし、そもそも演説には関心がないと装う人もいるだろう。ブルだって祖国が自由で住みやすい国に変わることを望んではいるが、その望み以上に演説に加担する恐怖が上回っているのだから、無理して参加する必要はないとハットは思っているのです。


「ブル、ハットの言うとおりだ。君はここへ残って警備の人たちと一緒に異変が起きないように見張っておいてくれればそれでいいよ。それだって大事な役割なんだから」


 ブルはホテルの部屋に残ることを選択し、ハットとペトはマーシュ中央公園へ向かうことにした。


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