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ついに故郷へ 6


 無事ヒカルゴの首都アレグムの近郊に到着した。わずか二五〇キロほどの距離だが、これほどオルダヤが遠くにある国なんだなと意識したことはなかった。ホテルの客室に侵入して監視カメラや盗聴器を仕掛けたり、荷物の中に麻薬を入れられたり。パガーノ大統領やジェンキンズ大統領とオルダヤのヨウラ首相との会談も話がまったく噛みあわず、何の成果もなかったようです。


 オルダヤはチカリヤの属国。


 そんな話を証明するような会談内容だったようで、盗聴器の件を含めてチカリヤとは手を切れとジェンキンズ大統領がヨウラ首相に迫ったようですが、彼の一存で決められる話ではないことくらいジェンキンズ大統領も承知のはず。党を代表する人たちとの会談は設定されていなかったことから、ジェンキンズ大統領の頭の中ではケンカ別れを演出して早期にオルダヤを出国する、そんな筋書きまで用意されていたように思える。


 とにかく数カ国を渡り歩き、SNSで世界中の方たちと交流し、さらに国のトップと話をする機会を得た三人からすると、やっぱりオルダヤは他国とはかなり違う国。残念ながら不意に近付くことも躊躇(とまど)われるほど精神的に遠い国、そんな風に感じたのです。


 ただオルダヤの治安警察の隊員の中にはハットの訴えに真剣に耳を傾けるなど、やはり現状に不満を持つ人は多いでしょう。演説に駆け付けてくれた一般の方は相当な人数だったし、演説の生配信を視聴してくれた人も相当な数に上る。みんながハットたちを支持する人ではないと思うけど、でもオルダヤが少しでも自由な国に変わってほしい、警察官も一般人も、そう願っている人は多いのだなと三人は思った。




 ヒカルゴの官邸の一室で業務を行っていた三人。


「もうすぐジェンキンズ大統領がお越しになるそうで、大統領執務室へ来てくださいとのことです」


 パガーノ大統領の秘書が三人を呼びにきた。ヒカルゴに戻ったら話をしようとジェンキンズ大統領から声掛けされており、パガーノ大統領との会談の合間にその約束を実行するのでしょう。だからジェンキンズ大統領もまずはパガーノ大統領との会談を行い、自分たちはその後の空いた時間にジェンキンズ大統領と話をするはず。だから今すぐ執務室へ行っても何もできずに、ただ時間が過ぎるのを待つだけだと思っていましたが……。


 執務室へ入るとパガーノ大統領に声を掛けられた。


「ジェンキンズ大統領が私も交えて話をしたいとおっしゃっているの。応接室へ移動して会談を行うわよ」


「応接室?」


「あなたたちは入ったことがなかったわね。首脳会談などを行う部屋なのよ」


「そんな部屋に私たちが?」


「ペトもブルもハットも、あなたたちは対オルダヤのキーパーソンなのよ。ジェンキンズ大統領がどういうお考えを持っているのかはわからないけど、おそらくあなたたちを何らかの形でオルダヤへ派遣する話が出ると思わよ」


「私もブルもハットももちろんもう一度オルダヤへ行ってもっと訴えて、そしてもっと国民に動いてもらって、オルダヤという国を根本から変えていきたいと思っていますから、もしも派遣という話が出れば喜んで行きますよ!」


「俺もそうだな、正直なところ今のオルダヤを見てショックを受けたんだ。今の時代にあんな国が存在しちゃダメだよ!」


「僕も必ず引き受けて、もう一度オルダヤへ行きますよ。自由がなく、平気で盗聴器を仕掛けるような国は腐ってますよ」


「三人の意思の確認はできたわ。どういう形になるのかはわからないけど、オルダヤへ行くように私が命令を下しても問題はないわよね」


「もちろん!」


 三人は快く引き受けた。もともとオルダヤへ戻るつもりでいたし、現地へ行って直接人々に訴えなきゃどうにもならないとの思いを強く持っているのだから。




 官邸のロビーでパガーノ大統領とともにジェンキンズ大統領を出迎えた三人。


「ハット、きちんと一番前にいるじゃないか。リーダーはそうやっていつも前に出るんだ。一番前は最も注目され良く思っていない者の標的にもなる。だがリーダーはそうやって一番前に出ることでチームを守らなきゃいけない、そういう責任があるんだ」


 ジェンキンズ大統領はそう話しながらハットと握手を交わした。


「ジェンキンズ大統領、応接間へお入りください」


 パガーノ大統領がジェンキンズ大統領へ応接間へ移動するように促し、三人も長官クラスの人たちとともに移動した。




「パガーノ大統領も当然察していると思うが、ハットたち三人を特使としてオルダヤへ派遣したいのだが、どうかな?」


「つい先ほども三人とその話をしていましたが、特使として派遣する案が出るとは思いませんでした。また訪問団を結成して赴くのだと……」


「警護の人間も付いて行くが、今回は三人に任せようと思っている。もちろんどのような交渉を行う必要があるのかなど、細かい部分は詰めたうえで行ってもらうことになるが、アストルとヒカルゴの代表として全権を持った形で派遣したい」


「全権特使として彼たちにオルダヤを任せる、ということですね」


「そういうことだ。ハット、ペト、ブル、もちろんやってくれるな」


「もちろん私もブルやハットもオルダヤへ行くことに反対なんかしません。ただ、オルダヤが私たちを承認しない場合、逮捕される可能性が極めて高くなることが懸念としてあります」


「ペト、ペルソナ・ノン・グラータを宣言された場合の懸念よね」


 ペルソナ・ノン・グラータとは接受国(今回のケースではオルダヤ)がその人物の入国や活動を承認しておらず、受け入れ難い人物として宣言すること。派遣国は対象者を召還または任務を終了させる必要があり、帰国しない場合は外交特権を失い国外退去処分となる。ハットたち三人の場合は処刑された人物の名を騙って国(オルダヤ)や党(洗浄党)や個人(国家首脳や党幹部)を貶める発言をSNSで恒常的に行っているとして宣言される可能性があり、場合によっては逮捕拘束されることも。


「その点については私から強くオルダヤに申し入れる。アストルとヒカルゴの両国からの特使であると同時に、アストル陣営全体が渇望した中での特使派遣だ。その者たちに対してペルソナ・ノン・グラータを宣言したり、身柄を拘束すればどのような結果が待ち受けているか、そのくらいはわかるだろうと強く念押ししておくさ」


「今ジェンキンズ大統領がおっしゃたように、あなたたちはアストル陣営を代表してオルダヤへ派遣される。ヒカルゴ連邦としても強くオルダヤ側へ申し入れるわ。どのような結果に繋がるかをまずは考えなさいと言うわよ」


 その後どのような要求を行い、どの程度ならば妥協するか。難しい局面になった場合はヒカルゴの情報調査室を通じて各国へ打診する。通信手段にはオルダヤ国内の設備を使わずに衛星通信を利用することなどが決められ、警護の人員の負担をヒカルゴとアストルでどのようにするか、日程はアストルがオルダヤと調整して決めるなど、事細かい部分までが話し合われた。




 ジェンキンズ大統領が帰国の途に就くため、三人も空港まで見送りに行った。


「ハット、ペト、ブル。次のミッションが達成されれば、ある意味チカリヤの動きも大幅に止められるかもしれない。君たちに託しているオルダヤでの交渉はアストルやヒカルゴ、そしてオルダヤと言った当事国だけではなく、世界中に大きな影響を与えるものになる。それこそ国連なんてクソくらえ、おまえらにできるものならやってみろと言えるほどの偉業となる。私はバックから強力に支えるから、ハットを中心に頑張って洗浄党の連中の鼻っ柱を折ってきてくれ、頼んだぞ!」


 そう話すとタラップを上り、機内に入る直前に振り向きガッツポーズを作って見せたジェンキンズ大統領。


「ペト、ブル、ハット。大変なことになったけど、あなたたちが目指す、オルダヤを自由な国にするためには避けては通れない道よ。あなたたちはヒカルゴの上級公務員。ジェンキンズ大統領以上に全力であなたたちを守り抜くわ」


 一週間後にハットたち三人は再びオルダヤへ旅立つことになった。


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