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舞い戻って 7


 大統領就任式が官邸で行われ、ミスティ・パガーノが正式にヒカルゴの大統領に就任したことが宣言された。本来はこの後に首都アレグム市内でパレードを行い、その後官邸に隣接する公邸でパーティが開かれるのですがパガーノはそれらすべてをキャンセル。就任式の後、直ちに国民向けのメッセージをウェブで生配信した。従来は就任会見を行い記者との質疑応答に応じるのがセオリーでしたが、こちらもすべてをキャンセルした。


 記者との質疑応答を行わないのはメディア軽視以上に、国民へ何も知らせずに独裁を行うと宣言したのと同じだとメディア側は痛烈に批判しますが、パガーノはどこ吹く風。SNSで発信しリプライに対して返答していく。細かい部分はパガーノに代わって三人が返信するというスタイルで、メディアを介さず直接やり取りができるようにして、国民に近い大統領というイメージを植え付けていきます。


 また各国の首脳との対話を重視し、インターネット配信が終わるとすぐに数カ国の首脳と電話会談を行いました。アストルやアストルの同盟国数カ国のほか、オルダヤのヒロム・ヨウラ首相とも。オルダヤ国内でSNSの利用が制限されているとの情報を聞き、国としてまたは洗浄党の主導で国内の情報統制を行っているのではないかとの疑問をぶつけるためです。


「国際的に開かれた国であることの重要性は認識しているが、わが国にとって害であると認められたものについては流入させない措置を取る。これは国の安全の担保、防衛上必要な措置である」


 ヨウラ首相の返答にパガーノ大統領は反論した。


「ヒカルゴでの洗浄党の地位が揺らいでいる証拠にもなるので、大統領選に関しては国民に何も知らせていないということですね」


「そのように取られるのは勝手ですが、わが国およびわが政党がヒカルゴを重要な国だと位置付けているから、今は混乱を避けるために情報の流入を制限しているだけです」


「そうですか。わがヒカルゴ連邦では存在価値を失った洗浄党は、そちらからの命令で撤収していくのですよね」


「ヒカルゴ洗浄党はわれわれオルダヤの洗浄党とは別の組織です。ですのでわれわれが撤収させる権限は持ち合わせてはいません」


「そうですか? 私は国家安全情報部で長官を務めていたことから、オルダヤとヒカルゴの洗浄党の関係性などは調べ尽くしてすべて知っていますよ。退官後もアストルの国家安全保障庁の分析官と連携し情報交換も行っていますから、今、首相がおっしゃられたことも簡単に否定できますけど」


「何でも好きに言ってもかまいませんが、われわれのことは防御が完璧で外部からは何も見えない証拠として捉えさせていただきます」


「では勝手に話させていただきますが、オルダヤの刑務所を脱獄し世界各国を転々としながら、オルダヤ国内のことや洗浄党に関して事実を発信し続ける人たちは、洗浄党にとって目の上のたんこぶになっているのでしょうか」


「脱獄し処刑された三人の名を騙って好き勝手に発信している人たちのことですか? 生存しているわけがないのでこれまでは静観してきましたが、オルダヤ国としてこれからは正式にその方たちを追求していきます」


「追及ですか。その彼たちがオルダヤへ〝帰国〟した場合はどうなりますか?」


「帰国ということはありません、何せ射殺されていますから。ただ名を騙って好き勝手に発信している人たちに関しては入国拒否が原則、場合によってはオルダヤ国の法律によって処罰されることもあり得ます」


「なるほど、〝国民に対する影響を考えたうえで罪状と刑期を判断する法律〟という洗浄党にとって大変運用しやすい法律があるから、それを適用すれば誰だって捕まえて処刑できますものね」


「あなたの国にもあるでしょ?」


「洗浄党政権によって誕生した〝国民に有害だと認めた行為に対し、大統領の裁量で量刑などを判断できる法律〟ですが、これはすぐに議会の承認を得たうえで廃止します。こんな恣意的に運用できる法律があってはなりませんから」




 オルダヤの洗浄党党首であり首相のヨウラからは祝辞の言葉は一切なく、まるで古い体質のままの社会主義国家の書記長と話しているように感じたパガーノ大統領。もちろん初めからお祝いの言葉など期待はしておらず、三人から聞いたオルダヤ国内でSNSが利用できなくなっていることの確認や、三人に対する国や洗浄党の考え方をまず知りたかった。


 ヒカルゴとオルダヤは洗浄党が牛耳っていることからあらゆる面で距離は近かった。しかしパガーノ大統領は元大統領のホフマンと袂を分かち、チカリヤや洗浄党とも距離を置くことで元来のヒカルゴに戻すことを目指す。このため両国が進もうとする道はまったく別になるので、今後の両国の距離を探る必要もあった電話会談でしたが完全に物別れで終わった。


 隣国同士だからこそお互いの主張がぶつかり合うこともあるし、上手く舵取りをしなければ紛争の火種になる。だからと言って弱みばかり見せたり譲歩ばかりしていては、その時はそれで良くても先々に重たいツケを残し続けることになる。だからこそパガーノ大統領はあえてヒカルゴのこれから進む新しい道を示し、路線変更はしないことをヨウラ首相に示したのです。


 ただオルダヤを突き放せばよいとの考えもなく、オルダヤも昔のような自由な国に戻ってもらいもっと開けた国になってほしい。そうすれば今よりは国民が幸せになるはずだと信じています。本当は両国で手を携えて同じ目標に向かって歩いて行こうという願望がパガーノ大統領にはあるのですが、残念ながら洗浄党という大きな壁がそれを阻んでいるのが現状です。




「ということは、俺たちが自分の国に戻ったら処刑される可能性が極めて高いということなんだな」


 パガーノからヨウラとの電話会談の話を聞いたブルが嘆いている。


「しかもジェット・ブルートは脱獄の際に処刑されていて、この俺はブルの名を騙り洗浄党にとって都合の悪い事を広めたとして処刑されるってか。俺は二度も洗浄党によって処刑されるってことか!」


「ブル、その気持ちは本当にわかるよ。ウーム・ペトロはすでに処刑されていて、今の私はウーム・ペトロを騙る偽物ということなんだ」


「ブル、ペト、僕たちはやはり洗浄党を相手に戦って撃ち破り、オルダヤを元の正常な国に戻さなきゃいけないんだよ。そうしないと二度も殺されることになる。今のオルダヤの人々は何を思い、どうしようとしているのかな。一時期はオルダヤ国内でも立ち上がる気配があったはずなんだけど」


 前大統領のモドル・タイダがオルダヤの洗浄党に指示されて作った法律をはじめ、国内のシステムが官から民へと移行されて疲弊しきっている、そんな国を立ち直らせるために奔走中のパガーノ大統領に、これまでと同じ感覚で気安く話し掛けることなどできない。仕方がないのでお世話になったシルバーピークのアストルの領事館へ連絡を取り、リリック分析官に取り次いでもらった。彼女はオルダヤとその周辺国の情勢分析のスペシャリストだから。


 彼女によるとオルダヤ国内では小さな暴動は起きたが、その多くは逮捕されて処刑された。暴動の原因は洗浄党や大企業上層部など一部の富裕層と、一般国民との貧富の差が極めて大きくなったことが原因だが、洗浄党は三人の発信がもっとも大きな原因であると結論付け、国内のSNSをすべて運用禁止にしたことでさらに不満が大きくなっている。


 洗浄党は力づくでの取締り強化を図っており、過去にSNSで三人の発信をスクショして広めた者を摘発しており、逮捕者は小学生から老人までかなりの人数にのぼり、オルダヤ唯一のガルドラ刑務所は常に定員ギリギリの状態で、所内での処刑もかなり増加しているはずとの見立てだった。




「SNSで発信しても肝心のオルダヤには届かない、俺たちがオルダヤに戻った瞬間に捕まり即処刑される。もうどうしようもないな……」


「ブル、でも発信は続けていこうよ。オルダヤだけではなく世界中で私たちの発信を見てくれるのだから。時間はかかるかもしれない、でも周りから少しずつ外堀を埋める作戦しか今のところ手はないから」


「僕もペトの言うとおりだと思う。今はとにかく世界中に発信して、オルダヤという国や洗浄党という独裁政党への注目度を上げて、世界中から圧力をかけてもらう、そんな方法しか思いつかないから……」


 リリック分析官との電話を終えた三人の気持ち。もう周りから圧力を掛けてもらう以外にオルダヤを自由な国へと戻すことはできない、そんな諦めにも似た気持ちが心を覆い塞ぐ中、少しでも早くそのような方向へと向かわせるべく発信を続けるしかないやるせなさ。本当は祖国オルダヤへ直接乗り込んで力づくで洗浄党を打破したいところなのだが。




「リリックと話をしたのね」


 三人の部屋へやってきたパガーノの秘書が開口一番こう言った。


「はい、現状のオルダヤ国内はどうなっているのかを私たちが知るには、リリックにすがるしか手がありませんから」


「そのことで大統領がお話があるそうなの、三人で大統領執務室へ来てくれる?」


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