舞い戻って 6
〝新大統領ミスティ・パガーノ誕生を祝福する。これからもヒカルゴ国民が求める平和と安全な国の実現のために、われわれも粉骨砕身しヒカルゴのために尽くします。 ヒカルゴ洗浄党〟
〝新大統領に就かれるミスティ・パガーノおめでとう。残念ながら私の主張は国民には受け入れられなかったが、その根本にあるのはパガーノと同じくヒカルゴの繁栄です。これからは野党の一党首として、あなたとともにヒカルゴをより良い国にするために微力ながらお手伝いさせていただきます。 ヒカルゴ洗浄党党首・ヒメキ・ヨーク〟
〝元は私の側近でもあったミスティ・パガーノ、新大統領になっても私といっしょに歩いてきた「ヒカルゴのため」という道を間違わずに歩んでいくことを心から願います。そして私はいつでも新大統領の力になることを誓います。 アリス・ホフマン〟
〝ミスティ・パガーノの大統領選勝利を祝います。私がこれまでヒカルゴのために尽力してきたあらゆる政策を、これからも曲げずに地道に取り組んでいただけるものと願っています。そして微力ながらも私を必要とするときはお声掛けください。 ヒカルゴ連邦大統領モドル・タイダ〟
パガーノの大統領就任のお祝いの言葉がそれぞれのSNSに掲載された。もちろんこれらは表向きの祝福の言葉で、内心では選挙に負けて国をコントロールする権利を得られなかったのだから、恨みつらみの言葉を吐きたくなるもの。三人がSNSをチェックしていると、大統領就任祝賀のパレードを妨害するといった言葉が洗浄党支持者を中心に溢れています。
「パレードなんて必要ありません。そんなものに警察の力を割くべきではない。インターネットを通じて大統領に就任できたことへのお礼と、どのような政策を実行し実現していくのかをお話しするだけで十分です」
パガーノはパレードをすることで無駄に警察の力を削いだり、無駄な費用の支出は避けるべきだと主張したのです。このことは三人によってSNSで発信され、瞬く間に国内に広がっていきました。
「大統領就任後は正式な記者会見は行いますが、記者さんがぶら下がっての質問は受けません。必要があれば私自身がSNSで発信します」
これはアストルのジェンキンズ大統領を真似たもので、国民に直に問いかけることでダイレクトな反応を期待してのことです。それに加えてメディアによって発言を切り取られ意図したことが伝わらないどころか、正反対の意味に取られるような発言に〝改ざん〟されることも多く、パガーノ自身がメディアを信用していないことが根底にあるためです。
ただジェンキンズ大統領は感情を抑えることなくSNSを発信しかなりな過激な言葉が並び、野党だけではなく身内であるはずの与党や国民からも非難されることが多く、メディアが切り取りをしなくても十分酷いものになっているので、そこは気を付けるとパガーノは言っていますが……。
そんなアストルのジェンキンズ大統領ですがSNSに祝辞を発信するだけでなく、パガーノへ個人的にメールを送り祝意とともにアストル・ヒカルゴの関係を再構築し、世界で最も強固な同盟国にするための協力を求められるなど、正式に大統領に就任する前から外交が始まりました。
SNSにはアストルだけではなく世界の首脳からパガーノ大統領誕生の祝辞が並びます。ただしチカリヤやオルダヤなど一部の国は祝辞どころか危険な人物であるとか、ヒカルゴがアストルと手を組み軍事大国の道を歩むといった妄想的な非難の言葉が並びます。この非難の言葉は洗浄党の強烈な信者と異口同音なもので、チカリヤの人民と洗浄党の信者は同じ思想なのだと強く意識付けさせるものではありました。
〝ハットをはじめ、ペトとブルも私との約束のうちの一つは実現したな。あとはオルダヤだ、昔のようなわが国との強力な同盟関係を築けるように尽力してくれ。私は約束は忘れていないぞ、結果を残せばわが国の永住権を君たちに与えるからな!〟
パガーノはこれから表舞台に立ち、ある時は協調し、またある時は対立しながら世界各国を相手に戦っていくわけですから、祝辞が届くのもある意味当然と言えます。しかしハットたち三人宛にアストル国の現職大統領から直接メールが届くというのは異例中の異例。
「俺たちにあの大国の大統領からメールが届くなんて嘘みたいだな、俺たち元は脱獄囚なのにな」
「本当に信じられないよ。私たちなんてただSNSで発信しているだけなのにね」
「それに僕たちの最終目標はアストル国の永住権獲得ではなく、オルダヤを元の国に戻すこと。パガーノが勝って大統領になるとは言え、洗浄党もその支持者もヒカルゴに残るから影響力も残ってしまう。と言うことは、オルダヤから洗浄党の影響力を完全に消滅させることがどれだけ大変なことか……」
三人はお互いの顔を見合わせ、オルダヤを昔のような自由な国に戻すことがどれだけ大変なのかを思い知ったのです。
パガーノが大統領に就任するまでの一週間、三人はパガーノが実現したい政策や外交、経済などを詳しく解説して発信を続けました。ヒカルゴ国内からの反応は選挙期間中とあまり変わらず、誹謗中傷と激励のリプライとメールであふれています。ところがシルバーピークからは、純粋な応援メッセージがたくさん届きました。
〝洗浄党の勢いを止めてくれてありがとう。続いてオルダヤでも頑張って洗浄党の勢いを止め、シルバーピーク人が危機を感じずに済むように動いてほしい。パガーノ新大統領とともに三人のますますの活躍を期待します〟
祖国オルダヤへ向けてもこれまでと変わらず発信を続けています。
「ペト、ハット、オルダヤ国内で何かあったのか? アカウントが消されずにそのまま残っているぞ」
世界中に向けて発信を続けていることから忙しく、オルダヤ向けの発信が終わればすぐ次の発信に取り掛かるため、アカウントの閉鎖までは確認していません。たまたまブルが数日前の発信に使ったアカウントにログインすると、メッセージごと残っていて気が付いたのです。それでペトやハットも最近オルダヤ向けの発信に使ったアカウントに順番にログインしていくと、八割以上のアカウントが残ったまま。
「オルダヤ国内で何か起きているのかな? 隣国ヒカルゴで洗浄党政権が崩壊して焦っているのかもしれない」
「ペト、僕もそんな感じなんだと思うよ。この後オルダヤの洗浄党はどんな手に打って出るのかな?」
「いくらなんでも、ヒカルゴやシルバーピークに侵攻なんてことはしねえよな」
「私はさすがにそれはないと思うけど。おそらくオルダヤ国内の引き締め策を練っているんじゃないのかな」
「僕も何か手は打ってくると思うけど、ペトだったらどんな手を打つ?」
「そうだなあ、私だったらハットの発信を国民の目に触れさせないようにするため、SNS自体を利用できなくするかなあ」
「おい、ペト、俺たちのアカウントが残っているのは、実はオルダヤではSNSの利用ができなくなっているからじゃないか? どうやってもオルダヤ国民が見れないものになっていたら、アカウントを一つずつ閉鎖していくなんて手間を掛けることもなくなるだろうからさ」
ヒカルゴで洗浄党派でもチカリヤ寄りでもない大統領誕生は、オルダヤにとっては相当なショックだったはず。パガーノ大統領誕生を国民に悟らせないために、SNSを完全に締めだすことは確かに洗浄党ならばやりかねない。三人のSNSをスクショして貼り付けるだけのアカウントを順に見て回ったが、ヒカルゴでの選挙戦のさなかから更新はされていなかった。
ブルの言うとおりSNSの利用がオルダヤではできなくなっているようだった。




