祖国のすぐそばへ 5
「私はオルダヤ国や洗浄党について研究しているウーム・ペトロと言います。皆さんが実感しているオルダヤ国や洗浄党のことをお聞きしています。実感でかまいません、特に何も感じていない方もおられるでしょうし、好感を持つ人もいるはずです。率直な意見が聞ければと思いまして、少しだけお話よろしいでしょうか?」
ペトはお店の方ではなく、買い物に来ている方を中心に話を聞いていった。
もちろん怪しい人だと思われて断る人も多かったのですが、率直な意見や実際にあったことを話してくれる方もいるし、話をしていると興味を持って近付いて来る人もいる。思っていた以上に様々な意見を聞くことができました。
一方のハットとブル。ブルの軽妙な語り口で人を引き付けておいて、ハットが核心部分を聞いていく。オルダヤ、チカリヤ、そして洗浄党のことを主にお店の人に話をうかがっていったのですが、お客さんのことなので話したくはないという人もいれば、明らかにシルバーピーク人ではない人が増えて市場内の風紀が乱れているという言い方をする人もいた。
広い市場の中を二時間ほどかけてリサーチした三人は、モノルで有名なレストランで昼食を取ろうと連絡を取り合い、ブルがスマホの地図を見ながらそのレストランの場所へ向かって歩いていると、
「何を嗅ぎまわっているんだ!」
ブルとハットの背後に立つ男が、ハットの背中に何かを突き付けながら話し掛けてきた。
「嗅ぎまわるだと? みんなが思っている本音を聞いていただけだろ。本当のことを聞くと何かまずいのか?」
ブルがドスの利いた声で背後の男に話すと、
「それ以上口答えをしたら撃つぞ!」
男はハットの背中に突き付けていた物をブルの背中へ突き付けた。
「撃てるものだったら撃ってみろ、別に撃たれて死んだって俺はかまわないぞ。やれるものだったらやってみろや!」
今度は大声で叫んだので、市場の人や買い物客が一斉にハットたちに視線を預けた。特に驚きもしないところを見ると、この周辺では物騒な事件が頻発していることを証明しているようだ。
この時ハットはスマホをペトにつないだままだったので、ペトはブルとハットに危機が訪れていることがわかり、慌ててスマホの地図でハットたちの居場所を確認して駆けつけようとしていた。
ハットは非力なのでただ茫然として見ていただけでしたが、ブルと助けに入ってくれた市場の屈強な男性たちに手伝ってもらいながら男を捕まえ、駆けつけた警察官へ引き渡した。
「君たち、この市場へスーツを着て来るなんて無茶苦茶だよ。狙ってくださいと言っているようなものじゃないか」
警察官にこう声を掛けられたハットとブル。領事館でSNS発信などの〝業務〟に当たっているためスーツで過ごすことが多いハットたち。いつもの感覚でスーツのままごく普通の方が利用する市場へやってきたから、かなり浮いた存在になっていったわけです。おまけにその格好でオルダヤ国やチカリヤ人の事、そして洗浄党のことを聞き回っていたのですから怪しいと思われるのも当然のこと。
国に対してあまり良い感情を持たない国民がいることは普通のこと。市場で聞いた範囲では、やはり移民流入に関してあまり良い感情を持っていない人が多く、やたらと嗅ぎまわる怪しい人に見えたのでしょう。
「ブル、ハット、大丈夫かい?」
簡単な聴取の後に警察署から出てきたハットとブルに声を掛けたペト。
「別にケガをしたわけでもないから、それに僕はブルに助けられただけで……」
「市場で嗅ぎまわっている政府関係者だと思い、今の国の状況に納得してなかったことから襲ってきたそうだ。ついでに金も盗ろうと考えたらしいよ。大声を出したら店の人がたくさん駆けつけてくれたから、俺も特に何もしていないよ。被害も何もないから被害届けも出さなかったしな」
「無事で何よりだよ、食事でもしながら聞いたことを整理していこうか」
三人は予定していたレストランではなく、市場に戻ってフードホールで食事をすることにした。ハットとブルは助けてもらったお礼も兼ねて買い物をして、その場で食べようと思ったのです。
「ブル、ハット、どうしてネクタイを外しているんだい?」
「俺たち警察官に言われたんだよ、ここの市場にスーツなんて着て来るものじゃないって」
ブルが話し終わるとペトは慌ててネクタイを外し、上着はカバンの中に押し込んで少しでもラフそうに見える格好をした。
モノルの庶民の味を堪能しつつも祖国オルダヤの庶民の味にも近い事を感じ、やはり両国は近い関係なんだなと思いながら聞き取ったことを話していた三人。
「やはりオルダヤに住んでいたチカリヤ人が大挙して押し寄せ、その結果治安が悪くなったとみんな口を揃えて言ってるね」
「僕たちもほぼ同じようなことを聞きました。本当にオルダヤにはたくさんのチカリヤの人が住んでいたのですね。全然気付きませんでした」
「俺も身近にチカリヤ人が住んでいるとは感じなかったけど、実際には多く住んでいたみたいだな」
「洗浄党はヒカルゴをほぼ手中にしたと思うけど、シルバーピークに関してはどう考えているのかな。今流れ込んでいる人たちがみんなチカリヤの人たちだとすれば、洗浄党はシルバーピークに手を出す気はないということになるけど」
「おそらく洗浄党がおいそれとシルバーピークに手を出すことはなさそうな気がする。たくさんのアストルの基地もあるし、シルバーピークに手を出せばアストルが黙っていないと思うよ。あの大統領のことだ、オルダヤに対して攻撃を仕掛けると思うよ」
「ペト、と言うことはシルバーピークに流れ込んできたチカリヤ人は洗浄党に追い出され、行く当てもなく来たってことかい?」
「おそらくチカリヤ本国からの指令で、シルバーピークに移り住めと言われ流入したんじゃないかな」
「ねえ、ペト、チカリヤの人たちはオルダヤの洗浄党から追い出されることになって、本国からシルバーピークへ移り住めと指示されて流れてきたということは、チカリヤっていう国が洗浄党を恐れているから? それとも何か作戦を企てているのかな?」
「チカリヤの人は同盟国とか敵対する国とか関係なく世界中にいるからね。先々の経済的な利益だけではなく、軍事面を含めて世界中を自分たちのモノにしたいと考えるのがチカリヤという国だと思うんだ。今でもシルバーピークにはチカリヤ人のコミュニティーがあり、それらを束ねるメリー・イグリーが本国からの指示を伝える役割をしていたら……」
「おい、ペト、国家ぐるみでシルバーピークを乗っ取るつもりなのか?」
「そこまではしないよ、自分たちにとって都合がよいようにコントロールできればそれでいいんじゃないのかな」
「でも僕は何だか腑に落ちないんだ、チカリヤがそう簡単にオルダヤを諦めるのかな……」
舌鼓を打ちながらも今日聞き出したことから情勢を分析する三人ですが、その話を少し離れた場所で聞き耳を立てていた男性が近寄ってきた。
「ひょっとしたらだが、君たちはSNSで発信しているハットたちなのかい?」
先ほどのこともあったので返事もせずにその男性をまじまじと見る三人。するとブルが、
「そうだとしたら?」
声を掛けてきた男はズボンの後ろポケットへ手を伸ばしたので、ハットたち三人は身の危険を感じてテーブルの下へ潜り込んだ。




