祖国のすぐそばへ 2
シルバーピークへ移動してきたことをSNSに書き込んだハット。その目的は少しでもオルダヤやヒカルゴに近い場所に移ることで、遠くにいるよりもオルダヤやヒカルゴの今、そして生の声が聞こえるのではないか、そう思ってのことだとも書き込んだ。
いつもと同じくオルダヤの人々からの反応はまったくなかった。洗浄党が目の敵にするハットの書き込みだから徹底的に監視し、見つけ次第アカウントごと閉鎖に持ち込んでいるのですから。別のアカウントを使ってハットが書き込んだSNSのスクショの拡散具合も見たのですが、アストルからの脱出前にパガーノとリリックから聞いたとおり、静かに広がっていることが確認できた。
ヒカルゴは今のところ三人の発信を制限していないため、書き込んだSNSアカウントが閉鎖されることはありあません。ただそのぶん、洗浄党支持層からの三人への風当たりが強く、ヒカルゴ国内での洗浄党支持層は相変わらず盲目的に信じているのだなと実感した。
もちろん三人を支持する支援者もおり、今の間違った洗浄党政権を打破するために頑張ってくれと言った声も届きますが、その数はかなり少ない。メッセージを送ってくるアカウント数は応援も非難もほぼ同数ですが、非難するメッセージは同じアカウントから繰り返し送り付けるという傾向が強くて、メッセージ全体に占める割合は九割を軽く超えています。
そしてメッセージやリプライが激増したのがシルバーピークです。もともとどの国よりも反応が良かったシルバーピークですが、同国内に移動してきたという書き込みに激しく反応したようで、激増しているオルダヤからのチカリヤ移民やオルダヤ国内での洗浄党の独裁政治など、危機感の高まりから三人の発信に注目が集まり、さらに今後の展開などの質問が大量に舞い込んでいます。
リプライにも届いたメッセージにも三人で手分けして返信していくのですが、シルバーピークにお住まいの方への返信には頭を悩ませます。何せ三人はチカリヤ人の存在を気にしたことがこれまで一度もありません。
「ペトやブルは捕まる前、チカリヤ人のことを意識したことってある?」
「どの国の人もチカリヤ人のことを言うけど、俺の周りにいたのか半信半疑って感じなんだよな」
「私もだよ、学校にチカリヤ人の生徒が来ていたとは思えないし、本当に経済界を牛耳っているのかも実感としては疑わしいくらいで……」
「でもシルバーピークの方たちは洗浄党と同程度に、チカリヤ人に対する警戒感を強めているよね」
「本当にオルダヤから流れてきている人たちは、みんなチカリヤ人なのかな」
「ペト、ハット、ひょっとしたらだけど……。ヒカルゴに流入していたのはオルダヤ人で洗浄党員が大半だっただろ、今シルバーピークに流れてきている人も本当はオルダヤの洗浄党員ってことはないのかな」
「全員が全員ではないと思うけど、少しは本当にオルダヤ人で洗浄党員が混じっていると考えておくほうがいいかも……」
「ペト、ブル、僕も頭の片隅にそのことを置いておくよ」
三人で話し合った結果、チカリヤ人の移民問題や洗浄党に強い関心を寄せるシルバーピークの人たちには、次のように回答することを決めた。
〝移民としてシルバーピークへ移ってきた人がすべてチカリヤ人だという保証はない。中には洗浄党に所属しているオルダヤ人もいるかもしれない。ヒカルゴではチカリヤからの移民とされていた人の大半が洗浄党員のオルダヤ人で、国籍をごまかして入ってきていた事実がある〟
「お忙しいですか?」
領事館にお世話になり始めて一〇日ほどが過ぎたころ、三人の執務室に領事館職員のエンゲルがやってきた。
「エンゲル、どうぞ中に入って適当な所に座ってください」
ペトが快く迎え入れた。
「シルバーピークへ移り住んでいるのはチカリヤ人だけではなく、洗浄党員のオルダヤ人も混じっている可能性があるというのは本当ですか?」
「あくまで可能性の話です。ヒカルゴでは国籍を偽って流入した洗浄党所属のオルダヤ人が多かったですから」
「なるほど、実例があったのですね」
ペトとエンゲルの会話に混ざってきたブル。
「今、シルバーピークに住む人たちにとって、もっとも恐怖に感じることは何ですか? やはり洗浄党に牛耳られることですか?」
「シルバーピークは自由な国です。その自由な国に隣国で独裁政治を敷く洗浄党が入り込んできたら……、その恐怖心がもっとも大きいです」
「チカリヤ人に対してはどう思いますか?」
「そうですね、ちょっとルールやマナーに対してルーズな人や、自己中心的な行動を取る人が多い気はしますね。チカリヤでは許されているから、他の国でも許してもらえると思っているような気がします」
「俺自身はあまりチカリヤの人と接したことがないのでわからないのですが、世界的にそういった見方がされていますよね」
今度はハットが話に割り込んできた。
「シルバーピークのチカリヤの人たちは、自分たちのコミュニティを築き上げているのですか?」
「そうですね、どこの街にもチカリヤ街と呼ばれるコミュニティがあり、その地域に多くのチカリヤ人が固まって生活しています」
「そうやって固まることで、情報交換などもしているのでしょうね」
「そして、すべてのチカリヤ街をまとめているボスがモノルにいます」
「シルバーピークのチカリヤ人を率いるボスという感じなのですね」
「ええ、そうです。そのボスは女性でメリー・イグリーというやり手の方です」
「え? メリー・イグリーですか?」
ハットたち三人はその聞き覚えのある名前に驚きました。




