取引優先の大国 9
翌朝いつものようにケータリングで朝食が配達され、配膳の後に昨夜の食器類を回収しながら三人に話し掛けてきた配達員。
「昨夜は何もありませんでしたか?」
言われている意味がわからず三人ともにキョトンとしていると、
「実は昨夜うちの配達従業員が配達途中に襲われケガをしまして。幸いけがは大したことが無く、殺されずに済んで良かったと胸を撫で下ろしているのですが……。でも食器があるということは配達されていますね。領事館への配達の帰りに物盗りに襲われたのかな。この辺りは最近は物騒ですし……」
聞けば今朝の配達員はケータリングサービスの会社を経営している方で、配達員不足から自らここへやってきたとのこと。
「そんなことが……、その方はいつもここへ来られている方だったのですか?」
「ええ、休みの日以外はいつもここへ来ていましたよ」
「あの……、昨夜ここへ来た方は初めて見た方だったのですが……」
「ほう、君たち三人は私が要請した任務を放棄して、第三国へ逃げたいと言っているわけか」
国家安全保障庁に連絡したハットたちは、朝食を食べ終わるとすぐに大統領公邸を訪ねていた。大統領補佐官に事情を話そうと思って訪れたわけですが、大統領が在邸されていたので直接話をすることになったのです。
「大統領、私たちはオルダヤを元通りの開かれた国に戻し、ヒカルゴをオルダヤのような酷い国にさせないように食い止め、そして洗浄党を完全に解体するために出国を決意しました」
「逃げ出して、やっているフリをするんだろ?」
「大統領、実は……」
大統領の側近がケータリングの配達員の件について説明すると、
「と言うことはオルダヤかヒカルゴの洗浄党が君たちの居場所を探し当てた。ひょっとすると命を狙われているかもしれないということか?」
「私たちにはわかりませんが、その可能性があるのかと思い……」
「それでアストルから出て行って勝機はあるのか?」
「正直言ってそれもわかりません」
「君たちのリーダーはハットじゃないのか? なぜいつもペトが話をするんだ? リーダーの口から説明してくれ!」
これまでも国の代表者や政治家、官僚と話をする場面ではペトが説明していた。ハット自身はリーダーと言う感覚はあまりなく、最も年上のペトが説明するのが自然だと思っているからですが。
「あの、僕が思うには、まずは三人の身の安全を確保することが第一だと思います。そのうえで大統領と約束したことを実現させるためには、オルダヤやヒカルゴにもっと近付いて自身の肌で〝今〟を感じ取ることが必要だと思いました。離れているので現実を感じにくいことは弊害になると」
「なるほど、だったらなぜオルダヤへの帰国やヒカルゴへ戻ることを選択しないんだ」
「もちろん、いつかは戻ります。でも今はどちらの国でも逮捕されたり拘束されるでしょうから、今はそれを避けたいので……」
「配達員を襲ってまで接近してきたのだから、たしかに帰国なんて危なくて無理だな。だったらここでの警備を強化すれば良いだろう?」
「それも考えたのですが、警備の強化でさらにオルダヤやヒカルゴとの距離が遠くなる気がしたので……」
大統領はしばらく考えて、
「アストルの大使館や領事館があるのでそちらを拠点に活動するといい」
「大統領、ありがとうございます!」
「ペトは確か教師だったな? そんな感じがするよ。ハットは学級委員長でブルはガキ大将って感じだな。上手く役割分担をして私との約束を果たしてくれ」
そう言うと大統領は空軍の輸送機を使って送り届けると言い、すぐに命令を下した。行先はシルバーピークという国の首都レイ近郊にあるアストルの軍事施設です。
シルバーピークはオルダヤやヒカルゴの北に位置し両国と接するアストルの同盟国で、強力な軍隊を持つことで国内の平和を維持しています。ハットがこの国を選んだ理由はオルダヤやヒカルゴに近い事、洗浄党の危険性を発信するたびに世界で最も反応が良いこと、そして何よりも自由を尊重する国であることが大きな理由です。
三時間後にオルダヤ空軍の輸送機に乗り込み、シルバーピークへと向かった三人。
「ハット、勝算はあるのか?」
「何か作戦はあるの?」
機中でブルとペトに質問されその答えは、
「正直なところ、場所を変わっても勝機を見いだせるものではないと思うし、新たな作戦もないけど……、ただオルダヤやヒカルゴと接しているから洗浄党への関心というか、危険性をかなり身近に感じている人が多いはず。オルダヤやヒカルゴからの圧力を感じれば何かが変わる気がして……」
「アストルにそのまま残っていても、身の安全は保障されないからな」
「オルダヤやヒカルゴに接している国だから、これまでよりは事情が伝わってきやすいかもしれないしね」
アストルにやってきて三カ月が過ぎた三月初旬、シルバーピークへの到着を待つ間ずっと話し合っていた三人でした。




