取引優先の大国 8
「三人は知らないかもしれないけど、あなたたちのメッセージは世界中に届いているわよ。もちろんオルダヤにも!」
パガーノとリリックは二人でハットたちのSNSによる戦略とその効果について話し始め、その中で特にオルダヤへの影響力について力を込めていた。
三人はオルダヤ国内の人には何も伝わっていないと言っていたが、リリックによると確実に届いているし、届ていているから洗浄党の首脳たちが焦っているのだと言う。
「でもまったく反応がありません、届いたメッセージはハットの……」
「それはね、国が投稿を監視していてすぐに削除措置を取ると同時に、あなたたちの投稿に対してメッセージを送った人に対して罰を与えているのと、発信自体の制限を加えているからなのよ」
ペトが最後まで話し終える前にリリックが話し、
「国内からの発信を装っていても、調べればいくつかの国を経由して送信されたポストだとわかるから、そういった接続を遮断してしまうのよ」
パガーノも付け足した。
「いくつかの国を経由して送信ですか?」
ハットたちは異口同音で聞き返します。
「そうなの、いくつかの国を経由してあなたたちの投稿が届き、さらにオルダヤ国内から発信されているように偽装されてはいるけど、国レベルで調べれば偽装していることは簡単にバレてしまうわけよ」
「今パガーノが言ったとおりなの。だから反応がないから届いていないのではなく、届いているけど反応のしようがないのよ」
「本当ですか? オルダヤに住む人たちに届いているっていう証拠でもあるのですか?」
パガーノとリリックの答えにブルが疑問を呈する。
「これ、見てくれる?」
リリックが自身のスマホを三人に見せた。そこにはハットたちが投稿したポストのスクショが貼られた投稿が表示されていた。
「確実にオルダヤの人々に洗浄党の本当の姿は届いているのよ! こうした画像の貼り付けだと国にチェックされにくいから残っていく。ただし三人宛のメッセージは送れないだけなのよ」
ハットもオルダヤで暮らしていた頃は、目新しい投稿を見つけてはスクショして保存していた。そうしないと気付いたら投稿自体が削除されて二度と目にすることができないから。昔も今も同じ方法で情報を保存しているのです。
「ただし今でも国や党に対して批判的な事を書くと連行されるのかもしれない、このポストのように君たちのポストの画像を貼りはするけど、それに対してのコメントができない状態なのよ」
リリックの説明に顔をしかめる三人。ハットとブルはSNSへ国や党への批判めいた投稿をしたことで連行され、即日裁判で禁固四五年が言い渡されたのです。
「そうなんだ、以前と何も変わっていないのか……。そりゃあ反応が無くても仕方がない、俺たちみたいに刑務所行きになるのだから。やっぱりハットの言うとおり、もっともっと発信を強化して、もっと多くの人が立ち上がれるように手助けしなきゃいけないよな」
「ハット、無駄骨なんて言ってごめん。全然無駄になんてなっていなかったんだね。祖国で苦しむ人のために私ももっと頑張って発信するよ。私たちは平和な所から発信するのだから、しんどいとか面倒なんて言ってられないもんね」
「うん、反応がないけど届いていることがわかればもっと頑張れるよ。僕たちみたいな人生を送ってもらいたくはないもん」
ブル、ペト、ハットの三人はそれぞれがもっと頑張ることを誓い合ったが、
「オルダヤではなくヒカルゴのことなんだけど、モドル・タイダを引きずり降ろした後の事も気になっているの」
パガーノは自身の祖国の事ももちろん気になっているようで、
「次の大統領が誰になるのかによって国内の状況が変わるから。今よりさらに悪くなると怖いなと思って……」
「オルダヤよりも早く洗浄党が理想とする国ができあがりそうだし、ヒカルゴがいつ外部との接触を絶ってもおかしくないですしね」
ペトの言葉にパガーノは頷き、ブルはパガーノを慰めるような言葉を掛けたがハットは、
「パガーノさん、僕たちはアリス・ホフマン前大統領と約束しました。SNSでの発信しかできないけど、本来のヒカルゴを守るために外から発信し続けると。多くの国民にも伝わっていますから、早急に今以上に発信を強化して国民に真実を伝えることで支援していきます」
「ハット、ありがとう、ペトもブルもごめんね、自分の国でもないヒカルゴのためにご苦労をお掛けして」
こうして全世界に向けてさらに発信を強化し、洗浄党の怖さを伝えるべく寝る間を惜しんでパソコンとスマホで格闘し続ける決心をした三人でした。
パガーノとリリックの二人と話し合ってからは、それまでにも増して黙々とパソコンやスマホでSNSに書き込んでいき、メッセージに目を通しては返信していく日々。ある日いつもに以上に集中していたようで気が付くと夕方になっていた。
この施設ではアストル国が用意したケータリングサービスで毎日食事を取っている三人。何せ施設の敷地外へ出ることを禁止されており、外に食事を食べに行くこともできないのですから。
今日の夕飯ももいつものように配達員が運んでくれて、ダイニングテーブルにきれいに並べてくれる。条件付きで大統領にアストルの滞在許可をもらっているだけなのに、こうして毎日三食食事を用意してもらえる。今の自分たちの置かれている立場を忘れそうになるが、
「こうやっていただける食事が当たり前だと思わないように」
ペトは食事前に必ずこの言葉を発する。
「噂で聞いたのですが、あなた方が洗浄党の事を世界に向けて発信しているのですか?」
いつもは配膳が終わるとすぐに立ち去るのですが、今日の配達員は配膳が終わったあとに三人に話し掛けてきた。部外者には自分たちがSNS を発信していることを伏せているので、
「私たちはそういうことはしていません。国と協力して貿易関係の仕事をしています。と言っても私たちは貿易相手との連絡しかさせてもらえませんが」
ペトの返答に配達員は、
「そうですか、私はてっきりあなた方が洗浄党の危険性を発信しているのだとばかり……」
そう言うと配達員はにやりと笑いながら施設から出て行った。
「今日の配達員、初めて見た人だったけどオルダヤかヒカルゴの出身なのかな」
「そうかもしれないけど、俺たちがやっていることを迂闊に話すわけにもいかないからなあ」
「ハット、ブル、オルダヤやヒカルゴからのスパイかもしれないから気を付けないと」
「もしも本当にスパイだとしたら、洗浄党がこの場所から発信している事を掴んでいるってことに……」
「ハット、その予想は外れてほしいけど、掴まれていると考えて行動するほうがいいかもしれない」
「おい、ペト、だったら俺たちはどうすれば良いんだい?」
「国家安全保障庁へ電話して、保護してもらうようにお願いするしか……」
「ペト、ブル、アストルを出国しよう」
「ハット、出国なんて簡単に言うけどどこへ行くつもりなんだ?」
ハットは地図を指差しながら、ここへ行こうと呟いた。




